4Gamer:
「破天の章」の「破天」という言葉は,傾奇者の破天荒なイメージから来ているんですよね。
松原氏:
ええ,そうです。実を言うと,飛龍の章のときはいろいろと試行錯誤のうえのネーミングだったんですよ。その点今回は,すんなり決まりましたね。
山中氏:
飛龍のときは大変でした(笑)。
松原氏:
信長の野望シリーズのサブタイトルって,いままでのパッケージでも,割とこう,勇ましいものが多いですよね。「飛龍の章」のときは,システムの強化が主だったので,名前のつけ方が難しかったんですよ。最終的にはイメージを優先して「飛龍の章」に落ち着きました。
4Gamer:
なるほど,そういう苦労もあるんですねぇ。
話は戻りますが,飛龍の章を未導入の人でも,破天の章にアップグレードできるんでしょうか?
松原氏:
今のところ未定ですが,2段階のアップグレードは手続きが煩雑ですので,できるだけ分かりやすい形にしたいと考えています。
4Gamer:
販売の形態はどうなりそうですか?
松原氏:
こちらも未定ですが,飛龍の章と同じように,すでに遊んでいる方達にはダウンロードでバージョンアップできる形を考えています。
4Gamer:
飛龍の章でもそうでしたものね。では,価格はどうでしょう。こちらも飛龍の章と同じくらいになりそうですか?
松原氏:
すみません,これも未定です。もう少しお待ちください。
4Gamer:
分かりました。ただ,内容に関していえば,飛龍の章とはずいぶん趣(おもむき)が違いますね。今回のキーポイントは,傾奇者をはじめとしたビジュアル面での向上といいますか。
松原氏:
飛龍の章では,システム面を重視したところがありまして,昨年からは新装備品を追加したりもしています。プレイヤーさんからずーっと一貫して要望があるのは,グラフィックス面の強化なんですよ。
4Gamer:
その点今回の拡張は,かなり見た目が強化されていますね。発表会で見られたものでは,“旗指物”のほか,“茶人”“鍛冶屋”などのコスチュームがありましたし。
山中氏:
ちなみにどれも,すべての職業が装備可能なものです。コスプレ衣装の特徴は,まずどの職が着ても同じ見た目になれることです。あと生産が有利になる特殊効果などもありますが,これは「持っていなければダメ」というようなものではなく,基本的には実用品というよりもおしゃれ着のような位置づけです。
4Gamer:
おしゃれ着といえば,コーエーには「大航海時代 Online」というタイトルもありますよね。やはり,そちらから信長の野望 Onlineへのフィードバックも多いのでしょうか?
山中氏:
フィードバックという意味では,モバイルサービスが大きいですね。ゲーム内メールをゲームの外に飛ばそうという発想は大航海時代 Onlineのチームから出てきたものです。ゲームの外からゲーム内キャラクターにメールを打って,オンラインならば届くし,オフラインなら,そのプレイヤーの携帯電話に飛んでいく。つまり,両者が共にオフラインのときでも,携帯電話と携帯電話で,ゲームを通じてメールのやりとりができるという仕組みです。
信長の野望 Onlineでの導入は,破天の章の発売後,2007年春頃を予定しています。
4Gamer:
そういえば,飛龍の章の拡張要素には,発売時には入らずに,後から段階的に実装されたものも……結構ありましたよね(笑)。
松原氏:
飛龍の章のリリースは2004年12月で,武家屋敷がきちんと実装されたのは2005年3月でした。そして流派と官位が入ったのは,2005年夏でしたね。今度の破天の章は,飛龍の章のちょうど2年後の2006年12月リリース予定ですが,そのほとんどの要素は,11月中にテストサーバーに導入する予定です。
4Gamer:
ということは,あと2か月程度で開発を終わらせる必要がある,と。
松原氏:
そうですね。発表会で見ていただいたように,この拡張の特徴である新ビジュアルの組み込みは,すでにかなり進んでいますよ。
山中氏:
あとはバランスの調整や,負荷テストなどが残っています。
松原氏:
そうそう,負荷テスト。武家屋敷のときの教訓を生かさないと(苦笑)。
4Gamer:
次にコーエーの海外展開について聞かせてください。信長の野望 Onlineの台湾でのサービスは順調でしょうか?
松原氏:
台湾では,サービス開始から一年が経ちました。運営元のソフトワールドさんは,ご存じのように台湾で一番のパブリッシャです。最初は,どういう展開をするかという話に時間をかけまして,いまでは向こうの考え,こちらの考えというのがお互い理解できるようになりました。結果的には台湾独自のキャンペーンやプロモーションに取り組んでいます。
4Gamer:
台湾版と日本版はゲーム内容にも違いがあるんですか?
山中氏:
現地からの要望に応えて,とくにイベント系をカスタマイズしていますね。合戦の仕様や,細かいところでは浴衣や花火を,向こうの風習にあったものにしています。
4Gamer:
中国版はどうなんでしょう。
松原氏:
中国はまだオープンβ中です。提携したのは台湾より早かったんですが,免許など,中国固有の問題がありまして……。今年の秋の正式サービス開始を目指して,今準備しています。
4Gamer:
かなりの時間がかかりましたが,やっとですね。お疲れ様です。
ところで,信長の野望 Onlineの舞台は日本ですが,台湾/中国のプレイヤーは,それをどのように受けとめているのでしょう。
松原氏:
“ジャパンファンタジー”ですね。詳しい人もいますが,基本的には誰もが,そんなに日本の歴史には強くない。どこまでが史実でどこからがファンタジーなのか分からないので,まとめてジャパンファンタジーですね。
だから日本人と比べたら,土地とか武将一人一人に対する思い入れとかは,だいぶ違うでしょうね。ただ,台湾では本家の信長の野望シリーズが結構売れているので,そういう面で,理解してくれている人も多いようです。
4Gamer:
おっと,そうなんですか。日本人としては,嬉しいですね。
さて,海外話ついでに,シンガポールのスタジオの状況も聞かせてください。ここでは,「三國志 Online」が作られているそうですが,なかなか具体的な話が聞こえてこないですので。
松原氏:
実は,もう間もなく何か発表できるのではないかと思っています。楽しみにお待ちください。
4Gamer:
分かりました。いよいよですね,楽しみにしています。
そういえば,最初の発表は,もうずいぶん前でしたよね。
松原氏:
シンガポールのオフィスを作ったとアナウンスしたときから,約1年半経ってますね。開発的には,ちょうど今が佳境と言えます。CGも含めて,現在は80人以上で開発を進めているという状況です。
この2006年は,オンラインゲームに関して本当に新作が多くて,発表の日や発売日を決めるのでも,ディレクター同士の曜日の奪い合いみたいになっていまして(笑)。うまく時期を見て,そういったご報告も順次していきたいと思っています。
4Gamer:
そういえばそうですね。信長の野望 Onlineにも大航海時代 Onlineにも拡張パックが出るうえ,真・三國無双BBも今年ですものね。今後の発表も楽しみにしています。本日はありがとうございました。
飛龍の章の拡張時と同じく,今回の拡張でも,拡張パックの定番要素ともいえる「新たな冒険用ゾーン」の追加がない。この事実からは,いたずらにゲーム世界の広さを増すよりも,ゲームプレイ自体をよりリッチで厚みのあるものにしたほうがよい,という開発側の意図が感じられ,また,今後のMMOゲームの進化のあり方を示しているようで興味深い。「傾奇者」という新職業のデザインにしても,まさにその部分,現状の内容をよりリッチにすることに主眼が置かれているようだ。研究され定石化してしまった通常のゲームプレイに変化を与えるという,このデザインの方向性は歓迎されるべきものだと感じた。
一方で,長くプレイを続けている現役プレイヤーにとって気になるのは,リリース時にすべての要素がきちんと実装されるのか,ということだろう。飛龍の章の拡張時には,いくつかの要素の実装に時間がかかり,予定されていたコンテンツを十分に楽しめるようになるまで,しばらく待たされたからである。お二人の話を聞く限りでは,そのあたりの反省は生かされているようなので,少なくともメインとなる要素については,発売時に楽しめる状態になっていそうである。
“新参者ゾーン”を,大量の作りたての“傾奇者”キャラクターが駆け回る。そんなほほえましく,かつゲームの新たな活力を感じさせるような光景を目にできる日は,遠くなさそうだ。