4Gamer:
ゲーム内容を決めるに当たって,ELEVEN-UP側から提案した事柄などはありますか?
片山氏:
いや,頻繁にコミュニケーションをとりながら開発を進めていったので,とくにこれがどう,といった形ではないです。ロビーシステムが大切で,そこでは三国志の世界観が重要ではないか,などというお話は初期に意見を交わしましたが,それも互いに密に話し合うなかで,という感じですね。
カジュアルなプレイが可能なようにしなければならない,という点は初めから双方の共通見解としてありました。それが,ネットカフェでの展開にもつながっていくのですが。
4Gamer:
先ほどの五つのチャレンジにも入っていた,ネットカフェですね。
片山氏:
ええ。PCを何台も並べて,互いに見えるところで対戦するというのは,家庭ではなかなかできないですよね。それを実現できる環境として,ネットカフェに注目していました。
コーエーさんとしては今までネットカフェ展開をしていなかったこともあり,ELEVEN-UPからの提案に対して「ぜひやりましょう」ということになりました。現在はテクニカルテストも含めて,環境の構築に向けた検討を重ねています。
4Gamer:
ネットカフェだと接続のバックボーンはまちまちだと思いますが,そこはどうなるのでしょうか?
片山氏:
ネットカフェ向けでも,Yahoo! BBの回線で提供する点は同じですね。
4Gamer:
先ほどのお話だと,ネットカフェではある程度まとまった台数で導入されるのが基本なんですね?
片山氏:
そうです。“ネットカフェのアーケード化”などと,勝手に呼んでいるんですけど(笑)。ぜひ並んで遊んでほしいですし,店舗さん側もそれを希望すると思います。
オンラインアクションとして「かけ声システム」など,ゲームデザイン上の工夫もあるのですが,せっぱ詰まってきたらアイコンタクトで連携するといった遊び方もアリだろうと。遊ぶ場所によってプレイスタイルが変わってよいのではないかと思っています。
4Gamer:
例えば「ギルド ウォーズ」で高位ギルドが発揮するような連携のイメージですか。
片山氏:
そうそう。NCsoftはPC Bangの文化が背景にあるせいか,そのあたりをよく分かっていると思います。注目度の高い作品を通して,日本のネットカフェでそうしたプレイスタイル作りが進むことは,,ネットカフェ業界全体で見てもエポックメイキングなことになると思います。それに続く動きが出て,ムーブメントのきっかけとなってくれれば嬉しいですね。
4Gamer:
日本でも,せっかくアーケードにそうしたことの下地となるプレイ文化があるわけですしね。
片山氏:
家で遊ぶけど,それとは別にネットカフェでも遊びたい。そうしたモチベーションが持てると思います。そこを起点に,例えばトーナメントイベントとか,次の展開があってもよいと思います。
とりあえず,ネットカフェのレイアウトが変わるくらいのモノであってほしいと思っています。
4Gamer:
具体的な店舗はもう決まっていますか?
片山氏:
ええ,テクノブラッドさんと協力して進めています。ロケテスト的な導入を新宿の店舗で行うことを検討していますね。まだFIXしたわけではないですが。
4Gamer:
ロケテストは,テクニカルテストの開始タイミングで動き出すのでしょうか?
片山氏:
それは難しいかもしれません。店舗さん側の都合もありますし。Yahoo! BBの回線を入れていて,何台か並んでくれないと意味がなくて,騒いでもOKとなると。
4Gamer:
プレイスタイルの話が出てきたところで,若干余談気味になりますが,片山さんご自身はどんなゲームが好きですか?
片山氏:
どのゲームジャンルといったことより,みんなでやるのが好きですね。それも対戦より協力プレイが楽しいです。
4Gamer:
コンシューマタイトルで言うと,どういった作品でしょうか?
片山氏:
すごく古い例ですが「アイスクライマー」とか。協力プレイの例でいうと「ウイニングイレブン」シリーズや「ファミスタ」とか。もちろん「真・三國無双」もそうですが。
途中で裏切ったり,友達同士ならではの遊び方が好きなのは,子供の頃から変わらないですね。テストプレイで社内のスタッフを狙いに行ったり(笑)。
ネットカフェにこだわるのは,友達同士で行くのも,知らない人と戦うのも,それはそれで楽しいからです。
4Gamer:
対戦ゲームでは,相手のパーソナリティとかが分かってると,だいぶ楽しさが変わってきますよね。
片山氏:
魏,呉,蜀プラスαで,どこの陣営を選ぶかとか,そこにもプレイヤーのこだわりが表れますし。三国志という,長く愛されているテーマは面白いものだな,とあらためて思いましたね。
4Gamer:
なるほど,そのあたりもパートナーシップで作品を作っていくことのメリットかもしれませんね。得意ジャンル,といいますか。ところで,発表会ではテクニカルテストの後でといわれていた「ビジネスモデル」についてですが。
片山氏:
発表会で予告してしまっただけに,詳細はお話しできないのですが……なんというか,人によってプレイスタイルは違うものだと思います。そのプレイスタイルに合わせて,我々はサービスを提供したい。つまり,ビジネスモデルもそう構築されるべきではないかと。
4Gamer:
“合わせる”ことが可能な以上,複数の課金プランが用意されるか,何らかのスケーラブルな方式が採用される,と想像しておくべきところでしょうか。
4Gamer:
真・三國無双BBに続いて,ELEVEN-UPにとっての「ベルアイル」についてもお聞きしたいのですが。
片山氏:
過去の経緯から言うと,1回オープンβテストを始めてから,悩みに悩んでテストを中止し,あらためて時間をかけて見直そうと決断しました。応援してくれていた人のことを考えても,それは本当に苦しい選択だったのですが,今はその経緯が僕らの力になっていると認識しています。
というのも,総合サービス業として先ほどの五つの機能(運営,プロデュース,ディレクション,PR,開発)を連携させていくことが重要なんだという思いが,僕らの中でだんだん強く認識されてきたのです。
なぜかといいますと,ベルアイルというタイトル自体,運営チームが発足する前に開発がスタートしていて,いわば普通の手順で運営が行われる前提だったわけです。
4Gamer:
ところがそこで,テスト中止と再開発が日程に上る……。
片山氏:
そうです,時間をおいて仕切り直そうと決めた段階から,すでに組織されていた運営チームが,先述の五つの要素のなかの大きなファクターとして浮上してきたのです。
それを受けて,現在の体制がほぼ固まったのが昨年(2005年)の春です。そこから,運営チームはblogを開設して,途中段階でもいいから作品の情報を公開していくことにしました。
オープンβテストを停めるときにも,プレイヤーさんはいてくれたので,その方達に「開発作業が進んでいます」ということをお伝えしつつ,開発体制を仕切り直していったのです。
その成果を,二度めのクローズドβテストで感じてもらえればいいな,というところです。
4Gamer:
インタフェースなども,かなり変更されていますよね。
片山氏:
「ガーディアンシステム」とか,ゲームシステム面での改良も,もちろんあります。ですが,大切なのはシステム論の問題ではなくて,話の最初にも述べたとおり,細かな気配りの部分まで詰めていくことだと思うのです。
運営チームは運営を中心にゲームサービス全体を見ていくし,ディレクターチームもその立ち位置からゲームを捉えます。そして,開発チームはヘッドロックさんとコミュニケーションをとりつつ,ガーディアンシステムなど目玉要素を含めて,一緒に進めています。
そうしたアプローチを継続していける点では……すごく悩んだ結果だけれども,停めてよかったな,と。さまざまなお叱りを受けましたが,今は大きな意味があったと思っています。
4Gamer:
ベルアイルのここまでの経緯が,今のELEVEN-UPのスタイルを作ったと。
片山氏:
ええ,そういえます。ベルアイルだけではないですし,旧ビー・ビー・サーブの時代,真・三國無双BBについて発表したときから,こうしたスタイルで行きたいと考えていたのですが,やはり一つ一つ経験を積んできたからこそ,我々も今こうした形を実現できた。
その途上で,ベルアイルの仕切り直しは大きなエポックになりました。実際,言うのは簡単かもしれないですが,オフィスも違い,考え方も違う人達が企業の垣根を越えてやりとりして進めるのは,本当に難しいです。
そこでどうやって進めるべきなのか。今もより良い方法を模索中ですが,それを考えることが大事なんだと再認識しました。ベルアイルというゲームサービス一つをとっても,着実に良くなっています。とくに昔のベルアイルを知っている人には,きっとそう思ってもらえると思います。
4Gamer:
一般に,異なる企業の人が一緒に動くことが難しければ難しいほど,そこを積み上げてきたELEVEN-UPの強みが生きる,という感じでしょうか?
片山氏:
そうです。そして面白いなと思ったのは,考え方が違うと,思いもよらなかったアイデアがポンッと出てくることがあって,なるほどそれはいい,と思う瞬間も結構ありました。
ベルアイルに関しては,最後はプレイヤーさんの声が支えてくれた面もあります。GM blogなどに書いてもらえた声は,僕自身も全部読んでますけど,追いつめられていれば追いつめられているほど,励みになりました。本当に感謝しています。
4Gamer:
真・三國無双BBとベルアイル以降の展開についてですが,これらのほかに今年予定されている事柄はありますか?
片山氏:
MOVIDA GAMESおよびELEVEN-UPの立ち位置からして,作品を立ち上げていくのは大変なことです。よく内部で「一球入魂だ」という言い方をしていますが,これは本当にそうなのです。
とはいえ,それと同時に,多くのゲームサービスに立ち上がっていってほしいとも,考えています。
4Gamer:
それは……現在何か仕込んでいるところと考えてよいのでしょうか?
片山氏:
はい。夏頃には次のステップがあると考えてください。
4Gamer:
おお,詳細が聞ける日が楽しみですね。では最後に真・三國無双BBやベルアイルを通じて,ELEVEN-UPの活躍に期待を寄せてくれる読者の方に,メッセージをお願いします。
片山氏:
海外に出かけて,世界各国の状況を見ていくと,とくにオンライン環境をことさら意識するような時代は,すでに終わっていると思います。エンドユーザーさんにとって,とくに意識しないほど身近なところに,面白いサービスをお届けしていくのが僕らの仕事ですので,今後も頑張っていきたいと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
さまざまな国内メーカーと一緒にプロジェクトを組み,オンラインゲームをより一般化していきたいと語る片山氏。そのとき武器となるのは,企画段階から運営面をも考えていける,独特のプロジェクトチーム作りであるという。ここまでの経緯と,今後目指すところを同時に語ってもらった今回は,パブリッシャとしてのELEVEN-UPの純然たる守備範囲を超えて,話が広がった。
個別の作品や,ゲームジャンルの浮き沈みでなく,それが市場に溢れかえって飽和したあとを見据え,国内メーカーならでは「かゆいところに手が届く気配り」を,氏は重視する。
「真・三國無双BB」と「ベルアイル」のみならず,夏以降明らかになるであろう新たなプロジェクトも含めて,氏のそうした姿勢が展開作品にどう反映されていくのか。例えば氏は,Yahoo! BB限定サービスである真・三國無双BBの発表会において,ネットカフェ展開の話題の最後に「幅広いユーザーに楽しんでもらいたい」旨の発言を添えている。氏の語る「オンラインゲームの一般化」という広汎な目標を考えたとき,そうした発言が何らかの具体的な意味を持ってくるのかどうか,実に気になるところだ。作品の内容ともども,動向に注目していきたいと思う。