― 特集 ―
「真・三國無双BB」のパブリッシャELEVEN-UPが目指す,日本発のオンラインゲームの一般化。代表取締役 片山 崇氏にインタビュー

Text by Guevarista,photo by kiki 

「真・三國無双BB」におけるELEVEN-UPのチャレンジ

4Gamer:

 では,MOVIDA GAMESおよびELEVEN-UPとして,真・三國無双BBに込めた狙い,目指すところをお聞きしたいと思います。

片山氏:

 大きく言って二つあります。まずは,オンラインゲーム業界を代表するオリジナルコンテンツを生み出していきたい。そして,オンラインゲームの楽しさをもっと多くの人に感じてもらいたいということですね。
 例えば真・三國無双BBを通じて,PCオンラインゲームに興味を持ってくれる人はきっとたくさんいるはずです。PCオンラインゲームをより一般化していくことで,オリジナルのコンテンツが受け入れられる基盤が育つ。そうした流れを作っていきたいのです。

4Gamer:

 すると今後,MOVIDA GAMESおよびELEVEN-UPとしてパートナーシップの相手を考えるとしたら,日本オリジナルの作品を今まで作ってきたり,今後作っていこうとする会社,ということになるわけですね。

片山氏:

 一緒にプロジェクトを行うとして,一番見るのはタイトルブランド云々ではなくて,クリエイターさんなんですよ。そのクリエイターさん達が今まで何をしてきて,これからどんなものを作りたいのか。そこで共感できるかどうかが大切なポイントです。
 過去にコンシューマタイトルを作ってきた方もいれば,PCゲームを作ってきた方もいるのですが,僕としては国内のPCオンラインゲーム開発に,いろいろなところからいろいろな人が参加してほしいと考えています。その意味で,まだ日本のゲーム業界の人達にはPCオンラインゲームを“見て”いない人も多いと思います。

4Gamer:

 そうですね……コンシューマゲーム市場はコンシューマゲーム市場で,成り立ってきたわけですし。本音のところ,別に手を出さなくても,と思っている方も少なくはない。それを打破して,国内のオンラインゲーム開発に広く参入してもらいたいと。

片山氏:

 そうです。それに当たって「じゃあなぜ,入ってこないのだろう」と考えたわけです。僕自身にもありますが,もちろんコンシューマゲーム機に対するリスペクトもあるでしょう。

4Gamer:

 実績もありますしね。

片山氏:

 はい。すでに作り慣れているわけです。ですが,もう一つの問題点として,ビジネスモデルの違いがあります。コンシューマゲーム市場におけるビジネスモデルは,すでにある程度安定しているんですよ。その中で予測を立てて予算を組み,コンテンツを制作していく。
 一方PCオンラインゲームはどうかといえば,課金方法から始まって,自分で選択していかなければならない問題が多いのです。そしてそれは,従来ゲームクリエイターに求められていたものとは別の考え方であって,作業範囲も大きく広がります。

4Gamer:

 ふむふむ,枠組みの問題だと。

片山氏:

 同じように,運営という問題も新たに生じてきます。そういう問題をいろいろ考えてしまうと,多くのメーカーさんは逡巡せざるをえないわけです。僕らとしては,そこをどうにかしたいと。

4Gamer:

 つまり,さまざまなメーカーのオンラインゲーム業界への参入を手助けしていくのが,MOVIDA GAMESおよびELEVEN-UPのミッションだということですね。

片山氏:

 そうです。そして,その中で例えば運営面の支援が重要となれば,ELEVEN-UPの出番というわけです。
 ビジネスモデルが違うということは,プロジェクトを動かしていくための体制が違うということです。オンラインゲームでは,より広い範囲で全体を見られる人が必要だったりもします。ゲームに人を呼ぶためには,まず公式サイト/ポータルでどう魅力を伝えるか考える必要がある。例えばそういうことですね。

4Gamer:

 オンラインゲーム特有の方法論,ですか。

片山氏:

 当然ながら,例えば今までコンシューマタイトルを作ってきたメーカーさんに,そうした部門/機能はないわけです。

4Gamer:

 そうですね,パッケージング主体といいますか。

片山氏:

 ですから,チームの体制を変えることを,まず最初に考える必要がある。そのくらい,両者は違うものだと思っています。そして,よほどの大手さんならばともかく,多くのメーカーさんにとってオンラインゲームに必要な体制作りは,共同作業として進めていく必要があるのではないか,ということです。

4Gamer:

 個別のメーカーさんとMOVIDA GAMES,必要とあらばELEVEN-UPが加わってその体制を作るわけですね。

片山氏:

 はい。MOVIDA GAMESおよびELEVEN-UPも大きく分けると,運営担当のチームとプロデュースチーム,ディレクション,PRという四つのチームになっています。
 これに開発を加えた五つの機能がバランスをとって,コンセプトの共有を行ってからプロジェクトがスタートするのが理想形だと考えています。作品として長期的な勝負をしていくとき,その差が出てくるでしょう。

4Gamer:

 開発メーカーさんと一緒になって体制を作っていくと。

片山氏:

 そうです。コーエーさんと一緒にやっているのも,企業の垣根を越えてアプローチする作業が絶対に必要で,それぞれが得意な部分を持ち寄って1個のサービスを作り上げたほうがよい,と考えるからです。
 体制の組み方はいろいろ考えられると思いますが,基本的には前述の五つを備える必要があります。またここで国内メーカーさんにこだわるのは,先ほども述べたとおり,こだわりと職人技がその中で発揮されると思うからです。

4Gamer:

 なるほど,それがMOVIDA GAMESおよびELEVEN-UP流なんですね。
「真・三國無双BB」におけるELEVEN-UPのチャレンジ

4Gamer:

 さてそれでは,そうした考えの実践例としての真・三國無双BB,そこでELEVEN-UPがやってきたこと,考えていることを,詳しく聞いていきたいと思います。

片山氏:

 はい。発表会ではELEVEN-UPとして,五つのチャレンジという事柄についてお話ししました。すなわち,運営,インフラ,ビジネスモデル,ネットカフェ,ゲームデザインの五つですね。
 このうち,運営へのこだわりは先ほどから話してきたような内容です。また,ゲームデザインに関する詳細なお話はコーエーさんに語っていただいたほうがよいでしょう。

4Gamer:

 では,残りのチャレンジ項目を中心として,順番にいきましょう。

片山氏:

 そうですね……例えばインフラについては,ものすごく細かい作業を積み上げてきた感じです。Yahoo! BB限定サービスですから,北は北海道から南は九州,沖縄地区まで,それぞれでどの程度のネットワークディレイが生じうるか。DSLモデムという末端を対象に,ここまで広い実地検証は誰もやったことがなかったと思います。

4Gamer:

 DSLの回線サービスは普通ベストエフォート型(可能な限り実現に努力する,という形でのサービス契約)であることもあって,確かにディレイの問題などは公表されないものですね。

片山氏:

 例えばコンシューマタイトルは,ハードウェアのスペックが保証されていて,それを前提に開発する。ネットワークでは保証は難しいわけですけれども,それに近い環境作りにチャレンジすることが重要だと考えたわけです。
 3万件とか5万件とかいったオーダーの検証を積み上げていく,緻密で膨大な作業でした。そこから,ゲームの核心的なコンセプトである“一騎当千の爽快感”を実現できる,現実的なスペックを割り出していくのです。

4Gamer:

 「プラットフォーム」を成立させる作業,ということになりますね。もちろん,最初から開発元との協議が前提になってはいたのでしょうけれども。ちなみにいつからいつまでの間が,検証と協議の期間だったのでしょうか?

片山氏:

 検証チームを編成して以降ということになると,2004年9月13日に行われた会見の直後から,です。で,検証期間が半年強くらいでした。もちろん,その半年の間に,検証結果は随時やりとりしていったわけです。

4Gamer:

 なるほど,そういった取り組みを発表会では「インフラでの挑戦」と述べたわけですね。ところで,先ほどの五つのうち,コーエーでなくELEVEN-UPから語られるべき「ゲームデザインでの挑戦」とは,何を意味するのでしょうか?

片山氏:

 ここで言うゲームデザインとは,プレイスタイルのことだと思ってください。インフラ面で実現したかったのは,コンシューマ版と比べて違和感のないプレイ感覚でした。それに対して,ゲームデザインとして語るべきは,オンラインでないと実現できないプレイスタイルを意味します。

4Gamer:

 そのプレイスタイルとは,多くの人が同時に参加していて,同時に遊べるとかいった,基本的な違いのことですか? それともそれ以外の展開面で何か新機軸があるのでしょうか?

片山氏:

 プレイ時間も含め,主にプレイヤーさん側から見たときの話ですね。普段それほど長時間ゲームをプレイしない人も,これならオンラインゲームの世界に入ってきてくれるはずだ,といいますか。
 よくあるMMORPGと違って,長くプレイしている人が必ずしも有利なわけではなく,あくまでプレイヤースキルで遊ぶわけです。
タイトル 真・三國無双BB
開発元 コーエー 発売元 ELEVEN-UP
発売日 2006/11/01 価格 従量課金制
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP/Vista(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium 4/1.80GHz以上,メインメモリ:512MB以上,グラフィックスチップ:プログラマブルシェーダ1.1対応以上,グラフィックスメモリ:64MB以上,HDD空き容量:9.5GB以上,ディスプレイ解像度:800×600ドット以上

(C)KOEI Co., Ltd. All rights reserved.
Presented by ELEVEN-UP Inc.

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