― 特集 ―
ELSAに聞くマザーボード市場参入の理由

Text and Photo by 佐々山薫郁 

RAIDマニュアルの分かりやすさは随一!?

4Gamer:

 先ほど,これはボードだけではなく,トータルの製品であるというお話がありましたが,ハードウェア以外のところについても聞かせてください。まずこれは確認ですが,当然日本語マニュアルが付属するんですよね?

節川氏:

 もちろんです。QUALIMOは日本で企画する製品ですから,パッケージやマニュアルは,徹底的に分かりやすくするつもりです。最近は他社さんのも,しっかりした日本語マニュアルが付いているのかなと思っていたんですが,実際に開いてみると,意外とそうでもない。

4Gamer:

 一般的に,メインのマニュアルの日本語化が今一つですよね。副読本というか,初心者向けの汎用組み立てマニュアルは充実しているんですけど,しょせんは組み立てマニュアル。確かに組み立てられるけど,結局理解はできない。だから,トラブルがあったときに対処できないというか。

節川氏:

 そういう意味で,今回弊社では内部の日本人スタッフがマニュアルを作っています。もちろん,ある程度一般的な部分には叩き台があったりしますけど。

4Gamer:

 というと,完全に一から作っている部分がある?

節川氏:

 ええ。一番分かりやすい例は,RAIDのマニュアルですね。nForce4シリーズのユーザーさんは,RAIDを使っている人がかなり多いようなのですが,調べてみると,どうやらマトモなマニュアルレベルの説明が一つもないようなので。

4Gamer:

 ああ,それは分かります。ひどいのだと,マザーボード上のシルク印刷とマニュアルと実際で,全部Serial ATAポートの並びが違ったりしますからね。

節川氏:

 ただ,だからといって,難しい話をこねくり回しても,今度は理解してもらえない。そこで「自作スキル中級くらいの人がさっと読んですぐに理解できる」クラスのRAIDマニュアルを,今回は完全に一から起こしました。

 うちのエンジニアも――彼は普段からプライベートで何回も自作しているような人間ですが――も「RAIDのマニュアルってないよね」と。それでいて,使っている人が多い以上,これから使いたい人も多いはずですから。

4Gamer:

 ゲーマーとしても,RAID 0のパフォーマンスは魅力的です。RAID 0+1も含め,「使えるなら使いたい」という人は,多いんじゃないかと思います。起動とか,ゾーンの読み出しとかは,圧倒的に早くなりますから。
 EN4SLI-16ARだと,RAID機能は2系統ありますよね? nForce4とオンボードのSilicon Imageで。両方についてマニュアルがあるんですか?

節川氏:

 またその二つで,微妙に使い勝手が異なっていたりしますからね。「それぞれ説明がないとつらいよね」と,両方用意しています。
 とくにNVRAID機能はよくできていますから,きちんと説明してあげたほうが,絶対にいいだろうと。

4Gamer:

 これはハードウェアの話になってしまいますが,せっかくRAID機能をていねいに解説するのであれば,ボード上のFDDコネクタの位置はもう少し考えたほうがよかったかもしれませんね。RAIDドライバのインストールにはFDDが必要になるわけですが,拡張スロットの一番下だと,拡張カードがじゃまになって,ケーブルを取り回しにくそうです。

節川氏:

 確かに言われてみるとそうですね。それは,次の製品で検討したいと思います。

4Gamer:

 RAIDのツールとかは,御社で用意されているんですか?

節川氏:

 いや,そこはRAIDツールの「MediaShield」も含め,NVIDIAのリファレンスを使っています。ただ,NVIDIAのリファレンスツールとは別に,「ELSAware」(エルザウェア)を用意しました。

4Gamer:

 ELSAware! また懐かしい名前が出てきましたね。QUALIMOのELSAwareは何をするんですか?

節川氏:

 基本的には監視ツールです。電圧や温度,ファンの回転数監視を行うといった感じ。ファンの回転数は,マザーボード上のファンコネクタすべてが対象です。

4Gamer:

 監視オンリーですか? 例えば,Windows上でBIOSのアップデート機能を提供したり,オーバークロック機能を提供したり。……オーバークロック機能ならnTuneがあるから不要という考えですか?

節川氏:

 ELSAwareとは別に,Windows上でBIOSをアップデートできるツールは付属します。それから,これは弊社の基本姿勢ですけども,オーバークロックは推奨していません。リスクの高さほどは,得られるメリットが少ないからです。
 ご指摘のとおり,nForce4の標準機能であるnTuneは付属しますが,するだけです。安定した性能を提供したいという考えから,ソフトウェア的なオーバークロック機能をELSAとして提供するつもりはありません。

4Gamer:

 BIOSレベルではどうですか? 推奨しないということは,用意自体はされていたりします?

節川氏:

 機能としてはありますよ。Windows上で動作する監視ツールと同じ,ELSAwareという名を付けています。
 実際,販売店の方に聞いても「付いているに越したことはないが,実際に使っている人はそう多くない」とのことですので,こういう形になっています。

Quad SLIやHDMIを視野に入れつつ日本市場にあった製品を

4Gamer:

 さて,こうして具体的な製品が発表されたわけですが,どうしても1枚出ると,2枚め3枚めについての期待が,どうしても出てくると思います。今後の展開について,聞かせていただきたいのですが。

節川氏:

 いくつか案はありますよ。現実的な話としては,次世代CPUが出てきますから,そこに対応するというのは,当然プランに入っています。

4Gamer:

 次世代nForceですね?

エルザジャパンの考える「マザーボードの向かう方向性」を示したスライド

節川氏:

 ええ。それ以上は話せませんが(笑)  また,純粋な「次世代チップセット」という話を抜きにしても,もっと使いやすくとか,もっとハイエンドにといった方向へ話が進んでいくと,プラットフォーム全体というものが無視できなくなってきます。そういったものは視野に入っていますよ。Quad SLIみたいな話もありますしね(笑)

4Gamer:

 Quad SLI対応マザーボードのプランがあるんですか?

節川氏:

 視野に入っている,という段階です。例えば,Quad SLI対応のグラフィックスカードが出てきたとします。でも,それを単体で売っていくというのは,相当難しいと思うんですよ。マザーボードや電源ユニットなど,トータルで展開していくことになる。そういう将来を見据えてのマザーボード,という側面はありますね。
 プラットフォームだからこそできることというのもあると思うんですよ。HDMIなどの入出力周りとかもありますし,そういった将来を見据えている感じというか。

4Gamer:

 HDMIについて,もう少し説明していただいてもいいですか?

節川氏:

 アメリカの人達がいう「リビングでPC」というのが,そのまま日本で定着するかというと「ちょっと違うかな」といった印象を受けますが,一方で,液晶テレビの普及率が国内で上がっているのは確かです。どこでPCを使うかは別の話としても,HDMIでPCとテレビをつないで,ビデオとサウンドを同時に出力したりとか,そういったことは考えて行く必要があると思うんですよ。
 そのとき,グラフィックスカード単体では,できることが明らかに限られている。そういったところを,マザーボードでサポートできたらいいなと。今回はゲーマー向けの製品ですが,今後は,日本国内の状況に合わせた,そういった製品も開発していくつもりです。

4Gamer:

 確かに,台湾を中心とした海外のメーカーですと,どんなに日本から要望が上がっても,実際に製品化されると,世界中からの要望の最大公約数的になってしまうことがありますよね。日本人から見ると,ピントがズレているというか。

節川氏:

 どうしても大手のマザーボードメーカーは,世界市場を見てものを作りますからね。そうなると,日本市場からの細かい,それでいて日本市場においては非常に重要な要望が反映されないことが多々あると思います。とくに今後はそういうことが多くなる。そういった部分を,QUALIMOですくい上げていきたいですね。

4Gamer:

 グラフィックスカードとマザーボード,あるいはサウンドデバイスをどうリンクさせるかという話は,確かに今後議論の対象になりそうな感じですからね。そこに対して,日本側主導でアプローチできるのは,大きな意味があると思います。マザーボードをやっていれば,グラフィックス機能統合マザーボードという選択肢もあるわけですから。

節川氏:

 確かに,グラフィックス機能統合マザーボードが無視できない存在になりつつあるように感じています。

4Gamer:

 それに関連して伺いたいのですが,エルザジャパンさんはローエンドのグラフィックスカードを投入していますよね。仮にオンボードグラフィックスのマザーボードを投入すると,ローエンド製品と直接競合してしまうように思うのですが。とくに,今後Windows Vista(のAero Grass)をターゲットに,オンボードグラフィックスの3D性能が上がると,その傾向が強くなりませんか?

節川氏:

 ご指摘の意味は分かります。ただそれは,ローエンドの単体製品がなくなるという意味ではないんですよ。選択肢は多いほうがいいわけで,弊社としては,ローエンドのグラフィックスカードをこれまでどおり展開しつつ,オンボードグラフィックス統合のマザーボードも手がけていくつもりです。

4Gamer:

 少し視点を変えて,Intelプラットフォームはどうでしょう? ここまで,どうしてもNVIDIA製チップセットにAMD製CPUを念頭に置いて話をしてきた感がお互いあるように思いますが,プランはあったりしますか?

節川氏:

「マザーボードを持って写真に収まると,マザーボードメーカーの気持ちになってきました(笑)」と節川氏

 これも視野には入っています。チップセットがIntelになるかNVIDIAになるかとか,そういった細かい話までは決まっていませんが,Core Duoや,デスクトップ向けの新しいCPUについて,サポートする計画がないわけではありません。
 もっとも,ターゲットありきですけどね。今回は明快に「グラフィックスパフォーマンスを重視するゲーマー向けのモデル」なので,AMD64でnForce4 SLI X16といったところに落ち着いたんですが,別のコンセプトであれば,nForce4とまったく異なる仕様のチップセットを採用する可能性は,もちろんあります。

4Gamer:

 本誌の読者層とはあまり関係ないんですが,あえて伺います。ワークステーションに行く可能性はどうですか?

節川氏:

 あります。ターゲットはハイエンドなので,NVIDIAさんの戦略と近い。そういう意味でワークステーションは将来の予定としてあります。ビジネスユースを視野に入れつつ,最初はコンシューマで実績を作っていくといった感じです。

4Gamer:

 最後に。ELSAブランドでゲーマー向けPC,なんて可能性は今後あるんでしょうか?

節川氏:

 正直,PCはハードルが高いですね(笑) ただ,発展する可能性を否定はしないでおきます。

 QUALIMOは,ELSAブランドのファンには確実に訴求する製品になるだろうというのが,実際に第1弾製品をこの目で見て,また節川氏に話を聞いた直後の素直な感想だ。取材時点では,力が入っているという日本語マニュアルなど,詳細が見えていない部分もあるので,安易に評価は下せないが,少なくとも,SLIの構築を考えているユーザーが,無視していい製品ではなさそうである。

 今後に関しては,エルザジャパンがどこまで製造工程をハンドリングできるかにかかっていると言ってしまっていいだろう。節川氏が述べた,意欲的なプロダクトがタイミングよく出てくるようなら,マザーボード市場の台風の目になる可能性は十分にある。それだけに,品質は当然として,製品投入タイミングに関しても,期待しつつ見守っていきたいところだ。
タイトル nForce4
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2004/10/19 価格 製品による
 
動作環境 N/A

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http://www.4gamer.net/specials/060306_elsa/060306_elsa_002.shtml