― 特集 ―
ELSAに聞くマザーボード市場参入の理由

Text and Photo by 佐々山薫郁 

エルザジャパン 製品技術部 担当部長 節川茂久氏

 4Gamerではすでにお伝えしていたが,別記事のとおり,エルザジャパンは国内マザーボード市場へ参入することを正式に発表した。マザーボードのスペックについてはそちらを参照してもらうとして,グラフィックスカードメーカーとして本誌読者にもおなじみの同社はなぜ,このタイミングでマザーボード市場へ参入したのだろうか? 発表のタイミングに合わせ,同社の製品技術部 担当部長の節川茂久氏に話を聞けたので,お伝えしていきたいと思う。

ELSAがマザーボード市場に参入するまで

4Gamer.net編集部(以下4Gamer):

 正式発表でお忙しいなか,時間を割いていただいてありがとうございます。
 まず伺いたいのは,「なぜELSAがマザーボードなのか」という,いささか身もフタもないところからなのですが。

節川茂久氏(以下節川氏):

 いや,社内でもかなりモメたんですよ(笑)

4Gamer:

 ポイントは「ビジネスになるか」といった点ですか?

節川氏:

 そうです。マザーボード市場って,ブランドが出来上がっていたりと,十分に成熟したマーケットなんですね。そこに新規参入して,ビジネスになるのか。かなりの時間,研究はしていました。

インタビューに当たって,節川氏が見せてくれたスライドの1ページ。「高付加価値機能搭載」として,SLIが要素のトップに挙げられている

4Gamer:

 参入の決め手になったのは何ですか?

節川氏:

 試作はいろいろとやっていたんですが,「これならいいね」と言える製品が作れるようになってきたというのがまず一つ。また,今後NVIDIA SLI(以下SLI)がより一般化していく中で,その流れに乗り遅れるわけにはいかない,というのがあります。

4Gamer:

 え? だとすると,今回の話よりずっと前からマザーボード市場への参入計画があったということなんですか?

節川氏:

 実は,マザーボードの開発そのものはかなり前から行っていました。弊社はNVIDIA製グラフィックスチップのみを扱うメーカーということや,Quadroという,ワークステーション用の特殊なグラフィックスチップを搭載する製品のビジネスを国内でやらせていただいていることもあって,NVIDIAさんからも,いろいろとご提案いただいてたんですよ。プラットフォーム(※編注:ここではマザーボードとほぼ同義だが,基本的にはマザーボード,チップセット,グラフィックスカードにCPUなど,PCのハードウェア全体を示す)はもちろん,それこそモバイルとか。

4Gamer:

 この場合のモバイルって,“NVIDIA語”でいうところの携帯電話のことですよね?

節川氏:

 ええ。「携帯電話やれ」と言われても困るんですけど(笑) まあそれはともかく,そういった流れの中で出てきた話ですね。

4Gamer:

 では,試作品がありながらも,発表のタイミングが2006年3月になった理由を聞かせてください。

節川氏:

 NVIDIAさんの市場というか,AMDさんの市場が,以前はあまりなかった。2005年はその意味で,リテール(※編注:小売り)市場で非常にAMDのシェアが伸びましたよね。ここに来て,市場がかなり変わってきた。なら,チャンスがあるかなと。
 そう判断した結果として,2005年の後半には,nForce4 SLIのマザーボードが,ほぼ完成していたんですよ。でも,そのころにはnForce4 SLI X16が出始めて,また市場が変わってきた。

4Gamer:

 そのままnForce4 SLIマザーボードを出すという選択肢はあったわけですよね? それを敢えてせず,nForce4 SLI X16にした理由というのは,どこにあるのでしょう?

節川氏:

 弊社の主力商品はグラフィックスカードですが,NVIDIA SLI(以下SLI)はカードだけだと実現できない。ユーザーの方からも「SLI組みたいんですけど,どういったマザーボードがいいんですか」という質問をよくいただくんですよ。しかし,これまでは他社の製品を勧めるしかなかったわけです。

 それで,nForce4 SLIマザーボードを投入しようとしたんですけども,そうしたらnForce4 SLI X16が出てきた。では,どちらがよりSLIのパフォーマンスを引き出せるか。どちらが,よりユーザーの方に勧められるか。

4Gamer:

 その判断があって,最終的にnForce4 SLI X16が選択された?

節川氏:

 そうですね。

4Gamer:

 ただどうでしょう,価格を考えると,nForce4 SLIマザーボードならもはや1万円台前半で購入できる製品も珍しくありません。一方,nForce4 SLI X16だと,どうしても2万円を大きく超えてしまう。参入して,市場で枚数を売っていくという意味では,第1弾製品として正しいのか,という疑問も出てくるのですが。

節川氏:

エルザジャパンが示す,製品ターゲットを示したスライド。NVIDIAのフォーカスする部分とほぼ同じ,ハイエンドを向いているのが分かる(※クリックするとマトリックス全体を表示します)

 ああ,それには説明が必要かもしれませんね。我々は,マザーボードのビジネスを始めるに当たって,何が何でもシェアを取りに行く,といったことをするつもりはない,というのがベースにあります。
 「QUALIMO」の名前のとおり,高付加価値の製品というか,ほかの製品ではできないことをやっていく。その結果として,価格が高くなるのは,仕方がないかなと。

4Gamer:

 「ほかの製品ではできないこと」について,もう少し詳しく伺ってもいいですか?

節川氏:

 マザーボードって,言ってしまえば「組み合わせる製品」じゃないですか。組み合わせるベースになるという位置づけ上,市場にも,どちらかというと汎用的なものが多い。そうではなくて,何かに特化していきたいんです。
 例えば,グラフィックスカードは,最近リファレンスデザインそのままの製品が増えてきましたよね。

4Gamer:

 実際,クーラーくらいしか差別化点がないですよね。とくにハイエンドは。それこそ御社の「ELSA GLADIAC 970 GTX Silent 256MB」がいい例ですけども。

節川氏:

GeForce 7800 GTXのリファレンスカードデザインを採用しつつ,Quadroシリーズ用の2スロット静音ファンを搭載したELSA GLADIAC 970 GTX Silent 256MB。チップクーラーによる差別化の典型的な例といえる

 ええ,なかなか差別化が難しい。マザーボードもある程度はフォームが決まっているから,それ以上は難しいんですけど,それでも,グラフィックスカードと比べたら,自由度はかなりあります。ならその自由度を生かして,一風変わった製品を作れないかなと。日本を意識して,日本市場のニーズを反映していけないかなと。
 とにかく,「一般的なマザーボード」を作るつもりはないんですよ。それと先ほどお話しした「弊社のユーザーにお勧めできるSLIマザーボード」という話から,最初の製品がデュアル16レーンのSLIマザーボードになったというわけです。

4Gamer:

 ということは,今回の新製品の下位モデルとして,nForce4 SLIやnForce4 Ultraを搭載した製品を出す予定はない?

節川氏:

 ですね。「トータルのラインナップを用意して,市場シェアを獲得しよう」というつもりは,全然ありません。ポイントを絞ってやっていきたいと考えています。

4Gamer:

 ポイントを絞っていくとのことですが,ターゲットは日本市場だけですか?

節川氏:

 ええ。ニーズが高まれば,アジアには展開するかもしれませんが。

4Gamer:

 そうなると,ELSA Taiwanと競合しそうですね。2002年以降は,完全に別会社という理解をしていますが。

節川氏:

 それで正しいです。日本と台湾とドイツに,同じブランドロゴというか,商標を使う,まったく別の会社があるというイメージですね。

ヒートパイプ構造と電源周りの秘密

4Gamer:

 そろそろ,具体的な製品のお話に移らせていただきたいと思います。まずは製品名と型番について伺いたいなと。マザーボードに製品名を付けるうのは,非常に珍しいですよね。

節川氏:

ELSA QUALIMO第1弾製品のサンプルボード

 「マザーボードって型番ばかりで,意外と製品名ってないよね。でも,製品をプロモーションするのに,型番でやるっていうのは,あんまりよくないよね」といったところから,きっちり製品名を付けることになりました。意味はストレートに「High Quality Motherboard」。弊社の製品は「GLADIAC」だったり「EX-VISION」だったりと,製品名付けてきていますから,その流れで。

4Gamer:

 型番は,ボードにシルク印刷されている「ENF4SLI-16AB」でいいんですか? 「ELSA QUALIMO NF4SLI-16AB」……ちょっと長いかな?

節川氏:

 実は,社内で明確な型番ポリシーがあるんですよ。「E」LSAの「NF」orce「4 SLI」でX「16」といった感じで。

4Gamer:

 最後の「AB」はリビジョンですか?

節川氏:

 いや,「A」はAMDのAです。あと「B」は,バルクボード(Bulk Board)のB。実際にはリテールパッケージに入りますから,製品としての型番だと,最後はBではなく,リテールの「R」になります。製品として提供されるのは「ELSA QUALIMO ENF4SLI-16AR」ですね。
 もっとも,マザーボードはあくまでボード単体なので,ボード上の印刷は最後がBのままですが。

4Gamer:

 では“EN4SLI-16ARのマザーボード部”について伺いますね。ハードウェア面のウリについて,聞かせてください。

節川氏:

 これは若干繰り返し気味な表現になってしまいますが,弊社のグラフィックスカードを使っていただいている方に,最高のゲーム用プラットフォームを提供しようと。もちろん他社のカードは動きますしサポートもしますが,それでもまずは,弊社のカードを最大限生かしていただくために,nForce4 SLI X16を採用しています。それから,静音化するためにチップセットにヒートパイプを採用して。

4Gamer:

 そのヒートパイプの構造については,やはり触れざるを得ないと思うんですね。また,ヒートパイプを中心とした全体の構造が,海外で某社が展開している製品とよく似ている。個人的には,いろいろと想像が付きますが,エルザジャパンさんとして説明いただけるとすごく助かります。

節川氏:

 我々はファブレス(※編注:工場を持たないメーカーのこと。エルザジャパンだけでなく,著名PCパーツメーカーの中にもファブレスのメーカーは多い)ですから,マザーボードに限らず,設計と製造は外部に委託しています。

 ただ,ここで重要なのは,EN4SLI-16ARの設計委託先も製造委託先も,弊社がお付き合いしている多くの委託先の一つに過ぎないということです。別に「ここしか使わない」わけではない。我々が考えている製品――例えば今回なら,nForce4 SLI X16を搭載してファンレスということですが――をきちんと作れるところであれば,別にどこでも構わないんですよ。
 ちなみに今回は,かなり大きな工場を使って製造しています。大手PCメーカーの製造委託で実績豊富なところです。

4Gamer:

 エルザジャパンの作りたい製品を作れるから,今回に関してはその設計チームであり,その工場に委託したと。

節川氏:

 はい。柔軟に,いい技術があれば採用し,独自に開発すべきであれば開発する。例えばテレビチューナー製品といった,日本のニーズ,日本の技術でしか実現できないようなものは,日本で作ったりもしています。ただ,マザーボードのような製品は,ノウハウを持っているところが多いじゃないですか。それなら,彼らの技術のいいところというか,ノウハウを生かしてもらったほうが,いいものができるわけです。

 それに第一,ELSAとしては,ただ板を売るわけではありません。マニュアルや,1年間の日本語によるメーカー直接サポートを含めた「製品」を売っていくわけですから。

4Gamer:

 それを踏まえて,改めてヒートパイプについて伺います。サウスブリッジから,ノースブリッジは介さずにヒートパイプが電源部のヒートシンクまで伸びる。そして,CPUクーラーの風を利用して,ケースの外へ直接排熱するという理解でいいんですよね?

節川氏:

 そうですね。ノースブリッジの熱を拾っていないのがポイントです。これを拾おうとすると,熱がノースブリッジ部のヒートシンクに伝わってしまって,電源部までの熱伝導効率が悪くなってしまうんですよ。だから,ノースブリッジの熱は,CPUクーラーの風で冷やすようになっています。

 デザインレイアウト上,サウスブリッジをここから動かすのは難しい。一方で,サウスブリッジにチップクーラーを載せるとすると,スペース的にいろいろと制約を受ける。結果として,ヒートパイプ構造を採用しているという経緯ですね。

4Gamer:

 電源部からI/Oパネル部というか,ケース背面に向かって排熱しますが,I/Oパネルはどうなってるんですか?

節川氏:

 スリットになっています。温度差で排熱効率はかなり上がりますから,効率はかなり高いですよ。

4Gamer:

 このほかにも熱対策や,静音化に向けた取り組み要素はありますか?

節川氏:

 電源周りには,PCBの熱を逃がす「Tin Strip & Copper」という構造を採っています。背面を見ていただくと少し分かりやすくなりますが,4層のマザーボード基板を貫くようにしてボードの各レイヤーをつなげて,熱を逃がす仕組みというか,レイアウトなんですね。

EN4SLI-16AR(EN4SLI-16AB)の背面。CPUリテンション固定板は金属製だ。右はTin Strip & Copperレイアウト。銅板がレイヤーを貫くような構造で,熱を逃がすのだとか


4Gamer:

 電源といえば,最近のnForce4 SLI X16マザーボードですと,8フェーズとか,なかなか強烈な仕様のものが一部にありますね。一般論として,フェーズ数は多いほうが電源負荷の変動に強くなりますが,“High Quality Motherboard”としてのEN4SLI-16ARは何フェーズ構成なんですか?

節川氏:

 3フェーズです。

4Gamer:

 意外と普通ですね。

節川氏:

 8フェーズも試しています。ただ,我々のラボのテストでは,電源品質的なメリットは少なく,むしろコスト的には当然ですがデメリットになる。テストした限りでは,電源の寿命が伸びたり,オーバークロック耐性的なメリットがあったりということもありませんでした。それで,必要十分な3フェーズにしています。

4Gamer:

 採用するコンデンサはいかがです? 見た限り,コンデンサは100%日本メーカー製のようですが。

PCI Express x16スロット部には背の低いコンデンサが並んでいる

電源周りにはルビコンのMBZシリーズが用いられていた

節川氏:

 ですね。拡張スロット周りのコンデンサは,意図して背の低いタイプを使うようにしています。背が高いと,カードの着脱がしにくくなりますから。

4Gamer:

 高級品を謳うマザーボードだと,機能性高分子アルミ固体電解コンデンサを電源周りに採用して,耐久性をアピールしたりしますが,EN4SLI-16ARだと電源周りも,ある意味一般的な105℃規格の低ESRコンデンサですね。

節川氏:

 もちろん,電源周りには高品質のコンデンサを使っていますが,そういったニーズがあることは理解しています。今後は採用する方向で動いています。

4Gamer:

 コンデンサを見ていると,電源部の近くにある7セグメントLED(編注:七つのLEDで数字やアルファベットを表現するLEDのこと。デジタル置き時計などにもよく採用されている構造)も気になります。

節川氏:

 POSTコード表示用ですね。POSTコードは可視化したいと考えていました。

4Gamer:

 これ,あると便利なんですよね。

節川氏:

 付いてない製品が意外と多いですよね。ただ,付いていると,サポートなどをさせていただくとき,非常にやりやすいわけです。例えば「起動しない」といったときに,POSTコードを見ていただければ,マニュアルに対応表が用意されていますから,何が原因か分かるようになります。

4Gamer:

 「付く」といえば,先に我々が入手した画像では,グラフィックスカードの横から当てるクーラーがありましたが?

節川氏:

 そうですね。つきます。これは「SLI Bridge Fan」と名付けていますが,ファン自体は,ELSA GLADIAC 940シリーズに使っているのと同じスペックなんですよ。サイズは70mm角だったかな? 薄型ファンなんですけど,かなり静かなので,音は気にならないと思います。SLIを組むと,どうしてもPCI Express x16スロット間の熱がこもりがちになりますから,これはあったほうがいいんですね。

4Gamer:

 ほかにもアピールポイントがあれば教えてください。

節川氏:

 実は,スロットの着脱機構にもちょっとした工夫があるんですよ。「カードの脱落を防ぐストッパー」の解除スイッチが,上のスロットは上側,下のスロットは下側にある。両方とも下側にあると,SLI構成のメンテナンスなどで,上のカードを取り外すときに難儀すると思うんですが,これなら楽に作業できると思います。

RAIDマニュアルの分かりやすさは随一!?

4Gamer:

 先ほど,これはボードだけではなく,トータルの製品であるというお話がありましたが,ハードウェア以外のところについても聞かせてください。まずこれは確認ですが,当然日本語マニュアルが付属するんですよね?

タイトル nForce4
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2004/10/19 価格 製品による
 
動作環境 N/A

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/specials/060306_elsa/060306_elsa_001.shtml