4Gamer:
そういえば,同じく御社が手がける「競馬伝説Live!」もアイテム課金に移行しましたね。
長沢氏:
完全移行は2005年12月と,ついこの間ですが,おかげさまで好調です。売り上げは1.5倍くらいに伸びていますし,プレイヤーも増加しています。まだまだ伸ばしていかなければならないレベルではありますが。
4Gamer:
月額課金からアイテム課金というのは,かなり大きな変更だと思うのですが,そう決断した理由や,成功の秘訣といったものを,お聞きできればと。
長沢氏:
もともと競馬伝説Live!は,月額1200円と,ゲーム内通貨のチャージという,ハイブリッド型だったんですよ。当初,その流れに合わせてアイテムを整えていたし,ゲーム全体の作りもそうなっていました。
ただ,トリックスターの成功の中で,アイテム課金としてやるべき事柄やノウハウが分かってきて,それを競馬伝説Live!に適用することで「こう伸びるんじゃないの?」という部分が,割と明確に見えていました。
ですので,内部のパラメーターからいじっていくかなり大きなカスタマイズでしたが,それをやるメリット,プレイヤーにもっと楽しんでもらう展望が計算できたということです。
4Gamer:
トリックスターのノウハウをいろいろと応用したわけですか。
長沢氏:
競馬伝説Live!で大幅かつ深いところまで切り込んだカスタマイズができたのは,内部で作っているからという部分も大きいですね。企画の部分,仕様の部分はジークレストで決めていったものなので。
単純にアイテム課金に切り替えただけではあまり意味がない。アイテム課金向けのゲームバランスにすることが重要なのです。
4Gamer:
もともとアイテムのラインナップが広いRPGなどだと,アイテム課金化もある程度想像できる。けれども,競馬ゲームで路線をアイテム課金に変更するときの指針というのは,実はなかなか想像がつかないんですけれども……。アイテム課金向けのゲームバランスとは,例えばどんなことでしょうか?
長沢氏:
例えば,競馬伝説Live!のなかで今,「相馬眼カード」というのがすごくよく売れています。これは,馬がどのくらいの能力を持っているか,見極められるというものです。タイムを丹念に計っていれば,分かる情報でもあるんですが,なかなかそうした手間や時間をかけられないプレイヤーにとって,相馬眼カードは非常に便利なんですね。要はそうした,遊び方に関わる新提案が,アイテム課金という形で行われているのです。
また,アイテムそのものではないですが,競馬伝説Live!のなかに用意されたリアルなもの,本物の競馬にまつわるものも,ゲームを盛り上げてくれます。種牡馬「ダンチヒ」追悼イベントなどが典型ですね。現実のGIレースのときに三連単での勝ち馬予想を寄せてもらって,当たった人に僕らのほうからプレゼントを贈ったりとか。リアルと連動しつつイベントを開催していくのが,この作品の独自部分かもしれません。
4Gamer:
そうしたイベントを,うまくアイテムと結びつけていくのが,まさにノウハウということですか?
長沢氏:
そうです。より楽しく遊んでもらえるアイテムを提案するという意味で,そこはまさにトリックスターの場合と同じです。思考回路をアイテム課金向けに変えていくことが必要,といいますか。
そうしたことは,個々がスペシャリストになりすぎると,現実的に難しくなってしまいます。俯瞰的な視点と,目的の共有が大切です。また,とりあえずやりましょう,ということでは成功しません。これはビジネス的な観点からも,プレイヤーのみなさんに喜んでもらう意味でも,です。ジークスレストが行うイベントで,そうした目的意識が欠けたものはいっさい存在しません。
4Gamer:
常にある種の“作戦”なわけですね。先ほど競馬伝説Live!でうまくカスタマイズできたのは,自社タイトルだからというお話がありましたが,御社で最近話題になっているものとして「バルビレッジ」がありますよね? これは,御社が考えるビジネスモデルを一から作ってみた例なんでしょうか?
長沢氏:
バルビレッジは,僕らにとってチャレンジなんですよ。特徴として,キャラクター性が非常に強いというのと,MACROMEDIA Flashベースのコンテンツである,というのが挙げられます。結果として,導入部分でのハードルが低い一方で,表現できることに限界があるため,奥深さにおいては,一般的なMMORPGにはまったく及びません。
4Gamer:
でも,そもそも奥深さ指向ではない,ということなんですよね?
長沢氏:
そう,コミュニケーションを中心としたツールというか,それに加えて着せ替えとおままごとのツールが,Flashで組まれている。
会員数はblogなどを通じて順調に伸びていて,実はプロモーションコストはほとんどかかっていないんですけど,いい形で伸びてきている。そして,プレイヤーの8割が女性です。
既存のオンラインゲームは,プレイヤーの8〜9割が男性でしたし,トリックスターでも女性は3割です。完全に層が違うと考えるべきでしょう。
こうなるのかな,という予想はしていたんですけど,Flashである点をとっても,女性が8割である点をとっても,チャレンジです。キャラクターが立っていて,そのほかの部分は,そんなに深みがあるわけじゃない。そうしたゲームをどうやって盛り上げていくか,というのもチャレンジですね。
4Gamer:
そもそもこれは,ゲームコンテンツなのか? という点はどうですか? 例えばおしゃべりがメイン,ということだとすると。
長沢氏:
本体はおままごとです。アイテムを拾ってきて,自分の家を飾り付け,そこにほかの人を呼んで,一緒に遊ぶ。そういう感じです。話だけ聞くと,それで面白いのか,ビジネスになるか分からないと思うんですが,これがけっこう面白いんです。
4Gamer:
ゲーム性より,人と人のつながりを媒介する点がポイントなんでしょうか?
長沢氏:
いえ,何かのステップや実験としてバルビレッジを作ったわけではなく,バルビレッジはバルビレッジで,成功させなければならないコンテンツです。チャレンジであって,決してトライアルではないので,バルビレッジそのものを盛り上げようと考えています。
バルビレッジも,もともとアイテム課金でいこうと考えていましたので,僕らのノウハウが生かせる部分もあるでしょうし,プレイヤーの方から学ぶ要素もあるだろうと。とにかく,チャレンジです。
4Gamer:
なるほど……。また即物的なお話になってしまいますが,バルビレッジのアイテム収益は順調ですか?
長沢氏:
経験則を加味した期待値と比べたとき,立ち上がりは順調です。でも,そこからプラスアルファの伸びがやや弱いと思っていまして,もっと伸ばしていける,伸ばしていかなければ,と思っています。
4Gamer:
最近もケルベロスが無料化されたりとか,提供内容がちょこちょこ変わっている最中ですよね。
長沢氏:
物を拾ってきて並べる,というのが重要な楽しみ方なので,その物がとられないようにするのは,どうも大切らしいと。で,物の番をしてくれるケルベロスを無料にして,小さい女の子などにも楽しんでもらえるようにしました。無料にすることで,より楽しい遊び方が提案できるなら,そのほうがよいわけです。
4Gamer:
バルビレッジの進行,というか,そこに流れている時間を見ると,携帯ゲームで自分の島を発展させていくような,まったり感がありますよね? そこが既存のオンラインゲームと,一番違うかな,と感じます。確かに,別に既存のオンラインゲームの作法に準拠しなきゃいけないわけではないし,そこが新しいのかと。
長沢氏:
そうですね。チャレンジというのは,まさにそこです。既存のオンラインゲームで実現しているのとは,まったく違う方向性で,バルビレッジは進んでいます。そこでどんな展開をしていくのかが,僕らの腕の見せどころです。
どういう形をもって成功というか,プレイヤーにどう喜んでもらうかについては,今後より練り込んでいかなければならないと考えています。
チャット機能もありますが,決してただのチャットツールではない。キャラクター性や世界観は,ジークレストの強みを生かせる部分でもあります。そこを利用したアイテムの提供であったり,イベントの提供であったり,世界観の再構築や充実は,僕らが強くしていこうと考えている部分です。それを生かしていきたいな,と。
4Gamer:
では最後に,オンラインゲーム市場における,ジークレストとしての抱負をお聞きできればと思います。
長沢氏:
ジークレスト自体は,立ち上がって間もない会社ですので,まだまだチャレンジし続けなければならない段階だと思います。オンラインゲームのマーケットは,現在どんどん広がっていますけれど,新しいコンテンツが立ち上がっていかなければ,今後広がっていかないわけです。
そこに対して僕らは,僕らの持っているアイテム課金などのノウハウを生かしながら,ゲーマーに対してより良いものを提供していければればいいな,と考えています。
今のコンテンツも,新しいものもそうですが,基本的にオンラインエンターテイメントにこだわって進めていきたいと思いますし,エンターテイメントの本質をいろいろな角度から見ながらやっていきたいですね。マーケットが広がっている中ですから,チャレンジしないと意味がない,と思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「トリックスター」で,パブリッシャとして可能な事柄を最大限に考え,イベントやアイテムをもともとの韓国版サービスになかったところまで“プロデュース”していったジークレスト。その手段は,パラメータの徹底した調整など,オンラインゲームサービスの根幹の部分に及ぶ。
そして,トリックスターで確立した,ゲーム性・イベント・アイテムを絡めたプロデュース手法が,別の作品のビジネスモデルにまで波及していくのは,まことに理に適った展開といえる。
そうした一連の考え方を聞けた点が,このインタビューの意義といえるだろう。ここまでに聞けた内容に加えて,AOGC 2006本番で長沢氏がどんな話を披露してくれるのか,今から楽しみだ。