4Gamer:
トリックスターでそれに取り組んだ実例が,イメージイラストと,アイテムのバックストーリーというわけですね。
長沢氏:
ええ。ただし,バックストーリーに限った話ではなく,「キャラクターやアイテムにファンを作るためのトータルな施策」と捉えたほうが,正しいですね。

そのほかのプロモーションやイベントの開催とも,つながってくるわけですね。
長沢氏:
例えば「プチデビル」というキャラクターがいました。これは悪魔の格好をした女の子のペットです。それとは別に「白衣の天使」というキャラクターがいて,これは天使の格好をしてナース風の衣装を着た女の子です。この二人のキャラクターは,韓国ではまったく関係ないキャラクターであるわけです。
4Gamer:
なるほど。で,それを御社がどうしたか,ということですが。
長沢氏:
日本向けにどうやったかというと,この二つのキャラクターは,姉妹のような関係にあったという,ストーリーを付けているんですよ。トリックスターにおけるペットは,ロボットのように作られたものなんですが,この二人は,ある科学者が,実在した有能な人物の能力をトレースして作り出したものという設定です。ただし,基にした能力が高すぎて,結局分割してペット化することになる。結果として,回復/護衛系のペットと,攻撃系のペットが誕生したというお話なんです。
アイテム単体を見ていくなかでは,ぜんぜん思いつきもしなかったんですけど,「このキャラクターがいい」「これもいい」「これとこれで,どっちが好きだという議論が起こってくれると面白いね」などと話しているうちに,設定が出来上がっていきました。

「オレ,プチデビル派」みたいな話題の盛り上がりを狙って,同じ土俵に載せてみたと。
長沢氏:
そうそう。どっち派という流れを作りたかったんです。散文的にアイテムがずらっと並んでいるなかの二つだったら,そんなに目立たなかったと思います。関連づけて出していくことで,一方に注目したらもう一方も目に入るという“パッケージ”が出来る。
単純にストーリーの問題だけでなく,どのアイテムをどういう風に出していくか。また,それに基づいてイラストが起こされたりするという,一連の作業なんです。
4Gamer:
ちなみに,韓国サービスでプチデビルと白衣の天使に相当するキャラクターは,もともと対照的な能力を持っているんですか?
長沢氏:
いえ,そうではありません。世界観を崩さない範囲で,パラメータ自体,ストーリーに合わせて変えていってます。
ステータスに関しては,ほぼすべて見直しました。見たうえで変えなかったものもありますが,変えるべきと判断したものは,すべて変えています。とくにアイテムはほとんど変えていますね。
4Gamer:
いや,それは予想以上ですね。ゲーム内の基本的なバランス,大小関係などには,あまり手を入れない前提のお話なのかと思っていました。
長沢氏:
うーん,おそらく日韓で遊ばれ方が違うので,アイテムに求めるものも変わってくると思うんですよね。
あとは,どういうタイミングで使ってほしいとか,こういうタイミングで使われることを想定するとかいった話は,ステータスをいじっていかないと実現しない。「これがあるから先に進もう」といった,プレイヤーの意欲に関わる部分でもありますし。
4Gamer:
具体的に,日韓で大きく異なる事例を教えていただけますか?
長沢氏:
韓国の場合,比較的マルチユースなアイテムが好まれることが多いと思います。日本でもないわけではないですが,日本のプレイヤーは,状況によってアイテムを使い分ける遊び方に,比較的慣れていると思います。
ちょっと前の韓国産オンラインゲームで,アイテムの切り分けをうまく使っている作品は,僕の知っている範囲ではそれほど多くないように感じます。もちろん,ないわけではないですが,傾向として,です。
で,こうした違いをトリックスターでうまく反映させていきたかったから,ステータスを変更していったのです。
4Gamer:
それはつまり,あるアイテムが持つ機能を限定したり,1種類の能力だけ強調したりしている,ということですか?
長沢氏:
そうです。例えばペットに「スペシャルトラック」というのがいて,彼は戦闘能力が高いわけでも,プレイヤーを守ることに高い能力を発揮するわけでもないんですが,多くの荷物を持つのを助けてくれるわけです。これは,アイテム収集をさかんに行うプレイヤーには,非常に便利です。
比較的マルチに動けるペットもいるんですが,それらとは別に特化したものもいる。先ほどの白衣の天使とプチデビルにしても,実はそうです。そのキャラクターの特徴をつけてあげる,というか。
4Gamer:
なるほど,かなり広汎なものですね。ある意味開発に踏み込むような事柄ですし。
長沢氏:
いや,結構たいへんですよ。実際(笑)。でも,ローカライズってそこまでやるといいのにな,とは思っています。
扱っているアイテムは数百種類ありますので,そのステータスをゴリゴリいじって,となるとたいへんですが,僕らのスタンスとしてはそうあるべきじゃないか,という。
ミスリードしないよう,バランスを見極める目も重要ですし,「こう遊んでほしい,ここでニヤリとしてほしい」などといったイメージが重要です。
韓国から持ってきたゲームのテイストが,日本市場に合わないとしても,それをゲームのせいにしているばかりでは仕方がない。そもそも合わないハズなんです,異なる文化の中で作られているんですから。それをパブリッシャがローカライズという作業の中で,いかに日本に合わせていけるかが,ある意味腕の見せどころではないかと思います。ある意味,本国より“いいサービス”を目指してしまって構わないのです。
4Gamer:
トリックスターについては,各国(韓国,中国,台湾)でのサービスと比べても日本市場の実績は,なかなかのものらしいと聞きますね。
長沢氏:
ええ,アイテムのイラストを起こしたり,ステータスを調整したりという結果は,今逆に開発元にどんどん提案していく形になっています。また,僕らの提案に基づいて追加されるアイテムも,非常に多いです。実際にそれが,開発元経由で各国のサービスに取り入れられて行っているというのが現在の流れです。
イベントについてもそうです。僕らでやったイベントの成功事例をフィードバックして,各国のパブリッシャがそれを開催するとか。また,台湾では僕らが起こしたイメージイラストを採用することが決まっています。
4Gamer:
確かに可愛らしいキャラクターイラストについては,むしろ総本山は日本なのかもしれないですし……。
長沢氏:
そうです。ある意味,一日の長みたいなものはあるかもしれません。もちろん,その国のテイストがありますから,必ずしも日本のものがウケるとは限りませんが,いいと思ってくれるところには,僕らも提供していきます。
今のサービスだと,中国では韓国のイラストそのままですが,例えば彼らが望めば,日本のイラストに差し変わることもあり得ます。
4Gamer:
なるほど。ところで各国でのトリックスターのサービスについて,大まかな規模を教えていただくことは可能ですか?
長沢氏:
中国と台湾については,僕らよりも後に始まっていることもあって,あまり把握していないのですが,韓国での登録プレイヤー数は数百万といったオーダー,日本では60万人前後です。
ただ,こうした会員数の数字とは別に,さまざまなイベントやバックグランドストーリーを通じて,アイテム課金で収益を立てていく方法がうまくいっているのが,日本のトリックスターですし,それがジークレストの強みだと思います。









