» 物語的には第2作で完結していた「空の軌跡」シリーズに,あえて登場した第3作「空の軌跡 the 3rd」は,シリーズのファンなら大いに楽しめるサブストーリー&ミニゲームてんこ盛りの,外伝あるいはファンディスク的な内容であった。そういった要素が,どのように盛り込まれているのか見てみよう。
大人気シングルプレイRPGシリーズの最新作
シリーズの舞台となるのは,「七耀石」(セプチウム)と呼ばれる鉱石を利用したエネルギー,「導力」によって発展した世界だ |
日本ファルコムから発売されたシングルプレイRPG「英雄伝説 空の軌跡 the 3rd」(以下,the 3rd)は,「英雄伝説VI 空の軌跡」(1st Chapter。以下FC),「英雄伝説 空の軌跡 SC」(2nd Chapter。以下SC)に続くシリーズ最新作。この「空の軌跡」シリーズは,完成度の高いゲームシステムと独特の世界観で多くのファンから高い評価を得ており,「the 3rd」でも同じ世界観とキャラクター,システムが引き継がれている。
ゲームシステムについては,FCおよびSCのレビューを見てもらったほうがよいだろう。
新主人公は七耀教会の「聖杯騎士」ケビン・グラハム
「影の国」には,ケビン達に味方してくれる存在も。その正体もまた「黒騎士」達と同様,謎に包まれている |
「the 3rd」で物語の中心となるのは,「SC」にも登場した七耀教会「聖杯騎士団」の騎士ケビン・グラハムと,新キャラクターの従騎士リース・アルジェント。七耀教会はこの世界の主たる宗教を統括する組織だが,古代文明の遺産である「アーティファクト」の調査,回収を行うという裏の顔も持っている。
「SC」で語られた浮遊都市「リベル=アーク」の崩壊より半年。リベール王国のヴァレリア湖からアーティファクト「方石」が引き上げられたところから,「the 3rd」の物語は始まる。「方石」回収の任務を与えられたケビンとリースだったが,搬送中に「黒騎士」,そして「影の王」と名乗る男の妨害を受ける。彼らの術によって,不思議な空間に囚われてしまったケビン達。二人は,仲間達や「隠者」と呼ばれる存在の力を借りて,この空間からの脱出を図る。「黒騎士」,そして「影の王」とは何者なのか? 果たして彼らの目的とは?
プレイヤーはケビンらを操り,フィールドやダンジョンを冒険していく。ストーリーを進めるにつれ,敵の目的や,それに関係したケビンの過去などが,次第に明らかになっていく。
冒険を共にする仲間達は,フィールドやダンジョンに隠されている「封印石」の中に閉じ込められている。これを発見し,解放することで,パーティに組み入れられるキャラクターが増えていくのだ。
「FC」「SC」はクエストを重ねて物語が展開していくゲームだったが,「the 3rd」ではダンジョン探索がメインとなっている。そのため,「FC」「SC」のようなスペクタクルなストーリーを期待していると,ちょっと肩透かしを食うかもしれない。もっとも,後述する「扉」の中で見られるサブストーリーが非常に充実しているので,そちらを楽しむといいだろう。
「方石」を回収するため,リベール王国を訪れたケビンとリース。しかし,「方石」を教会に持ち帰る途中,突如現れた謎の「黒騎士」によって,二人は「影の国」と呼ばれる空間に取り込まれてしまう |
「FC」「SC」で使われたマップも多く登場するが,これらは王の力で「影の国」内部に複製されたニセモノ。以前とは違うギミックが施されている | 探索中,各所で見つけられる「封印石」。この中にはシリーズおなじみのキャラクター達が封印されており,解放することで仲間が増えていく |
不思議な空間の中に広がる,巨大かつ幻想的なダンジョン。その中には,「FC」や「SC」とはまったく違う種類の敵が待ち受けている |
新要素追加でより奥深くなった戦闘シーン
戦闘システムは,基本的な部分では前作までと変わっていないが,いくつかのマイナーチェンジがある。
「the 3rd」でプレイヤーが操れるキャラクターは,最大16人。「SC」までで仲間にできた面々に加え,リシャール,ミュラー,レンの3人をパーティに組み込めるのだ。さらにキャラクター固有の技「クラフト」や,魔法「オーバルアーツ」の種類も増えており,パーティカスタマイズの自由度が大きく上がっている。
さらに新システム「リモートアビリティ」により,パーティ外メンバーの中から一人を「支援メンバー」に設定することで,戦闘時のステータスにボーナスが付加されるようになった。ジョゼットならアイテムとセピスの取得率がアップし防御力がダウン,ユリアなら攻撃や魔法に対する防御力がアップし魔法攻撃力がダウン,という具合だ。パーティメンバーや戦う相手に応じて支援メンバーを変更することで,より効率的に戦闘に挑めるわけだ。
また,戦闘中の行動順によって得られる「ATボーナス」の種類も増えた。一撃で相手を倒す「DEATH」,相手を一定時間消滅させる「VANISH」,敵の攻撃を完全にブロックする「GUARD」など,5種類のボーナスが追加されている。場合によっては戦況を一気にひっくり返してしまうものもあるので,戦闘時のキャラクター行動順のコントロールがより重要になっている。
これらの追加要素により,「the 3rd」の戦闘シーンは前作以上に奥の深いものになった。キャンプでじっくりと時間をかけ,納得できるパーティを作って冒険に挑むタイプのプレイヤーにとっては,非常にやりがいのある変更だ。「the 3rd」では,キャラクター全員をいくつかのパーティに振り分け,別行動させるという場面が何度かある。一部のキャラクターだけのレベルを上げるのではなく,まんべんなく全員を育てていきたい。
仲間が増えると,パーティメンバーを自由に選べるようになる。パーティに組み入れられるのは最大4人。個性的なキャラクターばかりで,誰をパーティに入れるかで戦闘スタイルがガラリと変わる。また支援メンバーを設定すると,戦闘時のステータスにボーナスが付与される。誰を支援メンバーに選ぶかで,ボーナスの内容が変化するのだ |
キャラクター固有の技「クラフト」も増加。新キャラクターだけでなく,旧キャラクターにも新しいクラフトが追加されているのが嬉しい |
シリーズファンなら必見のサブストーリー&ミニゲーム
「月の扉」と「太陽の扉」は五つずつ,「星の扉」は15個存在する。中には,一つの扉で複数のサブストーリーが見られるものもある |
フィールドやダンジョン内に点在する「扉」の中では,「空の軌跡」のサブストーリーを鑑賞したり,ミニゲームを楽しんだりできる。これは「the 3rd」において,本筋と同じぐらい重要な要素だ。
各扉には開けるための条件が設定されており,例えばパーティに特定のメンバーを入れるなど,扉ごとの条件を満たすと開けられる。扉は大きく分けて3種類。長編エピソードを楽しめる「月の扉」,短編エピソードを楽しめる「星の扉」,ミニゲームに挑戦できる「太陽の扉」だ。
サブストーリーの内容は,「SC」の後日談やキャラクターの過去の話,世界設定に関わる話など,実に多種多様。ミニゲームもシューティングゲームやクイズまで,さまざまなものが用意されている。これらはいわばおまけ要素で,鑑賞しなくてもゲームクリアには支障はない。ただ,いずれも「空の軌跡」世界にどっぷりと浸らせてくれる内容で,シリーズファンならこれを見逃す手はない。
総合的に見て,「the 3rd」は正統な続編というよりも,あくまで「FC」「SC」の外伝,あるいはファンディスクといった趣がある。「FC」「SC」をプレイしていない人には,ちょっとお薦めできない作品だ。もし,シリーズ未プレイながら興味を持ったという読者がいたら,「FC」から順を追って遊んでみることを推奨する。
逆に,ここまでシリーズ作品を楽しんできた人なら,絶対にプレイしておきたい1本ではある。どうやら「空の軌跡」の物語は「英雄伝説VII」へと続いていく様子。「the 3rd」で語られた物語を知っておくと,次回作が発表されたとき,それをより楽しめるであろうことは間違いない。
扉に入るには,パーティに特定のメンバーが含まれていたり,特定のアイテムが必要だったりと,決められた条件を満たしていなくてはならない。扉に触れると条件についてのヒントが表示されるので,それを参考にしよう |
キャラクターの過去の話や,「SC」終了後から「the 3rd」までの間に起こった出来事など,ファンなら見逃せないサブストーリーが山ほど用意されている |
シューティングゲームに勝ち抜きバトル,クイズなど,ミニゲームもユーモラスなものばかり。結果は本編の展開には影響しないので,気楽に楽しもう。新しいサブストーリーを見たり,ミニゲームをクリアしたりすると,賞金や賞品が手に入る。冒険の助けにしたい |