― レビュー ―
遊撃士となった少女は,再び冒険の旅へ
英雄伝説 空の軌跡SC
Text by K.サワノフ
2006年3月15日

 

■前作を大きく超える壮大なストーリー

 

1年半もの間,ファンが待ちに待った「空の軌跡」の続編にして完結編が,ついに登場した。エステルとヨシュア,そしてリベール王国の運命はいかに……

 日本ファルコムの代表的タイトル,英雄伝説シリーズ。その最新作が「英雄伝説 空の軌跡SC(セカンドチャプター)」(以下,SC)だ。本作は,2004年6月に発売された「英雄伝説VI 空の軌跡」(以下,FC)の続編にあたる。

 

 物語の舞台となるのは,「七耀石(セプチウム)」と呼ばれる鉱石を利用したエネルギー,「導力」によって発展した世界。導力は,50年前に発明されて以来,家庭用の照明や暖房から,各種移動手段,兵器にまで応用され,この社会の礎となっている。
 また,この世界には「遊撃士」(ブレイサー)と呼ばれる職業があった。一般人の安全と地域の平和を守ることを目的としており,魔獣退治から犯罪防止まで,さまざまなトラブルに立ち向かう戦闘のスペシャリスト達である。特定の国家に属さず,献身的な活動を続ける遊撃士達は,人々の尊敬の対象となっていた。

 

 前作にあたるFCは,見習い遊撃士の少女エステルと,彼女と家族同然に暮らしてきた少年ヨシュアの冒険の物語だった。行方不明になった父親カシウスを探しながら,リベール王国各地を旅する二人は,さまざまな事件に遭遇する。いくつもの奇妙な事件は一つにつながり,巨大な陰謀が少しずつ露わになっていく。
 旅の途中で出会った人達に助けられながら,陰謀の核心に迫っていくエステルとヨシュア。長い冒険の末,ついに二人はクーデターの企みを突き止め,これを阻止したのだった。

 

 しかし,事件はそれで落着しなかった。クーデターの首謀者であった王国軍のリシャール大佐は,何者かに操られていたということが発覚したのだ。陰で糸を引いていたと思われるのは,「身喰らう蛇(ウロボロス)」と呼ばれる結社。遊撃士協会や軍の情報部でも,その実態を掴めていない,謎に包まれた組織である。

 

 SCでは,正遊撃士となったエステルの,新しい冒険が描かれる。いなくなったヨシュアを探して連れ戻すため,そして「身喰らう蛇」の陰謀を阻止するため,エステルは再び旅立つのだ。

 

 エステル達の活躍により,平和を取り戻したように見えたリベール王国。しかし,それはあくまで表面上のことだった。水面下では,結社の活動が始まっていたのだ。幽霊騒ぎや局地的な地震など,リベール各地で続けざまに発生する奇怪な事件。遊撃士達の調査の結果,それらの背後には結社の存在があることが分かった。王国軍と連携しながら,結社の実体やその目的を明らかにしようとする遊撃士達。しかし,結社はそんな彼らを嘲笑うかのように,不可解な活動を続けていく。

 

 ストーリーの語り口のうまさについては定評のある英雄伝説シリーズだが,それは本作も「さすが」の一言だ。ストーリーはFCから直接繋がっているものの,SCでもどんどん新展開が待ち受けている。新たな組織や勢力,登場人物が加わり,「空の軌跡」の世界はさらなる広がりを見せていく。

 

 遊撃士達と結社の対決を軸に,リベール王国軍,クーデター軍残党,「古代機械」の謎を解き明かそうとする「七耀教会」,それに独自の行動をとるヨシュアと,さまざまな勢力,さまざまな人々の思惑が複雑に絡み合い,形作られていくSCの壮大な物語。結末がどこに落ち着くのか,プレイヤーにまったく予想させないが,それでいて,受け手を物語に引き込む力には前作以上のものがある。

 

正遊撃士になったエステルは,姿を消したヨシュアを探すため,そして謎の結社「身喰らう蛇」の陰謀を暴くため,再び旅に出る。SCでは,装いも新たになったエステルの活躍が描かれるのだ クーデターは阻止され,一見平和を取り戻したかに見えたリベール王国。しかし,その陰では,謎の結社が密かに活動を開始していた…… オリビエやクローゼ,ティータやジンなど,FCでエステル達を助けてくれた個性豊かなキャラクター達は,今回もしっかり登場する

 

FCでは顔CGがなかった,アネラスやクルツなど同僚の遊撃士達。今回は,ファンの要望に応えて(?)ちゃんと顔が描かれている 新キャラクターである,「七耀教会」の巡回牧師ケビン・グラハム。独自の目的を持って,今回の事件に関わってくる リベール王国各地に姿を現わし始めた,結社「身喰らう蛇」の「執行者」達。彼らの目的は,そしてヨシュアとの関係は,果たして……

 

 

■より奥深くなった戦闘システム

 

前作FCの時点で練りこまれていた基本システムは,今回もほとんど変わっていない。相変わらず快適に,小気味よくプレイできる

 空の軌跡シリーズは,移動シーンと戦闘シーンが分かれたタイプの,ごくオーソドックスなシングルプレイRPGだ。マウス一つですべての操作を行えるインタフェースや,リアルタイム3Dで描かれるグラフィックスなど,SCの基本的なシステム部分は,FCのものとほとんど変わらない。この部分は,FCの時点で非常によく練り込まれていたので,とくに改善する点もなかったのだろう。シンプルで快適な操作系は,1年半経った今でも,まったく古さやストレスを感じさせない。

 

 もっとも,システムを構成する要素の強化や追加は,随所に見られる。例えば,FCではパーティメンバーがストーリーの進行に沿って強制的に決められていたが,SCでは序盤からかなり選択の余地が出てくる。

 

 まず,序章の終盤において,パートナーとしてシェラザードとアガットのどちらかを選ぶことになる。どちらを選択してもストーリーの大筋は変わらず,登場人物達のセリフに多少変化があるくらいだが,戦闘時には敵との戦い方に大きな違いが出てくるのだ。直接攻撃に長けたアガットか,万能型のシェラザードか。自分のプレイスタイルに合わせて選択したいところだ。
 さらにその後も,オリビエやクローゼなど,物語が進むにつれて仲間は増えていく。仲間が4人以上になったら,イベントなどで制限されるときを除けば,好きなようにパーティメンバーを交換してプレイできるようになる。
 ジン,アガットを加えて,肉弾戦を主としたパーティを組むもよし。クローゼやオリビエを中心に据え,魔法をメインとした構成にするもよし。すべてのバランスを考えてパーティ編成してもいいし,とにかくお気に入りのキャラクターにこだわってみる,なんてのもアリだろう。とにかく,前作FCでは最終局面近くでしか楽しめなかったパーティ編成が,SCではかなり序盤から味わえるわけだ。

 

 また,FCからあった要素「オーブメント」や「クオーツ」が強化されたことも,重要な変更点だ。
 キャラクターの一人一人が持っている「オーブメント」は,「クオーツ」という回路をはめ込むことで,パラメータを伸ばしたり,導力魔法「オーバルアーツ」を生み出したりできる便利な装置。空の軌跡シリーズの,戦闘の肝となるギミックである。
 SCで登場する新型オーブメントは,FCのものよりクオーツをはめ込むスロットの数が増えている。さらにはクオーツ自体の種類も増え,そこから生まれるアーツの種類も増加している。要するに,キャラクターカスタマイズの余地が非常に大きくなっているのだ。回復要員を誰にするのか,七つある各属性のアーツは誰に使わせるのか。どのキャラクターにどういった役割を持たせるのかの自由度が高くなり,自分の好みをよりパーティに反映させやすくなっている。新しいクオーツが手に入るたびに,つい延々とキャンプ画面でオーブメントの調整を繰り返したりしてしまうのだが,これがまた悩ましくも楽しい。

 

 もう一つ,戦闘中に使用する特殊技「クラフト」も忘れてはならない。キャラクター固有の技であるクラフトは,複数の敵にダメージを与えるもの,敵のアーツやクラフトを妨害するもの,戦闘に参加しているユニットの行動順を前後させるものなど,さまざまな効果を持っている。これらは,使用時に「CP」というパラメータを消費するため,無制限に使っていくことはできないが,適切な場面で使うことで戦闘をより有利に展開できるのだ。パーティメンバーの編成やオーブメントの調整を「戦略」的要素とするならば,クラフトの使い方は「戦術」的な要素といえるだろう。
 FCから登場しているキャラクターは,一定のレベルに達すると新クラフトを習得するし,SCからパーティーに加わるキャラクターは,当然独自のクラフトを持っている。つまり,それだけ戦闘時の行動バリエーションが増えるわけだ。
 また,SCでは,新要素「チェインクラフト」も追加された。これは2〜4人のキャラクターが合体技を繰り出し,敵に大ダメージを与えるというもの。チェインクラフトを使う場合は,起点となるキャラクターから順に,メンバーを選択していけばいい。チェインクラフトを構成する人数は,起点となるキャラクターの持つ能力で決まる。最初は2人のチェインクラフトしか使えないが,レベルが上がると,3人,4人のチェインクラフトが使えるようになる。ただし,チェインクラフトを使うと全員のCPが消費されるうえ,キャラクターの行動順が大きく変わってしまう。濫用は控え,ここぞというときに使いたい。

 

 とっつきやすいが,その実なかなか奥が深い,空の軌跡シリーズの戦闘シーン。FCのときから非常にタクティカルな要素が強かったが,SCではその部分がより深まっている。SCの敵,とくにイベントで発生する中ボス,大ボスクラスは,FCに比べてもかなり手応えがある。単純な力押しでは相当な苦戦を強いられるし,勝てたとしてもパラメータやアイテムなどの消費の点で無駄が多くなってしまう。いかに効率のよい戦略,戦術でこれに挑んでいくかも,本作の醍醐味の一つなのだ。

 

仲間が4人以上になると,ギルドでパーティメンバーの編成を行なえるようになる。パーティ内での役割分担をよく考えてメンバーを決めよう キャラクター達は一人一人,違う特性を備えている。巨大な剣を持つアガットは,見た目通り強力な直接攻撃力を持っている エステル達の姉貴分シェラザードは,直接攻撃とアーツをバランスよく使いこなすキャラクターだ。彼女の使う鞭は,攻撃範囲がかなり広い

 

細身の刺突用の剣を使うクローゼ。アーツを得意とし,中でも水属性に特化している。パーティの回復係として非常に有用な存在だ 旅の演奏家オリビエは,長い射程距離を持つ導力銃を使う。アーツもかなり得意なので,パーティの後衛に入れておくと心強い 導力砲を抱えて戦う少女,ティータ。射程距離が長いうえ,ある程度の範囲攻撃能力を持つ。体力が少ないので,後衛向きのキャラクターだ

 

SCで登場する新型オーブメント。FCでは六つだったスロットが七つに増えた。新型クオーツと合わせて使いこなそう SCでは,新しいアーツが30種類以上も追加された。ブレイサー手帳にはすべてのアーツが記されているので,確認しておこう エステルの新クラフト「真・捻糸棍」。以前のクラフトの強化版だが,効果範囲が横方向に広がり,より当てやすくなっている

 

 

■おまけ要素が作品の懐を深くする

 

町にいる人々とは,いろんな会話ができる。中には,クエストのヒントをくれる人も。積極的に話しかけていこう

 メインストーリーは緊迫した内容だが,決してそれだけを見せようとするのではなく,おまけ的な要素をたっぷり加えてくるのが,このシリーズの魅力の一つだ。
 その最たるものが,町に住む人々との会話だろう。本シリーズでは大勢の住人と話できるが,もちろん人々の大部分はクーデターや結社などとは関係なく暮らしており,彼らとの会話はいわば本筋から外れたものが多いが,会話の端々からそれぞれの生活ぶりや悩みがうかがえて面白い。
 ギルドで請けられる「ブレイサークエスト」も,その延長線上にある要素といっていいだろう。これは,本筋の合間にちょっとした事件を解決していく,いわゆるサブクエスト。街道の魔獣退治から,人探しや物探し,軽犯罪の捜査まで,その内容は実に多彩だ。クエストの内容はメインストーリーの展開には影響を及ぼさないし,請け負うかどうかも自由。ただし,うまくクリアすると報酬や遊撃士としての経験値が得られ,何かと得になる。
 会話にしてもブレイサークエストにしても,FCとSCの両方をプレイしていると,より面白みが増す作りになっている。SCでは,FCで出会った人達の生活が数か月の時間を経て,ちょっとだけ変化した様子を垣間見られるのだ。ロレントの町の工房にいた技師がツァイスに研修に来ていたり,王都の百貨店で売り子をしている双子姉妹の確執が深まっていたり,FCのクエストで見つけ出した迷い猫を,今回もまた探すことになったり……。FCをまめにプレイしていた人ほど,ニヤリとさせられる場面は多いだろう。
 これらは,確かに本筋とは直接関係を持たない。しかし,ゲームにアクセントを与えるだけでなく,作品世界に深みを与え,プレイヤーに感情移入を促すという重要な役割をしっかりと果たしているのだ。世界の日常がしっかりと描かれているからこそ,メインの大事件がより際立つのである。

 

 また,別ベクトルのおまけとして,各種「やり込み要素」を見逃すわけにはいかない。SCでは,やり込み要素もFC以上に充実しているのだ。
 FCでも好評だった「料理システム」は,SCでさらにパワーアップした。ゲーム中エステル達は,王国各地のレストランや酒場,屋台などで,さまざまな料理を購入できる。これらの料理は主に消費アイテムになっているのだが,一度食べる(使う)とレシピが分かり,以後は材料さえあれば自分で同じものを作れるようになるのだ。
 SCでは料理の種類も一新されたので,新たな気持ちで一からレシピ集めを楽しもう。今回の手帳には,レシピと一緒に料理のグラフィックスも表示されるので,コレクションがますます楽しくなるはずだ。
 ちなみに,FCでは料理の効果は回復のみだったが,SCでは攻撃効果を持つ料理も登場する。実は,これが意外と強力なのだ。経験値はたくさんくれる半面,非常に倒しにくい魔獣「シャイニングポム」にも有効という,嬉しい一面もある。積極的に使っていきたい。

 

 新規のやり込み要素としては,「釣りシステム」が挙げられる。序盤,FCにも登場した釣り好きのロイド氏から竿と釣り手帳をもらうと,リベール各地で釣りを楽しめるようになるのだ。海,川,湖などなど,釣り場はあちこちに存在する。何種類もの竿とエサをうまく組み合わせて,獲物を狙っていくわけだ。
 どんな魚をどこで釣ったか,大きさはどれぐらいだったかなど,釣果はすべて自動的に釣り手帳へと記録されていく。こちらは料理とは違ってあまり実益はないが,やはり手帳が埋まっていくと,なんともいえず楽しくなる。

 

 ほかには,ルーアンの町のカジノバー「ラヴァンタル」では,ちょっとしたミニゲームをプレイできる。FCでは改装工事中だったカジノが新装開店しているのだ。ここでは,通貨であるミラをメダルに換金して,ポーカー,ルーレット,ブラックジャック,スロットマシーンという4種類のギャンブルを楽しめる。メダルをミラに再換金することはできないので,ここでお金を稼ぐことはできないが,溜めたメダルは景品に交換できる。中には,ここでしか入手できないアイテムもあるので,挑戦してみる価値は大いにある。

 

 本作をプレイしていて感銘を受けるのが,ストーリーからシステムの細部,それに上記のようなおまけ要素まで,ゲームを構成する要素すべてが「プレイヤーを楽しませる」という目的を,まっすぐ見据えて構築されており,それが非常に高いレベルで成功しているという点だ。作品の完成度の高さと,全体を貫くサービス精神の高さにおいて,ここまでの作品はなかなか見られない。

 

 FC,SC合わせて,ぜひとも万人に味わっていただきたいシリーズだ。SCは独立したゲームであり,前作をプレイしていなくてもプレイは支障なくできる。だが,前述のような観点で見た場合,本シリーズを最大限に楽しむためには,やはりFC,SCの順できっちりプレイしていただきたいところだ。
 どうしても早くSCをプレイしたいなら,「空の軌跡SC」の限定特典版パッケージについてくる,ドラマCDとフォトストーリーブックを鑑賞するのもいいだろう。これには,FCでのエステル達の冒険がまとめられているのだ。FCをクリアした人でも,プレイする前にこれらを見たり聞いたりしておくと,SCのプレイがより感慨深くなるはずだ。

 

ギルドでは,さまざまなブレイサークエストを請け負うことができる。うまくクリアすると,報酬やブレイサーポイントが得られる 手に入れたレシピは,レシピ手帳に自動的に記録されていく。今回は,料理のグラフィックスまで表示されて,非常においしそうだ 材料は,各地の雑貨店で購入したり,魔獣を倒したりすることで入手できる。不足している材料はこまめに補充しておくといいだろう

 

冒険の途中,水面に丸い波紋を見つけたら,そこに魚がいるという印だ。ちょっと足を止め,近づいて糸をたらしてみよう アタリがあったら,素早くマウスをクリック。竿とエサ,釣り場の組み合わせで,釣れる可能性や魚の種類が変化する 「空の軌跡SC」の限定特典版には,FCでの物語をまとめたドラマCDとフォトストーリーブックがついてくる。SCの予習に最適だ

 

タイトル 英雄伝説 空の軌跡 SC(Vista対応版)
開発元 日本ファルコム 発売元 日本ファルコム
発売日 2007/03/29 価格 6510円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 8.1以上),CPU:PentiumIII/800MHz以上[PentiumIII/1GHz以上推奨],メインメモリ:256MB以上(Windows98/Me),384MB以上(Windows2000/XP),HDD空き容量:3.5GB以上

(C) Nihon Falcom Corporation. All Rights Reserved.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/sorasc/sorasc.shtml