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[TGS2005#54]開発者インタビュー「Call of Duty 2」:Infinity Ward チーフ テクニカル オフィサーが来日
2005/09/19 23:52
Infinity Ward
チーフ テクニカル オフィサー
Jason West氏
 東京ゲームショウ2005(以下,TGS2005)の最終日である9月18日,「Call of Duty 2」(以下,CoD2)の開発元Infinity WardJason West氏に対し,インタビューを行った。TGS2005に合わせて来日したWest氏だが,かなり多忙で,表に出る機会はほとんどなかったという。帰国する数時間前に空いたわずかな時間を,4Gamerのインタビューのために割いてくれたのだ。

4Gamer.net(以下,4Gamer):
 こんにちは,本日はよろしくお願いします。このところずいぶんとお忙しかったようですが,TGS2005はじっくりと見られましたか? CoD2も展示されていましたから,その様子は見られていると思いますが。

Jason West氏(以下,West氏):
 思った以上に忙しくて,CoD2の展示コーナーにも,少し立ち寄っただけですね。TGS2005自体は,次世代ゲーム機関連の展示で盛り上がっていて,凄くエキサイティングでした。

4Gamer:
 ええ,今年は次世代機が主役ですからね。CoD2もXbox 360版のみの展示ですし。
 で,私もそのXbox 360版を早速プレイしてみましたが,思った以上に前作「Call of Duty」(以下,CoD1)の雰囲気がそのまま引き継がれていますね。

West氏:
 CoD1が大変好評だったので,続編の話はすぐに浮上しました。その時点で,さらに採り入れたい新アイデアが多くあったため,CoD1で好評だった部分は残しつつ,それらを新要素として2に盛り込んだのです。

4Gamer:
 なるほど。ええと,Westさんは,CoD2の開発ではどのような作業を?

West氏:
 私はInfinity Wardの「チーフ テクニカル オフィサー」という肩書です。ゲーム全体……例えば音声,ビジュアル,テクノロジなどすべてを見ており,スタッフ達と共に作業しています。

4Gamer:
 CoD2の開発に携わっているスタッフ達というのは,何名くらいいるのでしょうか?

West氏:
 もともと30人前後でスタートしましたが,開発段階で倍になり,現在は60人近いスタッフが関わっています。



■収録キャンペーンについて

●アメリカキャンペーン

4Gamer:
 CoD2はまだほとんど情報が出ていないので,まずは基本的な質問からしていきます。今作でもシナリオは米,英,ソの3キャンペーンが用意されているようですが,それぞれについて聞かせてください。

West氏:
 まずアメリカ軍キャンペーンは,D-DAYから始まります。プレイヤーは,オマハ・ビーチにあるPointe du Hocに上陸し,攻略する部隊の一人となります。崖の上の砲台がオマハのほうを向いているので,背後から回り込んでそれらを破壊しようという作戦ですね。

4Gamer:
 D-DAYにおけるPointe du Hocの攻略は,史実にもあった作戦ですね。

West氏:
 そうです。約100mもの崖をロープで登ってドイツ軍の要塞を攻略するのですが,いざ上に辿り着くと,そこには偽物しかなく,本物の大砲はすべて移動させられていました。今度は,本物を探し出して破壊することになります。

4Gamer:
 崖を登るシーンは,E3 2005のムービー(ダウンロードは「こちら」)で見ました。まさに興奮の内容でしたが,やはりあれはCoD2における見せ場ですか?

West氏:
 CoD2にはたくさんのレベルを用意しており,人それぞれ好みもあるでしょうから,あのシーンが特別ということはないですよ。

4Gamer:
 いやー,しかし,とても評判良かったですよ,あのムービー。

West氏:
 ははは,ありがとう。

4Gamer:
 本物の大砲を破壊したあとは,どんな展開が待ってますか?

West氏:
 残念ですが,その先はまだ秘密です。上陸後の作戦資料に沿って,どんどん進攻していくのは確かですね。

●イギリスキャンペーン

4Gamer:
 イギリスキャンペーンは,北アフリカ戦線が題材ですね。ということは,やはり戦車戦がメインですか?

West氏:
 ええ,そのとおりで,イギリス軍の軽量俊敏な戦車部隊と,ドイツの重戦車部隊の戦いを描いています。広大な砂漠の中で,40台もの戦車が激突する大戦車戦もありますし,街中での戦車との戦いもありますよ。

4Gamer:
 ロンメル将軍は登場しますか?

West氏:
 おお,デザート・フォックス! そうです,彼が率いる手強い軍団と対決することになりますよ。さすがにゲーム中に本人は登場しませんけどね。

●ソ連キャンペーン

4Gamer:
 次はソ連キャンペーンについて聞かせてください。今度は,一体どんな悲惨な目に遭わされるのか,大勢のファンが楽しみにしていると思います。

West氏:
 私も一番のお気に入りですよ。今回は,スターリングラードで行われた長く激しい市街戦から始まります。そして,過酷な東部戦線へと続いていきます。

4Gamer:
 CoD2でも,また大勢のソ連兵が気の毒な目に遭うような工夫が凝らされているのでしょうか。

West氏:
 あー……,イエス(笑)。今回はとても寒いというイメージを出すために,雪を降らせたり,吐く息が白かったり,吹雪にしたりといった演出に注力しています。もちろん戦車も活躍します。
 また今回は,もの凄く大量の爆薬を使って建物を破壊するようなシーンもあります。今回もとても楽しいですよ。



■CoD2の新要素について

4Gamer:
 各キャンペーンについて聞けて,良かったです。CoDファンの期待もさらに高まったでしょう。ところでキャンペーンの中には,CoD1の"ペガサスブリッジ"のような,感動的な演出を意識したシーンは今回もありますか?

West氏:
 今回は防戦の場面も多く,その中で,ペガサス・ブリッジのように心を揺さぶるシーンも出てきます。とくに後半のレベルでは,そういったシーンも多く見られるでしょう。

4Gamer:
 前作の良い部分をしっかりと継承しているようで,安心しました。あと,CoD1といえば,現地や当時の兵器類について徹底した取材/調査が行われてましたが,CoD2ではどうですか?

West氏:
 今回もロケーションのリサーチを徹底的に行いました。デザイナーが現地に向かい,そこで撮影した写真をもとにレベルを作成したんですよ。だいたい2,3レベルごとに取材を行い,現地の風景や建物,コンクリートやレンガなどの写真を持ち帰って,また次のレベル作りに励みました。資料を調べて1回取材に出るごとに,だいたい1か月ぐらいずつかかってますよ。

4Gamer:
 やはりレベルデザインには,大変な労力が注がれているようですね。次に新兵器についてですが,火炎放射器のような新しい武器は登場しますか?

West氏:
 詳しくはまだ秘密ですが,CoD2では新兵器が結構たくさん出てきます。オートマチックのスナイパーライフルとかね。
 スナイパーライフルに関しては,今回は息を止めての狙撃が可能なんです。また「発煙弾」という兵器もあります(編注:これは拡張パック「United Offensive」にも登場した)。投げると煙が出るのですが,煙の中で突然敵と至近距離で遭遇し,殴り合いになるというシーンもあります。

4Gamer:
 なるほど,データ面に関しては分かってきました。ではゲームシステム面の進化はどうでしょう? 何か特徴的なことはありますか?

West氏:
 ルートが直線的過ぎたという問題を,改善しています。例えば壁や崖をよじ登るといった行動も可能になっています。CoD1で,敵兵はフェンスなどを乗り越えるアクションを使えるのに,プレイヤーキャラクターは使えないという不満を多く寄せられましたが,CoD2ではこちらも同様のアクションを行えます。

4Gamer:
 では逆に,敵兵に新しいアクションは追加されていますか?

West氏:
 敵兵には,かなり数多くの新アクションを入れていますよ。なんでも乗り越えてきますし,曲がり角での細かなアクションなども見どころです。例えば,撃たれて即死しなかった敵が,倒れて這うように動き,絶命する前に最後の一発を浴びせてくる……なんてアクションを見せることもあります。

4Gamer:
 おお,なんだか凄そうですね。個人的に,シングルFPSの面白さを判断するうえで,昔も今も敵AIが非常に重要な役割を果たしていると思っているんですよ。なので,CoD2における敵AIの進化についても聞かせてください。

West氏:
 CoD1では,味方のAI兵士と連携して作戦を進めるシーンがありましたが,今作は,これを敵兵士側にも適用しています。つまり,敵チームも作戦を立てて攻めてきますよ。敵の発煙弾の使用には要注意ですね。
 また,味方同士で交わされる会話や,命令/指令の出され方,そしてその内容については,今回本物の軍関係者からアドバイスをもらい,採用しています。

4Gamer:
 敵はアクションが豊富になっただけではなく,戦術的に手強くもなっていると?

West氏:
 敵は単体でもかなりのプレッシャーをかけてきます。今回はヘルスゲージの概念を取り去り,一定のダメージを受けたら隠れて回復を図るというシステムを採用していますが,敵もそう簡単には隠れさせてくれないわけです。
 姿が見える限りは追いかけてきますし,見えなくなったら今度は手榴弾を投げ込んできたりします。

4Gamer:
 そういえば,私も今回展示されていたデモ版を遊んで,初めてヘルスゲージがないということを知ったのですが,これはどういった理由からですか?

West氏:
 今回はヘルスパックをなくし,あまりダメージを受けすぎると画面に「隠れろ」という指示が出るようにしました。隠れずにダメージを受け続けると死んでしまいますが,隠れてやりすごせば回復して,再び戦線に復帰できます。なぜこのシステムを採用したのかというと,前作では大きなダメージを受けてしまった場合に,ヘルスパックを探し求めてステージを逆戻りするといった行動が必要になっていたからです。

4Gamer:
 確かに前作は,すでに一度通ってきた無人のルートを,ヘルスパック求めて戻っていくことが多かったですね。

West氏:
 息もつかせぬ戦闘の連続がCoDのウリなのに,これはかなり緊張感を削いでしまいます。そこで今回はヘルスゲージをなくし,ダメージを追っても前線から離れなくてもいいようにしたのです。CoD2ではオートセーブがあり,もし途中で死んでしまっても,その場でセーブされます。リスタートすれば同じところから始められるというのも,ヘルスゲージを無くすことで実現できた利点の一つです。



■テクノロジについて

4Gamer:
 United Offensiveでは,パーティクルシステムが特別に強化されてましたよね。今回もソ連キャンペーンの"吹雪"やスモークの中での不期遭遇戦などで,パーティクルの描写には一段と力が入っているのでしょうか。

West氏:
 さらに新しいパーティクルエンジンを開発しました。United Offensiveでは,煙同士が重なると線が見えてしまうことがありましたが,今回はそのような見苦しさをなくし,より自然な煙を描画できるようになっています。CoD2の臨場感は素晴らしいですよ。

4Gamer:
 ええ,CoD2はパッと見て分かるほど,前作より格段にグラフィックスが美しくなっていますね。

West氏:
 新エンジンをベースにしており,物の表面,建物や地面などが,かなりリアルに描画できていると思います。雨が降ったり雷が落ちたりといった,天候の変化も入れています。

4Gamer:
 前作とは異なるエンジンで動いているんですね。

West氏:
 グラフィックスエンジンに関しては,すべてゼロから作り直しています。ピクセルシェーダやノーマルマップ,スペキュラマップなど,多くのテクノロジを採り入れた新エンジンを開発するところから,CoD2はスタートしました。

4Gamer:
 ちなみに,今回使用されたゲームエンジンの名称は?

West氏:
 ええと,"Call of Duty 2 Engine"です(笑)。開発者の中には,"Call Engine"と呼ぶ者もいますが。

4Gamer:
 このエンジンで,光と影の技術はどのようなものを使っていますか?

West氏:
 キャラクターにはダイナミックシャドウです。敵が建物の角から現れるときに,影だけが先に見えたりといった演出も実現していますよ。影に関しては,3Dのラジオシティ(注1)を使用して,非常に自然にブレンドされるようになっています。

注1:
 ラジオシティとは,光源から各物体への光の伝播を,熱の輻射モデルでレンダリングするもの。物体の表面を細かいパッチ面に分割しておき,すべてのパッチ間で,相互に光源からの光の輻射量をあらかじめ計算しておくという手法を使う。膨大な事前計算を使用する代表的なレンダリングアルゴリズムである。事前計算さえしておけば,そのシーンを高速に,しかも非常にリアルに描画できる。
 ただ,シーン内で何か動いたり,光源が増えたりといったことが起こると,すべて最初から再計算しなくてはならないので,通常,アクション性の高いゲームには適さないとされている。シーン内のオブジェクトが動かなければ,視点はどのように切り換えても構わない。静的なシーンを非常にリアルに描画できるので,建築物の照明シミュレーションなどでよく使われる手法だ。

4Gamer:
 全面的にグローバルイルミネーション(大域照明:注2)を行っていると考えていいのでしょうか?

West氏:
 ラジオシティと通常の光源モデルのハイブリッド版となっています。

注2:
 ビジュアル的に作り込まれた作品の多かった2005年のE3の出展作品の中でも,ひときわ目立っていたのがCoD2だった。初出映像からも「画面のリアリティが尋常ではない」と感じていた人も多かったのではないだろうか?
 大域照明というのは,単なる光源からの光だけではなくて,さまざまなものからの光を考慮した照明モデルだ。もやっとした光源から,もやっとした影ができたり,光源からの反射光で色のついた照り返しが出たりというものも表現できる。そもそも,光源からの光が当たって反射/散乱することで,現実世界では,すべての物体は多かれ少なかれ光源として機能する。それを忠実に再現しようという試みだと思っていいだろう。これにより,本物そっくりの高精細テクスチャを貼ったり,マッピングを施しただけでは実現できないリアリティが期待できる。
 CoD2では,ラジオシティ法により,そういったものを取り入れているというのだ。おそらく主に背景表現に使われているものと思われるが,ラジオシティではうまく対応できない動くものなどについては別の光源モデルを組み合わせて,リアルタイムゲームでありながら,非常にリアルな絵作りを実現している。

4Gamer:
 ラジオシティ法は,光源が増えたりした場合対処しにくいアルゴリズムだと思うのですが,そういった場合はどう対処しているのでしょうか?

West氏:
 外光とラジオシティを組み合わせるのには,大きな問題はありませんでした。ただそれ以外の光源は,光源モデルの違いを考慮しながら,個別に加えていくようにしています。

4Gamer:
 なるほど,なんとなく分かりました。つまり,静的な光源をベースに,動的な光源を加えているということですね。

West氏:
 そう。光源の影響が出てくるようなときには,それをアップデートしています。

4Gamer:
 光源が動いた場合はどうなりますか?

West氏:
 第二次世界大戦モノだと,動く光源はほとんど考えなくてよかったので,助かりました(笑)。



■マルチプレイについてはまだ秘密!?

4Gamer:
 マルチプレイについても聞かせてください。

West氏:
 マルチプレイについては,現時点ではまだあまりお話しできず,これまでもアナウンスしたことがありません。
 これから,多くのマルチプレイ用レベルをデザインしていきます。シングル用レベルのいくつかも,マルチプレイに対応できるようにします。

4Gamer:
 シングルのレベルも遊べるということは,Co-opもできるようになりますか?

West氏:
 Co-opの搭載は,今のところ予定していません。

4Gamer:
 ううむ,残念。では,今回のマルチプレイの1サーバーにおける最大参加人数は?

West氏:
 理論値で最大64人,通常は最大32人が目安となります。ちなみに,これはPC版のスペックです。

4Gamer:
 United Offensiveの"階級"システムなどは今回ありますか?

West氏:
 そのへんはまだ秘密です。

■最後に気になる質問を

4Gamer:
 推奨スペックについても教えてください。

West氏:
 まだFixしてはいませんが,グラフィックスの最低環境はDirectX 7クラス,推奨環境はDirectX 9クラスです。Pentium 4/1.40GHz以上はほしいところですね。現在PCゲーマーの間で普及しているスペックなら,だいたい快適に遊べるでしょう。高性能なグラフィックスカードを持っている人なら,ハイレベルなビジュアルエフェクトも堪能できます。

4Gamer:
 現在の開発状況はどれくらいですか?

West氏:
 もう90%は完成しています。

4Gamer:
 おお,それは嬉しい。ではPC版は,いつごろ遊べそうですか?

West氏:
 欧米では,クリスマスシーズンまでには遊べるでしょう。

4Gamer:
 ついでに,デモ版のリリース時期も教えてください。

West氏:
 あー……,もうすぐです。

4Gamer:
 では最後です。ぜひ,CoD2を楽しみにしているファンにメッセージを。

West氏:
 ファンの皆さん,ご声援ありがとうございます。本作を楽しんでいただけることを願ってます。

4Gamer:
 どうもありがとうございました。


 未だにほとんど情報の出ていないCoD2だけに,何を聞いても「答えられない」と言われてしまうのではないかと心配していたが,West氏は我々の質問の多くにしっかりと答えてくれた。CoDファンならば,この短い一問一答を読んだだけでも,期待が高まってくることだろう。
 このインタビューの3時間後には機上の人になったWest氏だが,慌ただしい滞在の中で貴重な時間を提供してくれた氏に,心から感謝したい(Kawamura)。


コール オブ デューティー 2 日本語版
■開発元:Infinity Ward
■発売元:ラッセル
■発売日:2006/03/24
■価格:オープンプライス
→公式サイトは「こちら」

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