業界動向
Access Accepted第470回:ゲーム開発をファンと共に行うMicrosoftの新たな試み
Microsoft Studios傘下の開発スタジオであるPress Playが,「Transparent Development Initiative」という,企画段階からゲーマーを巻き込む新しいプロジェクトを開始した。これは,ゲームの広報戦略としてはリスク回避につながるが,時間や資金の面では負担増加にもなり得る新しいビジネスモデルの試みだが,Microsoftという強力なバックアップがあるだけに,どのようなプロジェクトへと進展していくのかは見物である。今回は,このPress Playの「Transparent Development Initiative」について紹介したい。
3つの新規プロジェクトをゲーマーが選び抜く
2006年の設立以来,デンマーク国内向けのPCゲームなどを制作していたようだが,2010年にWiiを始めとした複数のプラットフォーム向けに発売された,マジックペンに見立てたコントローラを文字どおり「魔法のペン」として使用し,ゲーム画面にお絵描きやスケッチをしていく「Max and the Magic Marker」が大きな話題となる。この成功がきっかけとなり,2012年にカジュアルゲームのラインナップ拡充を目的としてMicrosoft Studiosに買収されることになった。
Press Playはその後,続編である「Max: The Curse of Brotherhood」(Xbox One/Xbox 360)や,トーテムポールを題材にしたパズルゲーム「Kalimba」といったキュートな絵柄の作品で,同社らしい作風を打ち立ててきたが,ここに来て非常に目新しいゲーム開発を表明している。それは,新作ゲーム3作ぶんのプロトタイプを映像化したトレイラーをWeb上に公開し,Press Playが次の作品として,どのゲームを開発すべきかをゲーマー達に問うというものだ。
公式サイトでは「Transparent Development Initiative」(透明性のある開発イニシアチブ)と表現されているこの開発方式は,企画の選定だけに留まらず,今後もゲームデザインなどの工程を逐次公開しながらゲーマー達と共に開発を続け,より多くのフィードバックを得ることを期待して進められている。
ここで,簡単にその3つのプロジェクトを紹介しておこう。それぞれに「プロトタイプデモ映像」が公開されているが,最終的に想定されているゲームのグラフィックスとは大きく異なっていることは踏まえておく必要があるだろう。
●Project Dwarka
「Project Dwarka」は,これまでのPress Playの作風と大きく異なる一人称視点のCo-opアクションゲームになる予定。仲間と共にドワーフのトレジャーハンターの一団を形成し,ダンジョンの奥に隠された財宝を求めて潜入していくという内容で,プロトタイプ版のトレイラーを見ると,梯子を設置する役目を持ったキャラクターなど,それぞれに異なるスキルが用意されていることが分かるだろう。
もちろん,プレイヤーキャラクターのスキルやアイテムのアップグレードも可能で,ダンジョンやモンスター,オブジェクトの配置などは,すべてプロシージャル型のゲームエンジンによって生成されるので,長く遊べるゲームになるはずだ。
●Project: Karoo
オンライン専用のコンストラクションゲームになる「Project: Karoo」では,プレイヤーが自分のキャラクターを使ってオープンワールドな世界を冒険しながらブロックやアイテムを集め,バギーや飛行船,さらにはロボットといったさまざまな乗り物を作成していく。オブジェクトには物理作用が設定されており,バランスが悪いと骨組みがグラグラしてしまい,走行中に壊れてしまうこともある。
イメージとしては,「マインクラフト」のコンセプトに「Medieval Engineers」や「Besiege」のような濃いめのゲームの作風を取り入れ,さらにカートレースなどのさまざまなゲーム要素を加えた作品としてとらえれば良いだろう。
●Project: Knoxville
「Project: Knoxville」は,「ハンガー・ゲーム」や「ランニングマン」のような殺人ゲームに参加したプレイヤーが生存競争を繰り広げるという,三人称視点のマルチプレイ専用サバイバルアクションゲームとなる。最後まで生き延びるためには,ほかのプレイヤーと敵対するだけでなく,ときには協力することも必要となり,そうした敵対と共存のあいまいな境界線を狙ったゲームプレイが提唱されている。
ゲームに参加していないプレイヤーがマッチの行方に賭けたりできる観衆モードや,キルされたプレイヤーが自分を仕留めたプレイヤーの近くにオオカミを解き放つなどの,ワンチャンスでのリベンジモードも加わるという。
長期化するゲームプロジェクト向けの広報活動
こうしたゲーマーを巻き込む形のゲーム開発は,「ゲーマーに開発資金を提供してもらう」というクラウドファンディングのモデルに助長される形で,ここ数年の間に増えてきている。
例えば,稲船敬二氏のcomceptによる「Mighty No.9」は,バッカー(出資者)による投票という形でキーキャラクターのアートワークを選定するような作業を行ってきたし,「Project CARS」のSlightly Mad Studiosは,独自で始めた「World of Mass Development」というファンディングモデルにおいて,バッカーがα版を用いた映像やスクリーンショットをSNSなどで拡散する広報活動に対して,「共同開発」という名目で対価を払うというシステムを試みていた。
ゲームの歴史を考察すると,その当初から「売り切り型」のビジネスが一般的なものであった。ゲーム企業側が仕掛けた製品を,ユーザーがお金を払って購入するという,「玩具」や「電化製品」などと同じ消費システムが,とくにコンシューマゲーム機市場においては長らく続けられてきたわけだ。
一方,PCゲーム市場においては,1990年代頃から熱狂的なファンに向けて,ゲーム世界を拡張したり,新しいゲームモードを追加したりといった「拡張パック」というコンセプトが生まれた。それにうまく乗ったのがMMORPGジャンルであり,成功したものでは10年以上にわたってさまざまな拡張パックがリリースされ,ビジネスの長寿化が図られるようになった。
この波がコンシューマゲーム機で一般化したのは2000年代後半で,「Fallout 3」(PC/PS3/Xbox 360)や「Borderlands」(PC/PS3/Xbox 360),そして「Call of Duty: Modern Warfare 2」(PC/PS3/Xbox 360)といった,2008年から2009年あたりにリリースされたゲームにおいて大きな支持を集めることとなった。
今では,「拡張パック」よりも「DLC」(ダウンロードコンテンツ)という総称で呼ばれることのほうが多くなったが,これによってコンシューマゲーム機でもゲームソフトのライフサイクルが長寿化し,現在のヒット作の多くは売り切りではなく「継続型」のモデルとなっている。
一方で「自分達が作るゲームをどのようにゲーマーに知ってもらうか」というのも,ゲーム企業にとって大きな苦悩の一つである。これまでは,ある時点でゲームメディアやゲームイベントを使って新作を発表し,リリースまで小まめに情報を公表しながら潜在的な消費者に印象付けていくというやり方が一般的だった。
しかし,数多くの新作が毎月のように発売される現状において,知名度のない新作IPや,マーケティングに多額の資金を投入できないメーカーの場合,「どうやって我々がゲームを作っているのか」を赤裸々に見せることも,とくにコアなファン層へのアピールには重要な要素となっているようだ。このことは,以前に掲載した本連載の第401回「ゲーム開発者に求められる自分のストーリーとは何か」でも取り上げているので,合わせて目を通していただければと思う。
こうした状況をさらに一歩推し進めたのが,Press Playの「Transparent Development Initiative」のような「ファンにゲーム開発へと参加してもらう」という開発コンセプトで,ゲームソフト単体における広報活動が,ついに企画段階から始まることになった。
これは,開発チームにおいてはそれなりのリスク軽減,つまり「ゲーマーが選んだのだから間違いない」というプロジェクトの安定性をもたらすと同時に,広報に割く時間という面では負担が増加しており,諸刃の剣ともなり得る。
Press Playの「Transparent Development Initiative」は,Microsoftというプラットフォームホルダーの全面的な協力を得られるという点で,こうした流れがどれだけ成功するのかを見届ける,一つの実験的なモデルとなるはず。その進展にはしっかりと注目していきたいところだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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