業界動向
Access Accepted第418回:欧米ゲーム市場におけるXbox Oneの現状
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北米時間の2014年3月17日,Microsoftの副社長兼Xbox部門担当CEOだったマーク・ウィッテン(Marc Whitten)氏が突然,退職した。2013年7月には,実質的にXbox部門を切り盛りしてきたドン・マトリック(Don Mattrick)氏が退職しており,Xbox関連の重役が相次いでMicrosoftを去っている。イギリスのゲーム誌「Edge」が特集記事を組むなど,最近,Xbox Oneの話題が少なくない。今週は,欧米ゲーム業界におけるXbox Oneの最近の状況をまとめてみよう。
Xbox Oneには助けが必要?
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この慌ただしさは,退社の4日後にウィッテン氏によるGDC 2014の基調講演が予定されていたことからも伝わってくる。GDC側とのすり合わせも不十分だったらしく,ウィッテン氏の代わりに登壇したフィル・スペンサー(Phil Spencer)氏の基調講演がいささか物足りない内容だったのは否めない。
ウィッテン氏の後任として4月1日からXbox部門を指揮している,そのスペンサー氏は,Microsoftが上場して間もない1988年にプログラマーのインターンとして採用されて以来,26年間にわたって同社に勤める相当な古株だ。2002年に設立されたMicrosoft Game Studios(現Microsoft Games)においてXboxプラットフォーム向けのエクスクルーシブタイトルを担当し,「Halo」「Fable」「Gears of War」といったヒットシリーズを世に送り出している人物であり,ゲームには相当強いという印象を受ける。
Xbox OneとPlayStation 4が北米を含むいくつかの地域でリリースされたのは,約5か月前のこと。2013年のクリスマス商戦以降,両プラットフォームの販売台数の優劣が,そろそろ,欧米ゲーム業界の目にも明らかになってきたようだ。
もっとも,販売地域や発表時期が異なるので,単純に比較することはできないのだが,この半年ほどのグローバルセールスを分かる範囲でまとめてみると,以下の表のようになる。
PlayStation 4とXbox Oneの販売数発表の変化 |
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1月23日以降,MicrosoftはXbox Oneの販売台数を示していないようだが,欧米で3月11日に発売された「Titanfall」のプッシュ効果はかなり大きかったはずで,同作は現在,PC版とXbox 360版を含めた世界累計で150万本のセールスを記録しているという。
ちなみにソニー・コンピュータエンタテインメントはソフトの販売実績について,2013年12月の時点で総計が970万本になったとしており,これは1台あたり2.3本に相当する。一方のMicrosoftはソフトの販売総計を発表していないが,Xboxの公式ニュースサイト「Xbox Wire」の記事には,2月末までの数字として1台につき2.75本という数字をリサーチ会社のNPD Groupが発表したということが挙げられている。
スペンサー氏のXbox部門への就任について,同社の三代目CEOに就任したサティア・ナデラ(Satya Nadella)氏は,これまでバラバラだったXbox関連部門を一つにまとめ,よりスムースな運営を実現するためとしており(関連記事),スペンサー氏がどのような采配を振るうのかについて現在,注目が集まっている。
総合エンターテイメント機からゲーム機へ
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スペンサー氏はこの特集記事にコメントを寄せており,Xbox Oneのローンチが必ずしも思いどおりにいかなかったことを正直に認め,「すべての国で同時にリリースできればよかったが,それぞれの地域のテレビ事情を理解する必要があり,時間がかかってしまった」と述べている。アメリカの大手ネットワークNBCを傘下に収めるMicrosoftは,PlayStation 4との差別化を図るためにテレビに注力してきたが,このことが結果的にゲーム機として中途半端だという批判を浴びることになったのはご存じのとおりだ。
Xbox Oneとテレビの融合は素晴らしいものだが,本連載の第387回「MicrosoftはXbox Oneで何を目指すのか」でも書いたように,「Xbox Oneとは何なのか?」をMicrosoft自身がうまく説明できていないようにも思えていた。
番組検索機能やデジタルビデオレコーダー機能などは,北米の場合,ケーブルテレビやデジタル衛星放送のプロバイダから無料配布されるセットトップボックスでもかなり実現されており,テレビを主な娯楽とする,主として高齢者を中心とした層が,わざわざXbox Oneを購入しようとは思わないだろう。一方,ゲームやインターネットをメインにするユーザーにとっては,いかにテレビが便利になろうが,それを大きな魅力とは感じないはずだ。「総合エンターテイメント機」を,どこに向かって訴求しているのか,筆者には今ひとつ分からなかった。
ちなみにEdge誌の特集には,カリスマ的なゲーム開発者,ピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏へのインタビューも掲載されており,そこでモリニュー氏は「Kinectに話しかけても,イギリス訛りのためか,まったく通じない。こんなものは早く取り払ったほうが値段も安くなる」と話している。Kinectそのものは素晴らしいテクノロジーだが,開発者からそのような意見が出ていることを見逃してはいけないだろう。
また,1台あたり,75ドル(約7600円)のコストがかかるといわれるKinectだけに,ハードウェアのみの廉価版を出して,価格競争をしたほうがいいのではないかという意見もあるようだ。
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6月には,欧米ゲーム業界最大のイベントであるE3 2014が開催される予定であり,毎年恒例のメディアブリーフィングは,今後のXbox Oneの方向性を打ち出すにはもってこいの場になるはずだ。すでに,スペンサー氏は今年のメディアブリーフィングについて,幹部の長々したおしゃべりはやめ,ゲームを前面に押し出すことを明らかにしている。Xbox Oneを総合エンターテイメント機からゲーム機へと再認識してもらうなら,長らくゲーム畑を歩んできたスペンサー氏は適任だろう。
「Halo」シリーズの新作や,Xbox Live専用のドラマコンテンツなどが期待されているが,さらなる隠し玉をどれだけ用意できるのか,間もなく発表されるであろう日本での展開と合わせて今後も注目していきたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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