― 連載 ―


サルンガ(Sarnga)
 ヒンドゥー教とヴィシュヌ 

 「神話」というと,ギリシャ神話,北欧神話,ケルト神話あたりを思い浮かべる人が多いようだ。しかし,ここ数年はマンガやアニメなどの影響もあり,年々アジアの神話にも注目が集まっている。今回は「インド神話/ヒンドゥー教」に注目し,ヴィシュヌと光の弓矢であるサルンガについて触れてみよう。

Illustration by つるみとしゆき
 ヒンドゥー教は,アーリア人が生み出したバラモン教をベースに,インドの民間信仰や習俗を融合させたインドの民族宗教である。詳細は不明だが,4世紀頃に完成したと伝えられている。聖典としては「ヴェーダ」があるほか,「マハーバーラタ」「ラーマーヤナ」「プラーナ」といった叙事詩も重要視されているようだ。
 ヒンドゥー教には,創造神ブラフマー,存続神ヴィシュヌ,破壊神シヴァを主神とする三神一体論があり,この三神は特別な扱いを受けている。この中でもヴィシュヌは人気が高く,ヒンドゥー教の派閥の中にはヴィシュヌを最重要視するヴィシュヌ派などが存在している。
 ヴィシュヌは四本の腕を持つ神として描かれている。その手にはチャクラム,棍棒,法螺貝などを持っていたり,剣や弓矢を持っていたりなどの描写がある。また,1000の頭を持つアナンタ(Ananta)というナーガ(龍の一種)の王にまたがっていたり,神々に匹敵する力を持つ聖鳥ガルーダを駆って移動したりもする。そしてヴィシュヌの最大の役目は,世界が悪に満ちたときに現れて救済することである。
 このようにヴィシュヌは偉大な神として描かれてはいるが,当初のヴィシュヌは,多数存在する光や太陽に関係する神の一人でしかなかった。当時,主要な神として崇められていたインドラと,阿修羅(アスラ)の戦いに参戦したという伝承も残されているが,ヴィシュヌはその戦いでもとくに目立つわけもなく,参戦した神の一人にすぎなかったのである。いったいヴィシュヌはその後,どうやって主要な神の座へと就いたのだろうか?

 変化する神ヴィシュヌ 

 ヴィシュヌは成長する神である。当初はそれほど大した地位ではなかったが,さまざまな姿に化身することで地位を高めていった。要は伝説に登場する英雄などのキャラクターは,実はヴィシュヌが化身した姿であったとすることで,その力を自分のものとしたわけである。ちなみにヴィシュヌのアヴァターラ(化身)は10種類で,下記のとおりとなっている。

・マツヤ (Matsya)
世界が洪水になったとき,人類を救うために活躍した神話上の魚。非常に巨大で予知預言能力を持っている

・クールマ(Kurma)
乳海攪拌で神々と阿修羅が曼荼羅山を破壊しそうになったとき,地に穴が空いてしまうのを防ぐため山を支えた亀

・ヴァラーハ(Varaha)
魔神の力によって世界が水没したとき,魔神を倒し,牙の力で大地を引き上げたとされる猪

・ナラシンハ(Narasimha)
強大な力を手に入れたヒラニヤカシプが天,地,地下を征服したときに,これを打ち破った獅子獣人

・ヴァマナ(Vamana)
魔神マハーバリに支配されれてしまった世界を救った人物。ヴァマナは智恵によって世界を取り戻した

・パラシュラーマ (Parashurama)
破壊神シヴァから贈られた斧を使う戦士。世界を支配したクシャトリヤ(貴族階級)を倒して民衆を解放した

・ラーマ(Rama)
叙事詩「ラーマーヤナ」の主人公で,公明正大な政治を行った。インドにおける理想君主像とされている

・クリシュナ(Krishna)
叙事詩「マハーバーラタ」の主人公の一人。武勇に優れた戦士で,その名前には「黒」という意味がある

・ブッダ(Buddha)
人々に異った教義である仏教を広めてヴェーダ(聖典)を捨てさせ,人々を試したという

・カルキ(Kalki)
「時」の意。カリ・ユガ(終末)において,異端に満ちた世界を浄化して新しい時代を作る救世主

 ブッダすらも取り込んでしまうのは,少々やりすぎな気がしなくもないが,歴史の中でヴィシュヌは数々の英雄的存在を自分のものとすることで,その地位を確立したのである。

 ラーマとラーヴァナ 

 ヴィシュヌが活躍する話は数多くあるが,固有な武器が登場する話は少ないように思える。ヴィシュヌの武器ということであれば,叙事詩「ラーマーヤナ」に注目したい。
 コーサラ国のダシャラタ王は,世継ぎに恵まれなかったため神に祈りを捧げた。そこでヴィシュヌは王の息子ラーマとして転生した。やがて年月が過ぎ,ダシャラタ王はラーマ(ヴィシュヌ),バラタ,ラクシュマナ,シャトルグナの4人の息子を授かっていた。王はラーマを継承者にしようとしたが,過去に第二王妃カイケーイーに「二つだけ何でも要望を聞く」と約束していたために,彼女の要望でラーマは森へと追放になり,王位はバラタが継ぐことになった。だが,バラタはこれをよしとはせず,ラーマ(ヴィシュヌ)が帰還するまでの間という条件で王位に就いた。
 森で暮らしていたラーマ(ヴィシュヌ)はシータという女性を妻にして,穏やかな日々を暮らしていた。が,この頃ランカー島に住むラーヴァナとその軍勢が各地に被害を及ぼしていて,ある日ラーマ(ヴィシュヌ)の妻シータはさらわれてしまった。そこでラーマ(ヴィシュヌ)は多くの友の力を借りて軍を起こし,愛する妻を救出するためにラーヴァナに立ち向かった。
 ラーヴァナは10の頭と20の腕を持つ巨人で,神/悪魔の攻撃を寄せ付けないという特殊能力を持っていたため,誰も太刀打ちできなかった。さらに通常の武器では,ラーヴァナの再生能力を上回ることができず,戦いは膠着状態が続いた。
 そこでラーマ(ヴィシュヌ)が使ったのが,サルンガという弓矢だ。この弓は,太陽の炎/光でできている翼の生えた矢を放てる魔法の弓矢で,この弓矢ですべての頭を貫かれたラーヴァナは,ひとたまりもなく倒れた。こうしてラーヴァナは倒され,シータを取り戻したラーマは国に帰ると,優れた王として国を治めたという。

 

天麻迦古弓(あめのまかこゆみ)

■■Murayama(ライター)■■
また酒の話。先日,友人と二人で深夜0時半から飲み始めたMurayamaは,結局6軒の店をハシゴして,朝6時まで飲み続けた。その間に記憶をなくし,気がついてみたら友人は買ったばかりのノートPCを紛失,Murayamaはポケットの中から覚えのないボトルキープの札が見つかったという。しかしそれは些細な問題で,もっと困っているのは,実はその友人が,青山に事務所用の物件を借りることだとか。というのも,その話を聞いたMurayamaが,酔った勢いで「俺も俺も!」と言ってしまい,必要もないのに,なぜか共同で借りることになりそうというのだ。借りちゃえ借りちゃえ!

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