ギリシャ神話やインド神話など,体系として語り伝えられてきた神話/民間伝承に該当するものが,アメリカには思い当たらない筆者だが,近年話題になるUMA(謎の未確認動物)や,先住民族達の伝承にまで枠を広げると,アメリカにも興味深い伝承はたくさん確認できる。そうした中から,今回はアメリカ先住民族に伝わるサンダーバード(Thunder Bird)について紹介しよう。
サンダーバードは,メキシコを中心にアメリカ先住民族達に信じられてきた巨大な猛禽類(鷲や鷹)で,その名から予想できるように,雷と密接な関係にあるモンスターである。伝承によるとサンダーバードは,翼をはためかせれば雷鳴が轟き,その目からは稲妻を発するのだそうだ。また中には,翼や体そのものが雷で出来ているという伝承も残っている。
性格は獰猛で,人や家畜を捕食するという。信憑性に欠けるが,サンダーバードに襲われた人の記録も残されている。
サンダーバードといえば,例の人形劇を思い出す人が多いだろうが,「ドラゴンクエストモンスターズ」や「エミル クロニクル オンライン」など,最近のゲームには思いの外登場している。もちろん,なかなかの強敵として登場するうえ,雷に関連付けてモンスターの属性を風や雷に設定するなど,オリジナルに敬意を払った扱いがされているようだ。
実在したといっても,本当に雷を落とす鳥が存在したというわけではない。ここでは,サンダーバードのモデルになったと思われる巨鳥について触れてみたい。
アメリカには巨鳥の目撃例がかなり残されている。最も有名なものは1886年,アリゾナ州のトゥームストンで,巨大な鳥が射殺されたという記録である。その巨大な鳥は,翼端からもう一方の翼端までの長さが,6人の男性が手を繋いだほど,約10メートルもあったという。当時の写真も現存しているので,興味がある人はWebなどで調べてみるといいだろう。
また1961年には,ハドソン渓谷上空を飛行中の小型自家用飛行機の操縦士が,自機よりもやや大きい飛行機が飛んでいるのを確認した。しかし,なにか雰囲気がおかしいと感じたので旋回して相手を確認したところ,飛行機だと思っていたものは「羽ばたいていた」そうである。操縦士は巨鳥に追跡されていたことに気が付くと,あわてて逃げたという。
これらの巨鳥の正体は謎に包まれているが,もっとも有力な説は,500〜800万年前まで生息していたという「アルゲンタビス・マグニフィセンス」の生き残りというものだ。この巨鳥は翼長8メートルもあったそうで,これを目撃したアメリカ先住民族達が畏敬の念を抱いて,サンダーバードの概念が生まれたのかもしれない。
ちなみにアメリカ先住民族達は,サンダーバードを脅威として認識すると同時に,神聖な存在としてあがめてもいた。中にはサンダーバードを創造神としていた部族もあるようだ。こうした信仰は今も受け継がれており,その痕跡は今日残されているトーテムポールの頂点に見ることができる。