ベヒモス(Behemoth)は旧約聖書に登場する怪物で,大いなる神が創った巨獣ということになっている。その姿はカバに似ているとも,サイに似ているとも伝えられており,挿絵によっては象のような姿をしている場合もある。
ベヒモスの巨体は見かけ倒しではなく,非常に頑強だといわれている。青銅や鋼鉄を連想させるほどの丈夫な骨格を持ち,立派な筋肉の鎧をまとっている。
ユダヤの伝承によれば,ベヒモスは海を統べる存在として知られるリバイアサン(Leviathan)の兄弟であり,当初はベヒモスも水中で生活していたそうだ。しかしリバイアサンとベヒモスが海に入ると,大地が水没してしまう恐れがあることから,ベヒモスは陸上で生活するようになったという。
ベヒモスという名前の語源になっているのは,ヘブライ語で獣を示すB'hemah。これの複数形が変化してベヒモスになったと考えられている。名前の由来については諸説あり,「単数形で語れるほどベヒモスは小さくなかった」とするものや,「実は複数の獣の集合体だった」とする説もある。ちなみに旧約聖書では,最後の審判でリバイアサンもベヒモスも殺され,許された人々の食料になるとされている。その巨体から切り分けられる肉の量は,一体どれほどのものなのだろうか。
なお,ベヒモスは悪魔として扱われることもある。それに対する明確な理由付けは見つけられなかったが,最後の審判で神に倒されるということは,神の敵であるという考え方もできるし,ベヒモスがヨルダン河の水を飲み干したという伝承は,旺盛な食欲を連想させる。暴食はキリスト教における「七つの大罪」の一つなので,その象徴ともいえるベヒモスは,いかにも悪魔的だ。
ちなみに悪魔としてのベヒモスは,魔王ルシファーの側近として,魔界の海軍と陸軍を統括しているとされている。
ベヒモスをアラビア語読みにすると,バハムート(Bahamut)となる。これは「巨大な魚」という意味を持つ語だ。獣なのか魚なのか少々混乱するが,これは兄弟であるリバイアサンと混同されたためである,というのが有力な説だ。
なおアラビア語圏では,バハムートの上には巨大な牡牛がおり,さらにその上には岩山があり,岩山の上には天使が立ち,天使は大地を支えていると考えられていた。
ちなみに,日本でバハムートといえば「強力な力を持つドラゴン」というイメージが強いが,それの原点は「ダンジョンズ&ドラゴン」だといわれている。同作はドラゴンのバリエーションが豊富なことで有名で,その中にはバビロニアの女神であるティアマトも,クロマティックドラゴンとして登場しているほどだ。
またこの影響を受けたと思われるのがファイナルファンタジーシリーズで,バハムートは第一作から登場する定番(?)のドラゴンとなっている。とくに日本ではこの影響が強く,バハムートといえば真っ先にドラゴンを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。







