連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第47回:ペガサス(Pegasus)

 ペガサス(Pegasus)はギリシャ神話に由来するモンスター(幻獣)で,しばしば「天馬」などと訳される。「翼の生えた馬」というシンプルかつ美しい容姿は,多くの人に親しまれており,古今東西のファンタジー作品に登場している。

 一般的なペガサスのイメージといえば,翼を生やした白馬だろう。RPGでは,英雄の騎馬や,地上と天界との往来を助けるキャラクターとして登場することが多い。要は,飛行能力を備える優れた騎馬という扱いだ。
 どちらかといえば危険の少ないモンスターで,危害を加えなければ,一方的に攻撃されることはほとんどないだろう。ただし,後述するがペガサスの蹴りは非常に強力で,これが人間に対して振るわれれば,一撃で致命傷になることは間違いない。

 優れた騎馬には,それ相応の人物が乗っていることが多いが,乗り手がヒーローではなく,ヒール(悪役)である場合もあるだろう。近年のアニメや小説,ゲームでは,ダークサイドの強者を乗せる漆黒のペガサスなども登場している。ゲームで黒いペガサスを見かけたら,その背にはライバルとなる悪役がまたがっているかもしれない。

 

 ギリシャ神話に登場するペガサスは,メドゥーサを退治して帰路につくペルセウスを乗せたり,ゼウスの稲妻を運んだり,キマイラを退治するベレロフォンの騎馬となったりしているが,最終的には,太陽神アポロンの騎馬となったとされている。
 非常に気が荒く,心を許した者しか背中に乗せないが,女神アテナの作った黄金の手綱を使えば,誰でも騎乗できるらしい。キマイラを退治したベレロフォンも,黄金の手綱を用いてペガサスに騎乗している。なお,数々の冒険を繰り返して慢心したベレロフォンは,ゼウスに「英雄の資格なし」と判断され,ペガサスから落とされて墜落死(もしくは足を骨折したまま余生を暮ら)している。

 またペガサスの活躍といえば,ヘリコン山の逸話を忘れるわけにはいかない。ある時,ヘリコン山の高さがぐんぐんと増していき,天界へと届きそうになった。そのときポセイドンの命を受けたペガサスは,ヘリコン山を蹴って元の大きさに戻してしまったという。実に驚くべき脚力だが,話はそれでは終わらず,その蹄のあとには魔法の泉が湧き,その水を飲んだ者には霊力が宿ったという。以後,泉はヒッポクレネ(馬の泉)と呼ばれ,女神や芸術家達が集う場所になったという。

 ギリシャ神話では,英雄ペルセウスがメドゥーサを退治したとき,メドゥーサの血からペガサスが生まれたとされている。蛇の頭髪と,石化能力を秘めた邪眼を持つ怪物メドゥーサから,美しいペガサスが生まれたと聞くと,違和感を覚える人もいるだろう。
 しかしメドゥーサは,もともとは女神であり,その夫は海神ポセイドンだった。そのことを考えると,メドゥーサからペガサスが生まれたという逸話も,ある程度納得のいくものになるのではないだろうか。
 ちなみに,伝承の中には「ペガサスはメドゥーサとポセイドンの子供」という記述も残っている。これはメドゥーサとポセイドンが夫婦であったことに由来しているのだが,前述した泉のエピソードほか,ペガサスのPegaがギリシャで水源を示すPegeから来ていることを考えれば,ちゃんと父親の遺伝子が受け継がれていることになり,なかなか興味深い。

 

次回予告:カロン

 

■■Murayama(ライター)■■
先日実家に帰って押し入れをあさっていたら,新聞紙に包まれた,とても小さな靴を見つけたというMurayama。不思議に思って母親に聞いてみると,それは幼少時代のMurayamaが履いていた靴だという。「時折眺めて,昔はこんなに小さかったのか,今はずいぶんと立派になって,と感慨にふけっている」という母親の言葉を聞き,不覚にも涙を流しそうになったそうだ。それ以降,「激しく親孝行したくなった」と語るMurayamaだが,まずは実家(現在はお好み焼き屋)でタダ飯を食うのを,やめるところから始めるといいですよ。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/047/sam_monster_047.shtml



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