連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第44回:ケルピー(Kelpie)

 「水棲馬」というと,ゲームなどではあまり見かけないかもしれないが,剣と魔法の世界においてはかなりメジャーな存在だ。とくにスコットランドを中心とした地域には,数多くの水棲馬伝説が残されている。ここでは,水棲馬の代表格ともいえるケルピー(Kelpie)について触れてみよう。

 ケルピーは川に生息する精霊や幻獣の一種で,魚の尾や,藻/水草のたてがみを持つ馬とされている。また変身能力を持っており,しばしば普通の馬や,粗野な姿をした人間の姿を取る。
 馬の姿をしているときのケルピーは,若く強靱な体躯のため,多くの人々がこの馬を手に入れようと考える。だが,背に乗ったが最後,ケルピーはものすごい速度で走り出すと,川の深みまでまっしぐら。不注意な乗り手は溺死することになる。
 冒頭でも述べたように,ケルピーがゲームに登場することはあまりない。登場しているとしても,単なる馬型のモンスターという扱いなので,パッとしない存在であることがほとんどだ。しかし,ゲームマスター次第でどのようなシナリオでも楽しめるTRPGならば,前述したようなエピソードをうまく利用し,魅力的なケルピーを描くことも可能だろう。
 ともあれ,RPGをプレイしていて,水辺で草を食む若い駿馬を見かけたら,注意しておきたい。ひょっとするとそれはケルピーかもしれないのだから。

 

 スコットランドの伝承によれば,幸運にもケルピーを捕獲した者がいるという。ケルピーに自分で用意した馬具を付けられれば,自分の馬にできるらしい。有名な逸話では,グレアムという男がケルピーに馬具を付け,自分の城を建てるために石を運ばせたという話が残されている。ただし,グレアムはケルピーを相当酷使したようで,城が完成してようやく解放されたケルピーは,見るも無残な姿になっていたという。そしてケルピーは,川に逃げこむと呪いの言葉を吐いたそうだ。以後,グレアム家の一族には不幸が付きまとい,最終的には断絶してしまったという。
 ほかにも,ケルピーが普通の馬の姿をしているときには,魔法の馬具が付いていることがあり,それを手にすれば魔法が使えるようになる,との伝承がある。ケルピーを見かけたら,自分で用意した馬具を付けるなり,魔法の馬具を奪ってみるのもいいかもしれない。

 なおヨーロッパ地域には,ほかにもいくつかの水棲馬が言い伝えられている。ここでは,ケルピー以外の水棲馬についても簡単に紹介しておこう。
 同じスコットランドの高地地方には,エッヘ・ウーシュカ(Each Uisge)という水棲馬伝説がある。これは海や湖に生息しており,進んで人間を背中に乗せると,水に引きずり込んで食らうという。おまけに粘着性があるのか,乗ったが最後,馬から下りられなくなるという。なおエッヘ・ウーシュカは肝臓だけは嫌うとのことで,しばしば被害者の肝臓が水辺に流れ着くことがあるそうだ。
 ほかにもオークニー諸島のタンギー(Tangie)や,シェトランド諸島のシューピルティー(Shoopiltee)といった水棲馬が存在するが,いずれも,ケルピーに似た特性を備えているようだ。

 

次回予告:マミー

 

■■Murayama(ライター)■■
先日,酒飲み仲間と共に,ヘネシーのナジェーナを飲んだというMurayama。ヘネシーといえばコニャックが有名だが,ナジェーナはアイリッシュウィスキーで,アイルランドからフランスへ渡った創業者が,祖国を想いモルトを輸入して作ったといわれている。ちなみに,ナジェーナとは渡り鳥にちなんだ名前だ。そんな素敵なお酒を飲んだのだから,飲み会のほうもきっと素敵な雰囲気だったのだろうなぁと思って聞いてみると,「ワインも飲んだし,すぐに酔いつぶれたな。後半なんか,男二人でアイスを食べさせ合ってたよ。しかも箸で」とのこと。ヘネシーさんに謝ってください。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/044/sam_monster_044.shtml



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