「水棲馬」というと,ゲームなどではあまり見かけないかもしれないが,剣と魔法の世界においてはかなりメジャーな存在だ。とくにスコットランドを中心とした地域には,数多くの水棲馬伝説が残されている。ここでは,水棲馬の代表格ともいえるケルピー(Kelpie)について触れてみよう。
ケルピーは川に生息する精霊や幻獣の一種で,魚の尾や,藻/水草のたてがみを持つ馬とされている。また変身能力を持っており,しばしば普通の馬や,粗野な姿をした人間の姿を取る。
馬の姿をしているときのケルピーは,若く強靱な体躯のため,多くの人々がこの馬を手に入れようと考える。だが,背に乗ったが最後,ケルピーはものすごい速度で走り出すと,川の深みまでまっしぐら。不注意な乗り手は溺死することになる。
冒頭でも述べたように,ケルピーがゲームに登場することはあまりない。登場しているとしても,単なる馬型のモンスターという扱いなので,パッとしない存在であることがほとんどだ。しかし,ゲームマスター次第でどのようなシナリオでも楽しめるTRPGならば,前述したようなエピソードをうまく利用し,魅力的なケルピーを描くことも可能だろう。
ともあれ,RPGをプレイしていて,水辺で草を食む若い駿馬を見かけたら,注意しておきたい。ひょっとするとそれはケルピーかもしれないのだから。
スコットランドの伝承によれば,幸運にもケルピーを捕獲した者がいるという。ケルピーに自分で用意した馬具を付けられれば,自分の馬にできるらしい。有名な逸話では,グレアムという男がケルピーに馬具を付け,自分の城を建てるために石を運ばせたという話が残されている。ただし,グレアムはケルピーを相当酷使したようで,城が完成してようやく解放されたケルピーは,見るも無残な姿になっていたという。そしてケルピーは,川に逃げこむと呪いの言葉を吐いたそうだ。以後,グレアム家の一族には不幸が付きまとい,最終的には断絶してしまったという。
ほかにも,ケルピーが普通の馬の姿をしているときには,魔法の馬具が付いていることがあり,それを手にすれば魔法が使えるようになる,との伝承がある。ケルピーを見かけたら,自分で用意した馬具を付けるなり,魔法の馬具を奪ってみるのもいいかもしれない。
なおヨーロッパ地域には,ほかにもいくつかの水棲馬が言い伝えられている。ここでは,ケルピー以外の水棲馬についても簡単に紹介しておこう。
同じスコットランドの高地地方には,エッヘ・ウーシュカ(Each Uisge)という水棲馬伝説がある。これは海や湖に生息しており,進んで人間を背中に乗せると,水に引きずり込んで食らうという。おまけに粘着性があるのか,乗ったが最後,馬から下りられなくなるという。なおエッヘ・ウーシュカは肝臓だけは嫌うとのことで,しばしば被害者の肝臓が水辺に流れ着くことがあるそうだ。
ほかにもオークニー諸島のタンギー(Tangie)や,シェトランド諸島のシューピルティー(Shoopiltee)といった水棲馬が存在するが,いずれも,ケルピーに似た特性を備えているようだ。