連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第43回:鵺(ぬえ)

 これまで当連載で取り上げてきたモンスターというと,海外の神話や民間伝承に登場するものが多かった。しかし,我々の住む日本にも,河童や鬼といった,世界に通用する(?)物の怪/妖怪が多数存在している。今回は,そんななかから鵺(ぬえ)にスポットを当てて,紹介してみたいと思う。

 鵺は,基本的に中世ヨーロッパをベースとしたゲームに登場することはあまりないが,「和」をテーマにしたRPGには,欠かすことのできない存在。頭部は猿,胴体は狸,手足は虎,尾は蛇というモンスターである。言い伝えによっては,胴体を虎とすることや,尾を狐とすることもあるのだが,ある意味,和製キマイラといってもいいだろう。
 鵺の攻撃手段は,鋭い爪や尾の蛇,それに噛み付きといったところだろう。西洋のキマイラのようにブレスは吐かないものの,奇怪な咆吼を発するという伝説がある。その咆吼を聞くと,何らかの精神的ダメージを受ける可能性があるので,戦う際には(気休めかもしれないが)耳栓などを準備するのもいいかもしれない。
 なお鵺は,黒雲と共に登場するといわれている。その逸話からか,ゲームや漫画などでは,鵺=雷獣という設定が用いられることもある。電撃属性の魔法/特殊能力を備えた鵺は,間違いなくボスクラスのモンスターだといえよう。

 

 鵺については,「平家物語」や「源平盛衰記」に詳しい。平家物語では,平安時代の末期,清涼殿に夜な夜な鵺が現れて,奇怪な声を発したため,近衛天皇が寝込んでしまうという逸話が記されている。
 この事態の収拾に当たったのは,大江山の悪鬼 酒呑童子を倒した源頼光の曾孫にあたる,源頼政だ。ある晩のこと,黒雲が立ちこめ奇怪な声が聞こえたので,頼政は鳴き声に向かって弓を引き絞ると,一撃で鵺を倒した。この活躍の褒美として,近衛天皇は獅子王という刀を頼政に与えたとされている。そして頼政は,以後も宮中の警備に当たったそうだ。
 ちなみに鳥羽天皇,二条天皇の時代にも,鵺が現れたとしている書物もある。鵺は個体ではなく,種なのかもしれない。

 鵺は非常に歴史のある怪物であることから,物の怪/妖怪の類としては,破格の扱いを受けている。世阿弥の作品である能の「鵺」はよく知られているが,日本には鵺ゆかりの場所も多い。
 頼政の鵺退治には後日談があり,頼政は鵺の死体を船に乗せて川に流したところ,それが漂着した場所で祟りが発生した。住民達は祟りを鎮めるために塚を作ったとされているのだが,それが兵庫県の芦屋と,大阪府の都島の二か所に存在する鵺塚なのである。
 ほかにも京都府には,鵺を退治した頼政が矢じりを洗ったとされる池があったそうで,そこは鵺池と呼ばれていたらしい。現在では残念ながら,池は埋め立てられてしまったそうだが,そこには鵺神社が設立され,鵺大明神が祀られている。
 また静岡県には,鵺踊りという伝統芸能が残されているし,大阪港のエンブレムには,2匹の鵺がデザインされている。

 ちなみに,本来,鵺とはトラツグミという鳥を指す言葉であり,トラツグミのような奇怪な声で鳴く謎の怪物を鵺と呼んでいた。しかし,源頼政による鵺退治のエピソードがあまりにも有名になってしまったため,現在では鵺という言葉は,トラツグミを指すものではなく,この得体の知れない怪物のほうを指す言葉として定着している。

 

次回予告:ケルピー

 

■■Murayama(ライター)■■
最近,美容院に行く暇もないくらいに忙しく,髪がかなり伸びてしまったというMurayama。先日コスプレイヤーさんと一緒に仕事をしたら,コスプレイヤーさんだけでなく,なぜかMurayamaまで写真を撮られたそうだ(しかも外国人に)。「どうやら俺も,コスプレをしていると思われていたらしい」と語るMurayamaだが,若干長めの髪を脱色していて,スーツを着ているキャラって,誰だろう……。漫画「ONEPIECE」に登場するサンジですかね?


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/043/sam_monster_043.shtml



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