連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第20回:ゴーレム(Golem)

 「魔術師の従える忠実なしもべ」というと,どんな存在を思い浮かべるだろうか。使い魔,アンデッド,エレメンタルなど,さまざまなモンスターが連想されるだろうが,その中でも,とくに代表格といえる存在が,ゴーレム(Golem)だ。
 ゴーレムといえば,魔術師によって命を吹き込まれた人形で,その多くが「番人」として使用される。自由意志は持たないが,主人の命令には絶対に従うため,第三者に持ちかけられた取引に応じることはなく,疲れたり睡魔に襲われることもない。非常に優秀な番人といえるだろう。
 ゴーレムは,ベースとなる素材/材質によって,その呼称が異なる。クレイ・ゴーレム(土),アイアン・ゴーレム(鉄),ウッド・ゴーレム(木),ストーン・ゴーレム(石)などがとくに有名だが,中には複数の死体を組み合わせて作ったフレッシュ・ゴーレム(肉)といった珍しいタイプも存在する。土や木や人肉で作られたタイプは,基本的に動きが鈍く,物理的に破壊しやすいため,モンスターとしてはそれほど強くはないかもしれない。
 ただし,金属や石で作られたゴーレムは,非常に厄介だ。圧倒的な質量が生み出す破壊力は,板金鎧で身を包んだ冒険者にも致命傷を与えるだろう。体を構成する素材の強固さを考えるまでもなく,耐久力も半端ではない。ゲームによっては,土/木/肉のゴーレムには炎,鉄には電撃,石には振動といった弱点が設定されていることもあるので,もし戦う機会があったら,そのあたりを考慮して戦術を組み立ててみるといいかもしれない。
 また,ゴーレムとの戦いを回避する手段として,その主人を捕らえて命令を解除させるという手も有効だ。しかし,ゴーレムを作り出せるほどの力ある魔術師であれば,捕まえることは難しいかもしれないし,古代遺跡などに配置されているゴーレムは,すでに主人が他界していることも考えられるので,その点には注意が必要だろう。

 

 ゴーレムという名は,ヘブライ語で「形のないもの」「胎児」を意味し,本来は,神が人間の祖アダムを作るために息を吹き込み,こねた粘土に与えられた名前だったという。後に,命を吹き込まれた泥人形を指す語として定着したというわけだ。
 ちなみに,ギリシア神話のプロメテウスや,エジプトの創造神クヌゥムなども,土から人間を作っているし,それに類する神話は,アフリカやネイティブアメリカンの伝承として残されている。
 ユダヤの伝承では,ラビ(導師)達がゴーレムを作り,使役していたと伝えられているが,手入れを怠ったり,夜に働かせたり,家から出したりすると,ゴーレムが凶暴化して暴れたという。またゴーレムを倒す最も簡単な方法として,体のどこかに書かれている/刻まれている“EMETH”(真理)の文字から“E”を消し,“METH”(死)にする,というものが残されている。一般的にEMETHの文字は額に書かれることが多かったというが,ゴーレムの台座の下に書かれている場合もあったという。なお伝承によっては,ゴーレムを破壊した場合,33年後に復活して復讐に来るというパターンもあるそうだ。
 神話/民間伝承に登場するユニークなゴーレムといえば,ギリシャ神話のタロスが有名。タロスはクレタ島の番人であり,クレタ島への侵入者を撃退する役目を与えられていた。全身が青銅でできていて,鎧兜を身に着けており,自らの体を焼いて灼熱した体で相手に抱きついたり,巨石を投げつけたりしたという。
 青銅製のタロスには,剣や弓矢は効果がなかったが,かかとにある栓が唯一の弱点であり,それを抜かれると,体内に満たされた魔法の液体が流れ出て,動きを止めてしまう。ギリシャ神話では,英雄イアソン率いるアルゴー探検隊がタロスと戦う逸話が有名なので,興味のある人はチェックしてみるといいだろう。

 

次回予告:グリフォン

 

■■Murayama(ライター)■■
今回をもって,「剣と魔法の博物館〜モンスター編〜」の連載は第20回の節目を迎えた。著者であるライター Murayamaに今後の意気込みを聞いたところ,「ネタはいくらでもあるんだけれど,資料や時間の関係で,結局毎回ネタに困っている」とのこと。そんなわけで,今後は種としてのモンスターだけでなく,ユニークな(個としての)モンスターについても紹介してもらおうと思う。それはそれで手こずりそうだが,とりあえずがんばってもらいたいところだ。


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/020/sam_monster_020.shtml



関連商品をAmazon.co.jpで
新説 RPG幻想事典 剣と魔法の博物誌
連載「剣と魔法の博物館」に大量の書き下ろし原稿を追加。ファンタジーファン必携の1冊。