連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年4月25日掲載

 欧米におけるファンサイトには,熱烈なファンによって運営されているものもあれば,のちに企業に買収されプロ化するサイトもある。「よく頑張るなあ」と感心するほど凝ったサイトや,スクープネタを掲載しているサイトも少なくない。このようなファンサイトは,開発者とファンの相互関係で成り立っている場合が多い。今回は,ゲーム業界におけるファンサイトの役割を紹介しよう。

 

ファンと開発者の密な関係

 

スペシャリストとしてのゲーマー達

 

シムズシリーズは,積極的にファンサイトキットなどを配布し,ファンサイトを育んだ。そういった活動も大ヒットの要因となったのだろう

 インターネットの普及などにより,誰もが多くの知識を容易に得られるようになり,何かのエキスパートになりやすい時代になった。読者の中にも,自分の趣味などに関して,メディアの情報や批評家と呼ばれる人達よりも格段に詳しいという人がいるだろう。
 最近のPCゲームは,プレイヤーが長く遊べるように作られる傾向にある。追加データやパッチによるアップデートでの仕様変更,次回作のウワサやβテスト,ファンイベントの情報など,一つの作品にまつわる情報量は肥大化する一方だ。
 4Gamerのように企業が運営している総合情報サイトは,開発者から直接話を聞くなど,ゲームの事前情報を得るチャンスは多い。しかし,世界で年間何百タイトルとリリースされる全作品の詳しい情報を,余すことなく掲載するのは難しいと言わざるを得ない。欧米のニュースサイトもファンサイトの細かな情報に頼っている場合が多いのが,現実である。
 総合情報サイトがすべてを満遍なく網羅する“ジェネラリスト”であるなら,ファンサイトは特定のソフトを誰よりも熟知した“スペシャリスト”といえるだろう。

 

 そんなファンサイトの立場は,アメリカと日本では異なっているようだ。日本では,自分や仲間達の体験談や公式サイトなどからの情報が主流となっており,草の根的な情報交換サイトが多い。ゲームへの情熱が運営の動機付けになっていることが多いためか,運営者の生活に変化が起こった場合などは,サイトの運営が滞ってしまうことも少なくない。

 一方アメリカでは,趣味がこうじてプロ化する傾向がある。UGO Networksに買収されたBluesnewsや,独立系サイトとして再スタートしたばかりのAdrenaline Vaultなどは,その典型例であるといえる。  こういった環境は,デベロッパ/パブリッシャの理解なしには語れない。情報をよりオープンなものとし,ファンとの協力体制を築き上げようとする手法が増えているのだ。

 

 

ファンサイトは,開発者とファンの双方に
利益をもたらす

 

 MMORPGをトピックに,多くのレクチャーを行う「Ultima Online」の元リードデザイナー,Raph Koster(ラフ・コスター)氏は,ファンサイトの運営者を「ハブ」と呼び,そのサイトに集まり意見交換などをするファン達を「クラスター」,そしてサイトを閲覧する人達を「リンク」と定義した。ゲーム会社はハブに情報を送ることで,その情報は火の粉のようにクラスターへ拡散し,リンク達を通じてさらに広がっていく。多くの人が知識を手早く共有できるインターネットをうまく利用した,プロモーションの重要性を説いたわけだ。

1.7GBもあるファンサイトキットを配布しているFlagship Studiosの「Hellgate: London」。発売前にもかかわらず,世界各国に40を超える公認ファンサイトがある

 ファンサイトやギルドのページを公式サイトに登録するということも,Ultima Onlineから急速にはやり始めた手法だ。ファンサイトの多くは,運営者の努力と情熱によって成り立っているのだが,欧米の開発者の間では,このようなハブ達を非常に重要視するようになっており,αテスト(通常は社内のみで行う)の段階から続編や拡張パックをテストさせたり,直接情報を送ったりして,信頼関係を構築しているのだ。
 実際,筆者が出席したある続編ゲームの発表会に,日本でファンサイトを運営していた人を数名招待していた会社がある。もちろん,渡航費などはゲーム会社持ちでだ。

 日本でもオンラインゲームの普及とともに,ファンサイトキットの配布やファンを招待したミーティングなどが行われるようになってきた。商業サイトに身を置く筆者にとっては,「ファンサイトを作って開発者から直接情報を仕入れましょう」などというトピックを扱うこと自体,自分で自分の首を絞めるようなものかもしれない。しかし,ファンサイトやギルドが活発な活動をすることで,PCゲーム市場が勢いづき,それがより多くの人々に遊んでもらえるきっかけになるなら嬉しいかぎりだ。市場の活性化は最終的に,多くのゲームが発売されることにつながるので,いちPCゲーマーとしては本望といえる。

 

 


来週は,「ゲーマーグッズ」について。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。先日,日本全国で桜を育ててきた「桜守」(さくらもり)として有名な,佐野藤右衛門さんがサンフランシスコにやってきたと聞いて,その講演を聞きに行った奥谷氏。告知が徹底されていなかったせいか,講演には聴衆者があまり集まっておらず,「いつかは樹木と話しながら生活してみたい」と語る樹木フェチの奥谷氏は,ショックを受けたとか。だがそれ以上に,佐野氏から「ボク」と呼ばれたことが,30代後半の奥谷氏にはこたえたらしい。


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http://www.4gamer.net/weekly/kaito/123/kaito_123.shtml