かさむ食費に交通費,服の着替えだってときどきは必要な主人公の前に立ちはだかった最大の敵は,モンスターでも高難度のクエストでもなく,Lv1ウィザードの兄,あるまんぞ・えすぱ田だ。この時代のヨーロッパでは,基本的に長男(嫡出/非嫡出問わず)が家督相続人として爵位や財産を継承していた。女性が家督を相続し,お家存続のために若干低い家柄の男性がお婿に来ることで箔をつけることも日常的に行われていたが,一般に男子誕生のほうが喜ばれたのである。
3年戦争で直系男子達が音信不通になったえすぱ田家で,唯一残った男子あるまんぞは本来,金銀財宝より大切な存在のはず。それを,お供もなしに新大陸へ送り込むあたり,ファミリー内における彼のポジションが心配になる話だ。
さて,当面は足手まといな兄を抱え,頭も抱えた主人公だが,ここグラナド・エスパダで生きていく手立ては,日銭稼ぎだけではない。リボルドウェからほど近いフィールド「フェルッチオ・ジャンクション」には,一つ叩けばもぎたてのマンゴーが,も一つ叩くと淹れたて紅茶が落ちる,そーんな不思議なイノシシが出没するのだ。
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こわもてだが,レベル12前後に最適なモンスターが出現する「フェルッチオ・ジャンクション」。序盤の資金稼ぎはここで |
最後の一つまで,アイテムはきちんと落穂拾い。うーん,彼らは一応貴族であるはずなのですが,背に腹は替えられず |
「ろーら,イノシシ狩りはおいし……楽しいね」
「ええ。でも兄さん,父さん母さんに新大陸の様子を伝えるという,大切な役割も忘れてはいけませんよ」
そう,家門の再興を願うえすぱ田家にとって,新大陸の情勢を把握するのは経済面から非常に大切なこと。イノシシ狩りに熱中するのもよいが,ここは一つ,リボルドウェ付近の名所を視察して,写真込みのレポートをまとめ上げようではないか。世界初の写真技法「ダゲレオタイプ」が発明されたのは1839年,時代考証的にはちょっと無理めな気もするが。
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マップ名にもなっているフェルッチオ・エスパダの像には,実は登れたりする。最上段への梯子が壊れているのが残念 |
こちらが像の「お膝元」からの展望だ。より正確に言えば,弁慶の泣きどころあたりから見下ろす景色が美しい |
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新大陸最大の聖堂となるはずだった「アル・ケルト・モレッツァ」の入り口。今は荒れ果て,モンスターの巣窟となっている |
開拓支援部の2階には,円天井の窓から明るい光が差し込む。とりあえず「ロミオとジュリエット」ごっこくらいはできそう |
あきれ返って兄をまじまじと見つめるろーらと,周囲で売られている食べ物が気になって仕方がないあるまんぞ。どこまでも平行線だ
新大陸がどこにあるのか気になるという点はさておいて,東南アジア原産の果物マンゴーをたらふく食べて満足した二人。しかしどうにも腑に落ちないことがある。母はなぜ,わざわざ兄を新大陸に寄越したのだろう?
「兄さん,もしかしてもしかするけれど,お母様から何か言伝てをされていないかしら?」
「おぉ,すっかり忘れていたよろーら! 実はこの街に,兄さんの手がかりを持っている人物がいるとの情報を得てね」
母の手紙にも書かれていなかった兄の手がかりについて,今初めて聞かされた主人公。それを持っているのは「パンファルロドナルドドバイス」という,どこで息継ぎしたらよいのか分からない名前の人で,リボルドウェきっての料理人だという。これで,もう少し頼りになる兄さんが見つかるかもしれない。
この当時のお弁当がどんな中身なのか,かなり気になるのだが,とりあえずパンファルロさんの背後にあるのは肉ばかりだ
これがリボルドウェ兵士の勇姿。それはいいとして,槍を担いだまま座るのは,危険極まりないのでやめたほうが
「悪いがタダじゃ教えられないな」
と言ったかどうかは知らないが,言いそうな顔つきをしているパンファルロ。側には「パンファルロを慕う女」というファンまでついており,モテ/非モテでいうなら確実にモテ系男子だ。兄に関する情報と引き換えに彼の出した条件とは「リボルドウェ警備隊第2中隊に昼の弁当を届けること」という,とっても微笑ましいアルバイトだ。
とはいえ,16歳と18歳で貧しい食生活を強いられている二人が,マンゴーだけで満足するわけがない。まあこの悲劇は連載第1回をお読みいただいた人には十分に予測できたことと思うが。
さて,弁当を受け取り,背中の美しいブルーニさんを左手に見ながら階段を上がる。パンファルロさんから見えないところでこっそり弁当を食べてから,武器屋前のベンチへ。しばし休息を取っていると,弁当の配達を待つリボルドウェ兵士の姿が目に入る(注:実際のクエストで届ける相手は,ここの兵士ではありません)。
「あれは,ああっ,おるそん兄さん!」
「お前,その顔はわが弟あるまんぞっ」
人目も気にせず,ひしと抱擁しあう兄弟。仮にも貴族のえすぱ田家の男子が,一介の兵士に身をやつしている事実に驚愕する主人公。だって,歩兵の賃金なんてたかが知れている。お,お金の無心をする予定がぁぁ……。
主人公は別に家の体面を気にしているわけではなさそうだが,聞けば3年戦争で,武運拙く大ケガを負ったという兄おるそん。長きにわたる療養生活のうちにすっかり新大陸に馴染んでしまう一方,安否を気遣っているであろう実家には,己の不覚を恥じて連絡も取れなかった。やむなく仕事を探すうちにリボルドウェ兵士として雇用されたのだとか。えすぱ田家そのものの没落を,ここに来て初めて聞くおるそんであった。
「悪いが今の私には,我が家の復興に手を貸すだけの余裕がない。しかし泣くなろーら,いいことを教えてやろう。この先にあるテトラ遺跡の最深部には金銀財宝が眠る部屋がある。魑魅魍魎が跋扈する場所だが,私も武人の端くれとして手を貸そうではないか」
お上に仕える兵士の身でありながら,盗掘をそそのかすとは微妙な話だが,傭兵稼業は盗賊と紙一重,みんな貧乏が悪いのである。
そんなわけで一人目の兄,おるそん・えすぱ田との再会は果たせたものの,思ったよりも貧乏でがっくり気味なろーら,相変わらずのんきなあるまんぞの3人旅は次週へ続く。
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なんと美しき兄弟愛。にしてもおるそん兄さんは,横から見ると実にスリムな体型だ。栄養ちゃんと摂れてないのかもしれない |
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バラックモードで3兄弟揃った勇姿を披露。服装はバラバラだが,だんだん家族モノっぽくなってきた……と強弁してみる |
旅の始まり「リボルドウェ」から「採石場」「フェルッチオジャンクション」を越え,次週は兄おるそんと共に「テトラ遺跡」の奥を目指す。