極めてノーブルな顔立ちのキャラクターと,美しい風景が目を惹くMMORPG「グラナド・エスパダ」。オープンβテストの開始も迫り,期待感で女性ウォーロックキャラクター並みに胸を膨らませている読者も多いことだろう。
ゲームとしての純然たる解説は当サイトのファイナルクローズドβテストレポートをお読みいただきたいが,NPCからのクエスト,ミッションシステム,PvPシステム,Lv45以上推奨の高レベル向けエリアと,ゲーム内容は順次充実してきている。
純粋にゲームとして見た場合,グラナド・エスパダの持つMCC(マルチキャラクターコントロール)や家門,バラックといったシステムは実に興味深い要素だ。しかし,これらゲームシステムを我々の日常やら常識やらと引き比べてみたとき,それがどこまでも“ゲーム的”なお約束であることは自明の理である。まあそこで「そういうゲームなんだし」と納得するのも手だが,一方で,このゲームシステムを含み込んだ“物語”が,あってもよいのではないか? というか,グラナド・エスパダをプレイすることは,取りも直さず個々のプレイヤーがそうした物語を紡いでいくことではないのか? などとも思うのである。
この連載は,そうした物語に向けた一つの試みである。「MMORPGにおける物語」などと言い出すと,なんだか昨今のゲームデザイン論っぽい言葉になってしまうが,「プレイテクニックでなく,楽しくプレイするためのアイデア」くらいになれれば幸いだ。
さて,そんな周辺記事であるからして,まずはちょっとだけグラナド・エスパダのゲーム世界について考えてみたい。公式サイトを見ても,グラナド・エスパダの世界がどのあたりの年代を想定しているのか,はっきり書かれてはいない。分かっているのはこの新大陸グラナド・エスパダは,60年前に2人の人物ジルベルト・グラナド(Gilberto Granado)とフェルッチオ・エスパダ(Ferruccio Espada)によって発見されたこと,初めて降り立った港が「コインブラ」(Coimbra)であること,さらに旧大陸よりも今では新大陸のほうが栄えていること,くらいだ。
筆者の知識から手前勝手に推測してみる限りでは,リボルドウェの室内調度品から,おおよその時代が割り出せそうだ。高価そうな家具や,豪華絢爛な内装のギリシア風モチーフから,時代は「新古典主義」が流行した1750〜1880年頃と推測できる。
そして,19世紀後半と見るには古臭すぎる街並みから,後半を少々切って1750年〜1800年頃といった印象だが,一方で街にはすでにガス灯がある。ガス灯が発明されたのは1792年であるからして,ここでもう,18世紀から19世紀への変わり目ごろと,かなり絞られてしまうのだ。もっとも,NPCがかけている妙に現代風のメガネとかには,全力で目をつぶる前提ではあるのだが。
そして,例えば19世紀のイギリスにおいては,富裕階級の子弟がヨーロッパを巡り,他国の文化を学んだり珍しい品物を買い求めたりする「グランドツアー」が,若い女性の間でも流行したという。今回の新大陸冒険もそう位置付けられないこともない……かもしれない。
まあその,こうした時代考証がこの連載にどこまで生かされるかは不明だし,主人公たる末娘が,次女なのか三女なのか,はたまた五女なのかは,まだ言えない。えすぱ田の家族構成は,冒険の過程で定まって……じゃなくて,明かされていくことだろう。
「母さん,故郷を離れてはや幾十日。ようやく新大陸最初の街リボルドウェに到着しました。グラナド・エスパダの玄関口は港町コインブラじゃないの? というツッコミが早速聞こえてきましたが,気のせいでしょう。あぁ,きっとこの街で兄さんや姉さんの情報が手に入るはず。でも,母さん,都会は怖いところです。だって……」
クローズドβテストから一貫して,グラナド・エスパダ最初の街であるリボルドウェ。バックストーリーからして港町コインブラから始まってもよさそうなものだが,リボルドウェは新大陸における中核都市なのだろう。
気を取り直してリボルドウェの全体地図を見つつ歩いてみると,実に人口密度の高い街であることに気がつく。マップ上に名前と位置が記されているのは「大事なNPCだから,忘れずに話しかけておきなさいよ」という親切設計だが,マップには記されない八つぁん熊さんが,街中にワラワラ立ちつくしている。
物心つく前に別れたため,兄さん姉さんの顔を知らないという設定に,たった今決まった主人公。まずは片っ端からNPCに話しかけてみる。
それにしてもさすが都会,リボルドウェの混雑は尋常ではない。どこに行っても人だらけ。おシャレさんな娘っ子も多く,破けたタイツをいつまでも身に着けている主人公がかわいそうなぐらいだ。まあ「破けたタイツは破けたタイツで魅力的ではないか」という少数意見も,ないではないかもしれないが。
とにかく,母さんへの手紙に書いたとおり,都会は怖い人達でいっぱいだ。なにしろ船から下りるなり,こんな人達に囲まれている。
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それは酔拳,それとも蛇拳? うつろな目つきのスカウトは,かなり怖いです |
もうここまでくると,何がしたいやら。誰にどうボケているのか,それが問題 |
この腿の筋肉の張り具合,シロウトではありますまい。その高そうな衣装と相まって,我が兄に相応しい,と臆断してみる
それはさておき,これだけ大きな街なのだから,どこかに肉親が住み着いていてもおかしくないと考える主人公。まだ見ぬ兄姉だが,主人公がどんな兄を想像しているかというと「1に金持ち2に美男子,3,4,がなくて5に金持ち」である。
というわけで,貧乏そうな人は後回しにして,裕福そうな外見の人に声をかけてみる。そう,そこの豊かな筋肉を白いスーツに包んだ微妙な……もとい素敵な紳士「アンドレ」さんからだ。「あのぉ,えすぱ田という苗字の人を知りませんか。生き別れの家族を探しているんです。もしかして,あなたはワタシの兄さんじゃありませんか?」
「ウゥップス オゥ〜アメージング ホラーブル サプライズ!」
……母さん,グラナド・エスパダでは言葉すらまともに通じません。「Oops,Oh amazing surprise!」(ブリスティア語)まではなんとなく分かった気もしますが,その間は新大陸発音の「Horrible」なのでしょうか? おまけに別れ際には「私とお話がしたいのでしたら気軽に,んふ,また来てください」なんて言われちゃいました。……なんだかちょっと目が恐い感じです。
リボンで束ねた髪が流れ落ちる背中は美肌! 女性の露出度が高いのは,新大陸の流儀なのだろうか
さて,街中でお金持ちそうな人といえば,お姉さま「ブルーニ」。あの,あなたはもしや生き別れのお姉さまでは?
「ごめんなさい,私はただのトレジャーハンター」
あぁ,あなたも私の家族ではなかったのですね。でもいいんです。だって,背中がなんとなく面白いから。これでタイツ好きに続いて背中好き読者のハートも,がっちりわし掴みです。
「母さん,都会は何でも高いです。今日,武器屋と道具屋を覗いて,ろーら驚いてしまいました。おまけにただのパンとミルクが60visもするんです。母さん,あの,お金を送ってください。それも大至急。かしこ」
物価の高さに驚いて,実家からの仕送りをあてにする主人公だが,手持ちがなければ「フェルッチオミルク」だって買えやしない。武器屋のお姉さん「ベルネルリ」から日雇い仕事をもらって,食いつないでみる。いやいや「from hand to mouth」とは,ブリスティア人も良く言ったものである。
ベルネルリは,「銃を愛してる」と公言する,ちょっと危ない感じの人なのだが,仕事をすればお店の商品から「デリンジャー」一つをタダで譲ってくれる。即座に売り払って食費に換えたことは,ベルネルリさんには内緒だ。
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な,何もかもが高いリボルドウェに驚愕。分かるよろーら,筆者もイギリス留学時代,1週間を1000円そこそこで乗り切ったものさ |
こちらが銃を取り扱う店の店主「ベルネルリ」。えっと,そんな持ち方してますが,まさか弾が入ってたりしませんよね? |
噴水のそばで「ベスパニョーラ戦勝記念鋳貨」を拾った主人公は,もちろんそれをそのままポケットに納める。どこかでコインを探している老人を見かけた気もするのだが,たぶん気のせいだろう。売ったらいくらになるかしらん。
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何の変哲もないパンと牛乳に,偉大な先人の名前をつけて売るなんて! その名前にあやかってか,値段も偉大なのが悩みのタネ |
生き馬の目を抜く都会生活,拾ったものは即座に自分のものです。高そうなコインなのに「No Portrait」なのがちょっと泣ける |
えーと,お子様とNPC「イェガネー」はお金持ちに見えないので,家族じゃないと無慮断定。それにしてもこの街の人達は,とにかく何でもよく教えてくれる。道から歴史から,家族の手がかりになりそうなことはとにかく聞きまくる主人公に,冷たい視線を浴びせる少女が一人。若い世代は,来たるべき資本主義の潮流に,より忠実なようだ。
そんな,親切な街の人からは,プロフィールの書きかたを教わる。プロフィールの一言は誰でも外から参照できるので,気の利いたセリフの一つも書きたいところ。早速「尋ね人の時間です」とか,微妙に分かりづらいネタを思い浮かべつつ,家族の情報を募ってみよう。
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プロフィールじゃないが,とりあえず心の叫びを表現。だって「十歳で故郷を捨て,その後一家は離散したという」とか書いてもねえ |
可憐な顔して言うことには夢がない,リボルドウェ少女。このアドバイスが有料じゃなかっただけ幸せに思いなさい,という感じ? |
よく分かりませんが,MCC権限ありがとうございます。それはともかく,そのラフなポーズは新大陸式の上流気取りですか?
その日その日をアルバイトで食いつなぐ主人公のもとに,ある日舞い込んだ招待状は「開拓支援本部 リンドン」から。新大陸に乗り込んで以来となるその名前は,きっとおいしい知らせに違いない。
いそいそと開拓支援本部まで出向いてみると,リボルドウェ住人の手足となって働いた功績を認められ,褒められちゃいました。いやいや,この際拾ったコインを売り払っちゃったことなんかは闇に葬って,素知らぬ顔でご褒美を受け取りたいんですけど,食べ物ですか,現金ですか?
主人公が受け取った報酬は「2段階MCC権限」という,食えもしなければ売り払いもできないシロモノであった。この国の習慣では,家族が連れ立って外を歩くのに,お上の認可が必要。主人公は今回の2段階MCC権限により,晴れて家族二人で歩けるようになったというわけだ。
リンドンはさらに話を続ける。「ろーら,あなたの実家からある物が届いているよ。リボルドウェ噴水広場に行ってごらん」あぁ,母さん,ついに仕送りをしてくれたんですね。これで安心して,新入生牛乳……じゃなかった,フェルッチオミルクをがぶ飲みできるってもんです。
リボルドウェ噴水広場は,その先に観光名所の大時計がそびえ立つ,小ぎれいな場所。はて,ワタシの仕送りはいずこ? 主人公の視線が捉えた,見覚えある背中は……お母さん,活動資金の代わりに兄を送り込んできましたね。
「やぁ,ろーら,お前の大好きな兄さんだよ。そんなに恥ずかしがらなくても」
なんて挨拶が交わされたかどうかは分からないが,主人公は恥ずかしがっていたわけではないこと,兄「あるまんぞ」が,頼りなさそうな顔つきであることだけは確かだ。
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あっ,あの,そのちょっと猫背な背中はもしや…… |
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どーもどーも,兄の「あるまんぞ」です。手品師ではありません。どことなく間延びした馬面ですが,よろしく |
家門ポイントを使って今作ったばかりの……もとい,3年戦争時には幼すぎて出征しなかった兄が,妹の家族捜しをサポートすべく登場。相変わらずお金はないけれど,次回こそ,本当に生き別れの兄弟探しの旅に出かけられると思う,たぶん。