ステージとステージの間にビジュアルシーンが用意され,キャラクターボイスも備えた1986年のアクションゲーム「夢幻戦士ヴァリス」 |
えー今回は国際世論の裏をかいて,キャラクターゲームの源流の一つである「夢幻戦士ヴァリス」「同II」を取り上げてみよう。日本テレネットから1986年に発売された本作だが,現在は「プロジェクトEGG」でダウンロード販売が行われており,価格も600円/700円とリーズナブルだ。また,現在は流通在庫のみとなったようだが,PCエンジン版4作すべてを収録したパッケージ「ヴァリス コンプリート」も,2004年6月24日に2000本限定で復刻されている。
ゲームそのものの内容に加えて,どのあたりがその後のキャラクターゲームに受け継がれたかを見ていこう。
ゲームそのものの内容に加えて,どのあたりがその後のキャラクターゲームに受け継がれたかを見ていこう。
「夢幻戦士ヴァリスII」のオープニング。優子の夢に麗子が現れ,警告を発したあと,優子が怪物に襲われる。その後現実に怪物に襲われ,再び戦いに身を投じることになる |
ヴァリスのストーリーは,異世界に呼ばれた主人公の女子高生が世界を救うために剣を執り,戦いを繰り広げるという当時流行の展開。1985年のOVA作品「幻夢戦記レダ」を代表とする流れの中に位置づけられる。
異世界では防御効果があるんだかないんだかよく分からないビキニスタイルの鎧に身を包む(いやむしろ包んでない)主人公は,現実世界ではセーラー服姿である。1986年当時,ブレザーなどという最新兵器はまだ普及していないのである。
主人公の麻生優子は「明と暗のバランスがとれ,この世で最もノーマルな心を持つ者」として,明の幻想世界"ヴァニティ"の女王ヴァリアによって「ヴァリスの戦士」に選ばれ,暗の幻想世界"ヴェカンティ"との戦いに身を投じることになる。
そして戦いの中,プロローグで意味深なセリフを優子に投げた桐島麗子がヴェカンティ側の戦士として登場し,敵対してくる。敵側にもキャラの立った女性がいるというわけだ。その戦いの結末までを描いたのが第1作である。
そして続編のヴァリスIIでは,再び勢力を増したヴェカンティとの戦いを描くのだが,昨日の敵は今日の友,今度は麗子が優子に力を貸す存在として登場する。やがて優子の出生の秘密が明かされるという流れも含めて,まことにお約束どおりといえよう。
ヴァリスIIがキャラクターゲームの先駆けとなった要素としては,キャラクターボイスの導入が挙げられるだろう。ビジュアルシーン(オープニング)では,きちんと主人公がしゃべるのである。
優子役に起用された島本須美さんは,「ルパンIII世 カリオストロの城」のクラリス役で確固たる地位を築いた,清楚なキャラボイスの第一人者(?)であった。なお後発のX68000版では,イメージガールコンテストの優勝者である宮本裕子さんが担当している。 当時のNEC PC-88シリーズでキャラクターボイスを聴くには,ハイエンド音源ボード「サウンドボード2」が必要だった。16kHzサンプリングで8ビットのAD-PCMと,スペックは現在のPCのサウンドデバイスとは比ぶべくもないが,当時アプリケーションがこれを利用するのは,かなり思い切った仕様だったのだ。
おまけに,ゲームを開始するに当たってはサウンドボード2のPCMデータ格納用メモリにデータを読み込む必要があったため,ボイスを楽しむためには,ゲームの起動からプレイの開始まで数分待たねばならなかった。当時の開発者およびプレイヤーは,そこまでしてキャラクターボイスに執着したのである。
以前,日本ファルコムの「英雄伝説VI」に関連して,「イース2」あたりからキャラクターへの注目が高まったと述べたが,"ヴァリスシリーズ"はさらに一歩進んで,まずキャラクターありきといったお話になっており,この流れが今に続いているのは言うまでもない。
麻生優子
主人公。"ヴァリスの戦士"として幻想世界ヴァニティの女王ヴァリアによって選ばれた存在。ヴァニティとヴェカンティの戦いを終わらせ,世界に平安を取り戻すために戦う。ヴァリスIIでは出生の秘密(実はヴァニティの双子の王女の片方)が語られるが,続編での後ヅケ設定は大前提をも揺るがしかねないというパターンに,はまっているような気もする。 |
桐島麗子
優子のライバル。オープニングで意味深なセリフを残して立ち去るが,その後ヴェカンティ側の戦士として優子の前に現れる。最終的には優子に敗れるものの,第2作のオープニングでは優子に危機を知らせ、さらにはピンチになると助けに現れるなど,ライバルキャラかくあるべしという行動をとる。 |
ヴァリスIIの装備選択画面。やたら軽快なBGMと「どれにしようかしら?」「これがいいわ」という明るい口調のセリフなど,ゲーム本編とのギャップが激しい。選択した装備は中央の優子のグラフィックスに反映されるので,気分は着せ替えである |
本作を今の基準で見ると,何より難度の高さが目につく。操作に対する反応はワンテンポ遅れるし,アタリ判定も分かりにくい。もっとも当時のPCのアクションゲームは,総じてこんな感じだったのだが。
剣を使ったアクションに加えて,"飛び道具"によるシューティング要素もある。装備にはいくつか種類があり,ゲーム中で選択できるのだが,ヴァリスIIでは選択画面で「う〜ん,どれにしようかしら」,決めると「これがいいわ」としゃべってくれる。シチュエーションを考えると,少々場違いなくらい明るい声が気になりはするものの,これが1980年代アニメ調というやつである。
ヴァリスIIではステージ構成にもアレンジが加わっており,ステージによっては強制スクロール形式になるなど,ワンパターンにならないよう工夫されていた。
本シリーズのヒットを受けてか,当時コンシューマゲーム機でも似たような設定の作品が多数発売されている。筆者が記憶しているだけでも「魔物ハンター妖子」「フォーセット・アムール」「アリシアドラグーン」などがあり,一つのジャンルを形成したといってもよいだろう。時代の産物ともいえる作品だが,大枠の構成は現在のゲームタイトルとさほど変わらないのである。
ちなみにプロジェクトEGGでは,ほかにも知る人ぞ知るキャラクターゲームの名作(迷作?)がプレイできる。例えば「あすか120% Burning Fest.」「フレイ」などだ。
ちなみに筆者は「レッスルエンジェルス3」の復刻を切に願っていたりする。制作会社の倒産と版権移動,そして版権引き受け先がPCゲームから撤退という状態なので難しいとは思うが,今でも十分に楽しめる女子プロレス団体経営ゲームだと思う。関係者のみなさま,ぜひご一考のほどを。
ヴァリスのアクションパート。進行方向は画面右下に矢印で示され,その方向にキャラクターを進める。出自はPC-88シリーズなので,画面は640×200ドット・512色中8色。その割には頑張っていると思ってほしい | 同じくヴァリスIIのゲームパート。ヴァリス初回作と比べると画面のデザインは工夫されているものの,さすがに表現力の絶対的な不足はいかんともしがたく,ぎらぎらした画面の印象はあまり変わっていない |