― 連載 ―

ベルアイルな女たち

第3幕 クニをすてるオンナ

ピンク,イエロー,ロイヤルブルーという,ベルアイルらしからぬ配色のファッションに身を包む。カルガレオンには巨大なホスピタルもあることだし,一度行かせるべきか悩む

 ムコを探して3週め。さすがのEmmaも「男とは?」「結婚とは?」「幸せとは?」……そんなことを考えながら,流れる雲をぼんやり眺める時間が多くなったようだ。
 親である筆者としては,これまでのダメ男体験(?)をもとに,むしろ男を見る目を養うぐらいの前向きさが欲しかったのだが,前回の手ひどい振られ方には相当ショックだったご様子。おまけに,さして広くもないカルガレオンの街を歩けば,気の強い彼女とラブラブなJ君だの,ストーカー女とヨリを戻したK君だのと,簡単に鉢合わせする始末。
 これまでは男ウケしそうな清楚なワンピースや,愛らしいブーツを着用していたEmmaだったが,何かが彼女の中で壊れたらしい。洋服の総面積より露出部分が多いが,セクシーとはどこか違う姿でカルガレオンの街を毎日無為にぶらつく姿は,腑抜けそのもの。サングラスも全然似合ってないし。気のせいか,街行く人々の視線も痛々しい気が……。

異国の男子

ノーブルウェアと,羽つき帽子がよく似合う顔立ち。3週連続で娘の選んだ男性を見てきて,これだけは言える。Emmaは顔で相手を選ぶ面食いだと

 「捨てる神あれば拾う神あり」とはよく言ったもので,歩く信号機みたいなEmmaに声をかけてくる青年がいた。聞けばカルガレオン出身ではなく,遠い異国,匠の住む国「ボーダー」からやって来たというではないか。ちなみにカルガレオンは戦士の国,アリアバートは魔術師の国である。

 

 「カルガレオンではあまり見かけない格好してるねー。きみ,もしかしてボーダーの子? え,違うの,へぇー地元っ子なんだ。俺,カルガレオンに来たばっかだからさー。街,案内してくれない?」

 

 ボーダー出身の魔術師と名乗るS君(仮名)。女の子にヘラヘラ気安く話しかけるその軽さは,確かに無骨な戦士の多いカルガレオンの男にはないものだ。二人の男性に裏切られ(?)しょげかえっていたEmmaに,甘え上手でおねだり上手なS君は,親しみやすい素敵な男性と映った様子。
 うーん,親としては正直歓迎できないっていうか,娘が家に連れて来たら,まず正座させて礼儀とは何か,2時間ぐらい説教したくなるタイプの男の子ではあるが,ま,ここは一つ見守るとしましょう。でもねEmma,母さんこれだけは言っておくよ。「顔がいい男ってのは,大抵,顔がいいだけ」なんだってば。

 

彼にねだられて,魔法攻撃力が上がる「いちごの砂糖漬け」を作るため食材市場へ。砂糖とイチゴに大枚はたく羽目となったが,ニコニコ尽くす女。しかしそんな幸せな時間も,長くは続かないのだった……

 

国を捨てて亡命するのは,夜中と相場が決まっている。さようならJ君,K君,素晴らしい思い出をありがとう! あなた達のことはすぐ忘れると思う

 毎日Emmaの手作り「豚の串焼き」を一緒に食べ,イチゴジャムを持ち帰るS君。彼の最近の口癖は「ナナちゃんみたいな子が嫁さんだったらなぁ,ボーダーに連れて帰っちゃうのに」だ。なぜかEmmaのことをナナちゃんと呼ぶS君。まあ可愛いからいいけど。そんなS君は,あくまで観光者,次の夜が明けたらボーダーに帰ることが分かっている。

 

 ──彼のために,この国を捨てよう

 

 ついに決断をしたEmma。その日のうちにフリーマーケットで「旅人のお弁当」と「桃の絞り汁」,そしておやつの「ドライフルーツ」を買い込むと,彼との新たな生活が待つ国「ボーダー」を目指し,一路旅立つのであった。

故郷を捨て,女はボーダーへ走る

夜通し走り続け,日が昇ると同時にたどり着いた。ここが「ボーダー」の正門だ

 魔術師S君と違って,いつでも瞬間移動できる真言魔法(時)が使えないEmmaがボーダーに行くためには,カルガレオンの入り口「テーベ平原」から,ボーダーがある「オールドマンズ大湿地」まで,合わせて五つのマップを走り抜けなければならない(ボールシップでの移動はお金がかかる)。
 途中アクティブなモンスターも多く,華奢なEmmaにはつらい旅だったが,まさに女の一念岩をも通す。ひたすら二次スキル「疾走」を使い続け,安全そうな地域で休憩を取り(おやつのドライフルーツを食べたり),リアルタイムできっちり45分かけて,ついにEmmaはS君の待つボーダーへ到着したのであった。あぁ疲れた。

 

 事前にWis(ささやき)で,彼にはボーダー到着が近いことを知らせてあったため,門前ではもちろん彼がお出迎え。この新天地で,新たな人生が始まるのだ。

 

「Sくーん」
「ナナちゃん,ようこそボーダーへ」

 

 ぶんぶん手を振り回しながら,彼に飛びつくEmmaの,こんなにも嬉しそうな娘の姿に,あ,ちょっと涙腺がゆるんで……。さて,久しぶりに再開したS君と,仲むつまじく時を過ごしたいのだが,現実社会でも結婚前の準備は,女性のほうが忙しいものだ。

 

「仕官」

 まずは結婚の前提条件である「仕官」を済まさねばならない。すでに仕官済みのS君と名残惜しげに一旦別れ,まずは王宮へ。仕官とは,三つの国家のどれかを選び,その国に所属することを意味する。仕官しなくても冒険もキャラクターの成長もできるが,銀行を利用するたびにお金がかかったり,仕官しないと買えない生産レシピが存在したりとデメリットも多い。何より結婚は,仕官したキャラクター同士でなければできないのだ。
 ちなみにボーダーの仕官条件は「能力値合計130以上」「全スキル合計150.0%以上」「防御系スキル合計40.0%以上」と,3か国の中ではかなりラクなほう。

 

この威厳あるチョビひげが,ボーダーの国王。こんなはしたない格好での謁見をお許しくださるとは,なんて心が広いのだろう

合計ステータス値やスキル値を満たしていれば,王様に話しかけるだけで仕官できる。ただし三つの国家で,それぞれ要求する数値が違うので要注意

式の前に発覚してよかったこと

 仕官も済ませ,あとはもう結婚を控えるのみ。長かった,たった3週間とはいえ,あまりにひどい仕打ちを短期間で体験したEmmaには,永遠とも思われたこの期間。
 苦しみが大きかった分,反動でEmmaのはしゃぎようもすごかった。早くもウェディングドレスをゲットしては無闇に着てみたり,S君を伴ってボーダーの託児所に行き,ねだって他人の赤ん坊を抱かせてもらったり……。ボーダーに着いた瞬間から結婚モード全開のEmmaだが,S君もとくに嫌がっている様子はなく,すべてがうまくいっているようである。

 

他人の赤ちゃんも抱くことが可能。「たかい高い」「あやす」「なでる」「ご飯をあげる」の五つから行動を選択でき,子供が望むことをすれば機嫌がどんどん良くなる。この「機嫌」も,その後の成長にどうやら影響があるらしいが……

 

ねだったら赤ん坊を抱かせてくれた,若いパパさん。S君もきっとこんな子煩悩なお父さんになるのかしらん

 「やっぱり結婚式には大勢の人に祝ってほしいし,招待状を出しまくって,あ,あと引き出物も用意しなくっちゃ。今人気の引き出物アイテムといえば,使うとキャラクターの外見が若返る「魅惑の化粧筆」か「魔法の化粧筆」よねっ。それと結婚式当日に何か新しいものを一つ,古いものを一つ,借りたものを一つ,青いものを一つ身につけると花嫁は幸せになれるらしいから,これも揃えてっと。ねーぇS君,お義母さまから何か借りられないかしら?」

 

 マリッジブルーなんて単語からはかけ離れたところにいるEmmaをよそに,どこか上の空のS君。チャットウィンドウに返事が出るタイミングが,いつもより微妙に遅い……その挙動不審っぷりに乙女レーダーが激しく反応。さすがに2回も痛い目にあうと,能天気な娘でも学習能力が働くらしい。仮縫い中のウェディングドレスを身に着けたまま,詰め寄るEmma。

 

ウェディングドレスは別に用意済みなので,お色直しと二次会の衣装を決めかねて,次から次に試着するEmma。だけどその縞々ニーソは違うでしょ?

 

「ちょっと今,誰かとWisしてなかった?」
「うん,アリアバート出身のサンちゃんとだよ♪ あと,カルガレオンのロクちゃんとも同時Wisしてたから」

 

 屈託のない笑顔で答えるS君に,思わず「あ,そうなんだ」で終わりそうになった会話。

 

 うーん来た来た,いつものめまいが。しかしウェディングドレスに袖を通した女は強い。一歩も引かずS君に詰め寄っていく。

 

「ちょっと,サンちゃんて誰よ,サンちゃんて?」
「僕の3番めの彼女。あっ,でも今一番大切なのはナナだから心配しなくていいんだよ。1番がナナで,2番がカルガレオンのロクちゃんで,3番がボーダーの……,4番は……」

 

 まったく悪びれずに,彼女がハチちゃんまでいることを明かすS君。彼の頭の中では「でも結婚したいのはナナだからいいでしょ?」という理屈らしい。
 いつもならここで「うっそ〜ん」とか言って,涙を飲んで身を引き次週に続くEmmaだが,今回は違う。そそくさといつもの服に着替え,婚約破棄を自ら告げると,黙ってその場を立ち去った。
 こんな女の名前も覚える気のない男に引っかかって,国まで捨てるという不覚を取ったとはいえ,ボーダーに仕官してしまった手前,もう故郷カルガレオンには戻れない(注:実際には仕官後でも出奔可能)。ここボーダーで,新たな人生をやり直すことに決めたEmmaだが,どうなる次週?

 

相手の名前を覚える気もないくせに,結婚はするつもりだったという,とんでもないダメ男。許せん!

いつまでも幸せな二人の背中を見送ってばかりの女と思ったら大間違い。自分の背中が幸せじゃないのは癪だけど

 

スキル
調理:45%
裁縫:50.6%
雑貨製作:40%

勝負服:祭のビキニトップ,祭のビキニボトム,パンプス(黒)
サングラス(黒),レディCレオンブーツ,噂のベレー帽

テーマ:旬を過ぎた109系

 

 

 

■■麻生ちはや(ライター・独身)■■
前回,本人から「私が嫁に行けるようなプロフィールを書いてほしい」という要望が出て気の毒だったので,今回はそのリクエストに応えることにしよう。では男性の好みをどうぞ。「どんな人でもいいけど,イギリス人と,イタリア人と,フランス人と,納豆の食えない男はダメです。過去に失敗してるから」。いきなり数千万人の脱落者を出して,本当に結婚する気あるんですか。
タイトル ベルアイル
開発元 ヘッドロック 発売元 VerX
発売日 2006/05/25 価格 基本プレイ無料
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 8.1以上),CPU:Pentium III/800MHz以上[Pentium 4以上推奨],メモリ:256MB以上[1GB以上推奨],グラフィックスチップ:GeForce 4 Ti以上[GeForce FX以上推奨],HDD空き容量:6GB以上

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