特集 : 切込隊長 vs. 徳岡正肇。「ハーツ オブ アイアンII」お茶の間コアゲーマー対談

切込隊長 vs. 徳岡正肇。「ハーツ オブ アイアンII」お茶の間コアゲーマー対談

後編:歴史とストラテジーゲーム,その未来

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Text by Guevarista,Photo by 佐々山薫郁

 

負けを楽しめるゲームデザイン

 

徳岡正肇氏:

 ハーツ オブ アイアンIIで黄金の負けパターンといえば,戦線は安定しているけど,気がつくとマンパワーが底をついていて,擦り切れるように転落していく,という形です。

切込隊長:

 もう,大納得です。で,外交努力も空しく崩壊していく。

徳岡正肇氏:

 連載「ふしぎ大戦」のほうで,イタリアを担当したときのAIドイツの負け方が,たいへん美しい例です。作戦/戦術のレベルでは敵を圧倒しているにもかかわらず,悲しいかな人的資源が足りない。

切込隊長:

 中小国プレイでもそこに突き当たりますね。周辺の小国を呑み込んでいっても,マンパワーはあまり伸びませんし。そのくせいろいろ恨みを買っていますから,宣戦布告されやすくなる。

徳岡正肇氏:

 小国というより中くらいの国でプレイしていて,どうでもいいような戦争で消費してしまった30労働力くらいが,言い表しようがない感じであとあと効いてきたり。「この国は1日あたり+0.18労働力なわけで,これで30を割って……」とか考えていくと,それがいかに国家にとって重大な損失であったかが分かります。そこで失ったのは,激動の世界情勢の中で150日分以上の時間です。

切込隊長:

 被害を抑えるために大兵力を一気に投入する戦争なんて,中小国にはできませんからねえ。火事場泥棒をしようにも,すでに疲弊した,守りの薄いところを刈り取ることくらいしかできないし。
 そのどうしようもなさを楽しむのが,このゲームのプレイとしては重要なのでしょう。

徳岡正肇氏:

 ええ。労働力の枯渇負けと,戦略爆撃負けは本望ですね。

イタリアを担当して,東部戦線でモスクワ,スターリングラード,レニングラードを陥落させるも,同盟国ドイツは人的資源の限界に達し,実動兵力はわずか26個師団に……

 

切込隊長:

 そうであるがゆえに,アフガニスタンでインドを攻めて成功したときの嬉しさったらないですね。稀に成功する程度ですが。

徳岡正肇氏:

 インドはマンパワーの宝庫ですから。

切込隊長:

 まあそれ以降,国際社会からは無視されたまま,1953年を迎えるわけですが。

徳岡正肇氏:

 そもそもそれが成り立つのは,宗主国のイギリス,ひいては連合国がボロボロになっている時ですから,第二次世界大戦の本筋にまるで関わることなく,その副産物だけをささっと回収して,歴史に残る大アフガニスタン王国を築き上げたことになりますね。

切込隊長:

 枢軸アフガニスタン,中央アジアで大暴れの巻。

徳岡正肇氏:

 また困ったことに,アフガニスタンは枢軸に入りやすいんですよね。「ファシスト」の定義が大まかすぎるんだと思いますが。Paradoxがきちんと処理しなかった“ファシズム国家”は,枢軸に入りやすい特質を持ったままです。

切込隊長:

 騎兵さえ作れれば,けっこうなんとかなりますし。「移動3」の。

徳岡正肇氏:

 まだ石油使わない,「移動4」に上げてないやつ。地理的には近くで大量の石油が産出されてますが,4プロヴィンスを越えて取りに行こうとすると,たいへんなことになりますからね。

切込隊長:

 どちらの意味でも,ドイツ圧勝パターンではアフガニスタンに活路が見えてきます。とはいえバクー油田への進出は無理だし,取れたら取れたでドイツが死んでしまいますから,中東のアバダンを狙うしかありません。

徳岡正肇氏:

 バクーを取ったうえで,石油を分配させるためだけにアゼルバイジャンを独立させるのも手ですけどね。

切込隊長:

 そうですね,ウクライナを鉄のためだけに独立させるとか。

 

ゲームデザインの穴を突いた,トンデモ世界情勢へ

 

徳岡正肇氏:

 ウクライナの強さも,ちょっと極端ですね。ドイツでプレイしてて,ウクライナの分離独立に成功したら,まず負ける気がしません。ICが高い,マンパワーはある,研究機関もそこそこのレベルで。

切込隊長:

 独立インドも凶悪です。ヘタするとアメリカに対抗できますから。

徳岡正肇氏:

 指揮官は優秀で,技術力も高いですし。日本でプレイしてうまく伸びると,歩兵は中国が供給し,戦車はインドから送られてくるので,日本軍は海空戦力が中心になってマンパワー不足が起きない。
 そうでなくても,とにかくインドや中国が絡むプレイでは,参加部隊が多くて課された指揮負荷ペナルティを,さらに部隊を上積みすることで克服したりする。

切込隊長:

 TCルールとかあっても,いかにもゲーム的な常識外れが起きると,それに応じた適切な兵站負荷が課されないですから。

徳岡正肇氏:

 陸運に対する海運の優位性って,このゲームでは事実上スピードしか考慮されてないですし。

日本をプレイし,独立させたインドと,チートコマンドを併用しつつ無理矢理立てた汪兆銘中国

 

切込隊長:

 在外権益を守るために,イデオロギーはさておき,いずれかのランドパワーと手を組まざるを得ないイギリスという構図は,なかなか良いと思うんですが。

徳岡正肇氏:

 本国以外の領土を生かすとすれば,オランダプレイのポイントは領土の売買になるかもしれませんね。一時的に枢軸に入って,のちのちの生存手段につながる土地を買い受けてから脱退するとか。

切込隊長:

 海運つながりで思い出してみると,イタリアは弱いですねえ,このゲーム。もう少しなんとかなるはずなんだけどなあ。空母を諦めて,車両を諦めて,情報技術を諦めれば。

徳岡正肇氏:

 人間が扱うとそれなりに強いですけど,AIのときはヒストリカルに弱いですね。

切込隊長:

 フランスも典型的にそうですね。人間が扱えば,なんとかなるのかなあ?

徳岡正肇氏:

 それなりにいけますよ。海軍もそこそこ強いですし。史実で沈んだ船とかが多いので,勝てそうなイメージを持ちにくいところがあるのは事実ですが。

切込隊長:

 海軍といえば,イギリスの海軍爆撃機は強いですね。これはちょっと行きすぎだろうと思うくらい。

徳岡正肇氏:

 航空戦力はかなり過大評価されていると思います。

切込隊長:

 戦闘機ユニットを揃えておくと,敵機がバタバタ落ちていきます。

徳岡正肇氏:

 AIとの戦闘に慣れた人がマルチプレイに乗り出すとき,忘れられがちなのが制空権です。AIはうまく使ってきませんが,かなり強力ですから。

切込隊長:

 いや,エアコントロールは絶対です。あと,対空砲も意外に強いです。レーダーに対空砲の効率を上げる機能はないはずですが,両方揃っていると,強い気がしてならないですね。

 

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タイトル ハーツ オブ アイアンII 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2005/12/02 価格 8925円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上,HDD空き容量:900MB以上

Hearts of Iron 2(C)Paradox Entertainment AB and Panvision AB. Hearts of Iron is a trademark of Paradox Entertainment AB. Related logos, characters, names, and distinctive likenesses thereof are trademarks of Paradox Entertainment AB unless otherwise noted. All Rights Reserved.


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