このように,グロス・ドイッチュラント2はジェネラル・サポート歴代作品の成果をも盛り込みつつ,何年にもわたるリサーチと,より進化したアイデアを具体的な形にすべく,この秋に発売予定だ。ハードなストラテジーゲームの愛好者を自認する人は,あらゆる意味でこのビッグゲームの登場に注目すべきだろう。ジェネラル・サポート公式サイトのコラムで,ときに阿部氏がその片鱗を見せるとおり,外から見える以上に,この作品にはさまざまな努力と知見が注ぎ込まれているのだ。
さて,そんな精緻なビッグゲームを1980年代から営々と作り続けているゲームデザイナーとしての阿部隆史氏に,グロス・ドイッチュラント2とは少々離れたところでいくつか気になる質問を投げかけてみた。本稿の最後にその問答をお届けしたい。
4Gamer:
ハードなターン制戦略級ストラテジーとなると,ファンの絶対数が多いとはなかなか考えづらいですし,ファン層の姿も,昨今どちらかというと見えづらくなる方向だと思います。その中で,御社はどういったことを心がけて,製品を開発していますか?
阿部氏:
うーん,いろいろ考えるべきことも多いと思いますが,買ってくれる人の期待を裏切らないこと。それに尽きます。バグを出さないこと,出してしまったらきちんとパッチでFIXすること。自社の製品を毎回買ってくれるお客さんのほうを向いていると,いろいろな部分で甘えが出てきてしまいます。競合製品のこともきちんと把握して,夜郎自大に陥ることなく,パッケージを手にしてくれる人のことを考えていきたいと思っています。当たり前のことであって,いささか恥ずかしいのですが。
4Gamer:
なるほど……。では,最近の市場と製品についてぜひコメントをいただきたいのですが,国内でParadox Interactiveの作品がある程度のセールスをマークするなど,戦略級ストラテジーの潜在的需要を考えたときには明るい材料もあると思います。阿部さんとして,Paradox Interactiveの作品をどう捉えていますか?
阿部氏:
「Hearts of Iron」ですね。あの作品についてまず言えるのは,間口が広いことだと思います。シンプルなルールで面白く出来ている。ボードゲームの「文明の曙」(原題は「Civilization」。PC版「シヴィライゼーション」の原作で,ボードゲーム界では手軽なヒストリカルマルチプレイゲームと理解されている。なお「文明の曙」という邦題は,ホビージャパンによるもの)などと同じテイストというか。
そうした作品をプレイすることで「ストラテジーゲームって面白いじゃない」と思った人が,今度はよりヒストリカルな作品をプレイしてくれたらよいなと,思っています。ファンそのものの人数を増やしていかなければならないのですが,うちが間口を広げるような作品を作れるかというと,それは無理なので……。
中学生くらいの年齢とか,もしくはいままでストラテジーゲームをプレイしたことのない人が,パッと楽しめるような作品というのは,大事だと思うけれど,なかなか難しいですね。
4Gamer:
では,阿部さん自身として,今後取り組んでみたいゲームのテーマ,モチーフをぜひ教えてください。いままでジェネラル・サポートがリリースしてきた作品とはまったく別の,新テーマを挙げるとすれば,ということですが。
阿部氏:
そうですね。人物を主体とした作品を作るならば,例えば関ヶ原の戦いが,取り組んでみたいテーマになりますね。誰が味方になるかといった前段を含めて。また,幕末から通した,近代日本の建国というのも魅力的だと思っています。自分が構想した国家を作るほうに重点を置くか,1本の映画を見るような展開にするのか。両方を兼ねられれば面白いのですが。
社会体制や,さまざまな制度は別にあらかじめ決まっていたわけではないのですから,現実と違う選択肢もあったはずです。日本を開国させたのはペリーだったけれども,ひょっとしたらロシアのプチャーチンだったかもしれない。そういった意味で,史実がどういう理屈で動いていたかを再現し,そこにプレイヤー自身の意志をも介在させられるなら,面白くなるはずです。
4Gamer:
そうですね。ヒストリカルモチーフでも,明治維新ともなれば,ターゲットは決して狭くないですし。では最後に,直近の製品となるグロス・ドイッチュラント2で,阿部さんとしてプレイヤーにぜひ楽しんでもらいたい部分を,あらためてお願いします。
阿部氏:
外交と経済と人物。経済なき戦争はないし,戦争は間違いなく人が行うものです。それらの相互関係とダイナミズムを,ゲームを通じて感じてもらえたらと思います。
マクロな視点だけでなく,将軍といっても賢い人ばかりじゃないんだとか,そういう泥臭さも含めて,歴史劇を楽しんでもらいたいと思いますね。
4Gamer:
本日は長時間にわたり,ありがとうございました。
個人的な感慨から入ることをお許し願いたいが,阿部氏に話を聞くのは実に6年ぶりくらいになる。そのエネルギッシュさと,独特のゲームデザインは健在で,今にいたるまでゲーム界に異彩を放ち続ける姿勢は,今回もまことにもって印象的だった。
時代の趨勢やら,ゲーマーの全般的傾向やらに合わせること(しかもこういったものは,確たる根拠なく語られることがなんと多いことか)が,安全な投資であるとは限らない。自分がターゲットと定めた分野で,どこまでも突き抜けた作品を目指す彼の挑戦は,とりあえず彼にしかなし得ない仕事となっている。それがゆえに,多くのファンが5年10年と,彼の仕事成果を待ち続けているのだ。
外交を大きな新要素としてひっさげ,より緻密なリサーチに基づいて国家と戦争が持つ各要素を再現したグロス・ドイッチュラント2は,我々にどんな驚きを提供してくれるのか? 今から発売が楽しみだ。(2006年6月2日収録)









