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デザイナー阿部隆史氏に聞く,ジェネラル・サポート次回作「グロス・ドイッチュラント2」の全貌

Text by Guevarista,Photo by 市原達也 

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こちらは歩兵のみならず降下猟兵の戦力も高める新兵器。新型レーダーやシュノーケル,ホーミング魚雷などの開発は,関連兵科の強化につながる

 空挺作戦を行うに当たって,普通にJu52輸送機で降下猟兵を運ぶことはもちろんできますが,ギガント(Me232。もともと大型グライダーとして計画された輸送機)を使って,装甲車両や火砲を降下部隊に混ぜ込むこともできます。
 ギガントに積めるといっても10数トンの軽戦車や野砲が限界ですから,6発の巨人機を大量生産してまでやる価値があるかは微妙なところです。ただ,例えばマルタ島を陥落させるためなら,見合うかもしれません。空挺作戦ならとりあえず制海権を無視できますから。スカパ・フローやジブラルタルも,同様に考えられるでしょうね。

 

 同様に第二次世界大戦らしい新ギミックとして,グロス・ドイッチュラント2に導入されたのが「橋」だ。敵の占領下にあるとき,自軍支配下にあるとき,敵と自軍の間にあるときなど,帰趨によって意味が変わる橋を,今作では作戦に生かせるのだ。史実の例を引きながら,阿部氏は橋をめぐる新しいプレイ要素について明かす。

 

ゲームのマップ。根拠地間を結ぶ街道の途中に,橋を表す白い記号がある点に注目してほしい。根拠地には産出資源や駐留部隊数,天候などがアイコン表示されている

爆撃目標に選べるのは,根拠地の工場や飛行場,部隊,陣地施設などさまざまで,目標の種類と爆撃方法,天候,機体性能,指揮官の能力などが戦果と損害に影響する

 今回はマップ上に橋が存在して,必要に応じてこれを爆破できます。レマーゲン鉄橋(ライン川にかかる鉄橋で,アメリカ第7軍がドイツへの進撃路として確保。ドイツ軍はV2ロケットによる攻撃を含む壮絶な破壊/奪回作戦を試みるも,失敗する)やマーケットガーデン作戦が再現できるわけですね。
 撤退時に破壊することで,敵の進撃を押し留めることができますし,逆に奪取すれば進撃を速められます。敵の手にある橋を破壊したいなら,ドイツ軍は通常の爆撃だけでなくミステル(戦闘機と爆撃機を上下に繋げた親子飛行機で,上段の戦闘機にパイロットが乗り,目標の手前で爆薬を満載した爆撃機を切り離すアイデア兵器)という手段が選べます。
 自軍が掌握している橋と敵の手中にある橋では破壊工作の成功率が大きく変わってきますが,ミステルをうまく使えば敵中の橋も破壊できます。

 

 それとの関連でいえば,戦略爆撃の一手段として,今回はダムバスター(水面で跳躍する,ダム破壊専用爆弾)を導入しました。ダムが決壊すれば発電所は壊れるし,下流は大洪水ということで,その根拠地の生産活動は完全にストップします。ドイツならミステル,イギリスならランカスター爆撃機でダムを破壊可能です。その根拠地を占領して利用する価値を決定的に失わせてしまいますから,使いどころはなかなか難しいですが。戦争の最終局面になるイギリス本土ならともかく,フランスやドニエプル,ウラルに使えるかというと,難しい選択になります。プレイスタイル次第といいますか。

 

 個別のユニットの話題が出てきたところで,ストラテジーゲームデザインの基本となる,部隊規模と戦闘序列についても聞いてみた。前作では,司令官以外ある意味すべてユニット数(車両,航空機ならその機数/台数,歩兵なら分隊数など)で管理されていたわけだが,今作ではどうなのか。師団や軍団,軍,軍集団といった中間の単位は再現されているのだろうか?

 

陸戦兵器では,火力や防御力だけでなく故障率や走破力などもデータ化され,後二者は落伍するユニットの割合に大きく影響する。戦闘では,旋回砲塔と固定砲の違いも重要になる

 ユニットの持つ性格として,前作より精密になったのは,砲の装備方法によって「イニシアティブ値」が変わり,それが攻撃の順番に影響を与える点です。具体的に言うと,一番先に射撃できるのは,回転砲塔を装備した装甲車両です。それから牽引砲,最後に固定砲式の車両となっています。
 例えばパンターを(回転砲塔の)戦車として作れば75mm砲だけれども,(固定砲の)ヤークトパンターならば88mm砲を積める。ただし,柔軟性の点で劣るために,戦闘解決時には戦力発揮が後に回される,と。十分な防御陣地で敵の第一撃を減殺できるなら,牽引砲がかなり活躍できるということでもあります。

 

 指揮系統や部隊の規模については,今回変更していません。ユニットの配置上限数=2000で言うと,軍団(3個師団相当)と軍(5〜6個師団相当)の中間くらいのスケールということになります。3個分隊で1個小隊,3個小隊で1個中隊……と考えていくと,1個師団は240前後。2000というのは約8個師団に相当しますから,最大では1個軍規模を超えますが,常に上限いっぱいの編成ということはありませんから,軍団ないし軍規模といったところです。
 このマップスケール,この根拠地数で,例えばドイツが開戦時に持っていた100個師団を各戦線に配置したとすると,ちょうどいいスケールなのです。
 中間の指揮結節を作るのは難しくないのですが,ゲーム上役に立つルールになるかといえば,ならないんですね。ボードゲームで,各級司令部をすべて再現するわけでないのと同じです。

 

 アメリカのボードゲーム会社SPIの伝説的デザイナーだったJ・F・ダニガンも述べているとおり,ユニット名は思い入れの点でけっこう重要な要素にも思えるが,プレイの柔軟性を重視するのが阿部隆史流というところなのだろうか。そうした次第で,ゲーム内で部隊を率いるのは今作でも将軍ユニット。阿部氏は今作で,将軍のセリフや一部の行動様式に,その人らしさを盛り込んでみたという。ただし,効率的なプレイの助けとする意味よりは,曖昧な部分も含めたリアリティを出すことに力点があるようだ。

 

陸戦には,地形や天候,陣地の構築度合いに加えて司令官の能力が大きく影響する。戦意の高い指揮官なら損害を受けても踏みとどまり,指揮能力の高い指揮官なら,敵により多くの損害を与える

 将軍にはまず2種類いて,それはイエスマンタイプと自分の考えを持っているタイプです。イエスマンタイプの人は何を命じても「は,かしこまりました」と答えるだけですが,自分の考えを持っている人にはこれまた2種類いて,返答が変わってきます。その2種類とは賢明な人とそうでない人です。賢明な人ならば,状況に応じた適切な見解を述べますが,そうでない人にはまたまた2種類いて,十分に勝てる戦いなのに「ちょっと無理じゃないか」と臆病な意見を述べる人もいますし,逆に無謀な人もいます。
 このように,将軍によって返答に信用が置けない場合がありますし,彼らは病気になったりもします。「もうずいぶんと働いているから,休ませてほしい」と言ってくることもありますが,これはまだいいほうで,人によっては疲れているのに頑張って,ポックリ逝ったりします。なにしろ彼らは高齢ですし。
 前作にあった,辞職願いを出すとか,反乱を企てるといった部分だけでなく,将軍に個性を持たせるのが今作で実現するキャラクター性です。将軍達は作戦指揮能力,戦意,ヒトラーに対する信頼度という三つのパラメータを持ち,それによって発揮能力のみならず,セリフも変わってくるのです。これが同盟国軍だと,命令拒否すらあり得ます。

 

 そうそう,今回イタリア軍など同盟国のユニットに関して,参戦後はプレイヤーが生産することになります。その関係で,フィンランドの木製戦闘機フムとかも登場しますし,ハンガリーのトルディ戦車なども出てきます。とはいえ,ゲームではいちいち同盟国に戦車工場を設定するわけにもいかないので,ドイツがドイツの国力でトルディ戦車を作って,ハンガリーに譲渡する形になります。まあ,III号戦車やIV号戦車も供与できますし,それは実際に行われているのですが,ゲーム内にトルディ戦車を登場させたいなら,ですね。連合国側の車両は朝鮮戦争あたりのものまで用意されていて,フランス軍が1944年に完成させていた素性の怪しい重戦車や,航空機では十分にあり得た架空の発展型なども用意しています。ブロック174軽爆撃機の夜間戦闘機型とか,ドボアチン戦闘機にイギリス製スーパーマリーンエンジンのライセンス品を載せたら,とか。
 実在機体でも,ランカスター重爆撃機の改良型であるリンカーン重爆撃機なども再現していますよ。外見はほとんど同じなんですけどね(笑)。

 

 戦闘を中心としたゲームシステム,ドイツ第三帝国というモチーフゆえに注目を集めるユニットデータなど,注目されやすい要素だけでなく,ベースとなるリサーチが極めて綿密に行われているのも,ジェネラル・サポート作品ならではの特徴だ。阿部氏の話は,航空ユニットの話から,その素材と必要資源の話に移る。

 

航空機では,速度,旋回性能,火力,防御力などが細かくデータ化されている。生産に必要な鉄やアルミの量も,戦争全体を考えるときには重要なファクターになる

 木製航空機がたくさん含まれているのも,今回の特徴といえるかもしれません。実際,イタリアやソ連には,木製の戦闘機も多かったですし。
 ドイツには強力な戦闘機が多かったわけですが,これは少々乱暴にいうと,木でなくてアルミ(→ジュラルミン)を使っているものばかりだからなんですね。ドイツのアルミ地金生産量は,1940年で約21万tです。それに対してイギリスはたったの1万9000t。ただしここにはカラクリがありまして,(英連邦の一員である)カナダが9万9000t生産しています。合わせて11万t弱,それにしてもドイツの半分程度にすぎないのです。インドやオーストラリアには,問題にするほどのアルミ生産量はありませんでしたし,結局イギリスはアメリカの供与を受けて,不足分を補っていました。

 

 つまり,ドイツのアルミ生産量は傑出した値であって,ヨーロッパで当時ドイツ以外に大アルミ生産国だったフランスでさえ,約6万tにすぎません。日本では零戦などの生産にアルミを大量に使っていますが,むしろこちらのほうが特殊で,ヨーロッパ諸国にそれほどアルミはないのです。こうした背景を見ると,イギリスが木製のモスキート戦闘機を作ったことも納得できます。それに対して,ドイツは本当に逼迫するまでそれをやらなかった。それはそうです。これだけの生産力があったのですから。
 一方,アルミの原料となるボーキサイトの産出量がどのくらいかというと,ドイツにはほとんどなくて,ハンガリーとユーゴスラヴィアから持ってきています。前者は貿易で,後者は軍事占領によって,ですね。それ以前にはフランスから,平和なときにずっと買っていたのですが,これが戦争で入ってこなくなる。もし,対フランス戦が長引いていたら,ドイツはアルミの問題で干上がっていたはずです。
 ちなみにソ連の場合,ボーキサイトの産出量が判明していないのですが,精錬量としては3万8000tしかありません。木製戦闘機を考えざるをえないのは,ある意味当然なのです。

 

 アルミ精錬工業の規模とボーキサイトの産出量を皮切りに,話題は根拠地ごとの人的資源量と,その前提となるリサーチに進んでいく。グロス・ドイッチュラント2における物的,人的資源量分布は,国単位でなく主要都市単位で,かなり史実に忠実なものとなっているという。

 

各種統計資料から引用し,計算した数字をもとに,根拠地の各種数値が定められている。阿部氏の作品らしい一コマだ

 今回,資源の需給量はすべて史実に忠実に作ってあります。前作よりもデータとしてかなり細かくなっていますし,人口問題にしても,マクミラン統計による各国の人口と,主要都市の人口分布データが手に入りましたので,それを基にして設定しています。ブダペストで110万人,バーミンガムで100万人,ロンドンだと870万人とか,そういった数値です。重要なのは“兵役資源”を確実にシミュレートすることで,それを根拠地単位できちんと割り当てるのが今回の課題でした。
 例えばゲーム内でブルガリアには三つの根拠地が設定されています。国の総人口は600万人だから,1根拠地あたりの平均は200万人ということになりますが,首都ソフィアは大都市ですから,それに応じて人口分布を設定する必要がありますし,逆に農村地帯の都市なら少なくすべきです。

 

 ドイツの場合でいうと,人口800万の都市が一つ,400万の都市四つ,200万の都市九つ,100万の都市28個で作られていて,これで総人口7000万となります。都市の規模ごとに,そこを掌握していることで得られる人的資源を再現しなければならないのです。
 それに性別や年齢分布,徴兵不適格者の割合や,海軍と空軍に必要な人材の割合も考慮して,そのうち歩兵に割り当てられるパーセンテージを計算します(注:海軍,空軍ユニットや戦車,火砲について,そこに必要な人数をユニット生産に合わせて個別に差し引いてはいないため)。徴兵年齢を1か月ずつ繰り上げていくと,それぞれ4個師団分の追加動員が可能になる。つまり,ドイツ軍は最大で年間48個師団を動員できるわけです。フルに繰り上げた場合,96個師団まで追加動員可能です。これをモデルとして,全ヨーロッパの兵役資源を計算しています。

 

 こうして,ドイツの資源産出量と工業力,国外に頼らなければならない資源や,そのうち外交でカバーできる分などを量的に把握したうえで,グロス・ドイッチュラント2というゲームは組まれている。リサーチに年単位の時間がかかるというのも,確かに納得できる話だ。話題はいささか余談に属するが,阿部氏の話は,軍需と民需の話から,当時のヨーロッパの燃料事情に及ぶ。

 

 このゲームでは国全体の生産力やその分布を整理したうえで,民間の需要を差し引いて,軍が使える部分を計算していますが,興味深いのは,当時,石油はほとんど軍用だったということです。
 ガソリンは,自動車用などに少しは必要ですが,ドイツにおける民間の燃料としては,当時石炭がポピュラーでした。
 例えば第二次大戦直後,東側占領地域によって封鎖された西ベルリンに,西側から生活物資を運ぶベルリン空輸が行われますが,このとき運ばれた物資の半分以上が石炭なのです。輸送機の燃料として大量のガソリンを使いながら石炭を運んでいたわけで,実にバカバカしい話に聞こえるかもしれませんが,これは事実です。
 まあ,そうしたわけで,資源問題の量的な再現というのは,話の性格上どうしても地味なんですが,プレイしてくれる人には,そういった点も楽しんでもらえると嬉しいですね。

 

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タイトル グロス・ドイッチュラント2
開発元 ジェネラル・サポート 発売元 ジェネラル・サポート
発売日 2007/06/29 価格 1万3440円
 
動作環境 OS:Windows 98SE/Me/2000/XP/Vista(Windows Vistaは32bit版のみ),CPU:Pentium/200MHz以上[Pentium II/300MHz以上推奨],メインメモリ:96MB以上[128MB以上推奨],HDD空き容量:640MB以上(セーブデータ分は含まず),GM規格対応のMIDIデータが再生可能な音源推奨

(C)GENERAL SUPPORT

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