ゲームポット代表取締役社長
植田修平氏
早稲田大学商学部卒。イマジニアでコンシューマ/PCゲームの営業に関わり,2000年にコミュニケーションオンライン(現アエリア)に入社。新規事業として,ゲームポットの立ち上げに携わる。2003年3月,ゲームポットの代表取締役に就任し,現在に至る
オンラインゴルフゲーム「スカッとゴルフ パンヤ」(以下,パンヤ)の累計登録会員数が,11月30日に100万という大台を突破した。1タイトルでこの数字は,国内では「ラグナロクオンライン」に次ぐ,2番目の快挙だ。しかも本作のオープンβテストが始まったのは2004年8月13日なので,わずか1年3か月程での達成である。これは,手放しで「凄い」といっていいだろう。
しかし,なぜパンヤはこれだけのプレイヤーを集めることができたのだろうか? ゲーム自体が持つ面白さも理由の一つだろうが,それだけで到達できる数字ではない。
もし確固たる方法論があり,それを実践することで,多くのゲームが同じように成功するのであれば,それを教えてほしいと思うゲーム開発者/運営者も多いだろう。
そこで4Gamerでは,パンヤを運営するゲームポットの代表取締役社長 植田修平氏に直接会い,パンヤが100万IDを突破した理由を聞いてきた。植田氏は,確かにその方法論を持っていたのだ。
またパンヤや「君主」など,同社のゲームタイトルの今後についても聞いてきたので,業界人もゲーマーも,心して読んでほしい。
4Gamer:
こんにちは。何はともあれ,累計会員数100万突破おめでとうございます。上場も決まりましたし,おめでたいこと続きですね。
植田氏:
ええ,ありがとうございます。本当,いろんなことがあった1年半ですが,なんとかここまでやってきましたね。
4Gamer:
100万突破までの道のりを振り返ってみてどうですか?
植田氏:
最初は,NTTさんのフレッツユーザー限定のテストでしたね。これが,2004年の6月18日からだったでしょうか。ただこのときは,参加者に制限があるうえ,メディアへの露出もまだまだ少なかったので,参加者が多いとはいえなかったですね。
4Gamer:
4Gamerでも記事化したものの,確かにオープンβテストまでは,あまり大きく取り上げられなかったですね。完全にユーザー環境に制限がかかっているという意味で。
植田氏:
そうですよね。しかしこれが,逆にプラスに働いたのかな,と今では思っています。この限定されたプレイヤーで運営ノウハウを蓄積し,満を持してお盆休み時期という良いタイミング(編注:2004年8月13日)にオープンβテストを開始できました。多くのゲーマーに,「プレイしたくてもできない」という飢餓感を与えられたのか,オープンを開始した途端に,一気にプレイヤーが増えましたね。あまりの殺到に,我々も何かの間違いじゃないかと思ったくらいです(笑)。
4Gamer:
その「一気に」とは,具体的にどのくらいの数字ですか?
植田氏:
オープンβ開始半月で,5万人の登録がありました。その後も,毎月5万〜10万のペースで増え続けていましたね。まぁ月額無料だから当たり前ですが,このペースは正式サービス後も変わりませんでした。むしろ,正式サービス開始時には,アイテムなどがグッと増えたこともあって,ペースが上がりましたよ。
4Gamer:
しかしその正式サービスについては,色々とゴタゴタがありましたよね……。
植田氏:
はい,確かにゴタゴタもありましたね。当初は,月額500円+有料アイテムという料金体系を考えており,実際にそう発表しました。今でこそ状況はずいぶんと変わりましたが,当時はまだ,アイテム課金というシステムは珍しかったんですよ。日本では,まだ1社か2社がやっているほどで,データとしてはほとんどないに等しい状況でした。だから我々としても,どういった結果になるのか予測できなかったんです。そのため,社内でも揉めに揉めて,結局500円という低額でのサービスに落ち着いたんです。
ところがこの発表が,4Gamerさんなど各種メディアで報道された途端,それまで順調に伸びていた会員数が,ぴたっと足を止めたんです。あくまで発表をしただけで,有料化まではまだ日があったというのに,同時接続まで目に見えて下がってしまった。で,これはまずいな,と。我々としては安い金額に設定したつもりでしたが,大いに反感を買ってしまったんです。
4Gamer:
しかし普通の企業では,「とりあえずサービスを初めて様子を見よう」となるところを,ゲームポットの決断は早かったですよね。わずか10日後には,無料化のアナウンスが出ていたと記憶しています。英断でしたね。
植田氏:
様子を見ていても仕方がないと思ったので,すぐに決断しました。これができた理由は二つあって,一つは,結果が如実に出ていたということ。もう一つは,ゲームポットが比較的小規模な会社であるため,何事にも迅速に対処できたということです。この迅速さは,もちろん今も心がけています。大企業じゃ,こうはいかないでしょうね。
4Gamer:
その決断から1年と少しで,100万突破。結果を見れば,基本料金の無料化は正解だったと言っていいでしょう。
ただ,今では,基本料金が無料というのは珍しくなくなっていますよね。だから,これだけでは,100万突破という数字の理由には不十分ではないでしょうか。
ゲーム系のポータルサイトならともかく,1タイトルで100万アカウントを突破しているのは,パンヤ以外だとラグナロクオンラインくらいですよね。しかもパンヤは,そのラグナロクオンラインの半分くらいの期間で,100万に到達しました。あちらは月額課金なので単純には比べられませんが,それにしても,凄い勢いですよね。課金体系以外に,何がこの,いわば“勝因”となったのでしょうか?
植田氏:
色々と考えられますが,やはり最大の理由は,コミュニティをうまく育て上げられたことでしょうね。オフラインイベントはいつも盛況ですし,プレイヤーによる同人イベントも,これまでに2回行われています。参加サークルの代表者だけで1000人以上というから,規模もかなり大きいですよね。
4Gamer:
確かにパンヤのコミュニティは凄いですよね。以前聞いて驚いたのが,イラストコンテストの応募数です。これまでに合計で1500点以上の応募があるとか……。
植田氏:
ええ,最初は私達も驚きました。計3回やっていて,毎回500点くらいずつ応募があります。「ちゃんと描いた」ものだけで,この数字ですね。丁寧に色が塗られた,レベルの高い作品だけが,計1500点以上です。多くの人に愛されているというのがよく分かって,感動しました。この状態にもっていけたのが,100万突破の理由としては大きいですね。
それ以外の理由としては,「セカンドゲーム」というポジションを確立できたことが挙げられるでしょう。パンヤの場合,比較的短時間でプレイできますから。
4Gamer:
それは確かにありますね。プレイ中のMMORPGでもうすぐメンテナンスが始まるから,ちょっとパンヤを遊んで待とうか,みたいな。
植田氏:
実際,人気ゲームのメンテナンス中は,アクセス数がググッと増えるんですよ(笑)。ゲーマー達のニーズと,うまく合致したんでしょうね。
4Gamer:
そういえばパンヤの場合,1回1回が気軽にプレイできるというのはもちろんですが,最初の1回も,それほど手間がかからないですよね。これも,大きいのではないでしょうか。
広報担当の倉元氏。GMや企画担当,果てはイベント司会までこなす,なかなかのマルチタレントだ
植田氏:
おっしゃるとおりですね。パンヤは,最初から気軽にプレイできるような仕組みにしていて,それが今の数字につながっていると思います。具体的には,基本料金が無料というのも一つですが,あと個人情報をほとんど取らないというのも挙げられます。
企業は普通,少しでも多くの情報を取りたがるものですが,パンヤはとにかく遊んでもらうことを第一に考えていますので,最低限の情報しか取得していないんですよ。
ニックネームとIDと生年月日,……あとなんだっけ?(と,広報担当倉元氏に聞く)
倉元氏:
メールアドレスと性別,都道府県ですね。つまり,本名や詳しい住所などは聞いてないんですよ。
4Gamer:
本名を書かなくていいだけで,入力するときの抵抗感がずいぶん減りますね。