― 特集 ―
4Gamer取材スタッフそれぞれが見た,「E3 2006」

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 コンピュータゲーム業界にとって(そして4Gamer編集部にとっても),年に一度の“お祭り”といえるE3(Electronic Entertainment Expo)が,アメリカのロサンゼルスで,現地時間の5月10日〜5月12日に行われた。そこで得たPCゲームに関する情報は,すでに掲載した数々の記事で確認していただくとして,ここでは今回の取材に携わった4Gamerの編集/ライティングスタッフによる,E3 2006に関する雑感をまとめておこう。
 それぞれの立場で会場を歩き,見て,聞いてきたE3 2006。彼らは何を感じたのか,そしてどのタイトルが心に残ったのか。彼ら自身の言葉で語ってもらった。

 

Text by Kazuhisa

 今年もまた,世界最大のゲームショウが(やっと)終わった。あれほどまでに疲労し,あれほどまでに賑やかなゲームイベントは,世界に二つとないだろう。メーカーさん,各種メディアのみなさま,そして記事を読んでくれた読者のみなさま,お疲れ様でした。

この喧騒,この熱気……と,昨年までのE3なら書くところだが,今年はいたって健全。メディア入場規制が激しく厳しくなったことも幸いしている

 さて今回のE3は,いままでと大きく違った点が一つだけある。連載「Access Accepted」の第64回の欄外で触れているように,各社のブースを彩るブースベイブ達が鳴りを潜めていたのだ。とはいえ現実には「規制」ではなく「自粛」というレベルで収まっていたようだし,若いスタッフが数少ないブースベイブを見つけては「わーいわーい」と喜んでいたのは知っているが,その数は圧倒的に少なく,それがゆえにショーが持つ雰囲気さえ変わっていた。
 同じ話を知人にしたら「そんなに残念だったの?」と真顔で聞かれたが,そんな話をしているのではない。ブースベイブ達を最大限有効活用すべくガンガンと鳴りやまないBGM,大音響のダンスショー,特設スペースを設けたド派手なイベントなど,そのすべてが自粛に引きずられ,スコーンとなくなっていたのだ。それで変わるものというと,一つ。そう,「とても静かなE3」だったのだ(※1)

 私は地声が小さい。音の少ない静かな編集部においてさえ「あぁ?」と聞き返される有様だ。
 そんな私が毎年のE3で一番疲れるのは,重い装備を持って文字通り一日中歩き回ることでもなければ,原稿を書かないスタッフを蹴ったりなだめたりしながら三日三晩寝ないで起きていることでもない。LAのダウンタウンまでもが静寂に感じるあのやかましい会場で,慣れない英語で一日中大声を張り上げ続けることなのだ。
 体力は使うし喉は痛いし咳は止まらないし,結構ツラいのだ,これが。英語が堪能な人と声が大きい人をあれほどうらやましく思うのは,1年の中でE3だけだ。

 ついでだからちょっと説明しておこう。よく「なんでE3ムービーに音入ってないんですかコノヤロウ」というご意見を頂戴するが,答えは簡単である。ゲームの音など何も聞こえないしカメラでは拾えないのだ。ゲームのムービーだというのにひたすら現場のノイジーな喧騒が入っているのもどうかな,と思っていつも意図的に外してある。指向性マイク程度では何の効き目もない。それほどまでに,E3はやかましい。いや,やかましかった。

 

“911”以降恒例の「入場セキュリティチェック」。今年は入場者数を減らしてまで厳しい審査にしたせいか,ちっとも混雑してなかった。ありがたや

数少ないブースベイブと記念撮影。別に嫌いではないのだが,この人達ばっかり滅茶苦茶いっぱい人数がいるっていうのも,さすがに

PC関連のメーカーが集まるSouth Hallの初日開場前。昨年(だったか一昨年だったか)のように停電することもなく,無事に開幕した

 

 ところが今年のこの静寂ときたら! 例年どおりのつもりで音など撮るつもりはなく,指向性マイクを持っていかなかったのは,本気で後悔している。音を伝えられなくて申し訳ない>読者のみなさま
 大声は張り上げなくてよかったし,喉も痛くないし咳もしなかった。おかげで私が元気だったので,夜通し「原稿まだ?」と問い詰められて執筆スタッフはいい迷惑だったと思うが,まぁそれはそれ。取材なども比較的やりやすかったし,結果的にはありがたいE3だった。来年もこうだといいなぁ(※2)。女の子はいないし私は元気だし,スタッフはとても残念がるかもしれないが。

 最後になったが,正直なところ“あまり期待していなかった”Vanguard(※3),プレイヤーとしてちょっと期待大。インスタンスが大嫌いな私としては,混雑大いに結構,もめ事大いに結構。それらを含めて,それこそが「オンラインゲーム」である。他人がいて,思い通りにいかなくて不自由があるからこそ,その中に見いだす「自由」や,思ったとおりにうまくいったときが,たまらない。
 それがイヤなら――言い古されている表現ではあるが――シングルゲームを遊べばいいのである。プレイヤーには選択権があるのだから。時代の流れに逆行する思想ではあるが,ぜひ押し進めて完成させてほしい。途中で彼らが日和ったりしませんように。

 このほかの「あれがよかった」「これがよかった」という話は,このあとスタッフ達が山と書いてくれていることだろう。そちらも併せてお読みいただきたい。

 

Xboxばかりでなく,Vistaに備えてPCゲームもそれなりに盛んだったMicrosoft。昨年はMSブースの中にPCゲームがなかったので(外に出されていたのだ)今年はホッとした

MMORPGの,しかも拡張パック一つだけの出展なのに,異様に巨大なブースと群がる人で他を圧倒していたBlizzard。巨大ビジョンのムービーは,毎年撮影しようとして怒られる

これが噂の,派手な大音量イベントを行っていたNCsoft。北米市場での爆発的な成功はまだ収めていない同社の,次の一手や如何に

 

※1……とはいえ,あくまでも“前年比”というだけのことだが。それでも,TGSやGCに比べると圧倒的に賑やかだ。

※2……ところで一部メディアの報道によるとNCsoftが音関係で問題を起こしていたようだが,それに関しては現場を見ていないし知らなかったのでノーコメントとさせていただきたい。報道には“演説”の内容も書いてあるが,仮にも大きい会社の上層部があそこまでエゲつないことを言うものだろうか,とやや疑問ではある(言ったんだとしたら,人選を考え直したほうがよいのではないだろうか)。
 とはいえ,確かに韓国系のブースは全体的に異様にやかましかったし(一番やかましかったのが政府系のGame Infinityだというのが,またなんとも!),“自粛”という言葉の持つ意味の理解が全然違ったんだろうなぁ,というのは私も感じている。

※3……昨年までブースもなくプロモムービーだけだったし,まさか本当にできてるとは。

 

Text by Iwahama

 正直に言って,驚きはなかった。
 MMORPGの展示はグッと減り,代わってシングル,もしくは数人単位でプレイするRPGが台頭する……というのは,昨年のE3,およびGC(Games Convention)からの流れの延長線上にあるといえるし,ここ数年大作ラッシュだったFPSが徐々になりを潜め,今年はRTSが盛り返してくることも,ある程度予想どおり。
 驚くべき新作/新技術の発表……はとくになく,以前からささやかれていた噂を裏付ける程度の情報がせいぜいだった。
 「嬉しいサプライズ」を感じたいという欲求は,満たされずじまいだったわけだ。

 では,今年のE3はつまらなかったのか? ……とんでもない,実に楽しかった。というのも,見るブース見るブース,ほぼハズレなし。各ゲームデベロッパの技術力は,ここ数年で確実に底上げされてきており,ついに今年は,見るべきところが何もないというブース/ゲームに,ほとんど出会わなかったのだ。(あまり興味のないブースにはハナから入っていないというのもあるとはいえ,)これは,凄いことである。
 実際,“大手のブース以外で見た,興味深い作品”は,枚挙にいとまがない。例えば,「The Witcher」「Call of Juarez」「Anno 1701」「Jaws Unleashed」「Alliance: The Secret War」および「Project Offset」(仮題)と,それぞれのエンジンにも心惹かれた。
 「Titan Quest」「Dark Messiah of Might & Magic」は,大手パブリッシャのブースにあったわけだが,デベロッパは決して有名とはいえない(Dark MessiahのArkane Studiosは「アークス・ファタリス」で覚えている人もいるだろう)。しかし,どちらも一目見て,自動的に(?)買うことに決まった。
 そういえば今年,欧米人でも日本人/韓国人でもない来場者が多かった気がする。年々国際色が豊かになっているのは,間違いなさそうだ。出展ブースに目を向けてみても,アメリカ/日本以外の台頭が目立つ。韓国は言うまでもないとしても,「The Elder Scrolls IV: Oblivion」で飛ぶ鳥を落とす勢いであるBathesda Softworksを筆頭に,Buka Entertainment,1C CompanyとE3常連会社を抱えるロシア勢は,もはやE3の主役の側に立ちつつあるし,German Pavilionに軒を並べていたいくつかのドイツ企業も,今後の爆発を感じさせた。
 こういった「大手以外」「アメリカ/日本以外」ががんばっている限りは,E3もゲーム業界も,我々を楽しませ続けてくれることだろう。

 

 というわけで,大手のゲーム企業にお願い。“普通に面白いゲーム”は弱小メーカーからも数多く出てくるので,大手には,普通の枠を超えた,「サプライズ」のある企画/ゲームを見せていただきたいな,と。来年のE3も,期待していますよ。

 

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