4Gamer:
R.O.H.A.Nって,RMT業者と協業して「公式にRMTを行っている」と思っている人もいると思うんですが,いまお話を聞いている限りではちょっと違うんですね。
ユン氏:
ええ,全然違うんです。たぶん,一般のRMT業者が一番嫌っているのがR.O.H.A.Nだと思いますよ。これは時間が経てば,分かってもらえるでしょう。
RMTを実際に行っていて,決められたことを守らない人達に対しては,開発者としてそれを止めるために何でもやります。
我々にとって一番大事なのは,プレイヤーの信頼です。でも,信頼を得るのはとても時間がかかるんです。
4Gamer:
プレイヤーが運営側を信頼してプレイしてれば,自浄作用は働くものですよね。ただ,その信頼を得ようとする方法が,あまりにもダイナミックであるがために,誤解が生じているんでしょうか。
ユン氏:
そうかもしれませんね(笑)。
4Gamer:
RMT業者に真っ向勝負を挑んだメーカーって,初めて聞きましたよ。
ユン氏:
表ではRMTを認めないと言いながら,関連サイトでRMTのバナーが入っているところもあります。そういうのは,とても恥ずかしいと思うんですよね。
4Gamer:
確かに……。ところで,日本での課金はどうなるのでしょうか。それを聞こう聞こうと思って,ついRMTの話で盛り上がってしまいました。
ユン氏:
月額課金の方向で検討していますが,さらにゲームバランスを崩さない範囲で,日本向けのプレミアムサービスを開発しようと考えています。
4Gamer:
お?
ユン氏:
日本で一番有名な月額課金タイトルは「ファイナルファンタジーXI」だと思います。あの作品を見ると,課金額とプレイヤーのことをきっちり考えているのがよく分かります。
4Gamer:
方式や値段が同じような手法になるというヒントですか?(笑)
ユン氏:
さあ(笑)。まあ額はともかく,プレミアムサービスでは,自分のギルドのメンバーに携帯のメールを送るようなシステムを検討しています。これは,韓国で実際にやっていますし。
4Gamer:
それは面白そうですね。
ユン氏:
また,ゲームの中で一週間に一回名前を変えられるというようなサービスも,プレミアムサービスでは提供する予定です。ゲームの中で,ほかのプレイヤーと衝突したときに,そのキャラクターを捨てたりゲームを辞めたりしなくてはならなくなるという寂しい事態は避けたいんです。
オマケとして,性別も変更できるようにするつもりです。ゲームバランスとはまったく関係ないですけど,ゲームの楽しみはきっと増えますよね。
4Gamer:
なるほど。
ユン氏:
アイテム課金のタイトルなんかだと,どうしてもお金を稼ぐために特別なアイテムを量産することになっちゃいますよね。仕方ないと思います。だってアイテムの善し悪しが収益に直結するんですから。
でも,私はそういうことをしたくありません。
4Gamer:
名前を変えるのは面白いですね。でも,なりすましとかの問題はどう対処するんでしょうか?
ユン氏:
先ほどの話ではないですが,そういうネガティブな部分を気にしなくなるような面白いものを作れば,きっと解決しますよ。
4Gamer:
すべてポジティブシンキングで凄いですね。細かいゲームシステムとかも聞こうかなと思っていたんですが,それよりも面白い話が聞けて,満足しています。
ユン氏:
こんなこと滅多に話しませんけどね(笑)。
4Gamer:
日本のオンラインゲーム市場はこれだけ広がったのに,何かがすごく欠落している気がするんですよ。もしかしたら単なるマネーゲームになっちゃってるのかもしれませんね。いかに効率よくお客を集め,いかに効率よく“数字”を稼ぎ,いかにコストを下げ……。
ユン氏:
最後は?
4Gamer:
いかにIPOするか(笑)。
ユン氏:
なるほど(笑)。
4Gamer:
まぁ半分は冗談としても,エンターテイメントのコンテンツとして,何かすごく大事なものが抜け落ちてる状況になりつつあると思うんですよ。
ユン氏:
うーん,なんでしょうね。もしかしたら,私は自分が本当にゲームが好きでゲーマーで,好きだからこそ開発した作品でご飯を食べているので,そこはちょっと違うのかもしれませんね。
4Gamer:
なるほど。
ユン氏:
本田技研工業の創業者,本田宗一郎氏を尊敬しているんです。彼は何か作るときは,自分が乗ってみて,作っていたそうです。そういうスピリットに憧れています。
4Gamer:
それをオンラインゲームで実践しようとしているんですか?
ユン氏:
日本にそういうオンラインゲーム開発者がいれば,ぜひいろいろと教えてもらいたいです。
4Gamer:
いますよ,きっと。
ユン氏:
それが誰なのか,ぜひ教えてください。今まで日本,アメリカ,韓国で多くのゲーム開発者に会ったことがありますが,自分が開発したゲームを毎日3時間以上遊んでいるという人はいませんでした。長く遊ぶと肩こりしちゃうとか言って。これ自体が不思議でなりません。
4Gamer:
ちなみに社長は,どれぐらい遊んでいるんですか?
ユン氏:
毎日平均4時間以上は遊んでいます。ホントに毎日。それでも,高レベルのプレイヤーにはまったく追いつけませんけど! 彼らは私の先生ですね,ゲーム内でいろいろなことを教えてもらっています。
4Gamer:
自ら遊んで,自ら考えるんですね。ところで先ほど「日本仕様をちゃんと考える」とおっしゃってましたが,具体的にはどのように進めていくんですか?
ユン氏:
第一次クローズドβテストは,韓国に置いてあるサーバーを使い,YNK Japanのスタッフが韓国に行き,開発者と一緒に仕事をする予定です。そうすることで,YNK Japanの運営チームと,韓国の開発チームで,何を直せばいいのか,みんなで話し合うつもりです。その場にいれば話も早いですし。
4Gamer:
なんと。
ユン氏:
逆に第二次クローズドβテストでは,韓国の開発者が日本に来て,YNK Japanの運営チームと一緒にやります。これなら,ラグの心配もありませんしね。それでまた会議をして,オープンβテストをやっていいかどうかを判断します。もちろん,BBSなんかも見ますよ。
4Gamer:
ほうほう。っていまさりげなく
「第二次クローズドβテスト」とかいう言葉が聞こえましたが……(編注:これも本日6月14日に,公式リリースで言及された)。
ユン氏:
それで,もし内容的にまだ不足があると思えば,第三次クローズドβテストも行うつもりです。第二次クローズドβテスト,第三次クローズドβテスト,そしてオープンβテストのときには,私自身もこちらに滞在して監視するつもりです。たぶん私がいるほうが,開発者達も緊張感を持って仕事できると思うんですよ。
4Gamer:
開発者もたいへんですね(笑)。
ユン氏:
プレイヤーに何かをサービスしようとしている人は,みんなそうしなければならないと思います。適当な気持ちや浮ついた気持ちでやってはいけません。
4Gamer:
なるほど。クローズドβテストで日本のプレイヤーの意見を聞いて,何らかの変更をして,オープンβテストに突入するというのは,まさに公約どおりに行われるわけですね。
ユン氏:
ええ。ところで,韓国でクローズドβテストをやっていたとき,ある日テスターからの苦情を全部持ってきなさいと言ったことあるんです。何通あったと思います?
4Gamer:
200通ぐらいですか?
ユン氏:
1万2000通ですよ!(笑) それをどうしようかと思って,韓国のお盆休みのとき,開発者だけを会社に呼んで,全員に全部配って,「はい,読んで!」って(笑)。
4Gamer:
読むだけでも大変そうですね。
ユン氏:
だいたい悪口だったんですけど,それを読むことで,いろいろと学びました。
4Gamer:
同じようなことを日本で?
ユン氏:
やってみたいですねえ。
4Gamer:
その姿勢のままがんばってほしいと,素直に思います。
ユン氏:
日本はコンピュータゲームで一番有名で一番重要な国です。その国で自分のゲームを投入することに対して,すごくドキドキしています。
4Gamer:
どういう結果が出ると一番嬉しいですか?
ユン氏:
そうですね……。私は宮本茂さんをすごく尊敬しています。もしお会いできて,宮本さんから「お疲れ様」って言われたら,すごく嬉しいです(笑)。
4Gamer:
なんだか意外な答えが。
ユン氏:
あれほどの大先輩が例えばそう言ってくれるような恥ずかしくないゲームを作れたら,それだけですごく嬉しいです。それまでがんばります。
4Gamer:
すごくピュアですね。
ユン氏:
ちっとも追いつかないし足下にも遠く及びませんけどね。宮本さんが博士なら,私なんかまだ小学生になってるかどうか。
知ってますか? GDCで宮本さんが講演のために登場したとき,全世界の開発者が一斉に立ち上がってスタンディングオベーションを贈ったんですよ。それは全然やむこともなく,宮本さんが「もういいですから」って制しても,一向に止まらなかった。そんな大先輩から,死ぬ前に「よく頑張ったね」って,言ってほしいです。
4Gamer:
インタビューとしては珍しい会話が最後に出ましたね。すごい時間オーバーしちゃっているので,そろそろ……。最後に,4Gamerの読者に向けて何かメッセージをお願いします。
ユン氏:
私達にとって,ご飯を食べることが一番大切なことです。そしてご飯を与えてくれるのはプレイヤーです。つまり,プレイヤーは神様です。
4Gamer:
お客様は神様です,ということですね。真正面からそう言う人は,初めて見ました。その気持ちをどこかに置いてくることなく,ぜひこれからも頑張ってください。期待しています。今日はありがとうございました。
ゲーム内容,RMT,そしてBOTなど,R.O.H.A.Nにおいてユン氏は,終始一貫して“一般のプレイヤーのために,開発者として何をできるのか”を考えている。オンラインゲームを運営している企業の経営者に,ここまで言い切れる人が,果たして何人いるのだろうか。その痛快な持論は,ときとしてあまりにピュアで,聞いているこちらがなんだか気恥ずかしくなってくるくらいだ。
確かにその論や行動は,あるいはとてつもなく極端で常識外れなのかもしれない。インタビューをしている私も,その最中に何度かそう思ったことは否めない。しかし現在のところ,その説どおりに行動し,実践し,結果を出しているのもまた事実なのだ。
ユン氏とて,経営者である以上,ビジネスレイヤーを度外視しているわけではないだろう。だが適切なサービスをすることで,初めてプレイヤーはお金を出してくれるのだという考え方は,本来ならばオンラインゲームの開発/運営を生業とする人――というよりサービス業全般なのかもしれない――ならば,誰もが念頭に置いておくべきことではないだろうか。
R.O.H.A.Nの日本サービスでは,RMTが認められることは(とりあえずのところ)ない。だがその分,ユン社長なら日本のゲーマーに向けた何かを形にしてくれそうな,そんな予感がする。
ゲームに対する評価は,ゲームをプレイした上で下すべきもの。まずは6月23日にスタートするというクローズドβテスト,そして以降に予定されているオープンβテスト,正式サービスの動向を見守りたい。そして1年後に,「口だけだったじゃん」と言われていないようなサービス展開を期待したい。素直にそう思えたインタビューだった。