2006年6月9日に,日本サービスに関する発表会が行われたMMORPG「R.O.H.A.N」(ロ・ハ・ン)。発表会当日,韓国パブリッシャのYNK Korea(開発元のGeoMindは現在,YNK Korea傘下のYNK Gamesとなっている)の代表取締役社長である,ユン・ヨン・ソク氏にインタビューを行った。
韓国でのR.O.H.A.Nといえば,ゲーム内アイテムの現金取引(Real Money Trade,RMT)をオフィシャルに認めたことで有名なタイトル。以前からRMTに反対する立場をとってきたはずのユン氏が,R.O.H.A.NでRMTを認めることになった経緯,動機などを詳しく聞くことができた。
自身がゲーマーであるというユン氏の根底にあるのは,一般のプレイヤーが快適にゲームを楽しめる環境を作りたいという熱い思い。日本国内でRMTに頭を悩ませているゲーム業界関係者は必読,かも?
4Gamer:
わざわざ時間を取っていただいてありがとうございます。日本は何度目ですか?
YNK Korea代表取締役社長 ユン・ヨン・ソク氏(以下ユン氏):
そうですね……昔ラグナロクオンラインにお金を出していたことがあって,そのとき頻繁に行ったり来たりしていたんですが,最近はあまり来てないですね。久しぶりです。
4Gamer:
そういえばラグナロクへの投資などで一旗あげたと聞いていますよ。
ユン氏:
いえいえ,そんなに大した額ではないですよ。なにしろほかに変なおじさん達もいっぱい来ちゃいましたし(笑)。
4Gamer:
元々はスタークラフトの版権を取ってキャラクター商売などをしていて,その後パッケージ流通を始めたんですよね。
ユン氏:
そうです。
4Gamer:
結構長いことゲーム業界にいるのに,オンラインゲームをイチから手がけるのは初めてですよね。ちょっと意外でした。
ユン氏:
ええ。「R.O.H.A.N」が,開発から関わった最初の作品です。
4Gamer:
色々なことをやってきている方ですが,開発元GeoMind(編注:今はYNK Gamesとして子会社化されている)に投資したのはいつごろなんですか?
ユン氏:
GeoMindにお金を入れたのは2001年からです。
4Gamer:
2001年ということは,結構長いことやってるんですね。
もう5年経つわけですが,R.O.H.A.Nの開発は,紆余曲折して何度も作り直したと聞いています。最初の頃と比べてゲームはずいぶん変わってるんですか?
ユン氏:
時間はかかっていますが,ゲームに対する考え方は変わっていません。でもプレイヤーの意見を聞きながら,ゲームのバランスなどはどんどん変わってますよ。
4Gamer:
もう社内の誰もが諦めかけていたR.O.H.A.Nというプロジェクトに対して,社長自らが集中的に開発に参加し,最後のてこ入れをしたとか。
ユン氏:
そうですね……そんな雰囲気もあったこともあったんですが,最後に頼れるのは社員達の力,社員達の考えです。それらが全然変わっていなかったので,そのおかげで開発できたという感じですね。私はただ一緒になってあたふたしてただけですから(笑)。
4Gamer:
ところでR.O.H.A.Nは,積極的にRMTというものを――肯定したというか取り入れたというか――そういう作品ということで,有名だと思うんですが,その発想はどこからきたのでしょうか。
ユン氏:
やはりその話題ですね。望むところです(笑)。まず私の基本的な考え方ですが,ゲームのバランスを崩す可能性があるので,RMTには反対です。
4Gamer:
昔からそう言ってらっしゃいますね。
ユン氏:
ええ。しかしそれを単にダメだダメだと反対していると,逆にプレイヤーは隠れてそういうことをやるんですよね。そしてそれが大きな問題になってくるわけです。
まず,中国のゴールドファーマー達の存在,BOTの存在,そして,ゲームプレイという形では参加しないで取り引きだけをずっとやってる人達の存在。そして,そういう連中の存在による被害を一番受けるのは,普通に楽しんでいるプレイヤーなんです。
4Gamer:
そうですね。
ユン氏:
これは自明の理ですよね。わざわざ語るまでのことはありません。そして社内でも,その問題に対してどう対応するかを一生懸命考えてきました。そして出た結論は二つあります。
4Gamer:
というと?
ユン氏:
一つは,ほかの会社と同じく自社に責任が降りかかることを回避する手法。そしてもう一つは,R.O.H.A.Nの中だけで,我々の責任の及ぶ範囲で許容するという手法です。
4Gamer:
分かりやすいですね。
ユン氏:
まぁ今でこそこんな偉そうなこと言ってますが,βテストの頃などは,ほかの会社同様,RMTの存在にあえて目を向けないという形で運営していました。しかし隠れてコソコソRMTをやっている人達がいて,一般のプレイヤーがあまりにも被害を受けたため,公式に対策をする必要性にかられたわけです。
4Gamer:
意地悪を言うわけではないですが,責任が降りかかることを回避するだけのほうが簡単な手法じゃないですか?
ユン氏:
それはそのとおりです。うーん……例えば自動車がありますよね。
4Gamer:
ええ。
ユン氏:
自動車を運転する人がアクセルを踏み込むかどうかは,その人次第ですよね。するかもしれないし,しないかもしれない。でも,アクセルを踏んで加速して違反をしたとして,だからといって,もう二度と自動車に乗ってはいけない! という極端な対策を画一的に採るのは無責任だと思うんです。
4Gamer:
画一的ではない策というと?
ユン氏:
我々が採った策は,そこにエアバッグのようなものを導入することです。
4Gamer:
なるほど。なんとなく分かったような分からないような。
ユン氏:
そうやってプレイヤーを守ろうとしたんですが,ライバル会社からは「それはアクセルを容易に踏ませるだけじゃないのか?」という声が出てきていて,凄く残念です。
4Gamer:
でもアイテムベイ(編注:韓国最大手のアイテム現金取引サイト)とすんなり協調路線を歩めたわけではないですよね?
ユン氏:
結構戦いましたよ(笑)。なにしろまだ今は,法律的に彼らをどうにかするのは難しいですしね。
4Gamer:
そうですね。
ユン氏:
色々な部分で戦っていたんですが,最初に行き着いた妥協点は「中国のゴールドファーマーや,お金儲けしかしていない人達の情報をもらう」ということでした。とにかく,アイテムトレードというものを徹底的に根絶するのではなく,需要があるならあるで,安全な形でやってほしかったのです。ただ,さすがに個人情報なのでそれはNGだと言われました。
4Gamer:
ある意味共存の形に進もうとしたんですね。
ユン氏:
それなら,ということで,韓国人のプレイヤーなのかどうかを,携帯電話を使って確認するようになりました。
4Gamer:
結構同接が減りませんでした?
ユン氏:
結果的に,プレイヤーは30%近く減っちゃいましたよ(笑)。
4Gamer:
30%も!
ユン氏:
でもどうせ元々あまり歓迎すべき人達ではないので問題はありません。その一方,1000円とか2000円とか,少額の取り引きをして楽しんでいるプレイヤーもいるわけで,彼らを守るためのエアバッグとして,公認RMTというシステムを採用したんです。
4Gamer:
なるほど,そういう流れだったんですね。
ユン氏:
確かにRMTを認めるとはどういうことだという声もあるでしょう。しかしそんな口だけで何かを言うのではなく,まず結果を見てもらいたいと思っています。
まず個人認証のレベルを引き上げたことにより,中国からのプレイヤーが入れないようになりました。二番目が,アイテムを取り引きするときに発生していた詐欺などの被害が,ゼロに近くなりました。アイテムベイの人達も,これは奇跡だと言っています。
4Gamer:
ゼロに近い割には,ずいぶん活発な取引が行われてるようですね。
ユン氏:
アイテム取り引きの件数だけなら,「リネージュ」と「リネージュII」を合わせた数を凌いでいます。さすがに,取り引きの金額はずっと小さいですけれどね。でも,詐欺などに起因するクレームはゼロになっています。
4Gamer:
危険なRMTを封じ込めるためにRMTサイトと協調して,ちゃんと結果が出るというのもなんだか皮肉な話ですね。
ユン氏:
認めてはいけないと業界内で言われ続けましたが,本当にプレイヤーを守るためにやりました。警察にも何度も足を運びました。しかし,RMTやそれを取り巻く危険なものをすべて封じ込めるのが難しいというこの現状では,本当にプレイヤーのためであるということは,時間が経てばみんなに認めてもらえると思います。
そういえば,韓国のたいがいの大きなゲームメーカーには,入り口に大勢の警備員がいるのを知ってますか?
4Gamer:
ええ。プレイヤーが暴れて押しかけるんですよね。
ユン氏:
そうです。それらはすべて,自分達が招いていることです。YNK Koreaでは,夜中に出前を持ってきてくれるおじさんが,そのまますぐに社長室に入れるようになっています。警備員なんていません。それくらい,プレイヤーの立場に近づけているということではないかという自負があります。
4Gamer:
なるほど。RMTに関しては,日本でも昨今,大きな問題になっています。禁止にせよ許容にせよ,それを取り巻く環境があまりにも多岐にわたり,誰かが動いてすぐどうにかなるような問題ではないと思うんですよ。メーカーとプレイヤーばかりでなく,国家レベルで動く必要がある時期に来たのでは,と思っています。
ユン氏:
韓国では今度法律が変わるんですよ。
4Gamer:
おや,そうなんですか?
ユン氏:
ええ。ゲーム会社にとってはいいことですし,日本でも今後変わるかもしれませんね。
4Gamer:
内容についても少し教えてもらえませんか?
ユン氏:
いいですよ。
まず,アイテムを取り引きしたい人は,自分の個人情報を明らかにすること。例えば携帯電話なんかでできてもいいですね。そうすれば,他国のゴールドファーマー達がそうそう簡単には近づけなくなります。
そして,1か月に一定の金額以上は取り引きしない。最後に……。
4Gamer:
最後に?
ユン氏:
課税の問題ですね。詳細をここで語ると長いので省きますが,課税問題についてもクリアになってくると思います。韓国の多くの会社は,課税の問題があるために,RMTに対して積極的に取り組もうとしてこなかったようですね。
そしてこの結果,一番被害を受けるのは,中国の業者です。
4Gamer:
でしょうね。
ユン氏:
最初のパブリッシングの段階では開発会社が別だったので,こういうことがキチンとできませんでした。だから,自分で作るゲームは,ちゃんとしたかったんです。
アメリカにIGEという会社がありますよね。
4Gamer:
ええ。RMT最大手ですね。表に見える部分からは想像できないほど,色々な意味で規模が大きい会社ですね。
ユン氏:
ええ。そちらからの誘いもありました。手を組まないか,と。でも,我々が直接できるという自信を持っているんです。
4Gamer:
その根拠はどこから?
ユン氏:
私自身,かなりのゲーマーなんですよ。こんな公式の場で言うことではないですが(笑)。IGEは確かにお金をたくさん持っている立派な会社かもしれませんが,彼らはゲームをやってないでしょう。プレイヤーのことは,私のほうが遥かによく知っています。
こういう体制を作るときに,アメリカの有名なタイトルの開発者達とディベートしたことがあります。彼らも色々な意見を述べてましたが,最後に「正直になりなさい」と言ったら,みんな無口になってしまいました。
4Gamer:
……なるほど。その問題は,大きな声で真正直に討論できる状態ではないですしね,さすがにまだ。
しかし,RMTを取り巻くさまざまな問題,ゴールドファーマー,Bot,チート,税金問題などに対して,韓国や日本のメーカーはなぜなかなか動かないんだと思いますか?
ユン氏:
RMTもBOTもお客様だからでしょう。そのままにしておけばお金は稼げるじゃないですか。事実,我々のところも対策をした途端に30%のプレイヤーが減ってしまいましたからね(笑)。でも今は,不正にRMTをやっている人はいませんよ。
4Gamer:
その30%も,大半がRMT目的のBOTかもしれませんね。