― レビュー ―
ゲーマー向けブランド「Steel」の名を冠したヘッドセット
SteelSound 5H - USB
Text by 榎本 涼
2005年11月2日

 

■ユニークなブームマイクを持つヘッドセット

 

SteelSound 5H - USB
今回は秋葉原のパソコンショップ アークの協力でレビューを行った。同店では2005年11月2日現在,1万4800円で販売中だ。また同店では,ヘッドセット単体も1万1800円で販売している
問い合わせ先:パソコンショップ アーク 電話:03-5298-7020

 「SteelSound」は聞いたことがなくても,「Steelpad」なら聞き覚えがあるというゲーマーは少なくないだろう。今回採り上げるヘッドセット「SteelSound 5H - USB」は,Steelpadで知られるSoft Trading製のヘッドセットである。

 

 Steelブランドを知っている人からすると「さもありなん」といったところだろうが,SteelSound 5H - USBはガンメタルを基調とした色合いで,いかにもSteelブランドといったデザイン。可動部にがたつきはなく,しっかりした作りだ。
 ヘッドフォンは,比較的大きめのエンクロージャー(スピーカー本体「スピーカードライバー」を囲む部分)を採用する。オープンエア型なので,装着していても外部の音を聞き取れる一方,音漏れも発生するが,音漏れはそれほど大きくなく,オープンエア型にしては密閉度が高い。
 耳に接触するイヤーパッド部分は柔らかい布製で,頭部のパッドには合成皮革が用いられている。イヤーパッドの肌触りがよく,かつ,しっかりした装着感を得られるのは好印象。ただし,頭のサイズによるとはいえ,若干圧迫感がある。

 

左:オープンエア型といっても,外部の音が入ってくる"穴"は少ない 
中央:SteelSound 5Hのイヤーパッド 
右:SteelSound 5Hを取り付けた様子。少々締め付けがきつい印象も受ける

 

自由に引き出したり折り曲げたりできるブームマイク。写真のように,角度はかなり融通が利く

 ユニークなのは小型マイク「ブームマイク」で,普段は左耳側のエンクロージャーに収納し,使うときだけイヤーパッドから引き出せるようになっている。しかも,ブームマイクはかなり自由に折り曲げられ,やろうと思えばS字形にすることすら可能だ。見ための印象とは裏腹に,設定した角度でしっかり固定できる。業務用ブームマイクに匹敵する自由度と正確な位置決めが可能といってもいいだろう。
 ブームは全長約105mmと,比較的短い。よほど頭部の小さな人でもない限り,マイクは口元にはやってこないので,ブレスノイズ(息継ぎがノイズとなったもの)を拾うことも,ブームが視界に入って邪魔に感じることもないと思われる。ゲームに集中するに当たって,ブームマイクの存在を意識せずに済むのはいい。

 

 ブームマイクが接続されている左耳のエンクロージャーからはPC接続用のケーブルが伸びており,途中にリモコンが用意されている。リモコンにはロータリーコントローラーとスライドスイッチがあり,前者でヘッドフォン出力/マイク入力の全体的な設定を行う仕様だ。完全に絞ると,ヘッドフォン,マイクともにミュート(無音化)される。

 

 

■C-Media製のUSBサウンドデバイスが付属

 

延長ケーブルとUSBサウンドデバイス

 ヘッドフォンから伸びるアナログケーブルは1mしか長さがないが,2m長の延長ケーブルが付属しているため,最大3mまで延長できる。ただ,ケーブル長が1mか3mの二択というのは,帯に短したすきに長しといったところだ。標準が1.5〜2m程度で,追加で1.5〜2m程度の延長ケーブルが付属していれば,もう少し汎用性が高かったように思う。
 端子はステレオのミニピンで,緑色がヘッドフォン出力,ピンク色がマイク入力だ。Sound Blasterシリーズやマザーボードのオンボードサウンド端子なら,とくに意識せずとも利用できる。

 

 このほかSteelSound 5H - USBには,コンパクトなUSBサウンドデバイスが付属している。正確にいうと,同製品は単体のヘッドセット「SteelSound 5H」にUSBサウンドデバイスを付属させたモデルだ。USBサウンドデバイス自体はヘッドセットから完全に独立した製品である。

 

C-Media Electronics製USBサウンドコントローラのコントロールパネル

 USBサウンドデバイスは,C-Media Electronics製のコントローラを搭載している。PCとは当然のことながらUSB接続で,ヘッドセットとの接続用に,ミニピン端子を2系統用意している。
 基本的にはWindows 2000/XPの標準ドライバで利用可能だが,付属のCD-ROMからドライバをインストールすると,C-Media Electronics独自のバーチャルサラウンド技術「Xear 3D Sound Technology」を利用できるようになる。

 

 「メイン設定」タブから「DSPモード」を「Xear 3D」にすると利用できるXear 3D Sound Technologyは,サラウンド感という意味ではかなりしっかりしている。筆者はほとんど効果的なバーチャルサラウンドエフェクトに出会ったことがないのだが,SteelSound 5Hを接続すると,音が後ろに回ることをしっかり確認できるのだ。

 

 ただし,基本的にはソフトウェアベースの機能であり,サラウンド感の演出にはCPUパワーが必要となる。このため,正確なサラウンド感と同時に,CPU負荷率の低さも求められるゲームにおいては,マイナスに作用するかもしれない。EAXにも対応していないので,これらは記憶に留めておく必要がありそうだ。

 

 

■低音と高音に迫力があり,出力品質は優秀

 

 さて,ここからは入出力品質をチェックしてみることにしよう。詳細なテスト方法や用語については,Sennheiser Communications製ヘッドセット「PC 160」についてのレビュー記事を参照してほしいが,基本的にはサウンドカード「Sound Blaster Audigy 2 ZS Digital Audio」(以下Audigy2)にアナログ接続した状態で検証する。付属のUSBサウンドデバイスを使用した場合については,適宜断ったうえで評価することにしたい。

 

 まずヘッドフォンの出力品質だが,一言でまとめれば,低域と高域が相対的に強い。低域がかなり強めで,ベースの重低音まではっきりと聴き取れるようになっており,これが迫力のある音を生み出している。
 高域では,ドラムセットの一部で,「チッチッチッ」とビートを刻むハイハットや,要所要所で「ジャーン」と鳴るシンバルは,いずれも金属製楽器ということもあって高周波成分を多く含むが,これらが前面に出てくる。

 

 もっとも,頭の中というか,耳の中の広がりは十分で,音質的な圧迫感はない。一昔前のヘッドフォンだと,音圧(≒音の強さ)が高すぎて,耳に張り付いたような音になってしまい,広がりを感じられないものが多かった。この点SteelSound 5Hなら,同価格帯のオーディオ用ヘッドフォンに匹敵する音場感(≒音の広がり)が得られる。あえて以前レビューしたPC 160と比較しても,音場感はSteelSound 5Hのほうが上だ。もっとも,中域はPC 160と同じく,やや位相ズレを起こしており,あともう一息の印象だが。

 

 なお,付属のUSBサウンドデバイス経由だと,高域がやたらと強くなってしまい,本来再生されるべき音とはまったく異なるものになる。USBサウンドデバイスが持つD/Aコンバータが2世代くらい古いのではなかろうか。Audigy2とのアナログ接続だと生じないので,USBサウンドデバイス固有の問題と判断できそうだ。

 

 

■マイク入力にはクセがある

 

 次に,カタログスペック上は75Hzから16kHzの帯域に対応する,ブームマイクの入力品質を見てみよう。
 テストに当たっては,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」を利用して,周波数特性と位相をグラフ化した。テスト素材はPCで作成したモノラルの「ピンクノイズ」で,口の代わりにスピーカーをマイクの正面前方5cmのところへ置き,スピーカーから出力したピンクノイズをブームマイクで拾っている。

 

 まず,ピンクノイズの波形をリファレンスとして下に示す。

 

グラフの細かな見方は2005年9月12日の記事を参照してほしいが,簡単に説明しておこう。上は周波数特性をグラフ化したもので,音の大きさを周波数(音の高さ)別に見られる。少々難しいかもしれないので,そのときはとりあえず「こういう波形の音を出力しているのだ」と理解してもらえればOKだ。下は位相のグラフで,青い扇状の部分に波形が入っていれば,ヘッドセットとして合格ということになる

 

 そして,Audigy2のマイク入力と接続したときの波形は下に示したとおりである。低域は60Hz付近から,周波数が低くなるにつれて落ち込んでおり,ほぼスペックどおりといえる。高域は8kHzから上が落ち込んでいく。16kHzまでの対応を謳うスペックとは差があるものの,男声がだいたい80Hz〜8kHzの間で収まることを考えれば十分だろう。位相は優秀でこそないものの,問題のないレベルだ。

 

Audigy2のマイク入力とアナログ接続したときの波形。リファレンスと比べて60Hz以下と8kHz以上が落ち込み,さらに,500Hz付近,1.5〜2kHz,4〜8kHzが高めになっているのが分かる

 

 気になったのは,1.5〜2kHz,4〜8kHzにかけての両周波数帯域が相対的に強めである(≒音が大きい)ため,PCに内蔵するファンの回転音などといった,室内の中高域ノイズまで拾ってしまう点だ。このため,入力レベルを高く設定しすぎると,マイクで入力した高域ノイズがヘッドフォン部から出力され,さらにそれがまたマイクで拾われてしまう,「フィードバック」と呼ばれる現象が発生してしまった。
 フィードバックが発生すると,「キーン」や「ピー」といった,その場には元来生じ得ない,騒音に近い音が発生するので,使用していて気になったら,適宜入力レベルを下げる必要がある。

 

 ただ「はいそうですか」と,入力レベルを下げるわけにはいかないのが,この問題の奥深さいところだ。SteelSound 5Hのブームマイクについて,詳細な仕様は明らかになっていないが,それほど入力感度は高くない。つまり,マイクの入力レベルが低い(≒音量が低い)と感じたら,サウンドデバイス側のマイク入力感度を上げておかねばならないのである。このバランスを取るのは,場合によっては少々面倒な作業になる。

 

 では,付属のUSBサウンドデバイスを用いるとどうなるか。それを以下に示した。まず,低域の落ち込みがアナログ入力時よりは改善する。位相は非常に優秀だ。だが,1.5〜2kHz,そして4〜8kHzがリファレンスと比べて大きい点は同じで,結局「高域が相対的に強くなり,高域のノイズを拾ってしまう」という問題そのものはアナログ入力時と変わらない。また,10kHz以上の落ち込みが,アナログ入力時よりも顕著になる。

 

USBサウンドデバイスを用いた波形。周波数特性がずいぶん変わっているように見えるが,その実,全体の傾向はアナログ接続時と変わっていない

 

 以上の結果から,マイクそのものが高域のノイズを拾いやすい特性を持つと結論づけられる。「ぱ/ば行」のような,破裂音を強く発音しがちな人がSteelSound 5Hを用いると,チャット相手にはこれらが強く聞こえてしまい,全体が聞き取りにくくなる場合がある。
 位相のテスト結果や,実際に使用した感覚では,マイクにノイズキャンセリング機能は付いていない。高域ノイズだけでなく,ほかの室内ノイズも相対的に拾いやすい点には注意が必要と思われる。

 

 

■環境を選ぶが,ヘッドフォン品質は魅力的

 

 SteelSound 5H,つまりヘッドセット単体で評価すると,やや高価だが,広がりのある音場感を含め,ヘッドフォンの品質は高く,モノとしてのデキもいい。
 マイクは,ノイズキャンセリング機能がない点と,何より,高域が強くてフィードバックを起こしやすいというクセが気になる。ゲームのBGMを別途スピーカーなどから出力していると,セッティングにはかなり苦労するはずだ。使ってみて気になるようなら,思い切ってマイクは別途用意し,ヘッドフォンとして使うのもアリだろう。
 もっとも,スピーカーを併用せず,ヘッドセットでサウンドの入出力すべてをまかなうなら,マイクの問題はある程度解決する。マイクの入力音質を気にせず,発した言葉が相手に伝わればそれでいいというのなら,問題にすらならないかもしれない。

 

 なお,USBサウンドデバイスは,バーチャルサウンド効果をどうしても体感したい人専用ということになる。入出力ともクセが強く,とくに出力時の高域が強すぎて,手放しでは勧められない。今回は実勢価格1万5000円前後のSteelSound 5H - USBとして評価を行ったが,購入するのであれば,価格も1万2000円前後と安価になる,SteelSound 5H単体のほうがよりお勧めだ。

 

タイトル ヘッドセット
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/steel_sound_5h/steel_sound_5h.shtml