― レビュー ―
定番ヘッドフォンメーカーのゲーマー向けヘッドセット
PC 160
Text by 榎本 涼
2005年9月12日

ヘッドセットをどう使うか

 ヘッドセットは,もはやゲーマーの必須アイテムといっていい。より正確を期せば,FPSやRTS,アクション性の高いMMO/MORPGといった,一刻一秒が勝敗を左右するタイプのオンラインゲームにおいて,仲間と意思疎通を図るには必須のアイテムといえる。(ショートカットを駆使したとしても)キーボードをいちいち打つ必要からは逃れられないテキストチャットと,普段と同じように話すだけでいいボイスチャットでは,スピードも手間も比較にならないからだ。

 4Gamerで本格的なヘッドセットのレビューを行うのはこれが初めてなので,簡単に定義づけしておこう。ヘッドセットとは,ヘッドフォンと,「ブームマイク」と呼ばれる小型マイクが一体になったもので,通常,ヘッドフォンを正しく装着するとブームマイクが口元にやって来る製品のことを指す。もちろん例外も多数存在するが,4Gamerで採り上げるヘッドセットのほとんどはこの形状になると思われるので,基本的にそう理解してもらって差し支えない。
 ヘッドフォンとブームマイクがセットになっているため,ヘッドセットの接続インタフェースは,PCなどのヘッドフォン出力(あるいはライン出力)に接続するものと,同じくPCなどのマイク入力(まれだが,ライン入力の場合もある)に接続するものの,2系統が用意されている。接続端子は「ミニピン」と呼ばれるものが一般的だ。ただし,最近はUSB接続の製品が現れており,その場合はPCのUSB端子に接続するだけで,ヘッドフォンもマイクも有効になる。

 さて,ヘッドセットを使ってボイスチャット,と一口に言っても,ヘッドセットをどう使っているかには個人差がある。筆者の周囲で調査してみたところ,以下のようなユーザー層に大別できたので紹介しておきたい。

(1)ヘッドセットのヘッドフォン端子とマイク端子の両方をゲーム用PCに接続し,ゲームの音情報のすべてをヘッドセットでまかなうタイプ。このとき,ヘッドフォンにはボイスチャット内容だけでなく,ゲームの効果音やBGMも流れてくる

(2)ヘッドセットのヘッドフォンを利用せず,首にかけてブームマイクの位置を調整したり,ヘッドフォンのない(マイクだけの)ヘッドセットを用意したりして,マイク端子のみをゲーム用PCに接続するタイプ。このとき仲間の声は,ゲームの効果音やBGMといっしょにスピーカーから出力しているか,別途用意した好みのヘッドフォンなどを利用して聞いている

(3)外部の音が聞こえやすい「オープンエア型」と呼ばれるヘッドフォンを採用したヘッドセットを用意し,ボイスチャットソフトを動作させた(ゲーム用PCとは別の)PCにヘッドフォン端子とマイク端子を接続して,この別のPC上でボイスチャットソフトを起動するタイプ。ヘッドセットはボイスチャットにのみ利用し,ゲームの効果音やBGMはゲームをインストールしたPCから出力している

 ここで重要なのは,(1)(2)(3)で,求めるものが異なる点である。ユーザー数が最も多い(1)のケースでは,純粋にヘッドセットのとして総合品質が最大級に問われる。(2)では,一にも二にもブームマイクの入力性能。(3)だと,品質以前に,耳をすっぽり覆って外部の音が聞こえにくくなる「密閉型」と呼ばれるヘッドフォンを採用しているヘッドセットは選択対象外となる。また,FPSでは(1)(2)が多め,MMORPGでは(1)が多めといった具合で,ゲームのジャンルによっても,どれが最適解かは異なってくる。
 では,どうやって評価を行うかだが,4Gamerでは以後,基本的に(1)に軸足を置きつつ,(2)(3),あるいはそれ以外のユースモデルに関しては適宜触れていくというスタンスを取りたい。とにもかくにも製品評価なので,(2)の人はブームマイクのところや装着感を中心に読み進めていただければと思う。もちろん,オープンエア型/密閉型に関しては言及するつもりだ。

Sennheiser製のゲーマー向けヘッドセット

PC 160。今回は同製品を取り扱っているパソコンショップ アークの協力でテストを行った。同店では2005年9月12日現在,1万1880円で販売中だ
問い合わせ先:パソコンショップ アーク 03-5298-7020

 というわけで,第1回となるヘッドセットレビューでは,コンシューマ/プロ向けを問わず,マイクやヘッドフォンを数多くリリースしている独Sennheiser Communications(以下ゼンハイザー)の「PC 160」を見ていくことにしよう。同製品については,日本語Webサイトも用意されている。
 PC 160はヘッドフォンを装着すると口元にブームマイクが配置されるタイプの典型的なヘッドセットで,ヘッドフォンは外部の音が聞こえるオープンエア型。イヤーパッド自体は大きすぎず小さすぎず,装着感も悪くないのだが,ヘッドバンドによる頭部の締め付けが結構強めで,頭頂部に向かってその割合が高くなる。頭の形状によってはイヤーパッドの下側が顔から多少浮いてしまうかもしれない。

 

左:PC 160のイヤーパッド 右:PC 160を取り付けた様子を後ろから見たところ。とくに赤く色を付けたあたりの締め付けが強い

 

ヘッドフォンは「スピーカードライバー」と呼ばれるスピーカー本体と,それを囲む「エンクロージャー」から成り立っている。PC 160はエンクロージャーに対して意図的に穴や隙間が空けられているオープンエア型である

 ヘッドフォンの音質は,大きく分けてスピーカー本体である「スピーカードライバー」と,これを箱状に囲む「エンクロージャー」の品質で決まる。PC 160はオープンエア型なので,エンクロージャーに穴が開いていて音漏れが発生する代わりに,外部の音を聞き取りやすいタイプというわけだ。頭部ヘッドバンドや耳を覆うイヤーパッドのうち,肌と接触する部分には合成皮革が用いられている。可動部に嫌ながたつきがなく,ゼンハイザー製品らしい,しっかりした作りになっているのはいい。

 

 左耳側のイヤーパッドからはブームマイクが伸びているが,指でつまんで位置調整を行うのに配慮して,中央部が比較的柔らかいラバーで覆われている。マイク本体が埋め込まれている先端はプラスチック製だ。小型なので視界を遮ることはまずないだろう。
 なお,マイクはノイズキャンセル機能対応。最近では携帯電話の標準機能なので説明するまでもないだろうが,ノイズキャンセルとは,周囲の雑音を加工して減衰させ,収録したい音(この場合はプレイヤーの肉声)だけをクリアに入力しようとする機能のことである。

 

 同じく左側のイヤーパッドからはPC接続用のケーブルが伸びているが,途中にはリモコンが用意されており,マイクのオン/オフとボリュームの上下を行える。ボリュームはノブを最小に設定しても小さい音で鳴り続けるタイプで,完全なミュート(=ヘッドフォンをオフにすること)はできない。ケーブル長は3mなので長さは十分,むしろ長すぎるくらいだ。
 ケーブルの先にはアナログのミニピンが2個用意されている。もちろんこれはヘッドフォン端子とマイク端子で,緑色が前者,ピンク色が後者用。ゲーマーにとって事実上の標準サウンドカードである「Sound Blaster」シリーズや,マザーボードのオンボードサウンドでは,とくに意識することなく差せば利用可能だ。仕様としてはとくに触れられていないが,Sound Blaster互換製品でお馴染みの5V電源供給タイプなら動作するので,これら以外でも,Sound Blaster互換のサウンドカードなら問題ないだろう。音楽編集用のいわゆるオーディオカードや,一部のUSBサウンドデバイスでは,マイクが動作しない場合があるので注意してほしい。

ヘッドフォンは視聴で,マイクは測定で評価

PAZ Psychoacoustic Analyzerの起動直後

 ここからは肝心要の音質について評価していきたいが,ヘッドフォンの評価は試聴で行っている。まずは,筆者の耳を信頼していただきたいと思う。
 マイクの品質評価に当たっては,少々特殊なテストを行っているので,ここで解説しておきたい。一言でまとめるなら,マイクのテストにおいては周波数と位相の両特性を,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(PAZ)を利用して,それぞれグラフ化している。

 周波数も位相も初耳という人は多いだろう。ここでいう周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測した結果だ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表すことが可能で,周波数特性とは,この高い音や低い音をHz単位で拾ってグラフ化し,「xxHzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,本稿でもこの範囲について言及する。

 右がPAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「オーディオレベル」という)を示す。また,一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。一般論,と断ったのは,ヘッドセットのマイクの場合,これが100%当てはまるとは限らないからだ。理由は後述する。

位相グラフ。青い扇の中であれば,仮にズレていてもステレオには聞こえることを示す。モノラルピンクノイズを入力した場合,オーディオ機器なら,例のように真上に向かって1本線になっているのが理想だが,ヘッドセットの場合はこの枠の中に波形が入っていればOKだ。ただし,赤の範囲まで波形が出ると「逆相」といい,ヘッドセットとして失格になる

 位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省く。右のグラフを見てほしい。グラフ下部にある半円を基準として,グラフが真上にまっすぐ伸びていれば正常。そうでなければ,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)ことを示している。音楽を再生していて左右の音がズレていると違和感を感じることがあるが,そういった現象を視覚化できるものと考えてもらえばOKだ。
 ヘッドセットの場合,マイクに入力した声は仲間に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要というわけである。

 テスト素材にはPCで作成したモノラルの「ピンクノイズ」を用いる。全周波数帯域にわたり均等なエネルギーを持ち,周波数特性グラフ上ではやや右下がりになる,オーディオ計測でよく用いられる素材だ。テストに当たっては口の代わりにスピーカーをマイクの正面前方5cmのところへ置き,スピーカーから出力したピンクノイズをマイクで拾う。
 入力側は「Sound Blaster Audigy 2 ZS Digital Audio」(以下Audigy2)。テストに当たっては,事前に同カードの入力面をチェックし,カード側に位相ズレなどの問題がないことを確認している。

ゲーム向けにチューニングされた音質傾向

 初回ということもあり,テスト方法の説明が長くなったが,まずはヘッドフォンの再生品質をチェックしていこう。前提条件として,オープンエア型ヘッドフォンは,装着時に圧迫感がない一方,密閉していないぶん,低域(=低い音)の周波数特性は悪くなる傾向にある。また,スピーカードライバーは一般的に,物理的に大きいほうが低域再生能力は優れている。PC 160のスピーカードライバーはヘッドフォン用として中くらいの大きさだ。
 以上から筆者は,低域が弱くなりがちで,相対的に高域が強く聞こえるものと想像していたのだが,実際はまったく逆。15Hz〜23kHzまで再生できるとするカタログスペックをどこまで信じるかはともかく,低域が強く,高域が相対的に弱く聞こえるのは確かだ。また,中域は若干位相ズレを起こしている印象を受ける。
 と,厳しいことを書いたが,実際には2万円以上で販売されているオーディオ専用のヘッドフォンの中にもこういった製品は存在するので,ヘッドセットのヘッドフォンとしてはがんばっているといっていい。少なくとも数千円クラスのヘッドフォンのような「聞こえればいい」レベルではまったくない。ちなみに,音漏れは極端ではなく,ある程度抑えられている。

PC 160のマイク入力特性

 次にブームマイクだが,カタログスペック上の対応周波数は80Hz〜15kHz。計測した周波数特性は右に示したとおりだが,これを見る限り,この帯域はカバーしているといっていいだろう。位相も優秀だ。
 とくに人間の声,とくに男声に含まれる80〜500Hzの帯域をしっかり集音できている点がいい。安価なヘッドセットでは,この低域をカバーできないことが多く,やたらと高い音が耳に付く,甲高いだけの音(よく「安っぽい音」と揶揄される音だ)になりがちだが,PC 160のマイクなら低い声でも比較的しっかり入力できる。グラフとしては掲載していないが,ブームマイクの位置を変え,スピーカーの正面にならないようにしても,品質に差は少なく,一定範囲の音はブームマイクの向きにかかわらず拾えていた。

 スペックどおり15kHz以上の高域が弱いものの,15kHz以上という帯域は女声ソプラノのボーカルでもない限り不要。それどころか,このあたりを拾ってしまえば,その分単純にノイズ量が増え,結果として,より重要なボイスチャットの音声に悪影響を与えてしまいかねない。オーディオ機器の評価なら「高域の入力特性が全然ダメ」と断じてしまいそうになる周波数特性に見えるが,その実,ヘッドセットのマイクとしては正解なのである。
 ちなみに,スピーカーをオフにして,静かにしていると,ノイズキャンセリングの効果で,ノイズ(この場合は,室内に自然にある音といい換えてもいい)はほとんど拾われない。PCのファンが耳に付くような環境であっても,プレイヤーの声だけをしっかり入力可能だ。

PC 160を利用するときのポイント

 以上の評価を踏まえつつ,PC 160を利用するうえで注意しておきたいポイントを挙げる。まずヘッドフォンだが,とくに設定する必要はないだろう。サウンドカードなどのサウンドデバイス側の出力はデフォルトで十分。必要に応じてリモコンで下げればいい。

 

 PC 160のブームマイクは感度のいい「コンデンサ型」と呼ばれるタイプのマイクを採用していると思われるが,いずれにせよ,そのままサウンドカードへ入力すると,音が割れてしまうだろう。サウンドデバイス側の設定を利用してマイク入力レベルを下げておくといい。入力レベルの設定は,実際に喋ったりしながら調整するのがベターだが,入力レベルを半分以下に指定しても,PC 160のブームマイクならたいていの場合は機能するはずだ。
 なお,マイク入力とライン入力の両方を持っているAudigy2のようなサウンドカードに接続する場合は,マイク入力に取り付けるのがベターといえる。これは,マイク入力とライン入力で,入力時の感度(正確には「インピーダンス」というが,"感度"という解釈でかまわない)が異なるためだ。ほとんどのマイクはライン入力に接続すると,小さいレベルで入力されてしまう。

 次にブームマイクだが,口元より少し下に来るようセットするといい。低域は口より下側で拾われるという特性があるからだ。また,真正面だと吐息をノイズとして直接拾ってしまい,非常に聞き苦しくなるからでもある。

高価だが,マイク入力品質の高さは魅力

 まとめよう。1万円強という価格をどう判断するかだが,「情報としての声」を確実に仲間へ送ることのできるPC 160が,LANパーティや大会などといった,ノイズの多い環境で威力を発揮することは想像に難くない。音楽や動画鑑賞にも積極的に用いる,というなら評価は変わってくるものの,ゲーム用として捉えるなら,ヘッドフォンの品質も及第点を大きく超えている。投資に見合うだけの品質を持ったヘッドセットといえるだろう。

 

タイトル ヘッドセット
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A