レビュー : プリンセスメーカー5

育成ゲームの王道もとい王女道作品は渾身の長編

プリンセスメーカー5

Text by 天野譲二
2007年5月11日

 

»  育成シミュレーションの元祖にしてロングセラー「プリンセスメーカー」シリーズの本流として,舞台・システム・ボリュームのすべてが従来作品と異なる「プリンセスメーカー5」。当サイトでの連載記事も完結したいま,歴代作品をすべてプレイしてきた天野譲二氏が,その真価に迫る。

 

コマンド/システムの拡充で,26倍遊べる?

 

元祖育成ゲームの最新作「プリンセスメーカー5」

 1991年のPC-9801版発売以来ロングセラーとなった,ガイナックスの「プリンセスメーカー」(以下プリメ)シリーズ。外伝的作品を除くと,1993年の「2」,1997年「ゆめみる妖精」,そしてキャラクターデザインが天広直人氏に変わった2006年の「4」(プレイステーション2版は2005年)を経て,1作目からキャラクターデザインなどを担当してきた本シリーズの重鎮・赤井孝美氏の手による本作「プリンセスメーカー5」が,2007年3月に発売された。赤井氏が関わった作品として見ると,2001年「プリンセスメーカーQ」(クイズアドベンチャーゲーム)から実に6年ぶりである。
 1作目の大ヒット以降,プリメを意識したゲームが増え,育成要素を重視した作品も多々発売されたが,いつしかキャラクターゲームはノベル/アドベンチャー作品が主流に落ち着いた。そんななか,正式ナンバリングタイトルとして元祖育成シミュレーションの衣鉢を継ぐ大作「5」は,王道を歩むことがそのまま意欲的な取り組みになっていると評しても,過言ではないだろう。

 システムの大枠はほぼ従来作品を踏襲している。プレイヤーは保護者として,10歳から18歳まで,執事役のキューブの助けを借りつつ娘を育てる。娘の育成は,習い事やアルバイトなどからなるスケジュールを組み,経過を見ては修正していくことが中心で,かなりの部分「見ている」ゲームである。習い事やアルバイトは娘の体力や知性といったパラメータを上下させ,剣術や商売などというスキルを身につけさせていく。
 そうしたスケジュールや,コマンド選択式RPG仕立ての「冒険」(シリーズ従来作品では「武者修行」),はたまたストーリー上出会う人々との交流などにより,娘の性格や嗜好が変化し,それが娘の未来を決める。教師やお嫁さんといった,ごくありふれた結末もあれば,トゥル−エンディングともいうべきプリンセスの座も用意されている。プレイヤーはそうした可能性を念頭に置きつつ,自分の望む方向に娘を導いていくのである。

 シリーズ最新作となる「5」には,数々の新機軸が盛り込まれている。従来作が中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を舞台としていたのに対し,今作の舞台は現代日本だ。登場人物の大半はもちろん日本人,街にあるのもファミレスやコンビニと,我々にとって馴染みやすいもので,メイド喫茶や同人誌即売会イベントまで登場する。そうした世界で育てられる娘の生活は学校に通うことが中心で,習い事やアルバイトは,部活動と並んで放課後に行うものとなっている。
 また,従来は人間と魔族の大戦争後に,主人公が娘を育て始めて……というオープンな設定だったのに対し,今作では(オープニングムービーで,ある程度の示唆はあるものの)ゲーム開始時点で娘の正体がいっさい明かされておらず,ゲームを進めるにつれて明らかになるという,一種のアドベンチャー仕立てになっている。現代日本でプリンセスを目指すといっても,斯界のやんごとなき方々に連なろうというわけではなく,あくまで本来娘が属していた異界のプリンセスになるという意味なので,その点は誤解なきように。

 

娘の外見は,小学生,中学生,高校生と3段階で成長していく。娘に着せる服のなかには,年齢や体型による制限のあるものも含まれている

 

1週間のスケジュールは最大3コマ×6日間設定可能。アルバイトや習い事には3コマ使うものも 舞台となる姫宮町と浜崎市には山や海,遊園地から高級住宅まである。横浜あたりがモデルか? アルバイトや習い事で各パラメータが上下する。副作用のあるものも多いので,しっかり確認したい

 

同人誌即売会が開催されるわ,アスキーアートを使ったメールが来るわ,メイド喫茶が出るわ,そこで働くとストーカーに狙われるわと,現代の日本らしい風景がところどころに挿入されている 勉強のさせすぎで視力が低下。すわ眼鏡っ子になるかと思いきや,結論はコンタクトレンズ

 

 

親や友人との関係が重要な要素に

 

本作ではプレイヤーの分身である親の性別と職業を選択可能になった。娘と親の名前,誕生日,血液型を設定。O型の親とAB型の娘を設定してみたが,義理の親子と早めに気づかれたりはしない

 先ほど「全体のシステムはほぼ従来作品を踏襲している」と書いたが,その一方でゲームのボリュームは大幅に拡充されている。従来作におけるスケジュール作成は,アルバイトや習い事,バカンスや休息を1か月当たり3件入れるだけだったのだが,これが今作では1週間単位となった。
 しかも1週間は日曜日を除く平日6日間が(門限の設定にもよるが)最大3ブロックに分けられ,合計18コマまでの予定を入れられる。ミシェル・フーコーの言説ではないが,このシリーズにおける「近代化」もどうやら,時間秩序を身体化することであるらしい。

 もちろん,すべてのコマを埋める必要はないし,一度設定したら変更しないままでもプレイは進むのだが,単純に比較してみると今作のボリュームの一端が分かる。従来作におけるクリアまでの総予定コマ数は3×12×8=288コマだ。これに対し今作は18×52×8=7488コマ,実に26倍である。プレイ期間は従来作同様8年間なのだが,そのボリュームは半端でなく長大なものとなっている。
 また,今作では親子関係における時間要素もかなり変更されている。従来作においては,スケジュールの実行中を除いて保護者(プレイヤー)はほとんど娘と相対していたわけだが,現代日本でそんなことができる親御さんは多くないだろう。
 保護者たるプレイヤーは今作で,娘が身に着けている特殊な髪飾りを通して状況を把握しつつ,随時娘に指示を与える。そうしたわけでプレイヤーは登下校時や授業の合間でも,娘とその友達の会話に介入できてしまう。その一方で,従来作品ではあまり問題にされていなかった親子の親密度がクローズアップされていて,親子の親密度=依存心によって,娘の自主性や素行が変化する。

 娘が家にいるときの画面も,従来作とは一変している。今作では2頭身のキャラクターが,見下ろし視点で描かれた自室の中で,そのときの気分や体調によってチョコマカと動き回る「MOE」(Motion of Emotion)システムが導入された。「お出かけ」や「会話」など,娘を呼び立てて実行するコマンドは,この2頭身キャラクターを選択して指示する。

 従来作と比べたときの新機軸は,大枠としてのゲームシステムばかりではない。例えばプレイヤーは今作で,娘の母親にもなれる。娘が高校生になっても依然として一緒にお風呂に入り,娘の「魅力」に磨きをかける機会として使うなど,母親ならではのプレイテクニックも存在する。
 また,親子関係にまつわる要素として,今作でクローズアップされているのが娘の「反抗期」だ。中学あたりで娘は反抗期を迎え,ゲーム内で「話しかけ」ても,機嫌のよい返事を返してくれなくなる。一定の期間を過ぎれば終息するし,パラメータへの悪影響はそれほど大きくないので,どちらかというと子育てゲームとしてのフレーバーという性格が強いように思われるが,例えば父親でプレイしていて,自分の衣類と父親の衣類を一緒に洗濯するなと言われるなど,なかなかショッキングな演出もある。

 また,従来作品で友人は女の子中心,男の子は王子様的役割を担ったキャラクターが多かったのに対し,本作では普通の学校生活らしく,小学校時代から男女の友人キャラクターが登場する。無条件で登場するキャラクターのほかに,特定のパラメータが一定数値以上になる,特定のアイテムを入手するといったことが登場条件になっているキャラクターもいる。
 娘の通う学校は小学校から高校までエスカレーター式なので,一度知り合ったキャラクターは減ることがなく,娘が成長するにつれ,どんどん増えていく。機会次第では芸能人など「住む世界が違う」人間とも知り合えるだろう。

 プリメ従来作はいかに娘のパラメータを上げていくか,フラグを立てていくかが攻略の重要な鍵だったが,本作では彼らとの交友や交際によってパラメータが変動する部分が大きく,スケジュール設定と並んで注意すべき要素となっている。いかに良い友人を作り,良い恋人を作らせるかが,本作における娘の将来に関係してくるのである。
 ただし,友人達は娘とほかの友人との関係に嫉妬したりするから厄介だ。誰かが好意を持つ男性と仲良くなったりするとてきめんであるし,同性同士でも,友情をめぐる嫉妬は発生する。無二の親友関係でもない限り,あるときから一方的に絶交を言い渡してくるようになるのだ。誰とでも仲良くやろうと思って八方美人でいると,結局敵ばかり作る羽目になる。最初に目標を定め,付き合う友人を限るのが正解のようだ。

 

今作の新機軸MOEシステム。娘の嗜好や能力,体調などを反映しつつ,チビキャラが部屋の中を動き回る 魔法の髪飾りを通して娘を把握し,指示を与える。バイトや習い事のサボリも筒抜けで,ちょっとコワい感じも 娘の生活態度全般に対して「しつけ」も行える。例えば「厳しく叱る」→「ほめる」だと,一貫しない態度に混乱したり

 

登下校時に見かけた知人に,声をかけるか無視するか選択。そこまで親が介入できるのは,OKなのだろうか? 親友を気取っていても,その後の付き合い方次第で,一方的に絶交されることも。八方美人はマイナスが多い 校舎裏に呼び出され,絶交を言い渡されるとストレスが大幅に増加する。こういう友人は同じことを繰り返しがち

 

エミりんニュースには,その時期のイベントや情報が掲載されている。スケジュールを登録すれば,当日朝にキューブが知らせてくれ,バーゲンセールなどで重宝する 交友関係をキューブに調べてもらい,個別に状況を教えてもらえる。ただし娘のことを嗅ぎ回って告げ口したことがばれると,娘とキューブの信頼関係にヒビが入るので要注意 思春期に入ると,娘は反抗的になり,親の言うことに素直に応じてくれなくなる。ただし親子の信頼関係が高ければ,さほど困るような事態は発生しないし,時期とともに解消する

 

 

高い自由度と緻密な育成項目は
ゲームコンセプトの変化によるものか

 

娘の手帳には,現在の娘のスペック,友人,恋人,スケジュールなどが書かれている。このときは体力優先で育てたせいか,身長がなんと183cmに

 前作「4」では,キャラクターデザインを赤井孝美氏以外が担当するといった変化があったものの,プレイ内容ではシリーズ従来作品と比べて強化された点がなく,むしろ外伝というか,本流後継作品へのつなぎ,という印象があったことは否めない。
 そのぶん本作は,従来シリーズと比べて大きく変化している。舞台設定しかり,育成カリキュラムしかり,交友関係しかりである。声優さんが40人以上クレジットされていることからも分かるように,主要キャラクターのみならず脇役や敵役にもボイスがあり,国産PCゲームとしてはかなり力が入っている。
 例えばMOEシステムは,パラメータの種類が増えてそれぞれの影響が見えづらくなった,つまりブラックボックス化が進んだ本作で,さりげなく途中経過を見せるインジケータとしての役割を果たしている。これは「がんばれ森川君2号」以降コンシューマゲームが積み上げてきたシステムに学んだ結果であろう。
 同様に,「ときめきメモリアル」などに似た“一緒に下校”のギミック,「高機動幻想 ガンパレードマーチ」を思わせる交友関係と能力値の関わりなど,本作には,ここまでに出てきたさまざまな育成ゲームのシステムが,どん欲に取り込まれている。
 また,エンディングが数十にも増え,自衛官やら声優やら漫画家やら,現代日本という設定を生かした結末が用意されたこと,恒例の親への手紙も朗読が充実して,達成感のある演出が用意された点は高く評価したい。

 ただ,そうしたエンディングや数々の謎解きを楽しむために,必須なのは繰り返しプレイして試行錯誤することであり,そここそがプリメシリーズの魅力だったはずである。しかしながら本作では,その長大さが繰り返しプレイを邪魔しているように思えるのが,少々残念なところだ。エンディングにいたるまでのプレイは,かなり大急ぎで進めたとしても1周20時間ほどになるだろう。
 細かな選択がひたすらプレイヤーに提示され続けるだけで,物事の選択に関して適切なスキップ/フィルタリング手段は用意されていない。また8年間の育成期間も繰り返しになる要素が多く,残念なことにあまりメリハリが感じられないのだ。
 例えば全エンディングを速やかにコンプリートしようといった従来的なプリメの楽しみ方でなく,自由度の高さでプレイヤーのさまざまな趣向を受け止め,プレイ1回当たりの満足度を高めるのが,本作の狙いということになるのだろうか。そうだとすれば,育成結果の細かな差異をあまり気にすることなく,むしろその回その回で落差の大きなプレイを心がけるのが,本作を楽しむコツといえるのかもしれない。

 

自分の正体を知り,プリンセスの命を狙う革命勢力と戦う道を選んで冒険に乗り出す娘。殺生をすると道徳心が下がるので,ボス敵以外との戦闘は極力避けるべきかもしれない

 

資金さえあれば,従来作品ではいつでも行けたバカンスは,本作では春休みのみ,海外,国内,近場から選択する バレンタインデーには娘がチョコレートを贈るだけでなく,もらう側にもなる。今作の友人関係はなかなか複雑である 前作「4」では省かれた手紙が復活。感謝の心を込めた娘からの手紙を読んで,長い長い8年間の苦労を癒そう

 

■■天野譲二(ライター)■■
映画とコンシューマゲームに詳しい,PCゲームライター。PC/コンシューマゲームを問わず,パラメータアドベンチャーの脇道的なプレイには一家言あり,登場人物の性質・アイテム・イベントなどを逆手にとって,普通やらないと思われるプレイ実験をいろいろ繰り広げることで定評がある。
タイトル プリンセスメーカー5
開発元 ガイナックス 発売元 サイバーフロント
発売日 2007/03/03 価格 9240円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Celeron 2GHz以上[Pentium 4/2GHz以上推奨],メインメモリ:256MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:32MB以上[64MB以上推奨]

(C)GAINAX (C)CYBERFRONT

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/pm5/pm5.shtml