レビュー : Heroes of Annihilated Empires Episode I 〜黄泉の国 アトランティス〜 日本語版

ヒーローユニットで大軍勢と互角に戦えるファンタジーRTS

Heroes of Annihilated Empires Episode I 〜黄泉の国 アトランティス〜 日本語版

Text by Sluta
2007年1月29日

 

ウクライナの同名小説をベースにしたファンタジー世界

 

本作の舞台は,魔法を中心としたファンタジー世界。世界観はオリジナルだが,ユニットはおなじみのものが多数登場する

 テクモから2006年12月22日に発売された「Heroes of Annihilated Empires Episode I 〜黄泉の国 アトランティス〜 日本語版」は,RPG的な要素を多く取り入れたファンタジーRTSだ。経験を積むにしたがって目ざましいほどに強くなっていく単一のユニット「ヒーロー」と,資源を採取/消費することで大量に生産できる一般のユニットとの対比が,印象的なゲームである。
 本作の開発元は,「コサックス」シリーズを手がけたGSC Game World。コサックスシリーズに見られたような,何千にも上るユニット同士の激突は,同社のお家芸ともいえるものだが,本作でもそれを存分に味わえる。

 

 まずは背景世界について簡単に述べておこう。本作はウクライナの作家 Ilya Novak(イリヤ・ノバック)氏による同名のファンタジー小説「Heroes of Annihilated Empires」をベースにしている。小説は全5巻からなるが,その中の第3巻から第5巻までが,それぞれ「Episode I」「Episode II」「Episode III」としてゲーム化される,その一作めが本作ということになる。
 Episode Iのストーリーは,エルフ達の住むアトランス島に大量のアンデッド軍が侵攻してくるところから始まる。主人公は,若きエルフのレンジャーである「エルハント」。ちょっと向こう見ず,かつ思い込みの激しい性格で,しばしば予想を裏切った行動をしてくれる。通常の英雄譚とは違った趣の,アクの強いストーリーは本作の魅力の一つだ。

 

 本作の掲げるゲームコンセプトは「RTS vs. RPG」。労働者ユニットを使って資源を採取し,軍事ユニットを大量に生産して戦うRTSスタイルと,一人のヒーローユニットの操作に特化し,ヒーローのレベルアップや装備品変更,アイテムや魔法の使用などを交えながら戦うRPGスタイルの,両方のプレイができるという意味である。

 

 最近ではRPG要素が取り入れられたRTS作品が多くリリースされており,本作もその一つだ。そこで本作ならではの特徴を挙げるとすれば,数の対比が圧倒的ということだろう。ヒーローを,一般のユニットとは比較にならないほどの強さにまで成長させられ,何百対一,あるいは何千対一というレベルの戦闘を繰り広げることもできるのだ。ほかの多くの作品では,ヒーローユニットは,一般のユニットの中でひときわ目立つ存在で,中心的に操作するという程度だが,本作のヒーローユニットは,単独で敵の軍勢すべてを相手にできるのである。
 このことは,公式サイトなどに掲げられている「RTS vs. RPG」という言葉に端的に集約されているが,本作では両者が融合しているというより,対等な位置づけで共存しているといった表現のほうが,近いかもしれない。

 

 本作には,ストーリー仕立ての連続したミッションからなる「キャンペーン」と,スカーミッシュモードである「バトル」の,二つのゲームモードがある。まず,キャンペーンモードのプレイスタイルについてだが,ここではヒーローを操作しながら,並行してRTS的なプレイを進めていく。プレイスタイル次第で,ヒーローだけ,つまりRPG的なプレイのみで進めていくことも不可能ではないようだ。

 

 それに対してバトルモードでは,ゲーム開始時にまず,「RTS vs. RPG」と「RTS」のどちらかのゲームモードを選ぶことになる。

 

 「RTS vs. RPG」を選択すると,ゲームはマップ上にヒーローが一人だけいる状態で始まる。RPG的にプレイするときは,そのままヒーローを動かして戦わせていくだけだ。マップ上の中立勢力を味方にしたり,召喚系の魔法を使って味方を呼び寄せることはできるが,基本的にはヒーローユニット一人でゲームを進めていくことになる。
 RTS的にプレイする場合は,ヒーローが所持している魔法のカード「ラリーワーカーズ」を使用する。このカードを使用するとヒーローは凍りついた状態になり,その代わりに労働者ユニットが出現する。これを使って資源を採取し,建物を建設し,軍事ユニットを生産していくわけだ。ヒーローは30分間行動不能になるが,30分後には拘束が解けて再び操作可能になるので,それ以降はRTSとRPGを並行してプレイできるようになる。つまり,バトルモードで「RTS vs. RPG」を選択した場合には,ずっとヒーロー単独で進めていくタイプのプレイと,30分間RTSスタイルのみをプレイし,その後はRTSとRPGスタイルを並行してプレイするという,2種類のプレイスタイルがあるわけだ。後者のほうが強そうだが,前者のほうが当然ながらヒーローのレベルは高いはずだし,序盤の財宝集めの点でも有利なので,どちらがいいとは言い切れない。プレイスタイルの好みで選べばよいだろう。

 

 ちなみに,「RTS」のゲームモードを選択すると,スタート直後に「ラリーワーカーズ」を使用した状態になり,ヒーローは最初の30分間は行動不能となる。

 

本作は三部作のうちの一作めにあたる。キャンペーンのストーリーは,エルフのレンジャーであるエルハントを中心に進む グラフィックスエンジンには,本作のために開発した独自のものを使用。コサックス IIと違い視点が自由で,カメラを360度回転できる 吹き出しを使ってセリフを表示するのは珍しい演出だ。ちなみにテキストはすべて日本語だが,音声部分は英語のまま残されている

 

アンデッドが拠点としたエリアは黒く腐食していく。森は枯れ果て,日も当たらない暗い地域になるのだ 機工師が拠点としたエリアは砂漠になる。こうしたエリアは人口が増え,勢力が増大するとともに少しずつ拡大していく クライオ族のアイス・ゴーレムは雪上でのみ体力を自動回復できる。逆に領土外では体が溶けてしまうので,注意しよう

 

 

RTSとRPG,両方のプレイスタイルが見事に共存

 

機工師と呼ばれるドワーフ達の文明では蒸気機関が発達しており,ツェッペリンやスチームキャノンといったユニットが登場する

 「バトル」モードにおける,RPG的プレイとRTS的プレイそれぞれについて,詳しく見てみよう。
 RPG的プレイでは,ヒーローを戦わせて成長させることがメインになる。いきなり敵本拠地に攻め込むことは難しいので,まずはマップを探索して中立勢力と戦い,レベル上げをしたり,財宝を集めたりするわけだ。アイテムは宝箱から入手できるほか,マップの各地に点在しているお店で買うこともできる。

 

 ヒーローの成長システムは,強化したいパラメータを選択する方式だ。ヒーローは,一定の経験値を積むとレベルアップし,ランダムに選ばれた二つの選択肢,例えば「HP+30」や「攻撃速度+9%」などといったものの中から,どちらかを選んでパラメータをアップさせる。ランダムに選ばれた二つが両方とも気に入らない場合は,それをキャンセルすることで,次のレベルアップ時に全リストの中から一つを選べる。ランダムな二つのうちのどちらかで妥協していくか,2レベル分を消費して完全に自由に選ぶか,どちらにするかが迷いどころだ。
 ヒーローを成長させていく際には,攻撃力やマナももちろん大事だが,防御系や回復系のパラメータも重視したい。そうすることで,何千という数の敵ユニットを相手にしても押し切られることなく,対等に渡り合えるようになるからだ。

 

 本作のヒーローは,いいペースでさくさくとレベルが上がっていくのが,なかなか快感だ。レベル上げをするぶんだけ,一般的なRTSよりプレイ時間は長くなりがちだが,多くのRPGに比べたら成長速度が断然速い。何百〜何千という単位のユニットを,ヒーロー一人で相手するのも,「ちょっとあり得ないかな」と思いつつも爽快なもので,成長させるコツが分かってくると俄然楽しくなってくる。

 

 RTS的プレイのほうは,インタフェースも含め,まさに「コサックス II」を彷彿とさせるものがある。まずはユニット数の多さ。使用する種族にもよるが,千ユニット程度は短時間で生産できる。これだけの数がいれば,さすがにヒーローといえども倒されそうだが,それに対抗できるくらいヒーローも成長する。この桁違いのスケールは,ほかに類を見ない。
 また,コサックスシリーズ同様,遠隔攻撃に弾薬コストがかかるのも特徴だ。遠隔攻撃ユニットは強いのだが,そればかり生産して撃ちまくっていると資源が切れてしまうし,かといって近接攻撃ユニットは遠隔攻撃や範囲攻撃に弱い。両者のバランスが非常に重要になってくる。
 そのほかにも,建物のコストが建設数に応じて倍増していく点や,鉱山のアップグレードに関する独特のプレイ感覚などは,コサックスシリーズそのままといった印象だ。人口上限を気にすることなく,資源のある限りユニットを繰り出せる快感もまた,共通する本作の魅力だ。

 

ヒーローは成長すると単独で大軍を倒し,拠点を破壊できる。防御力重視で成長させておくと後々楽だ 本作には,強力な範囲攻撃を行うユニットが多数登場する。固まっていると,あっという間に全滅してしまうことも ヒーローも最初は弱い。まずは中立勢力などと戦いながら経験を積んでレベルを上げよう。マップ各地に点在する財宝を探すのもいい

 

本作には飛行ユニットも多数登場する。近接攻撃のみの地上ユニットではまったく攻撃できないので,対空ユニットはきちんと用意しておこう マップの各地に商人が店を構えている。ここで武器やアイテムを購入し,ヒーローの装備を整えるのだ ヒーローのみでゲームを進めていくことも可能だが,ほかの味方ユニットが倒した敵も経験値にカウントされるので,味方ユニットも有効活用していきたい

 

 

RTSとしてはやや冗長。RPG的要素にこそ魅力あり

 

これだけの大軍勢を,一人でなぎ倒せるゲームはあまりないだろう。十分に成長したヒーローを操る爽快感は格別だ

 「バトル」モードで使える種族は,エルフ/アンデッド/機工師/クライオ族の四種類。「ユニコーン」「ヴァンパイア」「イエティ」など,ポピュラーな名前のユニットが多数登場するので,オリジナルな文明ながらも親しみやすい印象だ。各種族にはそれぞれ戦士/レンジャー/魔導師の3タイプに対応したヒーローが存在し,どれか一つを選択してプレイすることになる。

 

 RTS的プレイ対RPG的プレイのゲームバランスは,うまく調整してある。どちらかが強すぎるということもなく,どちらのプレイ方法にもそれぞれの楽しさがある。だが,これはシングルプレイに限った話だ。敵AIが,RTSタイプのプレイしかしてこない点は物足りなく感じる。RPG対RPGは,マルチプレイでしか実現できないのだ。完全に成長しきったヒーロー同士の戦闘で決着がつくのかなど,興味深いところであるだけに残念だ。

 

 だがそもそも,ヒーローを成長させるには優に数時間はかかってしまうゲームデザインになっており,本作はマルチプレイ向きとはいえない。RTS的プレイにしても,決着がつきづらいバランスになっている。ほかの作品にあるような,ゴッドパワーやスーパーパワーに相当するものも存在しない。これは,じわじわ押していくタイプのプレイが好きな人にはたまらないバランスだとは思うが,本作の醍醐味を味わうためには,一ゲームに数時間以上は必要になってくる。

 

 また,本作の難点として,ゲームの動作が不安定ということには言及しておかねばならない。必要スペックは十分満たしているにも関わらず,プレイ中に操作に引っかかりを感じることが頻繁にあるし,メモリ関係の不具合にも遭遇した。パッチVer1.1を導入したらクラッシュが頻発するようになってしまったので,Ver1.0に戻したほどである。GSC Game Worldの作品には,過去にもこういったケースが見られる。最終的には,こういったバグは修正されてきたので心配はいらないのかもしれないが,現時点では注意されたい。体験版を試してみて普通に動作するのであれば,とりあえず問題はないだろう。

 

 「時間がかかるゲームだ」というのが,本作でまず抱いた率直な感想だ。ヒーロー育成にせよ大軍育成にせよ,それなりの時間を要するので,RTSと考えると一プレイに費やすプレイ時間は長いはずだ。ただし,それはダラダラした冗長さではなく,「時間があっという間に過ぎてしまう」結果としての長さである。ついのめりこんで,コツコツと育成に精を出してしまうだけのハマリ度は確かにあるし,ゲーム終盤での爽快感はかなりのものだ。本作はどちらかというと,RPGファンにおすすめできる。これまではRTSよりもRPGをメインに遊んでいた人にも訴えるものがある作品なので,気になった人はチェックしてみてはいかがだろうか。

 

装備品もかなりの数が用意されている。マイナスの効果を持つアイテムも多いので,成長のさせ方に合った装備品を選ぼう マップ上の中立勢力は,ヒーローが金銭を払うことで味方になってくれる。指示しなくても自動で小隊を組んで敵陣に攻め込んでくれるので便利だ シングルプレイの「バトル」と,マルチプレイ時は最大7人での対戦が可能。それにしてもマップが全部で5種類しかないというのは少なすぎる

 

防御施設には死角を持つものがある。この場合,左にのびる扇形のエリアが死角にあたる。敵の攻めてくる方向を予想して配置したい 資源は,木/食料/石/金/鉄/クリスタルの6種類。種族によって内政のシステムが異なるが,クリスタルはどの種族にとっても非常に重要だ ヒーローは常に戦いの前線にいるようにしたい。ヒーローの持つオーラの中には,味方ユニットにボーナスを与えるものも多い

 

タイトル Heroes of Annihilated Empires Episode I 〜黄泉の国 アトランティス〜 日本語版
開発元 GSC Game World 発売元 テクモ
発売日 2006/12/22 価格 価格は9240円(税込)
 
動作環境 OS:Windows XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium III/1GHz以上[Pentium 4/2GHz以上推奨],メインメモリ:256MB以上[1GB以上推奨],グラフィックスチップ:DirectX 9.0c対応以上,グラフィックスメモリ:64MB以上[128MB以上推奨]

(C)TECMO,LTD./GSC Game World 2006

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http://www.4gamer.net/review/hoae1/hoae1.shtml