レビュー : ヨーロッパ・ユニバーサリスII〔完全日本語版〕

デザイン意図すら楽しめる,元祖EU2の日本語ローカライズ版

ヨーロッパ・ユニバーサリスII
〔完全日本語版〕

Text by 徳岡正肇(アトリエサード)
2006年12月27日

 

アジア・チャプターズでなく原作の日本語版

 

 「Europa Universalis II」(ヨーロッパ・ユニバーサリスII)の日本語版といえば,かつてメディアクエストから出ていたはずと,思い出す人も多いだろう。ただし,あれはあくまでTyphoon Gamesによる独自拡張を交えた「ヨーロッパ ユニバーサリスII アジア・チャプターズ」(以下,EU2AC)の日本語版だった。それに対して,12月22日にサイバーフロントから発売された「ヨーロッパ・ユニバーサリスII〔完全日本語版〕」(以下,EU2)は,元祖Europa Universalis IIを日本語化したものだ。
 EU2ACおよびEU2は,1419年から1820年まで400年間の世界を舞台に,さまざまな国家や民族の興亡をシミュレートしたストラテジーゲームである。ゲームの進行は時間の最小単位を1日とし,ひとりでに時間が流れていくという意味ではリアルタイムストラテジーの一種だが,随時ポーズをかけて操作するセミリアルタイム制と考えたほうが近い。アクション性は皆無,操作はフルマウスで,キーボードショートカットも用意されているが使用は必須ではない。
 ゲームが扱う要素は,宗教/貿易/文化/技術/政治体制/軍事などなど,非常に幅広い。その時代をデフォルメして詰め込んだおもちゃ箱のような構成だ。また,ゲーム内のイベントとして歴史上のさまざまな事件が用意されてもいるので,プレイヤーには歴史のうねりそのものに立ち向かっていくことが求められる――なにしろこの長い長い400年には,宗教改革から大航海時代,フランス革命に至るまで,人類とその世界の在り方そのものを変容させていく事件がてんこ盛りなのだ。

 

 ゲーム自体のより詳しい内容はEU2ACのレビュー連載に譲るとして,EU2という作品は少々特殊な歴史を背負っている。今回はその点を整理することから始めよう。

 

 このシリーズのルーツともいうべきボードゲーム「Europa Universalis」は,大航海時代から始まるヨーロッパ各国の海外進出競争をテーマとした作品だった。そして,それをPCゲーム化したのが,Paradox Interactiveの同名ゲーム「Europa Universalis」(以下,EU)である。
 その成功を受けて,Paradoxが世に問うたのが「Europa Universalis II」で,EUではヨーロッパ諸国でしかプレイできなかったものを,思いつく限りほぼすべての国でプレイできるようゲームコンセプトが拡張されたのである。これに伴い,ヨーロッパ/キリスト教文化圏を中心に構築されていたシステムも,世界を視野に収めたものに変更された。
 とはいえ,EU2がその開発経緯からヨーロッパ中心になっていたのは事実であり,アジアについては地図のエリア分けもおおざっぱだったし,イベントの密度もさほど濃いものではなかった。
 その事実を踏まえ,香港のTyphoon Gamesが,アジアでEU2を展開するに当たって「独自のMODを加えた」のがEU2ACだった。EU2ACではアジアを舞台としたイベントが大幅に追加されているほか,地図も細かな地域分割がなされるようになった。
 しかしながらその代償としてEU2ACでは,EU2用MODが基本的に利用できない。Paradoxは熱心なプレイヤーからの声に応えてEU2用のパッチをコンスタントに発表し続けたが,このパッチもまた,EU2ACには対応しないものだった。
 そしてまた,EU2ACが日本語ローカライズされるに当たって,それ以外のさまざまな問題が残されていたのも事実だった。データの膨大さとマニアックさを鑑みれば,随所に誤訳が見られることはある程度やむをえないとしても,その誤訳がインタフェースの一部にまで及んでいたため,少なからぬ混乱を呼ぶことになった。ゲームシステムの中枢に近い部分にもバグが残っていたし,マルチプレイ機能についてメディアクエストは「後日パッチで対応する」と表明したものの,ついにサポートされぬままに終わった。
 かように,少なからぬ美点と多くの弱点を併せ持ってしまったEU2ACだが,今回サイバーフロントから発売されたEU2は,「元祖」をそのまま日本語ローカライズしたものとなっている。EU2ACの美点とも弱点とも無縁なのだ。

 

チュートリアルはかなり細かく出来ており,基本的な操作で悩むことはない。ただし,プレイのコツ的な部分は教示されないので,自発的な努力は必要だ

 

国の選択はParadox作品共通のフォーマットといってもよいだろう。上部に並ぶ国旗を右クリックすると,そこに列挙されていない国を選べるウィンドウが開くのも,いつもどおり アジア・チャプターズではないわけだが,日本人と思しき人もロゴの右下にいたりして

 

 

日本語版同士のマルチプレイがサポートされた

 

 さて,このような経緯をたどっている以上,今回のEU2についていくつか気になることがある。マルチプレイが可能か,Paradoxが配布しているパッチを当てる必要があるか,ファンが作ったMODを利用できるか,といったところだ。
 まずマルチプレイについて,英語版とは対戦できないものの,日本語版同士であれば仕様上可能となっている。一応Valkyrie Net(Paradoxが提供しているサービス)への接続を試みたが,接続自体は可能だったものの,英語版プレイヤーはいっさい見えない状態であった。まあ,英語版プレイヤーと対戦したい場合は,さすがに並行輸入版にお任せというところだ。

 

 次に,Paradoxが配布しているパッチについて。EU2は英語版最新パッチが適用された状態で日本語ローカライズされており,2006年12月現在においてパッチの適用は不要だ。また,今後については国内パブリッシャであるサイバーフロントのサポート次第ということになる。
 こちらもあえて試してみたのだが,英語版パッチの適用自体は可能で,そのあと正常に動作した。もっともこの場合,正常に動作したといっても,当然ながらメッセージやコマンドは英語になってしまうわけだが。
 MODについては原則的に適用が可能だが,そもそも世の中にあるEuropa Universalis IIのMODは,ほとんど英語版である。したがって,無理矢理英語版パッチを当てたのちに動かすことになる。いくつか試してみたところ,手作業でファイルを組み込むオーソドックスなMODは,きちんと動く場合が多いようだ。
 ただし,英語版と日本語版ではそもそも実行ファイル(exeファイル)の名前すら異なるなど,MODの導入に当たって障害になる事柄もある。こちらもさすがに,確実を期すなら並行輸入版を入手したいところだ。
 英語版とのマルチプレイができないのは少々残念だが,そもそも最新バージョンを日本語でプレイできること自体が大きなメリットといえる。なにしろ,ゲームの概念を理解するだけでも一苦労の大作ストラテジーなのであるから。パッチなどの継続的なサポートについては,サイバーフロントの取り組みにぜひ期待したい。

 

試しにValkyrie Netにログインしたところ。EU2以外のルームにもアクセスできるが,英語版との対戦は不可能。ちょっと残念 歴史的な事件を再現するイベント。とんでもない選択ができてしまったりもする。不思議世界を積極的に楽しみたい場合は,ぜひ イベントが起こると小窓が開いてゲームが一時停止するのも伝統。一定種類の情報を表示しない設定もできるので,ご安心を

 

アジア・チャプターズに比べアジア圏のプロヴィンスは割と大ざっぱに分割されている。プレイ自体に支障はないわけなのだが カンボジアでプレイしてみたりも可能。当時の東南アジア情勢が相当に複雑だったことが想像できるが,同時に世界レベルで見た場合,実にいかんともし難く,他国が起こした歴史の荒波に,飲み込まれていくしかないであろうことも,なんとなく分かる

 

 

Paradoxのデザイン思想込みで楽しみたい

 

「1419年にプロテスタント?」という気もするし,ゲーム上の便宜的な表記という部分もあるが,制作チームの歴史観が垣間見えるのも事実

 しかし考えてみると,「Europa Universalis III」(以下,EU3)英語版の登場も間近になったはずのいま,わざわざEU2をプレイする価値はあるのだろうか? そう問われたなら,筆者は迷いなく「Yes」と答える。もしまだEU2(EU2ACではなく)に触れたことがないなら,プレイする価値は十分にある。というのもEU2は,Paradoxの前衛的な作風が非常に強く出た作品であるからだ。
 先述したボードゲーム版EUは,1492年を開始年としていた。これは言うまでもなくコロンブスによるアメリカ「発見」の年であり,つまりこのゲームが,新大陸発見を一つの端緒とした植民地争奪レースをテーマとすることを示した部分といえる。
 ところがEU2の開始年は1419年。見慣れない年号かもしれないが,これはフス戦争の始まった年であり,EU2が列強による植民地分割競争よりも,宗教とその展開を重視してデザインされているという示唆でもあるわけだ。と同時に,宗教改革はルターの活躍でなくフス戦争の時点で顕在化したのだという,Paradoxの歴史観の提示でもある。
 そう考えてみると,EU2のゲームシステムで宗教が果たしている役割の重要性も,納得できると思う。ちなみにEU3では,ゲームの開始は1453年に設定されている。これはコンスタンチノープル陥落の年であり,ここから同作品の方向性を垣間見ることも,おそらく可能であろう。

 

 もちろん,「たかがゲーム」でそこまで考えなくてもと,切り捨てられる話ではある。だが彼らはその「たかがゲーム」に,自分達の思想や情念を盛り込みたいがために,わざわざ原作と異なる設定にしたのだ。
 そして,そんな彼らのこだわりは,ヨーロッパやアメリカのゲーマー達に強くアピールし,結果として数多くのMODが生まれてきた。EU2英語版のMODは「スウェーデンのクリエイターが提示した史観に対する,欧米ゲーマーの反応」と考えて差し支えないわけだ。
 しかし,そうしたEU2を核とするコミュニケーションから,残念ながらEU2ACはいささか遠い位置にあった。作品世界としてつながりはあるにしても,手袋をはめてEU2を触っているかのような状態であったことは否めない。
 これらを踏まえるに,いまEU2が日本語ローカライズされることには十分な意義がある。むしろEU3という新しい世界に踏み出す前に,EU2とはいかなるものであったかを十分に確認しておくことで,より深い楽しみ方ができるのではなかろうか。

 

 いずれにしてもEU2が,日本におけるParadox製品展開の一つのマイルストーンになるのは間違いない。EU3はもちろんだが,誰かが「Crusader Kings」に愛の手を差し伸べてはくれないものかと,夢見てしまうのは,少々行き過ぎだろうか?

 

戦争になった場合でも,処理画面はいたってシンプル。軍隊の数よりも士気のほうが重視されるゲームバランスもお家芸といえる。EU2では移動や長期間の包囲によって軍隊が自然消耗していく度合いが,非常に激しい

 

戦争には大義名分が必要。なくても戦争はできるが国際世論の風当たりが厳しくなる。偶然であろうが意図したものであろうが,「正しい戦争」を仕掛ける権利を持つことは重要な意味を持つ 宗教が非常に重視されるEU2ならではの場面。その気になれば,現実世界で宗教界のリーダー達がしばしば夢想したように,世界を自国の国教で染め上げていく展開のプレイも可能だ 「This game is dedicated to our fans.」(このゲームを私達のファンに捧げる)。よくある献辞ではあるのだが,フォーラムのAARや数々のMODを通して,これが実現している例は貴重だ

 

タイトル ヨーロッパ・ユニバーサリスII〔完全日本語版〕
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/12/07 価格 6300円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0),CPU:Pentium III/800MHz以上[Pentium 4/1.20GHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上[8MB以上推奨],HDD空き容量:500MB以上

(C)and(R)2001 Paradox Interactive AB.Europa Universalis is a trademark of Paradox Interactive AB.
Europa Universalis is based on the board game of the same name by Azure Wish and Philippe Thibaut.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/eu2/eu2.shtml