ストラテジー 4Gamer.net Review
 
世界史マニアを虜にする超本格派歴史ストラテジー
ヨーロッパ ユニバーサリスII
 アジア チャプターズ 日本語版
Text by K.サワノフ
2nd Apr. 2004


巨大なスケールに詰め込まれた無数のゲーム要素

見た目は大変地味〜で,しかも大して変化しないEU2Aの画面写真。だが,この画面に紡ぎ出される歴史のドラマは,とてつもなくエキサイティングでスペクタクルだ

 「ヨーロッパ ユニバーサリスII アジア チャプターズ 日本語版」(以下,EU2A)は,世界史をモチーフとした戦略級リアルタイムストラテジーゲームである。
 まず「Europe Universalis II」という,ヨーロッパを中心に各国が世界規模で覇権を競うゲームが,かつて英語版のみで存在していた。これにアジア方面のシナリオとイベントを追加し,全体のバランスを調整して,さらに日本語化したものがEU2Aということになる。客観的に見て,国内ではそれほどメジャーなタイトルとはいえない"Europe Universalisシリーズ"だが,実は玄人筋には大変評判がよろしい

 本格派歴史ストラテジーであるEU2Aの最大の特徴は,その本格派っぷりが並じゃないという点にある。ゲームの舞台となるのは,中世の終わりごろから近世まで,具体的には西暦1419年から1820年までの約400年間。プレイヤーは一つの国家を担当し,国力を上げるべく奮闘していくのだが,自国として選択できる国はなんと200以上に及ぶ。これはつまり,当時実在したほぼすべての国でプレイ可能ということだ。
 イングランドやフランス,日本や中国あたりを選べるのは当たり前だが,トスカナやワラキア,イロコイなどといった国でもプレイできてしまうのでたまらない。どの国を選択しても,ちゃんと実在の人物が多数登場したり,史実に基づいたイベントが山ほど発生したりして,そのデータ量に仰天させられる。
 さらに,そのデータが乗っかるシステムも半端じゃない。内政では,技術開発やインフラ整備などへの投資の比率を変えることで,自国のどういった部分を強化していくかを細かく調整できる。外交ではどの国と仲良くし,どの国と敵対していくかを決定できる。国内統治や外交には宗教問題も絡んでくるので,場合によっては布教や国家的改宗を行わねばならない。領地を拡大するにも,戦争で奪い取る方法もあれば,平和的に併合していくという選択もある。もちろん,探検によって中立地を見つけ出し,入植することだって可能だ。プレイヤーは,こういった国の方向性を決定づける各要素を,自分の意思で動かしていくのである。
 おまけに,ゲームを構成する1ターンは年表上の1日に相当する。軍を移動させるのも,要塞を建設するのも,○年○月○日から△年△月△日までかかりますよ,という具合に区切られていくわけだ。ゲームのスピードは5分(実時間)=1か月(ゲーム時間)から1分(実時間)=2年(ゲーム時間)まで8段階に調整可能なので,最速にすると1日なんて瞬時に過ぎ去ってしまうのだが,それでも尋常ならざる密度であることには変わりはない。

 普通こういうゲームは,軍事なら軍事,経済なら経済という具合に,特定の要素に焦点を当て,それ以外はうまく省略して作品に仕上げるものだ。しかしEU2Aの場合,その省略部分が極端に少ない。とにかくありとあらゆる政治的な要素を,ちゃんとシステムとして消化したうえで,ぎゅうぎゅうに詰め込んであるのだ。それによって生み出される「今,国を動かしてます」感は,ちょっとほかのゲームでは味わえない

シナリオと自国を選択してゲームスタート。シナリオによって,開始時期やテーマ,国ごとの難易度が変化する マップには"国"と"州"という区切りがある。各国は一つ以上の"州"から成り,国の領土は州単位で増減する 史実に沿ったイベントが随時発生し,ゲームの進行にさまざまな影響を与える。中にはかなり意外なイベントも

内政の基本は,自国の収入をどのように割り振るか。国の安定度は最優先で上げておくようにしたい 外交では,紹介状から王室間の婚姻,または侮辱や警告などの手練手管を使い,外国との関係を操作していく 中立の州に入植者を送り込むことで,新たな植民地を作れる。最も平和的かつ簡単な領土の拡大方法だ


大いなる歴史の流れに,あえて抗う楽しさ

 EU2Aの最大の難点は,やっぱり「やたらととっつきにくい」という点だろう。これはもちろん,EU2Aが前述のような要素がぎっしり詰まったゲームだからということもあるが,それ以前にインタフェース関連があまり洗練されているとは言いがたいのだ。心構えもなく,「なんとなく面白そうだから」と購入したゲーム初心者の中には,チュートリアル中に挫折した人もいるんじゃないだろうか。
 だがしかし,ちょっとプレイに慣れてくると,そういったマイナス点が全然気にならなくなる。ゲームの展開は全体的に単調で,グラフィックス的にも今どきのゲームとは思えないくらい地味なのだが,気づくとプレイにのめり込み,何時間も経っているということも少なくない。緻密なゲームバランスとか,全体な完成度の高さとか,ハマる理由はさまざまな言葉に表せるが,結局のところEU2Aが"歴史"そのものの魅力をダイレクトに感じさせてくれるから,ということに尽きる。
 突然発生するイベント。優れた君主の誕生。複雑に絡み合う国同士の思惑。あちらを立てればこちらが立たない,内政の二律背反。ゲーム中に存在するあらゆる事物に,実際の歴史という裏付けがあり,それによってプレイヤーはくるくると翻弄されていく。軽々と実際の歴史を捻じ曲げてしまえる凡百のストラテジーゲームと違って,EU2Aでは,抗い難い歴史のうねりというものをひしひしと感じることができる。そのうえで,巨大な歴史の流れにどう立ち向かっていくか。歴史を自らの手で,どう変えていくことができるのか。それこそがEU2Aの醍醐味なのだ。
 標準の勝利条件が決して世界制覇ではなく,"勝利ポイント"の値であることも,その表れだろう。適切な外交と内政を行い,国をうまく運営していけば,勝利ポイントは加算されていき,逆にヘマをすると減点されてしまう。シナリオの終了時に,最も高い勝利ポイントを持っている国が勝者となるのだが,極端なことをいえば弱小国が小さい領土のまま勝利することも可能である。本来ならあっさり滅ぼされるはずの国を,長々と生き永らせることができたのなら,プレイヤーが自らの手で"歴史のif"を証明したことになるだろう。

戦争も外交手段の一つ。ただし,大義名分なしに他国に宣戦布告すると,国内の安定度が低下するので注意 マップのスタイルを随時変更し,政治,経済,宗教,外交など各種情報を参照して,的確な対処をしていこう

ゲームの展開によって提示されるミッションをクリアすることで,勝利ポイントはさらに増えていく 勝利ポイント,経済状況などの各国のデータは,台帳に記録されていく。これはゲーム中いつでも参照可だ

世界史好きなら,何をさておいてもプレイするべし

 要するに,これは歴史マニアである作り手が,歴史マニア(と歴史マニア予備軍)であるゲーマーのために作ったゲーム,いや,ゲーム風味の歴史シミュレータなのだ。インタフェースだのグラフィックスだのは,ごく瑣末なことにすぎない。最初のとっつきにくささえ乗り越えることができれば,世界史に興味を持つプレイヤーなら必ず気に入ると断言できる。自分のお気に入りの国で,世界史に嵐を巻き起こしてみたいと思うのは,筆者だけではないはずだ。

 最初に覚えなくちゃいけないことは多いが,一旦操作の全体像をつかんでしまえば,プレイはかなり楽になる。ゲームスピードの設定や,自分の目指す国政の方向性にもよるが,お茶を飲んだりテレビを観たりしながら,のんびりと遊ぶことだって可能だ。リアルタイムストラテジーということで,「あわただしいゲームはちょっと……」と敬遠している非アクションゲーマーの人にもお勧めしたい。

ゲームの進行スピードはいつでも変更可能。慣れないうちは,1分=1か月くらいにしてゆっくりプレイすべし 勝利条件,ゲーム難易度,コンピュータの攻撃性などは,スタート時に変更できる。さまざまな条件でプレイ可能

日本はあまり初心者向きの国ではない。最初はフランス,イングランドあたりで始めるのがお勧めだ 近い将来,パッチでアップデートすることで,ネットワークでのマルチプレイに対応予定。非常に楽しみだ

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■メーカー:メディアクエスト
■問い合わせ先:ユーザーサポート TEL 0570-040-401(祝祭日を除く月〜金 10〜18時)
■価格:8379円(税込)
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumII/266MHz以上(PentiumII/450MHz以上推奨),メモリ 64MB以上(Windows 2000/XPは256MB以上),空きHDD容量 800MB以上,メモリ2MB以上搭載したビデオカード,DirectX 8.0a以降
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