軍事に特化した新たな偉人「大将軍」
サイバーフロントから発売された「シヴィライゼーション4 ウォーロード〔完全日本語版〕」は,ターン制ストラテジゲーム「シヴィライゼーション4」の拡張パックだ(以下,それぞれ「ウォーロード」「Civ4」と表記)。前作に当たる「シヴィライゼーションIII」でも2本の拡張パックが発売されており,今回の「ウォーロード」もシリーズの慣例に沿った登場といえるだろう。
オリジナルのCiv4については,4Gamerでは連載で取り扱ったこともあり,詳しい説明は繰り返さない。世界の歴史に登場する文明を原始時代から現代/近未来まで率いて,世界征服や文化的な偉業を成し遂げるといった勝利条件を目指すゲームだ。
このCiv4のゲームシステムで特徴的だったのが,各文明に登場する「偉人」だ。これは大芸術家,大技術者など,文化/産業分野において業績を上げた人物で,ゲーム内ではさまざまな「使い方」のあるユニットである。だが偉人システムの元をただすならば,それは「シヴィライゼーションIII」(以下,Civ3)における「リーダー」であり,こちらはむしろ軍事的なボーナス要素の色合いが濃かった。
そして「ウォーロード」の目玉は,タイトルが示すとおり「軍事面で活躍する偉人」がシステムに組み込まれたところにある。戦争を重視したプレイが好みの人には,まさに待望のシステム拡張といえるだろう。
軍事的な偉人=「大将軍」は,通常の偉人と異なり,戦闘から生まれてくる。プレイヤーの軍隊が戦闘で経験を重ねることで蓄積されたポイントが,一定値になると大将軍ユニットが登場する。文化/産業系の偉人を登場させる文化ポイントとは別建てで,戦争に専念してさえいれば,大将軍が出てくるという仕組みだ。なお,登場に必要な経験値は,倍々で必要量が増していく。登場の仕方は異なるものの,使い方は通常の偉人とおおむね同様で,大きく3通りが用意されている。
● | 特別な専門家「大軍事教官」として都市に定住。その都市で生産された軍事ユニットに+2の経験値を与える |
● | 実行した都市に「士官学校」を建設,その都市で軍事ユニットを生産するときに,ハンマー(資源)に25%のボーナスを加算し,生産を加速する |
● | 「ウォーロード」として特定のユニットに合流。このとき, |
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以上3種のどれを取るかはプレイヤーのお好み次第だが,やはり楽しいのはウォーロードとしてユニットに合流させることだろう。戦闘アニメーションにも,後ろで部隊を鼓舞する様子が現れる。
また「ウォーロード」では,軍事ユニット生産に役立つ国家遺産(各文明が持てる特殊建造物)について,条件が厳しくなっている。オリジナルのCiv4では,生産のためにレベル4,5のユニットがそれぞれ必要だった「英雄叙事詩」「ウェストポイント」について,1レベルずつ要求レベルが高くなっているのだ。この要求をクリアするためにも,前述の「リーダーシップ」スキルを取ったウォーロード付きユニットを早期に確保するのが有効な手となるだろう。
特定の時代に基づくシナリオを成立させるためには,時代背景に即したテクノロジーツリーやユニットが不可欠。「ウォーロード」付属のシナリオでは,この点もきちんと対応されている。そもそもシヴィライゼーションの基本コンセプトは,柔軟性の高いエンジンとして,広い時代の戦争/国家競争を再現できる点にあるのだ |
付属のシナリオにはそれぞれスタートアップ画面が用意され,アニメーション描画されるものも多い。かなり力が入った作りだ |
新文明と新指導者,そして既存指導者のシャッフル
戦争向きの文明を明示する形に
戦争向きの文明を明示する形に
古代/中世型ウォーロードが参加したユニットの戦闘。後ろで剣を振っているのがウォーロードだ。ウォーロードが率いているユニットでは,青いスキルアイコンに混じってウォーロードが赤いアイコンで表示される |
さて,大将軍に関連した話題はひとまず置いて,そのほかの変更点も見ておこう。
まず,新規で追加された文明から。「シヴィライゼーション」シリーズの拡張パックでは,新文明の登場が大きなお楽しみ要素となる。Civ4では最初から比較的多数の文明が用意されていたのだが,「ウォーロード」では以下の六つの文明(カッコ内は指導者)が追加されている。
● | オスマントルコ(メフメド2世) |
● | カルタゴ帝国(ハンニバル) |
● | ケルト帝国(ブレヌス) |
● | ズールー帝国(シャカ) |
● | ヴァイキング帝国(ラグナル) |
● | 朝鮮帝国(王建) |
Civ3の最終拡張パック「コンクエスト」のプレイ経験者にはおなじみの顔ぶれといえるだろう。残念ながら「コンクエスト」の指導者で一番の美女と評判の高かった(?)ビザンチンのテオドラは登場しないのだが。そして,既存の文明にも4人の指導者が追加されている。
● | イギリス(チャーチル) |
● | エジプト(ラムセス2世) |
● | ローマ(アウグストゥス) |
● | ロシア(スターリン) |
イギリスやロシアは3人の指導者が選べることになり,ややバランスが悪い感じもするのだが,これには英語圏で行われたアンケートの結果も影響しているようだ。
文明と指導者が増えたことで,各指導者がボーナスとして二つずつ持っている「特性」にも,大きな変更が行われている。まず,新たに3種類の特性が追加された。
● | カリスマ志向:都市の幸福+1,ユニットのレベルアップの必要経験値が−25%など |
● | 帝国主義志向:大将軍の出現率+100%,開拓者の生産スピード+50% |
● | 防衛志向:弓兵,銃砲ユニットに無条件で防衛系スキル付与,防壁と城に生産ボーナス |
これらを含む形で,既存の指導者の持つ特性も大幅に変更されている。例えばワシントンは「金融+組織」から「拡張+カリスマ」へと,まったく別人(?)になってしまった。連載で解説していたガンジーや始皇帝の特性も,一方が別のものに差し替えられている。ちなみに,旧ガンジーと同様の「宗教+勤労」は,新登場のラムセス2世が持っている。ピラミッドを作った文明であることを考えると,なるほど,という感じではある。
チンギス・ハーンは「帝国主義+攻撃」といかにもアグレッシヴな割り当てだったり,我が日本はと思って見れば徳川家康が「攻撃+防衛」と,暴れやすそうな(逆に,敵として出てくると厄介そうな)文明もかなりある。大将軍システムと併せて考えると,戦争を積極的に志向したプレイをしやすい文明/指導者が,オリジナルのCiv4よりもはっきり打ち出された印象が強い。
カルタゴ文明といえばハンニバル。「将軍」ながら,さすがは商業帝国カルタゴの指導者,金融志向を持っている | 新登場文明も,もちろん固有ユニットを持っている。ヴァイキングといったら,ベルセルクで決まりでしょう | 朝鮮文明では,小型ロケットランチャーとも言える火車。カタパルト代替というのはどうかな,とも思うが |
初代シヴィライゼーション以来のリーダーであるズールーのシャカ。アグレッシヴなキャラクターぶりを見せてくれそうだ | 新登場リーダーの一人チャーチル。同じく新登場のスターリン,既存のルーズヴェルトで,連合国首脳トリオだ | パラメータが一新されたワシントン。二つの志向のうち一方が変わったリーダーもかなりいるので,確認必須だ |
新ユニットの追加は控えめ
追加シナリオには斬新な試みも
追加シナリオには斬新な試みも
「Genghis Kahn」シナリオは,他文明を攻略することで技術を獲得していく展開になる。シナリオが設定されたシングルRPGのような展開といえそうだ |
こうしたシステム面での変更に比べると,ユニットや建造物の追加/変更は比較的地味だ。「ウォーロード」では,文明固有の建造物が新たに設定された。各文明の固有ユニットが,標準のユニットの一つを置き換えるように,固有建造物は都市建造物の一つを,より有利な形で置き換える。それらしいところを見てみると,
● | アメリカ:スーパーマーケット→ショッピングモール(幸福ボーナスの機能が追加) |
● | フランス:天文台→サロン(芸術家1人を追加) |
● | イギリス:銀行→証券取引所(コイン収入の増幅機能が上昇) |
といったところ。確かに雰囲気は出ているのだが,劇的な効果をもたらす感じではない。とはいえ,あまりに劇的だと文明間のバランスが崩れてしまうので,これは仕方ないところかもしれない。ちなみに日本は,火力発電所に代わる「シェール油生成施設」(第二次大戦中,当時の満州地域で油分を含む地層から石油代替物を抽出したことに由来)といった設定で,いま一つピンと来ないのがちょっと残念なところだろうか。
それに対して3種類が追加された世界遺産は,さすがに強力な効果を持っている。
● | 万里の長城:蛮族が領域内に侵入するのを阻止,文化圏内で大将軍が登場する確率+100% |
● | アルテミス神殿:その都市で交易路からの収入+100%,無料の聖職者+1人 |
● | サンコーレ大学:国教のすべての建物からビーカーアイコン(技術開発ポイント)+2 |
このなかで,万里の長城は実際にゲーム画面に長大な城壁が築かれ,見た目にも新鮮だ。また,サンコーレ大学は文化/建設系のプレイヤーにとって見逃せない変更点になりそうだ。
どの文明でも使えるユニットの追加は,今回はわずか2点。ガレー船に対して強い攻撃力を持つ「三段櫂船」と,都市ダメージに特化した攻城兵器「トレプシェット」,いずれもゲームの比較的前半に登場するものとなっている。CivIIIの拡張パックで,派手な対空兵器などが登場したのに比べると,少々寂しいところだ。今回は総じて,システム面の変更に力点が置かれた印象が強い。
「シヴィライゼーション」シリーズは,MODが作成しやすい構造のゲームだ。オリジナルのCiv4にも,通常ゲームとは大きく設定が異なる,日本の戦国時代シナリオなどが収録されていた。「ウォーロード」でもその傾向は強く,8本のバリエーション豊かなシナリオが収録されている。
なかでも「Genghis Khan」と「Barbarians!」の2本のシナリオは,通常ゲームと違いが大きい。前者はチンギス・ハーンとなって,中国から東欧にかけての大帝国を築くもの。征服した都市では通常の生産が行える一方で,騎馬民族国家だったモンゴル帝国の特色を現すため「野営地」という特殊ユニットが設けられている。このユニットは,ある確率で地形に応じたユニットを(無償で)生み出し,さらに前ターンに移動していれば,その確率が上がるという設定も持っている。
後者もこれに少し似ているのだが,蛮族となって既存文明をすべて滅ぼすのが目的で,さらに異色の存在となっている。こちらでは,新規ユニットは,地形改善の略奪や都市攻略時のコイン収入で(必要ならスキルを付けつつ)購入していく。ゲーム歴の長い人には,「Wizardry4:Return of Werdna」を髣髴とさせるような気分が味わえた,といえば分かってもらえるだろうか?
もちろん,比較的スタンダードな追加シナリオもある。中国の「戦国の七雄」による覇権争いや,ペロポネソス戦争,ローマの勃興など古代を扱ったヒストリカルシナリオは充実している。
総じて言うと「ウォーロード」は,どちらかといえば戦争好きなプレイヤーにターゲットを定めた拡張パックと評せるだろう。この嗜好にマッチしたプレイヤーであれば,ぜひお試しいただきたい。裏を返すと,文化/建設系のプレイヤーにとって本作のフィーチャーは,あまり強烈にアピールしないかもしれない。もっとも,アグレッシブなAIの猛攻に耐えてこその文化/建設系プレイであると考えるならば,本作はより困難なチャレンジの場を提供してくれる。あくまでも高みを目指したいすべてのCiv4プレイヤーにとって,本作は新たな挑戦の対象として,期待に応えてくれるはずだ。
本文で紹介した,フランスの固有建造物「サロン」。芸術家が追加されるという機能は,いかにも,という感じ | こちらは日本の「シェール油生成施設」。火力発電所自体,重要性が低いうえ攻撃的な日本との相性も微妙 | 大型投石器「トレブシェット」は,カタパルトとカノン砲の間に登場する攻城兵器。ボーナスのため,都市攻めには有用 |