待望の完全日本語版が登場した,人類発展史シム「シヴィライゼーション4」。展開の幅が広く,一種麻薬的な魅力を持つこの作品を攻略する連載記事を,今週からお届けする。シリーズ第1作から営々とプレイしてきた虹川 瞬氏の“文明道”を,ぜひ自らのテクニックの一つとして,身につけてほしい。
ワールドワイドですでに100万本以上を売り上げた,文明シムの大御所「シヴィライゼーション4」。幅広い難度と展開が魅力だ
物事の価値を訴えるのに他人の動向から入るのは,ややはしたない気もするが,「シヴィライゼーション」シリーズは“売れてる”ゲームである。開発元のFiraxis Gamesの公式サイトによれば,シリーズ総計で700万本を突破。うち前作の「III」(PC用/Mac用にのみ発売されている)が300万本,今回の「シヴィライゼーション4」(以下,Civ4)もすでに100万本を突破しているという。もちろん,もっとセールスの多いゲームだってあるが,PCゲームとして十分にデカいパイを持つシリーズなのは間違いない。
そんなシヴィライゼーションシリーズ(以下,Civシリーズ)の魅力を,プレイヤーは口を揃えて「時間を忘れてハマるところがある」と表現する。一度プレイを始めるとなかなか切り上げられず,ゲームエンドを迎えても,すぐにまた始めたくなってしまう。
そうして,さすがにやり尽くした感が出てきた頃には,拡張パックや新作が登場する。これで不満に思っていた点が解消されたり,新しいプレイバリエーションが増えたりして,ハマり道が延々と続いていく。何を隠そう筆者も,PC-98版での初代から始めて10年を優に超える間,同シリーズをプレイし続けているのだ。
登場AIとくに近隣の文明の指導者が誰かという要素は,進行に大きく影響する。なかには,とんでもない戦争マニアもいるのだ
Civシリーズのどこに,こんなにも人をハマらせる魅力があるのか。ギリギリまで絞った形で答えを出すと,それは「難度と展開の多様性」になる。要するに「プレイヤーに合ったレベルで楽しめ,それでいて飽きない」のだ。プレイ時間で割った購入コストで考えると,Civは超お買い得なゲームなのである。
Civシリーズは難易度設定が非常に幅広い。易しい設定で大勝ちできるプレイヤーでも,難度を一つ上げるとPCのAIにまるで歯が立たないなんてこともザラにある。AIごときに負けるのが悔しくて戦術を見直し,勝利を目指し出すと中毒者の仲間入りだ。
さらにマップや登場AIはランダムにするのが普通なので,プレイごとに展開が変わる。無論,定石は少なからずあるが,「その回のプレイでの状況」に合わせた対応が必須。毎回のプレイに新鮮味があるため,繰り返してのプレイでも十分に楽しめるわけだ。実際,Civ4は早ければ1プレイ4時間くらいで終わるので,繰り返して楽しみやすくなっている。
シリーズ歴代作品で勝利条件は複数用意され,前作「III」からはその幅がいっそう広がっている。軍事強国を,小規模な国家が優れた文化で出し抜くという展開もあり得るわけだ。
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シヴィライゼーション4における,征服勝利と文化的勝利のムービー。力に頼るか権謀術数の限りを尽くすかは,プレイヤーのお好み次第だ |
そうした多様性を作品の核とするため,Civシリーズのゲームシステムはけっこう複雑なものになっている。実際,システムを理解しないと,難易度を下げてもまったく勝てない状況に陥る。白状すれば筆者自身,現行のCiv4よりずっとシンプルだった初代Civで,最低の難易度設定でも,あっという間に滅ぼされ続けた経験がある。
複雑といっても,プレイヤーに特殊な能力が要求されるわけでないことは,世界での売り上げ本数が証明している。要するに,プレイに利用できる要素が多彩ということなのだ。そしてプレイヤーは各要素を使いこなせるようになる過程で,「考えた甲斐あって,きちんと強くなったじゃん,オレ」という実感が得られ,これこそがCivシリーズをやり込む楽しみになる。
画面に見えている項目の多くは,通常のスタート時に変えられるもの。カスタマイズスタートを選べば,登場AIに関してはさらに柔軟な設定が行える
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ゲームに登場する用語や概念については,オンラインマニュアル「シヴィロペディア」で詳細に解説される。ゲーム内での働きと史実が,両方理解できる
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ゲーム開始後,ようやく2番目の都市を造ったくらいの状態。未探査の部分が見えないのは当然だが,有用な「資源」も,それが利用できる技術を手に入れて,初めて見えてくるシステムだ
いきなり総括的な論評から入ってしまったが,ここで改めて「Civ4」がどんなゲームであるか紹介していこう。ゲームのモチーフは人類の発達史だ。スタートは紀元前4000年,まだ人類が「陶器」や「弓術」さえ知らない状態である。プレイヤーが演じるのは,この状態で世界にいくつか興った文明そのものないし指導者だ。
登場する文明は合計18。指導者には歴史上の人物が設定されており,2人設定されている文明もあって,合計26人が登場する。文明ごとに固有ユニットがあり,指導者には「特性」が定められている。例えば日本の場合,固有ユニットは「侍」。指導者は徳川家康で,「攻撃志向」と「組織志向」を持っている。この「特性」は,文明経営のうえでのボーナスになるため,どんな勝利条件を目指し得るかに深く関わってくる。
ちなみに,各指導者がAIプレイヤーとして登場するときには,特性以外にもいくつか,その人らしい個性付けが行われている。例えば徳川家康は,相互通行条約や技術交換の提案にあまり応じてくれない。そう,“鎖国好み”というわけだ。指導者の個性が6000年も続くのは変だが,ゲームを楽しむための味付けと思ってほしい。
古代から近未来まで文明を指導し,発展させ続けて「世界で一番スゴい文明」とするのが,プレイの目標となる。「スゴい」の定義=勝利条件は複数用意されていて,他文明を全部滅ぼす(征服),75%以上の地表面積と人口を支配下に置く(制覇)といった戦争必須のものから,選挙で国連事務総長に選ばれる(外交的),卓越した文化ポイントを達成した都市を三つ持つ(文化),アルファ・ケンタウリ星系に向かう宇宙船を打ち上げる(宇宙開発競争)といった,文化や技術に寄ったものまで用意されている。これら勝利条件は同時に設定/判定されており,いずれかを真っ先に達成した文明が勝利する。
ゲーム開始時の指導者選択。女性指導者も何人か登場する。ロシアのエカチェリーナは,軍事志向の人の間で人気が高いようだ
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近代末期の様子。自文明は一つの大陸の南方を,押さえきる形に拡大している。上端に赤と緑の区切りとして見えるのが国境線だ
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Civ4のマップは正方形のマス(スクウェア)で区切られており,ある文明の領土は,都市の集まりとして表現されている。都市はマップ上の一つのスクウェアに置かれ,そこを中心とする21スクウェア(5×5=25のスクウェアから四隅を除いたもの)を,経済圏にできる。プレイヤーは都市とその住民から収益を得,建造物や軍事/非軍事ユニットを作ったり,技術を発展させたりして,文明を経営していく。
「新しい技術を開発することで,従来なかった建造物や強力なユニットが作れる」というシステムは,今やRTSでおなじみだが,実は初代Civが元祖だ。ただし,6000年も時代が続くCivシリーズの技術開発は,多くのRTSに比べて息の長いものになっている。また,「1文明が一度に開発できる技術は一つだけ」という制約があり,開発の順序が戦略的に非常に大きな意味を持つ。
詳しくは来週以降で解説するが,例えば宗教を創始することには多くのメリットがある。通常は8種類の宗教が登場し,いずれも各文明との歴史的な関わりは切り離されている
Civ4ではさらに「最初に発明/発見した文明にボーナスが出る技術」が多数用意された。例えば「宗教」を創出するには,特定の技術を最初に発見する必要がある。技術開発のミニレースを多数行うことになるため,プレイに緊張感が持続するのだ。
もちろん,技術開発は軍事的にも大きな意味を持っている。例えばまだ槍や弓の部隊が残っている他文明に,擲弾兵(手投げ弾を使う兵士)やライフル兵で攻め込み,あっという間に領土を併呑するようなプレイはなかなかに爽快だ。もちろん,うかうかしていれば逆にやられたりもするが。
首都・北京の付近を拡大してみた。マップは3D表示されており,駐在ユニットのうち最も戦闘力の高いものが都市に重なって見える。よく見ると,追加で作った都市建造物も配置されている
このゲームにおいて,他文明は単なるライバルではない。AI相手にかなり高度な外交交渉が可能になっているのだ。資源や技術,マップのトレードのほか,相互通行や防衛協定などの条約を締結できるし,技術や金銭の供与をエサにして,他国に戦争を仕掛けさせることさえ可能である。陰険なやり口に思えるかもしれないが,例えば高難度で非軍事勝利を目指すときに,こうした外交交渉は重要なテクニックになる。
プレイヤーは,自分の目指す勝利目標に向けて文明を育てていくが,軍事勝利を目指す場合でも外交交渉や生産力増強は必要だし,非軍事的な勝利条件を狙う場合でも,時には他国領土を切り取り,防衛戦争をする必要が出てくる。Civ4における文明経営,そして勝利への道は,軍事・経済・外交の各領域をうまく組み合わせて使うことで実現されるものなのだ。
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各文明の発展度合いはグラフで確認できる。写真のグラフの場合,左の軍事力(表記は「エネルギー」。これは明らかな誤訳)では相当に苦戦しているものの,右の「文化力」では優位を維持。実際,トップのギリシャ(アレクサンドロス)を抑えて,宇宙船開発に成功している |
さて,そんなCiv4の攻略ノウハウを,次週から本格的にお届けしていくわけだが,今回は手始めに,都市の経済システムをもう少し詳しく見ておこう。Civ4のプレイ全体における大きなキモであり,当サイトの「こちら」にもある体験版(英語版)を,購入前にプレイするうえでも知っておきたい事柄だからだ。
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都市の経済圏を,画面を使って図示してみた。赤い四角で囲まれ,斜線を入れていない部分が経済圏で,市民を配置できる。中央の水色の四角が都市そのものの位置だ。市民を配置した場合の収益は,食料・ハンマー・コインのアイコンで示されている |
都市から得られる基本的な収益は3種類,「食料」「ハンマー」「コイン」だ。食料は人口の維持/拡大に必要で,ハンマーは建築物やユニットを作るのに使われる。コインは文字通り金銭で,社会維持費や,技術開発経費として使われるほか,他文明との取引や,軍事ユニットのアップグレード経費としても利用される。また,コインは特定目的に支出が決まると「ビーカー」(技術開発)や「音符」(文化算出)に形を変える。
基本収益を得るには,二つの方法がある。一つは,市民を都市圏内のスクウェアに割り当てること。例えば草原なら食料が多く採れる(地形の複合で複数の収益が得られることも多い)。もう一つは,都市に「専門家」を置くこと。例えばビーカーをたくさん生産したいなら,市民を「科学者」に変えればいい。なお,都市が置かれたスクウェアからは,とくに市民の割り当てなしでも,収益が得られる。
基本収益をさらに増やすには,またまた二つの方法がある。一つは,都市内に収益を増やす都市建築物を作ること。例えば銀行を作れば,音符とビーカーに出費した残りの金銭収益を+50%できる。もう一つは,労働者ユニットを使ってスクウェアに「資源活用施設」を置くことだ。丘陵に鉱山を設置することで,ハンマーをよりたくさん得られる,といった具合である。
専門家の一つ「技術者」を大量投入して,工業生産に特化させた都市の例。専門家は総花的に使うより,目的を決めて一種類を大量投入していくのがお勧めだ。これは,都市ごとに得意な分野をはっきりさせていく,ということでもある
ここまで読むと,都市と人口をどんどん増やしていくことが勝利への道と思えるかもしれない。ところがCiv4では,そうした拡大戦略に強力な歯止めがかけられている。
まず,従来作と同様に人口の増加そのものが都市の発達を阻害するという要素がある。Civ4では都市ごとに「衛生と不衛生」「満足と不満」がカウントされている。人口が増えることで不衛生や不満が増大し,収支がマイナスになると,食料収入に悪影響が出たり,一切働かない市民が発生してしまったりする。
Civ4ではさらに,文明が支払う都市の維持管理費が,総都市数に影響されるシステムに改められた。未成熟な都市を多数持つと財政負担ばかり増して,金銭収益が悪化してしまうようになったのだ。さらに,意識的に対応しないとコイン収入が得にくいシステムにもなっているため,うかつな拡大主義はあっという間に財政難を呼び,科学技術の大停滞期を招いてしまう。まあ,これが起きやすいのがちょうど中世というのは,ゲームとしてよく出来たところだ。
基本収益をアップする「資源活用施設」がいろいろ確認できる画面。森にあるのは製材所,地面が格子柄になっているところには農場がある。労働者を使ってこれらの施設を設置していくことは,軍事路線のプレイでも必須事項だ
システム面での制約は,低難度ではそれほどきつくないので,最初はあまり深く意識せずに文明を発展させる楽しさが味わえる。それでも,下から3番目の「将軍」レベルくらいから,行き当たりばったりでは勝てなくなってくるのだ。
実をいうと,このレベルではまだ人間が有利なようにハンデが与えられている。対等の条件である「貴族」,またはPCのAI側にハンデが与られ始める「皇子」レベルくらいで戦えるようになると,達成感もだいぶ盛り上がるというものだ。
ということで,次回からは,この貴族ないし皇子レベルでやっていくための文明経営の指針を解説していく。