100年以上先の未来戦争を描くバトルフィールド2142
どんよりとした空から絶え間なく降り続く粉雪と,未来的なビルの前に立つ2足歩行の戦闘機械。シリーズ最新作の「バトルフィールド2142」は100年以上の未来,突然の氷河期によって文明が崩壊した世界を舞台に,ハイテク兵器がぶつかり合う過酷な戦場を描くのだ。寒々とした雰囲気は,生存を賭けた戦いの舞台にふさわしい。ところで,地球温暖化はどうなっちゃったのかしら? |
2006年春3月,バトルフィールド(以下BF)シリーズの最新作の舞台が100年以上先の未来の地球になるというElectronic Artsの公式発表を聞いて,「えー!」と思った人も多い違いない。私もそう思った。えー! そうなんですか? 発表と同時に公開された3点のスクリーンショットには,未来的な意匠のビルの前にすっくと立つ二足歩行の未来兵器や,空中に浮かんで銃を撃つ小型ロボットなどの姿が確認でき,またその後に公開されたトレーラームービーには,半透明になった兵士や,トリッキーな動きをする戦闘機などが映し出されていた。それ自体はなかなか迫力があって魅力的だったのだが,うーむ……。
当時の私の感想は,たぶん多くの熱心なバトルフィールドファンと同じものだと思うが,簡単に言って「微妙」。実際はどうあれ,これまでBFシリーズは「ミリタリーもの」にカテゴライズされており,それがSFに転換してしまうことに対し,ミリタリーファンとしては複雑な気分だったわけだ。発表後,さまざまなフォーラムに賛否両論の書き込みが活発に行われたのも予想どおりで,ごく個人的な印象で言うなら,賛否のうちの“否”がやや多めだったような。未来兵士やロボット兵器は,ファンの大部分を構成する筆者のようなミリタリー好きにはいささか否定的に映ったみたいである。
なんとはなしに,立っているだけで汗ばんでくるベトナムの赤茶けた大地と「ワップ! ワップ! ワップ!」と上空を飛ぶヒューイヘリコプターのローター音が脳裏に浮かんだのは私だけではあるまい。いやなに,今一つ高い評価を獲得できなかった「BF ベトナム」(個人的には好きなのだが)の話なんですけどね。ここに紹介する「バトルフィールド2142」と前作であるBF2の間柄に対し,大ヒットしたBF1942とBFベトナムの姿を重ねる意見も多く見られたのだ。
とはいえ,ではBFシリーズがガチガチなミリタリーゲームだったのかといえば,必ずしもそうではない。スウェーデンはストックホルムに本拠を置くデベロッパDigital Illusions Creative Entertainment(D.I.C.E.)が2002年に世に問うたBF1942は,リアルさからは一歩距離を置いたゲームだった。というか,考えようによってはかなりムチャクチャ。なにしろ,普通の兵士が気ままに戦車に乗ったり飛行機に乗ったり,果ては空母を操艦したりするのだ。兵器にしても,BF1942の拡張パックである「BF1942:シークレット・ウェポン」では,背中にしょって空を飛ぶジェットパックや,奇妙な全翼機など,ある意味“未来兵器”が次々登場して戦場を駆けめぐっていた。我々はそんな破天荒さを大喜びしてもいたのである。
2004年のE3(Electronic Entertainment Expo)で行われたBF2スニークプレビューでは,撃たれてひっくり返った味方兵士に電気ショックを与えるとたちどころに生き返り,おれについてこい! と走り出す,というシーンを見せられたメディア一同から「そりゃないだろう」と爽やかな笑いが巻き起こったことを思い出す。今でこそなんでもない,普段使い慣れたフィーチャーだが,こうした「面白いからなんでもあり」というゲーム性こそがD.I.C.E.の真骨頂であるような気がする。そういう観点から見れば,テーマがミリタリーからSFになったことはあくまで心情的な問題であり,プレイアビリティに大きな違いがあるわけではないのだ。
もっとも,この「大きな違いがあるわけではない」の程度がまた問題になってくるわけであり,テーマはともかくとして,ゲーム性に大きな違いがなければ「ただのMODじゃないか」という口の悪いBFファンの意見もそれなりに正しいことになる。そのへんがBFファンとしての,本作の注目ポイントと言えるだろう。
魅力ある未来兵器が続々と登場
愉快な未来ガジェットがふんだんに出てきて,前作に比べてぐっと「歩兵戦闘」寄りになった雰囲気が強い。歩兵の攻撃力が高まったため,以前のような「圧倒的な」兵器は存在できず,FPSの基本ともいえるフットソルジャー同士の息詰まる撃ち合いを楽しめるのだ。戦場の情報も飛躍的に増えたため敵の位置などが分かりやすく,戦闘が発生しやすい |
舞台は2142年,突然の氷河期に襲われた地球では,残された土地と資源をめぐって生き残りをかけた激しい戦いが起きている。登場する勢力は,ヨーロッパ連合(EU)とアジア連合(PAC)の二つ。もっとも,アジア連合といっても,よく聞くとロシア語をしゃべっているようなので,ロシアの立場は微妙っぽい。登場する大型兵器は全10種類,内訳は,戦闘機,輸送機,戦車,APC,ジープ,そして“バトルウォーカー”と呼ばれる2足歩行のSF的な戦闘機械,以上の5カテゴリがEU側,PAC側にそれぞれ用意される。また,兵科は偵察兵,突撃兵,工兵,そして支援兵の4種類になっている。
こうした数字を挙げていくと,前作(大型兵器が約30種類。兵科は7種類)に比べてやや小ぶりな印象を受けるはずだ。とはいえ,実際にプレイしてみるとさほどの不足感はない。大型兵器の種類は登場する勢力の数に比例し,実際はどうあれ,ゲームの都合上,同一カテゴリの兵器はそれぞれだいたい同じような性能を持たされている。種類は多いが,できることや目的は似ているわけだ。また,BF2におけるジェット機とヘリコプターが,使い勝手の良いハイテク航空機にまとめられており,また対空車両もなくなっているが,これは戦車やAPCに対空能力を持たせることで対応している。兵器がリスポーンするタイミングも早めなので,ゲーム中に兵器不足に陥ることもなく,種類が減ったぶん,あれこれ迷う必要もなくなった。ただ,そうした多目的性と,現有兵器とのアナロジーが通じないことから,各種車両,航空機の使い方が若干複雑になっている。今までの感覚では「あれれ?」ということも起きるだろうが,そこはそれ,未来なのでしょうがない。まあ,少しプレイすれば,すぐに覚えるはずだ。
また,兵科数の減少には,新たなフィーチャーである「カスタマイズ」で対応している。これは,戦闘中に敵を倒したり拠点を占領したりで得られたポイントによって,各種の武器やアイテムがアンロックされるというシステムで,BF2からおなじみのものだ。
とはいえ,このアンロックシステムも,しばらくの間,論議の的になった。BF2では各兵科で武器が1〜2種類。それもまあ,デフォルトの武器よりちょっといいかな(場合によってはデフォルトのほうが優秀)程度の個人携行火器がアンロックされるだけであり,戦況に大きな影響を与えるようなものではなかった。しかしBF2142では,武器はともかく,各種未来ガジェットが軒並みアンロックアイテムになっており,これにもまたブーイングが上がった。まあこれは,いささか無理のない話。なにしろ,開発途中で公開された数多くのムービーやスクリーンショットに登場した「超面白そう!」なアイテム類が,ある程度戦い続けないと手に入らないというわけなのだ。
あんなに煽っといて,そりゃないよ,という心情的な部分はともかくとして,ゲームシステムとして見るとこれは「長く戦っているプレイヤーほど有利になる」ような印象を与えたのだ。マルチプレイFPSの面白さはプレイヤーのスキルにかかっている。強いプレイヤーは,強力なアイテムを持っているからでも,時間のかかる修練を経て呪文を覚えたからでもなく,本人の実力だ。そのため,まあ,誰が決めたわけでもないけど,全員がフラットな条件で戦うのがマルチプレイFPSの大前提とされており,それが崩れてしまうようなシステムと感じられたのである。実を言うと,私も感じた。
確かにメジャーなマルチプレイFPSタイトルとしてはほかに例のない試みだったが,パブリッシャのEA,およびD.I.C.E.とも,少なくとも積極的に「プレイヤーの差をつけよう」という意図はなかった。2006年11月11日,EA Experienceと名付けられたアミューズメント施設のオープニングセレモニーが香港で行われたが,その際,筆者はD.I.C.E.のプロデューサーに話を聞く機会を得た。そこで,プロデューサーは「このカスタマイズのフィーチャーは熟慮の末だった」とコメントしているのだ(関連記事)。このシステムは,ゲームをプレイするモチベーションを持続させることや,未来アイテムに段階的に習熟してもらうことなどがその目的であり,非難される可能性を十分考慮に入れつつ採用したとのこと。また,不公平感を嫌うプレイヤーにはビギナー用サーバーを用意してレベルアップしてもらうなど,システム面でも対応していく予定とのこと。
もともと,BFシリーズは乗り物だの拠点だの補給だのといった多彩な要素を持っており,例えば「カウンターストライク」のようなストイックなマルチプレイFPSに比べて,プレイヤーは戦闘以外にもいろいろなことができる。つまり「地上じゃヘタレだが優秀なパイロット」とか「メディックやらせりゃ日本一」とかいう遊び方もあり得るということで,アンロックアイテムによる有利不利は,必ずしもストレートに影響してしまうわけでもなさそうだ。
実際にプレイした限りでは,少なくとも武器に関してはそのとおりだと感じた。強い武器とはつまり,それ一丁でなんでもできるマルチパーパスなものを指す場合が多いが,アンロックされるのは“対車両には向いているが対人に不向き”など,必ず一長一短あるようにできている。つまり,ベテランプレイヤーほど「戦略の幅が広がる」ということで,単純に有利になるわけではない。
ただし,アンロックアイテムについてはちょっと微妙で,やはりより多数の未来グッズをアンロックした兵士ほど有利になるようだ。とはいえ,ポイントを獲得する方法はBF2よりも多く,それゆえ出世のスピードも速いので,一つの兵科に絞ってしまえば,すべてをアンロックするのにそれほど時間はかからないかもしれない。
新しいゲームシステム/モードが未来の戦場を盛り上げる
巨大空中要塞「タイタン」をめぐる戦いが,今回導入された新ゲームモードだ。タイタンを落とすには,シールド破壊用ミサイルサイロの確保,あの手この手を使ってのタイタン侵入,通路での接近戦とコアの破壊など,多面的な戦いをこなさなければならない。はっきり言って,非常に白熱する面白いものになっている。ぜひ,挑戦していただきたい |
ポイントといえば,分隊長/コマンダーの命令どおりに行動して拠点を占領したり攻撃したりするとポイントを得られたり,NetBat(Network Battlefield system)という分隊内の情報共有システムがあったりと,チームに入っていたほうがはるかに有利になるようなシステムが追加されている。チームに入ったときこそ最高のゲーム体験ができるようにしたい,というのは,D.I.C.E.が以前から折にふれて語っていることだが,実際にプレイしてみるとその印象は強く,今後もこうした傾向は続いていくはずだ。
NetBatを使えば,分隊のほかのメンバーが発見/交戦した敵の位置が表示されるため,コマンダーの「衛星スキャン」や,UAV(無人偵察機)などの情報を含めると,敵の位置や攻撃意図などがさらに分かりやすくなる。そのため,敵の姿を求めてあっちフラフラこっちフラフラという状況が減り,いたるところで撃ち合いが頻発する。BF2に比べて,ゲーム展開がよりスピーディになったといえるだろう。
だが,BF2142の最大の特徴は,なんといっても「タイタンモード」だ。これは,敵と味方に一隻ずつ存在する巨大空中要塞「タイタン」を攻め合い,先に敵のタイタンを沈めたほうが勝ち,というもの。開発途中から「BF2142はタイタンモードが最大のセールスポイント」というアナウンスが何度も行われ,それなりに期待はしていたのだが,実際にプレイしてみると,これまでのコンクエストモードに比べてより複雑な戦略が要求され,さらに一発逆転もあったりする面白いシステムになっている。
タイタンモードの詳細については「こちら」の連載記事を見ていただきたいが,BF2142をプレイする強力な動機になるだろう。
こうしたタイタンやNedBat,そして各種の未来兵器などによって,いささか主観的な言い方で恐縮だが,前作に比べてより“ゲームっぽくなった”という雰囲気が強い。
というわけで,BF2142には,かつてBF1942にあった「面白いから何でもあり」の雰囲気が濃厚に漂っている。BF1942に続くBF2のリリースに当たって,D.I.C.E.はリアルな路線に舵を切った。それはそれで面白かったが,BF2142の制作に当たっては,タイタンモードやエキセントリックな未来兵器の数々などを通して,もう一度最初の頃のゲーム性に戻ろうとしたように見える。前述のプロデューサーも「SFになったからタイタンモードが出てきた」のでなく,「タイタンモードをやりたいために設定がSFになった」と言う。
同時に,こうしたマルチプレイFPSのシリーズは,やはり毎年のように新作をリリースする必要性があるのかもしれないと感じる。2005年に発売になったBF2には,すでに一年以上も戦ってきた歴戦の兵士がひしめき,ビギナーにとっていささかハードルが高くなっているのも事実。したがって,新たにバトルフィールドワールドに参加したいというプレイヤーが,BF2142で,横一線のスタートを切れるのは良いことだ。
グラフィックス面で大きな変化はなく,また基本となるシステムも前作を踏襲しているが,ゲームの雰囲気は異なり,BF2のプレイヤーも楽しめるはず。ゲームの完成度としてはBF2に一日の長があるとは思うが,「SFだからなあ……」という理由でプレイしないのは非常にもったいないと言えるだろう。ぜひ意表をついた未来の戦争を体験してほしい。