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最新のハッキング事情など:テクノブラッドがオンラインゲームセミナーを開催
2006/11/15 22:18
 本日(11月15日),東京都新宿区にある新宿マインズタワーにて,オンラインゲームの構築/運営に欠かせない「配信・課金・セキュリティシステムの最新技術」についてのセミナーが開催された。主催は,ネットカフェ事業者向けのサービスやオンラインゲーム支援事業を手がけるテクノブラッドだ。
 講演については,配信システムに関してをCDNetworks Japanの技術部長である村上敏也氏が,課金システムに関してをAdbill Softのチェ・ギョンホ氏が,そしてセキュリティシステムについてを,「nProtect GameGuard」の開発元として知られるInca Internetの主席研究員キム・ソムボム氏がそれぞれ担当。先行する韓国市場における実例をデータを交えつつ紹介しながら,配信・課金・セキュリティシステムそれぞれの現状と課題,そして必要性などが論じられた。

 セミナーは,まずテクノブラッドの代表取締役崔 秀根(チェ・スグン)氏が登壇し,軽い挨拶を行った。氏は「これまで数々のオンラインゲーム事業者とお話する機会を設けさせて頂いた。それはマーケティングであったりローカライズであったり,あるいはネットカフェへの展開であったりと,いろいろなご相談を受けたが,中でもとくにご担当者の方が頭を悩ませていたのが,今回のセミナーのテーマである,インフラ,課金,そしてセキュリティに関する部分という印象でした」と語り,次いで「今回は製品の紹介というよりは,それらの事柄に関する,韓国における事例や問題点の紹介などを重視しています。参加頂いた方々にできるだけ有益な情報をお持ち帰り頂き,今後のビジネスの糧として頂ければと思います」と,今回のセミナーの趣旨を語った。



トラフィックから見るオンラインゲーム市場とは

 最初に講演を行ったのは,CDNetworks Japanの村上敏也氏。氏は,「トラフィック」という観点からのオンラインゲーム分析を,日韓のデータを紹介/比較しながら解説。まず,氏は韓国におけるデータを紹介しながら,韓国においてはオンラインゲームのトラフィック全体が増加傾向にあることを紹介。2005年1月と2006年1月のそれぞれの時点のトラフィックを比較すると,トラフィックが約2.5倍に膨れあがっているといい,2006年に入ってからは,100〜120Gbpsの間で推移する傾向が見られると説明。さらにジャンルごとにトラフィックの傾向なども提示し,カジュアルゲーム,ボードゲーム,MMORPGなどゲームの種類によって,トラフィックが集中する時間が異なると解説した。ちなみに村上氏が言うには,韓国では,ここ最近,ボードゲームが急激に人気(トラフィック)を集めつつある分野なのだという。
 また,「まだ計測期間が短いので,なんともいえないのだが」と前置きした上で,日本のオンラインゲームにおけるトラフィックデータ(ダウンロード案件)も少し紹介。季節によってトラフィックが大きく変動する傾向があることを説明した上で,韓国では,4月,8月,12月にトラフィックが集中する傾向があるのに対し,日本は,3月,7月,11月にトラフィックが多くなるのだと解説した。
 日本の推移を見る限りでは,春休み,夏休み,冬休みといった各シーズンに合わせてオープンβテストや正式サービスが行われるという傾向が,ダイレクトにトラフィックとして反映されているという見方ができそうなデータだといえよう。
 講演を通して村上氏は,ゲーム会社におけるネットワーク技術者の不足をはじめ,内部でインフラを調達する難しさを指摘。ある一定の規模以上は,アウトソースしていった方が効率的であるとした。



仕様が複雑化するオンラインゲームの課金システム

 軽い休憩のあと,次いで登壇したのがAdbill Softのチェ・ギョンホ氏。内容は主にAdbill Softおよび同社が開発したソリューションについての説明であったため,細かい部分は割愛させて頂くが,大まかに言うと,市場の立ち上がり当初は月額課金などの比較的単純な課金決済システムだけしか求められてなかったオンラインゲームだが,オンラインゲーム市場の成長,そして競争の激化によって,多くの機能/課金スタイルが求められるようになり,独自開発することが非常に難しくなっている……という話になる。
 実際のところ,昨今のオンラインゲームでは,アイテム課金をはじめ,ゲーム内ポイント,あるいはサービス内のポイントを使った課金,あるいはマイレージ的なポイント付加サービスなどなど,決済システムに要求される機能/仕様が複雑化しているのは,プレイヤーサイドから見ても一目瞭然。そんな状況もあり,課金システムをいちいちタイトルごと,あるいは各社ごとに作っていては非効率的だというのは,まぁ至極もっともな話だといえるだろう。



組織化するハッキング。オンラインゲームセキュリティの今

 最後に講演したのは,Inca Internetの主席研究員キム・ソムボム氏。Inca Internetは,nProtect GameGuardというオンラインゲーム専用のセキュリティソリューションを開発した会社だが,nProtect GameGuardといえば,国内で高い人気を誇る「ラグナロクオンライン」「スカッとゴルフ パンヤ」で導入されている対ハッキングプログラムであり,名前くらいは聞いたことがあるという読者も少なくないはずだ。
 ソムボム氏の講演は,ゲームハッキングに関する現状と具体的な手法を淡々と説明するなかなか興味深い内容で,まずオンラインゲーム市場が急激に成長するにつれて,ハッキングの件数やハッキングツールの種類が爆発的に増加していると解説。また年々件数が増加するだけでなく,手口や手法が高度化する傾向も見られ,ハッキングの動機に関しても,レベル上げ目的や愉快犯的な動機のみならず,金銭獲得を目的とした組織的な活動が深刻化しているという,最新のハッキング事情を語った。
 続いてソムボム氏は,スピードハック,メモリハック,パケットハックなどのハッキング手法を一つ一つ丁寧に紹介しながら,簡単なテストプログラムを用いた実演ムービーなどを紹介。PCのメモリ内にあるデータをどういう手順で解析していくか,またそれがどういう結果をもたらすかを説明していく。ハッキングに関する詳しい内容は,以前4Gamerで掲載した「こちら」の記事を参照してほしいが,最近のハッキング動向としては,パケットハックやマクロ/BOTの発展形ともいえる「Non-Client BOT」が増加傾向にあると,ソムボム氏は語る。
 Non-Client BOTとは,クライアントおよびパケットを完全に解析した上で,正規のクライアントを使わずにログインからゲームの進行(狩り),そして終了までを行うダミークライアントのこと。ゲームクライアントに比べると非常に小さいプログラムとなっているため,一台のPCで数十のプログラムを同時に実行させるなどの使われ方をするのだという。
 さて,上記の説明ですぐに想像できると思うが,これは明らかに「ゲームを楽しむ」という動機からは逸脱しているものであり,実際,主に中国や台湾の組織的なハッキンググループによって制作/使用されることが多く,もっとも悪質かつ対応が難しいツールとして位置づけられているという話。もちろん,これはRMT(リアルマネートレード)とは決して切り離せない問題であり,オンラインゲームというものが,オンラインバンクやそれに近い認識(お金を生むという意味で)で,悪質なユーザーの標的になっているという現実の現れでもある。講演の最後に,ソムボム氏はこう語った。

「オンラインゲームにとってセキュリティとは,もはや導入するかどうかを迷う部分ではなく,必須の,まさに絶対に欠くことのできない部分なのです」

 非常に残念なことではあるが,この指摘はほぼ正しいと言わざるをえない。オンラインゲーム市場が拡大するにつれて,あるいは拡大すればするほど,ますますハッキングが深刻化するのは間違いないだろう。本格的な拡大が見込まれるこれからの日本のオンラインゲーム市場(日本に限ることでもないが)。その成否は,もしかしたらセキュリティ対策にかかっているのかもしれない。(TAITAI)

→参考:[韓国ゲーム事情特別編]オンラインゲームハッキング対策の現在


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/news/history/2006.11/20061115221858detail.html