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[台北ゲームショウ番外編] 業界人必見。Mr.Kimの台湾PCオンラインゲーム事情
2006/02/22 23:55
 日本の東京ゲームショウ,韓国のG★,中華人民共和国のChinaJoyなど,アジア圏で開かれるゲーム展示会の一つとして,また,今後の台湾市場の可能性を見る意味で,当サイトとしては初の台北ゲームショウ取材を行った。
 台北ゲームショウでは「Guild Wars: 2006 World Championship」が併催されていたため,予想した以上に多忙な取材となったが,現地の人のオンラインゲームに対する高い関心を見るにつけ,いろいろな疑問が湧いてきた。そこで,会場のあちこちを取材しながら,ゲーム業界関係者に聞いた話をまとめて,いわば「台湾PCオンラインゲーム事情」とでもいうべき原稿をまとめてみた。物事の奥の奥まで掘り出せている自信はないのだが,台湾ゲーム業界に興味のある人は,ぜひご一読を。



■2500万住民の20%がゲーマー?

 台湾のゲーム市場は,PCパッケージゲームを中心に発展してきた。1990年代の末までは海外のPCゲームタイトルに加え,地元のデベロッパーであるSoftworldグループや,Softstar(大宇)などによる,武侠RPGなどがかなりポピュラーだったという。
 総勢2500万人の住民のうち,500万人以上がゲームを楽しんでいるという,予想以上のゲーム人口で,ゲーム文化に慣れ親しんでいる地域といえるだろう。

 PCパッケージゲームを中心としてきた市場の流れが,変わり始めたのが2000年。Gamaniaによる「Lineage」のサービスと同時に,オンラインゲームが主流として浮び上がり,全土に続々とPC Bang(ゲーム主体のインターネットカフェ)ができたという。
 2001年から2002年にかけて急激に成長したオンラインゲーム市場は,2002年6月に「Ragnarok ONLINE」のサービスが開始されると,Lineage vs. Ragnarok ONLINEという二強体制が固まっていく。この2タイトルはそれぞれ20万人と30万人を超える最大同時接続者数を記録し,台湾の人々をオンラインゲームの魅力の中に引き込んだ。
 韓国市場および日本市場と比較してみると,台湾の立ち位置はさらに興味深く見えてくる。さまざまな経緯はあるものの,Lineageが優勢な韓国とRagnarok ONLINEが人気の日本。両市場での人気タイトルが,絶妙に均衡しているのが台湾なのだ。

 NC TAIWANのKim Seung Beomチーム長は「台湾人は,多様な文化を吸収する能力では世界最高水準にあります。非常に開放的な性質を持っているし,海外の文化を現地化する能力は卓越しています。SD風の可愛いキャラクターを好みながらも,8頭身のリアル系のキャラクターも同時に好きなのがそれを証明しています」と言う。

 台湾でオンラインゲームをプレイする年齢層は大きく二つに分けられる。「Ragnarok ONLINE」「Maple Story」などを楽しむ,小学校5〜6年生から中学校3年生の低年齢プレイヤー層,「Lineage」「リネージュII」「World of Warcraft」などを楽しむ,大学生から30代前半の成人プレイヤー層だ。
 1990年代の台湾ゲーマー達は,武侠モノのPCパッケージゲームと三国志を原作にした多くのゲームを非常に好んだが,オンラインゲームの隆盛につれて,歴史モノからファンタジーモノへと,トレンドが移りつつある。それは,初めて台湾市場でブームとなったオンラインゲームが,Lineageなどのファンタジー作品であったことと,ゲームに親しむ年齢がどんどん下がっているためだ。



■コンビニを中心にした強固なオンラインゲーム流通市場

 さて,2000年からオンラインゲームが盛んだった台湾だが,ネットワークのインフラはまだ韓国や日本に比べてはあまり良いほうではないらしい。それゆえ,オンラインゲームのクライアントをダウンロードしてプレイするのは,かなり難しいようだ。日本にもあるような,1か月(ないしはそれ以上の)チケットが同封されたパッケージ形態での販売が,台湾ではオンラインゲーム配給方式の主流となっている。
 ただし,そうした配給方式に,ネットワークインフラより大きな影響を与えているのは,台湾人の“現物愛好”だ。中国系の文化に属する人々は,伝統的に現物(現実に形がある品物)を非常に信頼する。そのため,オンラインで行われる決済について,一般に強い違和感を持っている。
 もちろん,パッケージ販売が盛んな国/地域はほかにあるので,そればかりが理由だとはいえないが,自分のお金を支払ったら,どんな形であれ,それに対応する品物をもらわなければならないとする意識が,台湾ゲーム市場でパッケージ販売が盛んな理由の一つではなかろうか。

 また,これは日本でもよく見られることだが,台湾でオンラインゲームをプレイするために購入しなければならないゲームポイントカードは,コンビ二(ほとんどSEVEN ELEVEN)で手軽に購入できる。台湾ゲーマー達は,楽しみたいオンラインゲームパッケージ(クライアントCD+ゲームポイントカード)を購入して,自宅やPC Bangでプレイする。
 現地業界のある関係者は「台湾におけるオンラインゲームパッケージのコンビ二流通はほとんど絶対的だ。何年か前に韓国のある会社がダウンロードの流通方式を採用してビジネスを展開し,倒産したことがあるほどだ」と言う。台湾のオンラインゲームビジネスはコンビニから始まると評しても過言でないくらい,強固な流通構造を誇っているようだ。

 現在台湾全土では約3000店のPC Bangが営業中だ。しかし,ピークだった2002年には約8000店がひしめき合ったという。PC Bangの減少は,やはり過当競争による料金下落が主要原因だ。しかし,すべてのPC Bangに設置されているPC台数総計はあまり減らなかった。というのも,PC Bangのフランチャイズ化が進んで,高級化/大型化されていっているからだ。
 南部にある,台湾第2の都市である高雄市が,PC Bangのトレンドを主導しているという。台北市に比べて平均所得水準がやや低い高雄市は,一般家庭のPC保有率が非常に低く,オンラインゲームプレイヤーの70%がPC Bangを利用している。一方中心都市である台北市では,自宅でゲームを楽しむ割合とPC Bangでゲームを楽しむ割合が,およそ8:2と,圧倒的に自宅でプレイする人が多い。 PC Bangの利用料金は地域によって差があるが,平均して1時間あたり300円前後だという。



■より簡単で可愛らしいMMORPGという新たなトレンド

 台北ゲームショウが開催された2月16日,台湾の経済省工業局(ゲーム産業に係わる政府機関)で主催する「GameStar」ゲーム選抜アウォードで,今年の最優秀オンラインゲームとして「Maple Story」が選ばれた。
 同ゲームは台湾市場において累積会員350万人,最大同時接続者18万人を記録する,驚くべき成果を収めているという。上述したように,台湾のゲーム人口は約500万人。その中で350万人という数値は,あまりにも大きい。
 Maple Storyの現状から,台湾オンラインゲーム市場のトレンド変化をある程度予測することもできよう。現地の業界関係者は「正統派MMORPGを非常に好んだ台湾ゲーマー達が,最近になってより可愛くてシンプルな形態のオンラインゲームに注目している」という。いわば,Lineage系から始まったオンラインゲームのトレンドがRagnarok ONLINEを経てMaple Storyへと,ますます「簡単」で「可愛いらしい」方向へ移っている。つまり,マニア中心のゲーマー層から,家族単位の遊び文化になりつつあると解釈できるだろう。
 オンラインゲームプレイヤーの性質は,最初に韓国系のオンラインゲームが市場を形成したからかどうかは不明だが,非常に韓国と似ている気がする。アイテム収集とPK(Player Killing)が好きで,RMT(リアルマネートレード)などにも,かなり関心を持っているという。韓国でオンラインゲームに関する好ましからざる事件が発生すると,台湾でも何か月かのちに,必ず同種の事件(例えばアイテム取り引きが社会的な問題になるなど)が起きるほどに,似ているのだ。



■東南アジア・オンラインゲーム市場へのハブ

 昨年の台湾オンラインゲーム市場の規模は(あまり正確なデータではないが)350億円前後と,業界人達は推定している。 オンラインゲームがもっともっと盛んな韓国に比べれば,あまり大きな規模とはいえないが,全人口の5分の1がゲーマーであることを考えれば,オンラインゲームマーケットとしての,潜在的な成長可能性は極めて高いことを強調しておきたい。
 しかし,市場発展のハードルがまったくないわけではない。まだネットワークインフラが不足しており,回線費用が非常に高いことが,現地メーカーおよびプレイヤー達の大きな負担になっているようだ。

 そして,オンラインゲームを好む住民の特性だけではなく,同市場に注目しなければならない,別の重要な理由がある。台湾のオンラインゲーム市場は,中華人民共和国を含めて香港,タイ,マレーシア,シンガポールなど,東アジア/東南アジアにおける文化コンテンツ市場のハブ(Hub)として,周辺諸国にコンテンツを伝える役目を果たしている。つまり,台湾市場にアピールするゲームなら,周りの国/地域でも十分に成功可能性が高いというのだ。
 いろいろ足りないものも多いように見える台湾市場だが,その動向には今後とも注目しなければならないようだ。(Text by Kim Dong Wook,Photo by kiki)


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