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印刷2014/12/27 00:05

インタビュー

任天堂・岩田氏をゲストに送る「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」最終回――経営とは「コトとヒト」の両方について考える「最適化ゲーム」


 連載第20回めとなる,ドワンゴ・川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」。最終回となる今回の“ラスボス”的ゲストは,日本――いや,おそらくは世界最強の“ゲーマー経営者”である任天堂の岩田 聡氏です。

 コンピューターオタクだった学生時代を経てゲーム開発者になり,現在は,任天堂の取締役社長を務める岩田氏。昨今は,「Nintendo Direct」や「社長が訊く」でもお馴染みの岩田氏は,実際にはどんな人物で,どんなことを考えているのでしょうか? 読者にもおなじみの,任天堂社長としての岩田氏だけではなく,プログラマーとして,ゲーマーとして,あるいは一人の人間として――さまざまな角度から,いろいろな質問を投げかけてみました。

 川上氏との会話の中から見えてくる“素の岩田氏”と,その独特な視点,そして,そこからうかがえる任天堂という会社の考え方や動き方など,本当にいろいろと示唆に富んだ内容になっているので,ゲーム業界だけではなく,広くたくさんの人に読んでほしいと思う次第。いつにも増して長い対談となりましたが,年末年始にじっくりと読んで頂ければ幸いです。

関連記事:
人類は「機械が生み出す知財」にどう向き合うべきか――SF作家・藤井太洋氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第19回
「普通はこうだから」って意見とは戦っていきたい――ニコニコ超会議3を総括する「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第18回




ずっと宮本さんをライバルだと思っていた


4Gamer:
 「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」の連載も,今回で最終回となります。

川上氏:
 はい。それで,「本連載の最終回を飾るに相応しい“最強のゲーマー経営者”といったら,やっぱり任天堂の岩田さんしかいない!」と思いまして。今日は,任天堂の岩田さんに来て頂きました。

岩田 聡(いわたさとる):任天堂取締役社長,プログラマー。大学卒業後に「HAL研究所」に入社し,「ピンボール」や「ゴルフ」,「バルーンファイト」などといったファミコンソフトをはじめ,数々のゲーム開発に携わる。プログラマー時代に,そのプログラム技術の高さから,周囲からは「天才プログラマー」と呼ばれていた。その後,HAL研究所社長,任天堂株式会社経営企画室室長などを経て,現職に。
岩田氏:
 ご指名頂きまして,誠にありがとうございます。川上さんからの「ラスボスとして登場してほしい!」というご指名だったので,「これは断れないなぁ……」と思いました(笑)

川上氏4Gamer
 ありがとうございます!

4Gamer:
 でも,岩田さんがインタビューや対談に答えるのって,もの凄く珍しいですよね。少なくとも,ここ最近はお見かけしたことがない気が……。

岩田氏:
 そうかもしれないですね。私はいつもは「訊く」方ばっかりやっていたので,「訊かれる」のは本当に久しぶりです(笑)。もちろん,短い時間の取材は,毎年何回か受けているんですけど,こういう,長時間の対談形式の取材は,かなり久しぶりですね。

川上氏:
 岩田さんがあまりインタビューを受けないのって,会社の方針か何かなのですか?

岩田氏:
 いや,社長が訊かれるのって“普通”じゃないですか。「“普通”のことをしていても,面白くないな」と。それよりは,「社長が訊いた方が“普通じゃない”から,そっちの方が面白いのかな」と思って,「社長が訊く」みたいな企画を始めてみたんです。こんなに長く続くことになるとは,思ってもいなかったんですが……。

4Gamer:
 「社長が訊く」って,“メディアではできない記事”ですよね。

岩田氏:
 まぁ,実際,会社の中に面白い話はいっぱい転がっていましたし,ゲームを作る人でないと,引き出せない話もいっぱいあるなと思ったのは確かなんです。
 で,いざやってみたら,自分は面白いし,読んだ人は面白がってくれるし,訊かれた方も「プロジェクトのラップアップ(総括,振り返り)として結構いいかも」とか言ってくれる。しかも,開発者と話していくなかで,新しい可能性やヒントの発見,問題の現状分析なんかも一緒にできますから,私としては,あれはもう,一石五鳥くらいの企画でして。

川上氏:
 一石五鳥(笑)

岩田氏:
 ただ,同じことをずっと続けていても,だんだんお客さんも訊いている本人も飽きてくるので,「しばらくお休みさせてもらおう」と決めて,今はちょっと充電中なんですけどね。

川上氏:
 でも,あのシリーズは本当に本当に面白くて,僕も続きが読みたいですよ。

岩田氏:
 先日,これまでの「社長が訊く」の回数を数えたら200回以上あって。自分でも驚きました。

川上氏:
 しかもあれ,話されていることがかなり本質的じゃないですか。なんか,日本のクリエイティブな話とかって,感性的な,自己表現みたいな話になることって多いと思うんですけど,あの連載で話されていることって,すごく職人的というか,工学的というか。

岩田氏:
 それは,私が工学畑の出身だからっていうのもあるでしょうね(笑) もっと言うと,ゲーム作りってアートの要素があるので,どうしても言語化しにくいんですよ。そして,作ってる本人も,自分がしていることをあまり言語化していないんです。

川上氏:
 そうですよねぇ。

岩田氏:
 だから私は,例えば「宮本 茂(※)の方法論を言語化できたら,すごくゲーム業界のためになるんじゃないか」みたいな変な使命感があって。「社長が訊く」みたいな企画を立ち上げたんです。あと,言語化することで自分自身が分かりたいっていうのがありました。私は駆け出しの頃に,勝手にあの人を「ライバル」だと思っていましたから。まあ,今思うと恥ずかしいんですけど。

※宮本 茂(みやもとしげる):ご存じ,「マリオ」シリーズの生みの親で,世界的なゲームデザイナー

川上氏:
 ライバル? 宮本さんを?

岩田氏:
 はい。ずっと一方的に勝手に宮本さんをライバルだと思っていて,この人に「ギャフン」と言わせるぐらいのことを何かやってみたいって,ずっと思っていたんですよ。

川上氏:
 なるほど。でも,結果として,宮本さんに「ギャフン」とは言わせたわけですよね?

岩田氏:
 うーん。まぁ,ちっちゃくね(苦笑)

一同:
 (笑)

岩田氏:
 まぁただ,やっぱり宮本さんってすごい人で,あきらかに自分が持っていない方法論を持っている人なんです。かつ,本人はそれを言葉にしていないので,私は常々「もったいない」と思っていたんです。

川上氏:
 ネットでもバズりましたけど,宮本さんの「アイデアの定義(※)」とか,やっぱりすごいですよね。

※「アイデアというのは複数の問題を一気に解決するものである」という宮本氏の考え方

岩田氏:
 あれ,すごいですよね。私は「これはすごい!絶対流行らそう」と思って,いろんなところで言いまくりましたから,だいぶ流行りました(笑)

川上氏:
 流行りましたよね。あれって要するに,「一石二鳥」っていうのがアイデアのことだったのか!っていう(笑) そういう話ですよね。

岩田氏:
 はい。「複数の問題をまとめて解決するのがアイデアなんだ」っていう視点ですね。

川上氏:
 でも,みんなが「分かった!」とか「すごい!」と思うものって,大抵そういうものですよ。だから,きっと脳の認識としても,あれは正しい定義なんだと思います。

岩田氏:
 脳科学で言うところの「アハ体験」というのもきっと同じですよね。一見つながりがないと思っていたものが,実はすごくつながってて,「これとこれをこうすると,一度に複数の問題が綺麗になくなっていく」とかね。「これだ!」って思うときは,そういう瞬間ですよね。

川上氏:
 はい。

岩田氏:
 あと,宮本さんは「どうしても解けない問題があるときは,きっと誰かが嘘をついている」って言うんですよ。

4Gamer:
 嘘をつく?

岩田氏:
 ええ。それは別に「悪意で嘘をついている」って話じゃなくて,誰かの認識が間違ってたり,事象の捉え方が間違っているから問題が解けないんじゃないかって,そう考えるんですね。
 宮本さんってね。なんというか“視点を動かす天才”なんですよ。そのすごさ(視点を動かすことの価値)を,分かりやすい言葉で伝えられると,いろんな人に喜んでもらえますから,とても面白いんですよね(笑)


「見せたい表現」が先にあるかどうか


川上氏:
 なんか,宮本さんのお話とかを聞いていて思うんですけど,ゲームの作り方とアニメの作り方って,やっぱり凄く似ているなと感じるんですよ。例えば,アニメって「イメージボード」を作るじゃないですか。

岩田氏:
 はい。

川上氏:
 とくに宮崎 駿さんなんかは,「こういうシーンがあったらいいな」というものを,まずイメージボードにどんどん書いていくらしいんですね。とにかく「素敵だな」ってシーンをたくさん書いて,その後で,その間を繋げていくストーリーを作るっていう。宮崎さんは,そういう作り方をしているみたいなんです。

岩田氏:
 見せたいものが先にあって,その見せたいシーンを作るために,「後から文脈を作りあげていく」みたいな作り方をされているってことですよね。

川上氏:
 はい,そうです。

岩田氏:
 「見せたいものがある」っていうのはすごく大事なことなんですよ。それってつまりは,「ここを見せたらお客さんは絶対感動する」とか,「印象に残るだろう」っていう確信を持っているってことですから。

川上氏:
 でも,それってゲームでも同じなんじゃないですか? 手触りだったり,ルールだったり,「これは面白い遊びだ」っていうものを見つけて,それをプロダクトに落とし込んでいくわけですよね。

岩田氏:
 宮本さんのゲーム作り方は,ストーリーや設定からは入らないですね。一番最初は,それこそ記号のようなものが動いて,その手触り感や遊びの構造みたいな部分を作り込むんですよ。
 で,後からキャラクターだったり,世界とかを貼り付けてゲームにしていきます。まさに,まず「見せたいもの」や「提示したい遊び」を作って,「この構造は面白い,これは勝算がある」って,例えば宮本さんが思う。そうしたら,「じゃあこれはゼルダでやろうか,マリオでやろうか」みたいな話をするんです。

川上氏:
 あくまで表現したいものが先にあるってことですよね。

岩田氏:
 はい。もちろん「次のゼルダを作ろう」って動きとかは社内であるんですけど,ゲームのネタ部分を作っている段階では,マリオにするのかゼルダにするのかは,実は決まってないっていうこともあったりするんですよ。

川上氏:
 キャラクターがない状態で作られているから,そういうこともあるわけですね。

岩田氏:
 世間では,宮本さんはあくまで芸術家だと思われていますから,「神の啓示が下りて来て,素晴らしいインスピレーションが湧くんじゃないか」みたいに思われるんですけど,実際の宮本さんは,もっとこう工業寄りというのか,宮本さんはもともとインダストリアルデザイナーですから,エンジニアリングとアートの中間にいるような人なんですよね。
 で,ゲーム作りっていうのは,まさにアートとエンジニアリング,両方の素養が必要な仕事で,宮本さんの場合は,まずは機能面から作り込んで,デザインはその機能にあったものを後で作るんです。で,「ストーリーや設定は最初には作らない」っていうのが,宮本さんや,その弟子に当たる人達の作り方なんです。

川上氏:
 いや,物作り全般において,それが正しいやり方だと思うんですよね。ドワンゴも,新しいサイトのデザイン案とか,新サービスの提案とかが,企画書とかで来るんですけども,本当につまらないのが多いわけですよ。つまらない確率が高過ぎてそれはなぜだろうって考えると,たぶん先に「表現したいもの」があるんじゃなくて,理屈で案を作ってるからだと思うんですよね。

4Gamer:
 ああ,表現したい世界や体験が見えないって意味ですか。

川上氏:
 そうそう,作り方がちょっと受託開発みたいなノリというか。

岩田氏:
 「要件定義はなんですか?」みたいなね。でも,その意味でも,やっぱり「見せたいものがある」っていうのは強いんですよ。だって,それを軸にしてモノを考えられますし。

川上氏:
 そうですね。あと,表現したいものを実現するために,どう辻褄を合わせればいいのかって,ある種のパズルだと思うんですけど,それがその時の判断基準にもなりますから。

岩田氏:
 辻褄を合わせるって,単にストーリーや世界観に限った話じゃなくて。「どう動かすか」とか,「どれだけ作り込めばお客さんは不自然さを感じないか」とか,いろいろなところで発生するもので,それを適切に判断するには,やっぱり確固たる指針が必要になるんですよ。
 それに,たぶんね。今の時代のゲームって,表現がリッチになったがゆえに,「本当はしなくていいこと」を猛烈にたくさんやっちゃってると思うんです。

川上氏:
 本当にそうですね。

岩田氏:
 だから,ものすごい労力とテクノロジーが詰め込まれているんだけど,誰もそのことは覚えていないし,気がつかないみたいなことが,たくさん起きてると思うんです。

川上氏:
 ゲームのムービーシーンとかは,やっぱり多すぎですよね。

岩田氏:
 もちろん,効果的に使われてるムービーはあると思うし,まったく否定するわけじゃないんですけど,「そこに費やしたエネルギーを他のところに使ったらどうなるんだろうか?」というのは,やっぱり考えちゃうんですよね。とくに宮本さんは,昔からムービーをあまり使わないんですけど,最近はよりそういうことを考えているかもしれませんね。

川上氏:
 あ,ちなみに宮本さんと言えば,僕が「スーパーマリオ」とかで凄いなと思うのは,あの「スターを取ると慌てる」って部分なんですよね。楽になるためのものを取ると,逆に難しくなるっていうね。あれはほんと,良く出来た設計だと思います。

4Gamer:
 無敵中に穴に落ちて死ぬのは,誰もが経験することですよね(笑)

川上氏:
 そうそう(笑)。あれは,やっぱり自覚的にそういう作りをされているんですよね?

岩田氏:
 あれは,たぶんですけど,明確に「トレードオフを味わってもらう」って考え方があると思いますよ。「リスクとリターン」の両方を用意することで,ある種の緊張感を生み出すっていうことですね。そこは,宮本さんはかなり自覚的だと思います。

川上氏:
 なるほど。じゃあ,やっぱり宮本さんは,「ユーザーさんがどう思うかとか,どんな気持ちになるのかを推し量る,シミュレーション能力が高い」ってことなんですね。

岩田氏:
 そうなんだと思います。ただそのあたりは,私が語るよりも,宮本さんをはじめとした,実際に作っている人たちに語ってもらった方が,より正確な話が聞けると思いますけどね。


エンターテイメントとは,より「濃い体験」を提供していくこと


4Gamer:
 いつもはもっと前に聞くんですけど,岩田さんって,ご自身ではどんなゲームを遊ばれるんですか?

岩田氏:
 好きなゲームとしては,そうですね。やっぱり「カービィ」や「MOTHER」,「スマッシュブラザーズ」あたりには,格別の愛着があります。もう自分の子供のような存在ですからね。それが「20年以上経った今でも語ってくれるお客さんがいる」っていうのは,本当に奇跡のようなことだと思いますよ。
 だから,今でも自分で触りながら,「うん,ここはよくできてるな」とか「ここはこうしときたかったな」みたいなことをね,ぶつぶつ言いながら遊んでるんですけど(笑)

4Gamer:
 その意味で言うと,任天堂のゲームって,やっぱり20年経った時にも語れるだけの深さというか,濃さがあると思うんです。例えば,マリオやポケモンにしても,一見,可愛くて間口は広いのに,遊んでみると,ゲーム自体はかなりコテコテな作りといいますか。

岩田氏:
 もう,ポケモンを全部集めようとしたら,もの凄い時間を消費したりもしますからね(笑)

4Gamer:
 ええ。でも,やっぱりその苦労した経験なんかが,20年後に語れる“ネタ”になるわけですよね。その意味では,やっぱりゲームって“濃い体験”をさせてこそなんですけど,一方で商品をマスに届けることも考えなくちゃいけない。そこを両立させている任天堂の秘訣ってなんだろう? っていうのは,昔から疑問だったんです。

岩田氏:
 間口を広くすることと,奥深くすることを両立させるのは難しいんですよ。それを実現するために,入口でたくさんの人に興味をもってもらわなければならないんですけど,ぱっと触ってみた人がすぐ飽きてしまうようではいけません。
 「Wii Sports」や「脳トレ」は両立できた一例だと思うんですが,取っ付きがよくて,一瞬で理解できて,なおかつ,そのゲームを遊んでる人を傍から見たとき,それがすごく魅力的に伝わるっていうものが出てきたときって,お客さんは,結構高いハードルをポンポン超えてくださったりもするんです。

4Gamer:
 先ほどのスターの無敵時間の話じゃないですけど,間口が広いゲームであっても,根っこの部分に「リスクとリターン」みたいな,ゲームとしての芯があるからなんですかねぇ……。

岩田氏:
 まぁ私たちの場合は,ゲームを買って遊ぶという体験が,一人で遊ぶにせよ,周りの方と一緒に遊ぶにせよ,ものすごく「濃密な体験」でないと,結局のところ,お客さんに支持してもらえなくなると思っているんですよ。
 だから,私らはそこ(濃い体験をさせる)をある種の縛りとして長い間ずっとやってきているので,なんといいますか,多少は鍛えられている部分があるのかもしれませんね(笑)

川上氏:
 僕が小学生のときって,ファミコンがまだなかったから,クラスの中では,将棋をやっている人って結構多かったんですよ。クラスの男子の半分ぐらいは将棋をやっていて,後はトランプとか,そんな遊びとかを休憩時間にやっていました。
 でも,これが中学,高校となっていく過程でファミコンが出て。みんな,ファミコンしかやらなくなっていったという歴史を見ているんですよね。

4Gamer:
 ファミコンの登場を境に,コンピューターゲームってものが一気に世の中(子供達の間)に浸透していきましたよね。

川上氏:
 はい。でも将棋やトランプって,基本的にはタダで遊べる体験じゃないですか。にもかかわらず,なんであんなに(お金のかかる)ファミコンってものが流行ったんだろう?っていうのは,よく考えるんですよね。

4Gamer:
 それは何か答えが見つかったんですか?

川上氏:
 んー。結局コンピューターゲームって,映画みたいに,ある種の「期間を区切られた濃い体験」というのかな。少なくとも,ビジネスとして売られるゲームの体験ってそういうものだと思うんですよね。
 それって,将棋やトランプのように,“日常の中に埋没してしまった体験”とはちょっと違っていて,その時々の“非日常的な価値”というのかな。そういうものを提供しているような気がするんですよ。

4Gamer:
 なるほど。

川上氏:
 だからね。今は,まだ過渡期で,ネットのせいで「重い(長い)コンテンツ」が売れにくくなったなんて言われもするけれど,TwitterもFacebookもニコ動も,最初は面白いかもしれないけど,いずれは日常性の中に埋没していくものだと,僕は思うんです。で,その時,また違う「より濃い体験」によって塗り替えられていく流れっていうのは,この先,必ず出てくると思うんですよね。

岩田氏:
 流行して潮が引いて,また次が来てというサイクルですね。継続させるっていうのがとても難しい。「前と同じでよくできてます」というのは,価値がないのとイコールなんですよね。それは当たり前で,さらに何か新しいことや,味わったことのないものを足さないといけないんです。一方で「伝統的にこれはあるべきだ」という声が多くて,変えることに抵抗があったり,どんどん複雑になって新しい人が入って来られなくなる。

4Gamer:
 そういうお話でいうと,ネット社会になってからというもの,人の趣味嗜好が細分化されてしまって,とても商品が売りにくくなった――なんて話も良く聞きますよね。岩田さんから見て,昔よりもゲームが売りづらくなったとか感じることってあるんですか?

岩田氏:
 ネットって,いろんなものを透明に見せて,早く情報を共有する装置だと思うんですよ。だから,ある意味では誤魔化しが効かなくなったと言えますし,一方で,本当に面白いものは増幅してもらえる装置だとも思っています。
 私としては,ネットがあるからといって別にやりづらくなったとは思いませんし,ジャンルやお客さんの層によっては,テレビよりもネットの方が情報を届けられる場合もある,と思っています。
 例えば,先日「『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』をリメイクします」って発表をしたんですけど,1日で1万6000リツイート以上されたんですね。こういう数値を見るとね,あんまり「細分化」してるって感じもしないんですよね。

川上氏:
 そういう話でいうと,お客さんが細分化されているという面もあるんでしょうけれど,ネットはその「逆の現象」も起こしていると思うんですよ。

4Gamer:
 逆の現象?

川上氏:
 例えば,先日放送された「千と千尋の神隠し」って,視聴率が19%くらいだったと聞いたんですけど,これって前回の放送時よりも高い数値らしいんですね。昔は,再放送をするとどんどん視聴率が下がっていくのが普通だと思うんですけど,ジブリ映画の場合は再放送をやるたびに視聴率が下がらないどころか上がっているという。

岩田氏:
 はい。

川上氏:
 しかも,その傾向がより顕著になったのが,「東日本大震災」以降らしいんです。要するに,社会が混迷していて,なおかつ趣味嗜好などが細分化されているなかで,逆にみんなを一体化させる記号/アイコンみたいなものが求められているんじゃないかという話なんですけど。

岩田氏:
 記号というか,「共通の話題が求められている」ということですか?

川上氏:
 そうですそうです。細分化の流れがある一方で,「みんなの知ってるこれ!」っていう,そういうモノの価値は逆に高まっているんですよ。で,ゲームの世界で「共通のキーワード」を持っている会社といったら,あきらかに任天堂だと思うんですね。マリオやゼルダ,ポケモンみたいな,誰もが知っているキーワードを持っている数少ない会社ですよね。

4Gamer:
 そうですね。

川上氏:
 だから,今,市場が細分化されて苦しくなっているのは,たぶん,中堅くらいにいるポジションの会社,コンテンツで。そこは相当厳しいんじゃないでしょうか。

岩田氏:
 確かに,中ヒットがなくなって,大ヒット作がますます大ヒットするような傾向はありますよね。例えば,「ニンテンドー3DS」のソフトって,ここ5か月でダブルミリオンが4つも出たんです。
 過去の歴史を調べてみたんですけど, こんなことは日本のゲーム史上1回もなかった。「パッケージのコンテンツは売れなくなった」とか,「ゲーム専用機とかもう駄目だ」とか,いろいろなことが言われている一方で、そんな現象がおこっているんです。

川上氏:
 今年でいうと,「アナと雪の女王」のヒットとかもありますよね。映画も,全然お客さんが入らないと言われるなかで,アナ雪が歴史的な大ヒットを記録しているわけです。

岩田氏:
 細分化と一極集中。この両極端の流れが,確かに昨今のマーケットの特徴かもしれませんね。メガヒットはますますメガヒット化するっていうね。

4Gamer:
 でも,市場の中間層が薄くなってしまうことは,コンテンツ業界的には大丈夫な流れなんでしょうか。

岩田氏:
 中間層,中ヒット作が少なくなってしまうと,バラエティ感というか,豊かさみたいなものが見えにくくなるんです。それに,往々にして中規模以下のヒット作の中から,「この価値はもっと多くの人に届くはずだ」ってものが,次の大ヒット作の芽として出てくるわけですから,それをどうやって増幅して,大ヒットにつなげていくのか。それは,別に自社のタイトルだけじゃなくて,任天堂プラットフォーム上のすべてのタイトルに対して,いつも考えています。

4Gamer:
 そうですよね。

岩田氏:
 まぁ,やっぱり,昨今のマーケットの動向としてが二極分化に働いているのだとすると,中間層が薄まってバラエティ感が弱まっていくということには,もっと危機意識を持った方がいいのかもしれませんね。

岩田氏にドワンゴ社内を案内する川上氏

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