テストレポート
視線や体の動きを認識する眼鏡「JINS MEME ES」テストレポート。ゲームプレイ時の集中力や疲労を計れるか?
眼鏡タイプのウェアラブルデバイスといっても,レンズ部分に映像を映し出すといった機能はない。あくまでも,搭載するセンサーでユーザーの動きをデータ化するためのデバイスで,取得したデータはBluetooth経由でスマートフォンやタブレット端末に送信して,アプリ側で利用する仕組みになっている。
とくにゲーマー向けの機能が用意されている製品ではないのだが,iOS向けに提供されているアプリを利用すれば,ユーザーが物事に対して集中しているか,あるいは落ち着いているかといった情報を取得できるらしい。そこでJINS MEMEとアプリを使ってゲームをプレイ中の状態を調べて,何か有意な結果を計測できないかどうか試してみた。
加速度センサーとジャイロセンサーで体の動きを捉え,3点式眼電位センサーで目の動きを識別
テストに入る前に,JINS MEMEのラインナップや仕組みを説明しておこう。
加速度センサーとジャイロセンサーは移動や頭の動きを検出するためのもので,3点式眼電位センサーは視線の動きを検出するものだ。つまり,JINS MEME ESがフル機能を搭載した製品で,JINS MEME MTは体の動き検出に特化したスポーツ用途向け製品といった違いがある。また,度の入ったレンズを選択できるのはJINS MEME ESだけだ。
将来的には,フレームのバリエーションも増やす予定とのことだが,現時点で選べるのはこの2種類だけ。そのため今回のテストでは,すべてのセンサーを備えたJINS MEME ESを使用している。
耳当て部分には,加速度センサーとジャイロセンサー,バッテリー,通信用のBluetoothモジュールなどが入っているという。この小さな場所に,必要な機能のほとんどが入っているのは驚きだ。ちなみに,内蔵バッテリーによるバッテリー駆動時間は動作状態によって異なり,スタンダードモードという状態では最長24時間とのこと。
肝心の3点式眼電位センサーは,眼鏡の中央にあるパッド(鼻あて)の金属パーツと,左右のレンズをつなぐブリッジ部分にある金属パーツの3つで構成されている。それぞれが鼻と眉間に接するように着用すると,目蓋や眼球の動きを検出できるという仕組みである。
掛け心地は普通の眼鏡と変わらない。耳当てが太く大きいので,違和感を感じるのではないかとも思ったが,そういったことはなかった。眉間に触れる部分がちゃんと触れるかどうかも懸念していたのだが,使用中にセンサーが眉間から離れて読み取りに失敗することもなかったようだ。
ただ,筆者は問題なかったが,センサーがきちんと肌に触れることはとても重要なので,自分で購入しようという人は,鼻あての位置や角度をJINSの店員に調整してもらうのがいいだろう。
JINS MEME ESを使うにはiOSかAndroidデバイスが必須
JINS MEMEアプリを起動したら,まずは初期設定である「セットアップ」を行う。セットアップでは,瞳の色や身長体重,生年月日や性別を登録したうえで,アプリを利用するためのアカウントを作成する。設定が終わったら,iOSデバイス(※筆者はiPad mini 4を使用した)とJINS MEME ESをBluetoothで接続するプロセスへと進み,さらに体や目の動きに合わせてセンサーを調整する「最適化」を行う。
JINS MEMEアプリは,取得されたデータをもとにして,「マインド」と「ボディ」という2つの大きなカテゴリ別に,「アタマ」や「カラダ」の年齢を表示したり,集中度合いや活動量といった情報を示したりする。
ただ,各情報は明快な数字ではなく,図形の動き方やシンプルなバーグラフといったあいまいな表現されるので,表示された情報をどう読み解くかは,ユーザー次第だ。マインドの場合,「集中」「活力」「落ち着き」という3種類の情報を示すのだが,集中や落ち着きはなんとなくイメージできるものの,活力が何を示すものなのかは,イマイチよく分からない。JINS MEMEのWebサイトでは「活力(Energy)を持って、コミュニケーションすることで、人に影響を与えているか」(原文ママ)と書かれているのだが,正直意味不明だ。
ゲームプレイ時のマインドを測定してみた
結果を正しく理解するには長期使用が必須
さて,ゲームのプレイというシチュエーションを考えた場合,重要なのはマインドがどう変化するかだ。集中は高いほうが良さそうだが,落ち着きはゲームの内容や状況次第で大きく変わるだろうし,活力に至ってはどうなるのか予想もできない。実際にいくつかのゲームをプレイして,結果がどう変わるかを試してみよう。
ゲームの傾向によって得られる情報が変化するのかを見極めるために,あまり緊張しないゲームとして「The Crew」,強く緊張するゲームとして「Battlefield 4」という2タイトルを選択。それぞれをソロで30分プレイしては20〜30分ほど休憩し,次のゲームをまた30分プレイするという方式で計測を行った。さらに,日によって体調や疲労などにより結果が変わる可能性も考慮して,日曜日と月曜日の2回,同じ計測を行っている。
なお,借用品はレンズに度が入っていないものであったため,JINS MEME ESを装着した上から,普段使っている眼鏡もかけるという特殊な環境で測定を行ったことはお断りしておきたい。ゲーム画面の見え方は,普段の眼鏡とそれほど変わりはなかったのだが,JINS MEME ESだけの場合と比べて,頭部の動きが制約された可能性はある。
この状態で,まずはThe Crewのファクションミッション「亡命者」をソロでプレイしてみた。ちょうど30分弱で1ミッションが終わるうえに,競争相手が登場しないのでリラックスしてプレイできるからだ。結果は下に掲載した画像のとおりで,集中と落ち着きはバーが右側まで振り切り,一方で活力はまったくないという極端なものとなった。プレイ中は画面の中心付近を見続けているので,頭部も体も動かないことから,こんな結果になったと思われる。
次にBattlefield 4のキャンペーンを30分ほどプレイしてみたところ,今度は集中がやや落ち,落ち着きも先ほどよりは減ったがまだ高い状態を維持し,活力は若干だが上がるという結果となった。プレイ中は画面のあちこちを見渡す必要があるので,視線や頭部の動きがThe Crewよりも多かったのが理由かもしれない。
翌月曜日,仕事から帰宅した後で同じ計測を行ってみたところ,日曜日とはまったく異なる結果が出た。テレビ番組の視聴ですら,集中と落ち着きがなく,活力は前日と同程度という結果になったのだ。アタマ年齢も大幅に上がって,実年齢より10歳以上も上だと判断されている。
ゲームプレイの結果も大違いで,どちらのゲームでも,集中と落ち着きが大幅に低かった。変わらないのは活力だけで,前日同様に低いという有様だ。
正直にいって,この結果の違いをどう解釈すればいいのかは分からない。月曜日の計測結果は,仕事帰りで疲労していたからではないか,と考えるのが自然ではある。ただ,筆者自身はとりたてて疲労を感じていなかったし,テレビ視聴や休憩をとった後の計測でも,結果は変わらないのが理解に苦しむ。
残念ながら機材の借用期間が非常に短かったので,これ以上の計測はできなかった。計測結果を積み重ねていけば,結果からどのような傾向が読み取れるかが見えてきたかもしれないが,今回はそこまでデータを積み重ねられていない。
ゲームのプレイによる集中度合いや疲れ具合を判定する目的にJINS MEME ESを利用するのは,そう簡単なことではないというのが,今回のテストによる結論といえそうだ。眼鏡としてはやや高価な製品なので,JINS MEME ESに興味を持った人は,この結果を踏まえたうえで購入するかどうかを検討するのがいいだろう。
JINSでは,JINS MEMEを活用するためのソフトウェア開発キットを公開している。今後はJINSの公式アプリだけでなく,ゲーム用途を狙ったアプリが登場してくることを期待したいところだ。
JINS MEME 公式Webサイト
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