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[SIGGRAPH 2015]「Project Morpheus」を被って宇宙ステーションの修理や高層ビルの綱渡りを体験してみた
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印刷2015/08/21 00:00

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[SIGGRAPH 2015]「Project Morpheus」を被って宇宙ステーションの修理や高層ビルの綱渡りを体験してみた

展示会場に設けられた「VR Village」の様子。世界各地の研究機関や企業,団体によるVRコンテンツが披露される新設の展示セクションだ
画像集 No.002のサムネイル画像 / [SIGGRAPH 2015]「Project Morpheus」を被って宇宙ステーションの修理や高層ビルの綱渡りを体験してみた
 各方面で盛り上がる仮想現実(以下,VR)ブームは,当然ながらSIGGRAPH 2015にも大きな影響を与えていた。VR関連展示や発表は昨年までもあったが,今年はVR関連の展示を1つのエリアにまとめた「VR Village」という独立したコーナーが用意されていたのだ。
 とはいえ,新しい展示セクションということもあってか,敷地面積はそれほど広くなく,展示も常設展示されるものと,日替わりで出展者が変わるものが混在するといった状況で,いささか分かりにくい。そのうえ,混雑を避けるために採用された予約入場システムが,かえって来場者を混乱させたこともあったりと,まだ運営側も暗中模索といった様子がうかがえた。
 最先端のインタラクティブ技術をテーマとしているSIGGRAPHとしても,1度に1人しか体験できないVRコンテンツをまとめた展示セクションの運営には,苦労が多かったようである。果たして来年も実施されるのだろうか……。

 さて,そのVR Villageでは,ソニー・コンピュータエンタテインメントが開発中のVR対応型ヘッドマウントディスプレイ(以下,VR HMD)「Project Morpheus」を使った新作デモが2つ,日替わりで展示されていた。説明を担当してくれたのは,Sony Computer Entertainment America(以下,SCEA)にてProject Morpheusの開発プロジェクトリーダーを務めるRichard Marks氏ご本人だ。


Project Morpheusで宇宙飛行士体験

Mighty Morphenaut


 NASAの数ある研究機関の1つであるジェット推進研究所と,SCEAのPlayStation Magic Lab(以下,PML)の共同開発により制作されたのが,1つめの新作デモである「Mighty Morphenaut: Multiplayer Collaboration in VR」(以下,Morphenaut)だ。
 Marks氏によれば,PMLとNASAは,1年半以上前から宇宙開発分野におけるVR活用に関する共同研究開発を行っているそうで,そのプロジェクトによる成果物の1つが今回披露されたMorphenautであるという。ちなみにMorhenautとは,MorpheusとAstronaut(※宇宙飛行士)を掛けた造語だ。

Morphenautの公式イメージ
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 実は,2014年3月に開かれたGame Developers Conference 2014では,同じPMLとジェット推進研究所のコンビによる,無人火星探査機キュリオシティの撮影したデータを基にした,火星地表の走行体験デモがProject Morpheusで披露されていた。今回のMorphenautは,このコンビによる2つめのVRデモというわけだ。

 NASAとのVRコンテンツ開発に深く携わってきたMarks氏によれば,「NASAとの共同開発による産物は,結果的には体験者を楽しませてはいるが,プロジェクト自体は,民生用のVRコンテンツを開発するためのものではない。元々の開発コンセプトは,VRの宇宙開発への活用にある」とのこと。今回のMorphenautも同様に,宇宙飛行士の訓練にVRを活かそうという研究過程の産物であるという。
 現在の宇宙開発では,進化の著しいロボットを活用して,人間では危険な作業を代行させようという動きがある。とはいえ,完全自律行動が可能なロボットは開発途上であり,まだまだ重要な作業が任せられない。そこで今のところは,人間の遠隔操縦でロボットを操作して作業させようという方向で開発が進められている。Morphenautはまさに,これをテーマにしたVRコンテンツだ。

 このVRコンテンツで,体験者は宇宙ステーションに搭載されているロボットを操縦して,宇宙ステーションのメンテナンスに挑戦するのだが,ここで特徴的なのは,同じVR空間で2人が共同作業するという,2人同時プレイのVRコンテンツになっていることだ。
 そもそもが宇宙飛行士の訓練用として作られたものだけに,ロボットを操作して宇宙ステーションを修理するというのは,かなり難しい。素人同士だといつまで経っても終わらないそうで,1人の体験者とは別に,SCEA側かNASA側のスタッフが2人めとして参加し,作業内容を音声で素人の体験者に指示していくという展開になっていた。
 Marks氏は,今回の開発プロジェクトを振り返り,「同一VR空間に複数人の体験者を参加させるVRコンテンツの開発経験そのものが,貴重な体験となった」と述べている。

目の前には,自分が操作しているのと同じもう1体のロボットがいる(上)。これを操作しているのは,下写真の奥にいるNASAのスタッフだ
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 筆者もMorphenautを体験してみた。用意されていた訓練エピソードは2つ。1つめは,折りたたみ傘サイズの燃料セルを箱から取り出して,スロットにはめ込むという作業だ。

Morphenautを体験中の筆者。両手に持っているものについては後述する
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PS Moveを左右の手に持ってプレイする。ボタンを押すと,ロボットの手が開いたり閉じたりするというシンプルな仕組みだ
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 体験者は,モーションコントローラの「PlayStation Move」(以下,PS Move)を片手に1本ずつ持つ。PS Move本体の動きでロボットの腕が動きを,PS Moveのボタンでロボットが手を握る操作を行えるので,これで作業を行うのだが,これが実に難しい。宇宙ステーションは当然ながら無重力空間なので,変なところに腕や手を当てると,その衝撃で燃料セルがポロリとこぼれて,自分から遠ざかってしまったりするのだ。

燃料セルをスロットにセットしようとしている筆者。筆者が見ている映像は,かぶっているProject Morpheusに表示されており,左上に見える画面は見学者用だ
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 苦労しながら数個のセルをセットし終わると,インストラクターから「今度は地球上から遠隔操作する設定に移る」との指示されて,設定は地球からの遠隔操作でロボットを動かすというものに変わるのだが,これがさらに難しい。
 宇宙ステーションにいるロボットを地球上から遠隔操作するのだから,操作がロボットに反映されるまで,当然ながらけっこうな遅延が生じることになる。画面には宇宙ステーションにいるロボットの腕と手が表示されているわけだが,体験者の動きをリアルタイムに反映した――つまり遅延ゼロの――腕と手の動きも,単色の緑色でオーバーラップ表示される。いわば遅延を視覚化したようなものだが,これを見ながら1連の作業をするのは,かなり難しかった。宇宙飛行士たるもの,遅延にも慣れ親しむべし,ということか。

 2つめのエピソードは,折れ曲がってしまった宇宙ステーションのソーラーパネルを,インストラクターと2人で平坦にならすという作業だ。
 巨大なソーラーパネルを2人が左手で持ち,右手で専用工具を使ってパネルを引き伸ばしていく作業をするのだが,無重力空間に浮いている大きな板を,たった2人で掴み続けるのは意外に難しい。どちらかがヘマをやるとソーラーパネルは跳ねてしまい,そのまま変な回転をしながら遠ざかってしまうのである。

左手でソーラーパネルを掴み,右手の工具で平らに伸ばそうとしている筆者。無重力の中では大変な作業だ
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 2つの体験をして筆者の頭に思い浮かんだのは,2014年にヒットしたSF映画「ゼロ・グラビティ」だ。あの映画はまさに,複数人の宇宙飛行士が宇宙ステーションを修理しているときに,惨事に巻き込まれていくという話である。今回のVRコンテンツならヘマをしてもリセットできるので,映画と違って大事件になったりはしないわけだが,宇宙ステーションの周りを漂いながら作業するのは,あの映画に優るとも劣らぬスリリングな体験であった。

 話は変わるが,今回体験したVRデモは,2台のPlayStation 4(以下,PS4)で実演されていた。各PS4には,Project MorpheusとPlayStation Camera,PS Moveが接続されており,LAN接続された2台が互いに同期を取るという実装となっていたそうだ。物理シミュレーション部分は,ホスト役となるPS4側で動作しており,シミュレーション結果のみをLANでもう1台のPS4に伝送し,シーンの描画はそれぞれのPS4で行っているとのことだった。
 Marks氏は,「この実装が最適でないのは分かっている。参加者が2名(=マシンも2台)ならばこれでもいいだろうが,同時参加者が増えてくると,1台に演算負荷とネットワーク負荷が集中してしまう。かといって,参加マシンごとに物理シミュレーション処理を分散してしまうと,今度はそれらの同期取りが難しくなるし,最悪の場合にはネットワーク遅延の問題も出てきてしまう。この辺りの経験は,もっと積む必要がありそうだ」と述べていた。複数人で同時に体験できるVRコンテンツの開発には,独特の難しさがあるということだろう。


映画の予告をVRコンテンツで体験させるという新しい流れが生まれる?


 SCEAが出展していたもう1つのVRコンテンツが「Can You Walk The Walk?」である。これは,ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが2015年秋に全米公開を予定している映画「The Walk」のVRコンテンツ型予告編とでもいうべきものだ。

「Can You Walk The Walk?」の公式イメージ
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 映画の「The Walk」は,「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのロバート・ゼメキス監督が手がける作品で,フランス出身の伝説的な大道芸人であるフィリップ・プティ氏の自伝「Man on Wire」を題材とした映画である(関連リンク)。ニューヨークにそびえ立つ双子ビルの世界貿易センタービル――2001年9月11日のテロ攻撃で倒壊した――が健在だったころ,プティ氏は二棟の最上階にワイヤーを渡して綱渡りを敢行した。映画では,綱渡りプロジェクトを実現させるまでの様子が,実話に脚色を加えて描かれるという。


 VRコンテンツのCan You Walk The Walk?は,体験者がプティ氏の偉業を追体験するものである。映画の宣伝目的で開発されたVRコンテンツであるため,プロジェクトを仕掛けたのは米国でソニー系企業の広告代理店を務めるCreate Advertising GroupとElzer & Associatesであるとのこと。Marks氏らのPMLが,その開発に協力したという説明だった。

Can You Walk The Walk?を体験中の筆者。足下にある黒い線のようなものが本物のロープだ
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 さて,このCan You Walk The Walk?だが,コンテンツ自体は非常にシンプルで,世界貿易センタービルの上に張られたロープの上を体験者が歩くだけだ。展示ブースの床には,プティ氏が渡ったものと同じ太さのロープが敷かれており,体験者はProject Morpheusを被ったまま,この上を歩くことになる。VR映像にシンクロしたロープの存在を,足でも感じるというわけだ。

 Project Morpheusの画面に表示される映像は,実写ではなくPS4でリアルタイム描画された3Dグラフィックスである。描画されるビルの最上階は,上に掲載した映画の予告編に登場するものと同じで,赤い工具箱やばたつくビニールシートといった細部まで再現されたリアルなものだ。詳しい説明はなかったが,もしかすると映画のCGを担当したCGプロダクションのアセットを流用して,VRコンテンツが制作されたのかもしれない。この方式なら,映画に極めて忠実なVRコンテンツを作れるだろう。

Can You Walk The Walk?の画面。PS4でリアルタイム描画される映像は,かなり映画に近いクオリティがある
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 Can You Walk The Walk?の体験者は,Project Morpheusだけでなく密閉型のヘッドフォンも被るのだが,ヘッドフォンから聞こえる音響の完成度がすごいものだった。「ヒョォォォォ」という風切り音やビニールシートのばたつく音が,吹いているはずもない風を感じさせて,高所にいるという感覚を高めているのだ。

筆者はVR映像のロープを渡っているのだが,現実世界の同じ場所に本物のロープがあるので,本当に綱渡りをしている気になってくる
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 足をロープに乗せて歩くと,太いロープの丸みで足がふらつくのだが,そんなふらつきにProject Morpheusの視界が連動して動くものだから,高所恐怖症の人なら逃げ出したくなるような体験となっていた。実際,筆者が見たある女性の体験者は,足下がふらつくたびに「ギャー!ギャー!」と叫んでいたほど。

十数歩でブースの端に着いてしまい,「引き返せ」といわれた筆者。渡りきりたかったのに!
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 残念なことに,VRコンテンツ内で実際にロープを渡りきることはできなかった。VRコンテンツ自体は実寸で作られているのだが,ブースが狭いので,ビルとビルの距離を再現することができないのだ。十数歩も歩けば,説明員に肩を叩かれて「もう,ブースの端だから戻って」といわれてしまい,筆者にはちょっと物足りなさが残った。
 もっとも,緊張のあまりか,説明員に肩を叩かれたときに「ギャア!」と叫んでこけそうになる体験者も少なくはなかったので,あれくらいの長さで十分なのかもしれない。
 ブース内には映画のポスターも飾られていたが,映画を知らずに体験した人の中には,終了後もポスターを食い入るように見つめていた人もいた。映画の宣伝効果は抜群だったようだ。

 さて,Can You Walk The Walk?のように,映画の1シーンを切り出して,VRコンテンツに再構成して公開するというのは,Game Developers Conference 2015でも体験したことがある。それは,4Gamerでもレポートした「Unreal Engine 4」ベースのVRコンテンツ「Thief in the Shadows」だ(関連記事)。
 Thief in the Shadowsは,ファンタジー映画「ホビットの冒険」の第2弾である「ホビット 竜に奪われた王国」のクライマックスシーンから,邪竜スマウグの巣に主人公ビルボが潜り込むシーンをVRコンテンツ化したものだった。このVRコンテンツでも,映画のCGで用いたアセットをそのまま流用して制作されたことがアピールされていた。

 今後はこれらのように,映画やBlu-ray/DVDのプロモーション用として,映画のアセットを流用したVRコンテンツが増えてくるのかもしれない。現状でのVRコンテンツは,酔いやすさを考慮して長時間の体験は避ける傾向にあるため,体験する時間が短いこと自体は,マイナス点にはならないだろう。そう考えると,映画の魅力を分かりやすくアピールする用途には,VRコンテンツはおあつらえ向きといえるのではないだろうか。Thief in the ShadowsとCan You Walk The Walk?を体験した筆者には,そのように感じられてならなかった。

SIGGRAPH 2015 公式Webサイト(英語)


  • 関連タイトル:

    PlayStation VR本体

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