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医療研究の成果とUnityが結びついて人体解剖学アプリ「teamLabBody」に!「Unityソリューションカンファレンス」「オタクが医療を救う」聴講レポート
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印刷2014/12/05 20:36

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医療研究の成果とUnityが結びついて人体解剖学アプリ「teamLabBody」に!「Unityソリューションカンファレンス」「オタクが医療を救う」聴講レポート

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 ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンは,2014年12月4日に都内UDX秋葉原にて「Unityソリューションカンファレンス」を開催した。
 Unityは,WindowsからMac,モバイルデバイスまでさまざまな環境を対象としたゲームエンジンだが,近年はゲームのみならず建築や医療,教育といった分野でも活用されるようになってきている。今回のカンファレンスでは,さまざまな分野におけるUnityの活用事例を紹介する講演が行われた。その中の一つが,大阪大学大学院 運動器バイオマテリアル学,整形外科教授の菅本一臣氏による「オタクは医療を救う」だ。

大阪大学大学院運動器バイオマテリアル学,整形外科教授の菅本一臣氏
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 菅本氏といえば,Unityで作られた人体解剖学アプリ「teamLabBody -3D Motion Human Anatomy-(以下,teamLabBody)」の監修者としても知られている。
 「teamLabBody」は,菅本氏の研究チームが“生きた人間の関節の動き”を研究した成果をベースとしたスマホアプリだ。3Dグラフィックスで生きた人間の骨格や筋肉の動きを再現し,自由な角度からこれを見ることができるのが特徴だ。このアプリは「2013 Unity Award」にて「Best VizSim Project」賞を受賞し,大阪行岡医療大学にデジタル教科書として導入されるなど,高い評価を獲得している。いわばUnityが医療の現場で役に立った好例だが,本講演では,同アプリが誕生した経緯について語られた。


teamLabBody -3D Motion Human Anatomy-
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ゲームだけじゃない「Unityソリューションカンファレンス2014」開催。人間を拡張する技術に関する基調講演レポート



コンピュータを使い“生きている人間の関節の動き”を三次元的に解析


 菅本氏は,本講演タイトルを「オタクが医療を救う」としたことについて,「オタクの技術が医療に貢献し,さまざまな人の役に立っている」からだと語った。氏が言うところの“オタクの技術”というのは,ゲーム開発のために発展してきたグラフィックス技術とゲームエンジンのこと。こうした技術が医療シミュレーションなどに使われることで,多くの患者たちを救っていると氏は語る。
 また,菅本氏の長年の研究成果が,ゲームエンジンであるUnityと組み合わさることにより,「teamLabBody」として結実している。これが教育現場などで使われていることもその一例といえるだろう。氏は「我こそはオタクと思う人は,医療業界へと参入してほしい」と聴講者に呼びかけ,「teamLabBody」が誕生するに至った経緯へと話を移した。

 「teamLabBody」のもととなった菅本氏の研究テーマとは,“生きている人間の関節がどのように動くのか”というものだった。氏がこうした研究をするようになったのは15年ほど前のことだという。

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 怪我やスポーツ,老化などで痛めた関節を回復させ,関節を痛みなくスムーズに動くようにするのが整形外科医の使命である。そのためには関節の動き方を知らなければならないのだが,関節は皮膚に覆われているため,実際にどのように動いているかを視認することはできない,と氏は指摘する。

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“自分の関節の動き方なんて把握しているよ”と思われる方もいるかもしれないが,骨がどのように組み合わさっているかまでイメージするのはなかなか困難だ。
 菅本氏が例として挙げたのは,手首にある「橈骨手根関節」だ。手首というのは非常に身近な器官であり,これがどう動いているかなどはだいたい理解しているような気がするのだが,実はこの橈骨手根関節は,“8つの空豆大の骨”(菅本氏)から構成されており,これらが複雑に絡み合うことにより,我々が普段目にしている手首の動きが実現されているのだという。自分の手首を見て,8つの空豆大の骨がどう動いているかを想像できる人はあまり多くないと思う。

人間の手の骨格。手首には「橈骨手根関節」という8つの空豆大の骨があり,これらが複雑に絡み合うことで手首の動きが実現している
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 ならば解剖学の資料を見ればいいような気がするが,こうした書物に書かれている知識というのは,あくまで献体を解剖した結果,つまり筋肉を取り去った状態で骨を動かしてみることで得られたものであり,生きた関節の動きではない……というのが菅本氏の考えである。こう聞くと,生きた人間の関節の動きを研究しなければならないと考える理由が理解できる。

 関節が皮膚の下にある以上,これを透かして動きを研究する手段が必要になる。X線で骨格を撮影するレントゲンや,人体の内部構造を把握するMRIやCTスキャンといった検査法は確かに存在している。しかし,静止した状態での骨の形は把握できるものの,骨の動きまでは分からないため,“生きている人間の関節がどのように動くのか”を調査したいという氏の目的にはそぐわない。だからといって,新たな検査機器を開発するというのも現実的ではない。

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 そこで菅本氏は,MRIと画像解析ソフトを使った手法を考案した。動きを研究したい部位をMRIで撮影し,できた画像を菅本氏の研究チームが独自に開発した解析ソフトにかけ,骨の輪郭を抽出する。次に,その部位を少し動かして,再びMRI撮影と骨の輪郭を抽出する。
 これを繰り返すことにより,生きた人間の体内においてどのように関節が動いているかを三次元モデル化したのだ。

手首を少しずつ動かし,MRIで撮影する
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撮影された画像を,菅本氏の研究チームが開発した画像解析ソフトにかけて骨の輪郭を抽出
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生きた人間の身体の中で関節がどのように動いているかが分かる,三次元的な骨のモデルが完成した
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特定の骨だけをピックアップして,その動きを確認することも可能
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手首だけではなく,首をはじめとした全身が菅本氏の手法で解析されている
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 氏はこの手法を“コンピュータを用いたパラパラマンガ”と表現したが,なるほど,静止画を使ってパラパラマンガを作るプロセスとそっくりである。身体を少し動かしては写真を撮影するということを繰り返し,あとで写真を連続で見れば動いている様に見えるというわけだ。
 パラパラマンガは平面だが,氏の手法だと骨の三次元的なモデルを作り出すことができる。こうして分かった“生きている人間の関節の動き”は,これまでの常識とされていたものとは大きく異なっていたという。


医療研究の成果とUnityが結びついた「teamLabBody」


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 菅本氏のこうした研究結果をもとに,Unityで作られたのが人体解剖学アプリ「teamLabBody」だ。生きた人間の関節の動きが3Dグラフィックスで再現されており,これを自由な角度から見ることができるのが最大の特徴である。
 また,筋肉・じん帯・神経・血管の表示や非表示を切り替えることにより,人間の身体の構造を理解しやすくなっている。iPadやAndroidタブレットに対応しており,手軽に持ち運ぶことができるほか,タッチやスワイプで直感的な操作が可能だ。

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 Unityで作られた「teamLabBody」は大阪行岡医療大学にデジタル教科書として導入されたほか,このアプリをベースとした展示が子供向け博物館「キッズプラザ大阪」に常設されているなど,教育の役に立っている。ゲームエンジンとして作られたUnityと医療が結びついたといっていいだろう。
 菅本氏は最後に,近年の健康における関心の高さ,そしてアプリには在庫管理の手間などがなく,参入へのハードルが低いことを例に挙げ,「これからのIT業界は医療に参入しやすいと思います」と今後への展望を語り,講演を締めくくった。

Unityソリューションカンファレンス公式サイト

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