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Unity開発者のための総合イベント「Unite Japan」,その見どころを聞く
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印刷2013/04/11 14:03

インタビュー

Unity開発者のための総合イベント「Unite Japan」,その見どころを聞く

画像集#021のサムネイル/Unity開発者のための総合イベント「Unite Japan」,その見どころを聞く
 ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンは,2013年4月15日,16日の両日にわたって都内・ベルサール汐留で「Unite Japan」を開催する。ゲームエンジンUnityに関する情報が詰め込まれた一大イベントだ。
 ここでは,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの日本担当部長 大前広樹氏,事業開発担当マネージャー 染谷 翔氏,コミュニティエバンジェリスト 小林信行氏にイベントの概要や,同社の最新動向などを聞いてきた。

左から,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの日本担当部長 大前広樹氏,事業開発担当マネージャー 染谷 翔氏,コミュニティエバンジェリスト 小林信行氏
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「Unite Japan」公式サイト


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4Gamer:
 本日はよろしくお願いいたします。まず,「Unite」がどういったイベントなのかというところから教えてください。

大前氏:
 Uniteは,Unity開発者のための国際会議です。内容はテクニカルセッションが中心になります。
 初めて開催されたのは2007年ですね。Untiyが創業したのが2005年で,Mac用のUnity 2.0を発表した直後にサンフランシスコで開催しました。当時の参加者数は70人程度と小規模でしたね。まだソフトが全然売れていない時期でしたので,ケータリングの費用が払えなくて,David(CEO David Helgason氏)が留置所に入ったとかいったエピソードもあったり,ワールドワイドとは言いつつ,地元の人しか来ていないちょっとした勉強会,そんな感じの手作り感あふれるイベントだったそうです。
 2010年にはモントリオール,2011年にはサンフランシスコに戻って開催したのですが,この時点で参加者が1000人規模のイベントになってたんですよね。2012年にはアムステルダムで開催され,参加者は2000人を超えました。国際会議としてもちゃんと“プロっぽい”ものになってきた感じです。

染谷氏:
 去年のUniteの模様はこちらの写真になります。ご覧いただくとわかるとおり,かなり華やかな感じですね。

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4Gamer:
 なるほど。そんな大規模なものが今年は日本で行われるわけですか?

大前氏:
 大規模にはなりましたが,どちらかというと地域に根ざしたイベントになります。
 昨年,日本,中国,韓国で「Unity アジア・ブートキャンプ・ツアー」というイベントをやったのですが,その成功もあって,「今年はもっと大規模にやりたい」「なら,いっそ“Unite”にしてしまおう」ということになり,そこから話が広がって,今年は全世界の7か所でUniteが開催されることになりました。最も大規模なイベントはカナダで行われるのですが,それ以外に日本,中国,韓国,スウェーデン,ブラジル,コロンビアの各地でも開催されます。
 ちょうどGDCが,GDC ChinaやGDC Europeみたいな感じで世界各地で分催されているのと似ていますね。

今年のUniteは日本を含めて,世界7箇所で開催される
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4Gamer:
 なるほど。そういう感じのイベントの日本版ということですね。では,Uniteの魅力というのはどのへんでしょうか。

大前氏:
 Uniteの魅力の一つは,Unity自体の開発者と直に話せることです。かなりの数の開発者が来日します。各部門のトップレベルの人が集まりますのでご期待ください。
 Unityの開発者はUnity Techologiesの発祥地コペンハーゲンのほか,リトアニア,ドイツ,イタリアなど世界中に点在しています。彼らが,Unityの内部や新しく追加される機能について,直接「こういう風になっているんだよ」などといった説明をしてくれるわけです。もちろん,直接質問することもできます。

小林氏:
 開発スタッフにとっては,日本からの要望みたいなことも取り入れる場でもありますね。

大前氏:
 開発者のほうでも,こういったイベントでユーザーの声を聞くのは貴重な機会だと考えているようです。自分が作ったものが,実際にどういう風に使われているのか,どういう点が足りないのかなど,バグレポートで見るよりも強い刺激になるみたいなんですよ。
 単純に要望を聞くよりも,「こういうものが求められているんだ」「こういう風に使われているんだ」といったことが具体的にイメージできるので,それを吸収しにくるというのはありますね。ですから,ぜひ日頃使っている機能についての熱い思いをぶつけてほしいですね。

4Gamer:
 ところで,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの調子はいかがですか。

大前氏:
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 事業を始める前には「日本ではゲームエンジンみたいなものは根付かないんじゃないか」と言われていたのですが,実際にやってみるとそんなこともなく,順調です。
 印象深いのは古くからゲームを作っていた人,それこそPCエンジンなどの時代からやっていたような人が,現在はUnityでガリガリとゲームを作ってるんですよね。ツールの効率がよくなるとそんなに人数もいりませんし,昔のように少人数かつ短期間で開発をしていると。最近はゲーム開発が大規模化していたため,全体的に開発がスローダウンしていたことにモヤモヤを抱いていた人も多かったようです。それがなくなって,生き生きとゲームを作っている人が増えていますよ。もっとも,ゲームシステムの細かい部分に触れないということで別のモヤモヤはあるでしょうけど。
 それでも,ちゃんと今風の作法でゲームを作ってますし。日本で受け入れられるかどうかなんて心配は,完全に杞憂でしたね。

4Gamer:
 ゲーム機の標準開発環境にも採用されたりと躍進が目覚しいですね。

大前氏:
 任天堂さんとの提携は以前発表したとおりなのですが,Uniteでも大きくUnity for Wii Uのセッションを取り上げます。任天堂でも,インディーズの人にWii U開発で活躍してほしいという思いがあるようですね。そのため,Unity for Wii Uは,Wii Uの開発者になれば誰にでも提供されるものになっています。

4Gamer:
 しかし,そこに到達するまでが大変ではありませんか?

大前氏:
 これまでは任天堂プラットフォームの開発者になるのはハードルが高いという印象があったようなのですが,ちゃんとそのへんも考えているみたいです。法人である必要はあるみたいですが,一人法人でも大丈夫,とか。また,Wii Uは2画面ありますけど,1画面だけしか使わないゲームでも全然かまわないとか,かなり自由にやって大丈夫なのでどんどんきてほしいという感じみたいですよ。

2画面の様子が確認できるよう,ゲームビューが2つ表示できる「Unity for Wii U」の画面(β版)
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4Gamer:
 確かにGDCでも任天堂はインディーズ開発者にはかなりアピールしていましたけど,あの任天堂さんがねえ……。

大前氏:
 隔世の感がありますよね。また,今回任天堂さんにはUniteのグローバルスポンサーになっていただきました。 これまではこういうスポンサーシップをとることはめったになかったそうです。それが世界7か国のUniteすべてでスポンサーシップを取るということですから,気合の入れ方が違うことが分かります。

小林氏:
 世界的にはそれくらいインディーズに対しての注目度は高いんですよ。顔の見える個人の開発者に対して興味が集まっていますね。

4Gamer:
 確かに最近ではインディーズといってもかなり凄い作品も増えていますからね。

小林氏:
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 そうですね。先ほど大前からも話に出ましたが,最近はゲーム開発が大規模になりすぎて,フラストレーションを持っていた開発者も多いはずなんですよ。僕自身そうでした。そんな人達がUnityを触って,「あ,こういうところまでできるんだ」と気づき,同じツールを使っている人も多いので質問したり相談もできるわけです。
 顔の見えるコミュニティということですと,Unityユーザーの方々と一緒にFacebookで「Unity助け合い所」というものをやっているんですが,現在2200人の登録があります。2月の半ばから3月にかけてだけで150人増えています。かなり凄い伸び方ですよね。いままではプログラマー寄りの人が多かったのですが,これがさらに加速して今後はプランナーなどの参加も増えてくると睨んでいます。

4Gamer:
 プログラマー以外の人でも,いろんなことに使えるツールですよね。

小林氏:
 そうですね。もちろんゲーム以外でも使えます。
 例えば,今年2月から1か月ほどかけて「fuZe」というイベントを行っていました。これはビデオジョッキー(VJ)用の素材を作るワークショップで,iTunesなどで音楽に合わせて映像が出るビジュアライザープログラムがあるじゃないですか,そういうものをUnityで作ろうという趣旨のものです。
 プログラミングなしで,こちらがUnity上に用意したツールを使って作っていくんですが,皆さんかなり凄いものを作ってきます。

大前氏:
 そのワークショップでは,さまざまな業界のアーティストの方々,例えば映画「鉄コン筋クリート」を制作したマイケル・アリアス監督をお招きして,ケレン味のある演出を加えるにはどうするかといった講演をしていただき,じゃあ,それを入れてみようといった感じで制作していきました。最終的な作品を出してもらって,それをHIFANAやCharisma.comといった本物のアーティストの演奏に合わせ,プロのVJの方にミックスダウンしてもらうというイベントを先日開催したのですが,かなり盛り上がりました。
 Unityがゲーム開発者向けの開発環境として認知されているのは当然ですが,実は,我々のお客様の4分の1はゲーム以外の用途でツールを使ってらっしゃいます。

4Gamer:
 ゲームエンジンとして日本に紹介されてそんなに経っていないのに,ゲーム以外への応用がかなり多いですね。

大前氏:
 先日亡くなられた飯野賢治さんもそうですが,ゲームクリエイターの中には,アーティストとしての一面をお持ちの方が少なくありません。そういう人達の活動を支援していきたい,幅広い才能を持った人達が活躍できる場を作りたいという思いがありまして,このようなイベントを始めたわけです。実際にやってみると,そういった場所で花開く人もいるのだと改めて実感しました。


Unite Japanとはどんなイベントなのか


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4Gamer:
 昨年行ったUnity アジア・ブートキャンプ・ツアーと,今回のUnite Japanではどのような違いがありますか。

大前氏:
 昨年はUnityが爆発的に伸びて,多くの会社で採用していただいておりました。しかし,使っている人の経歴を見てみると,3か月以内という人が断然多かったわけです。それなのに,結構大きなプロジェクトが走っていまして,これは非常にありがたいことではあるのですが,みんな焼け焦げてしまう心配もありました。

4Gamer:
 以前の講演では,「最初のプロジェクトは必ず失敗する」とおっしゃってましたね。

大前氏:
 そこで,去年のUnity アジア・ブートキャンプ・ツアーでは,先行ユーザーである私やほかのスタッフが,プロジェクト管理であるとか,技術的な細かい話など,プロジェクトに係わる実務者のための専門的なセッションを行ったわけです。そうこうして無事に「METAL GEAR SOLID SOCIAL OPS」や「ギルティドラゴン 罪竜と八つの呪い」といった高品質なゲームもスマートフォンでどんどん出てくるようになって,一端の役割は果たしたかなといったところです。

4Gamer:
 今年はどういう傾向にするのですか。

大前氏:
 今年のUniteは,そういったハイレベルだけをターゲットにしたイベントではなくて,もっと間口の広いものになります。今年はコミュニティ活性の場としての役割も意識していますので,アーティスト向けとか,中級者向け,もちろんガッツリと上級者向けのセッションを取り揃えてお届けしていきます。
 また,インディーズ向けの話もあります。例えば,小林なんかはずっとゲームのディレクターをやっていたんですが,ディレクターだと自分一人でゲームを作れない方も多くいるわけです。しかし,本来なら,「こういうものを作りたいんだ」というのを実際に作ってみせたほうが,話が早いじゃないですか。

小林氏:
 これまではずっと書類を作っていたんです。それが実際にプレイアブルで,「こういうものを作りたいんだ」というのが示せるようになるわけです。これは大きなことなんですよ。思いつきで「こういう機能を入れてほしい」といった要望をされることも結構あったんですが,それに対して「それはあんまり面白くないと思うよ」と言うのと,「じゃあちょっと作ってみよう。……これ面白い?」というのでは説得力が違いますから。

大前氏:
 ディレクターだった小林が,プロデューサーやディレクター向けに「プレイアブルプランニングのススメ / 非プログラマ向けの Unity 開発入門」という形で,ラピッドプロトタイピングの知見を紹介したりするセッションもあります。
 私を含めて,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンはインディーズ開発者の集まりのような会社で,実際にタイトルを出して禄を食む生活をしていた人もいますので「僕らが Unity で個人開発を始めた理由」と題して独立して一人でゲームを出していくにはを語るセッションも予定しています。

小林氏:
 その一方で,このセッションの中では「わざわざ独立しなくても方法はあるよ」という視点も含めるなど,多角的な方向性を示すつもりです。

4Gamer:
 実際のところ,インディーズ開発者というのは食べていけるのでしょうか?

大前氏:
 いやあ,辛いですよ(笑)。食べていく方法はあるんですけど,やっぱりいろんな辛さがありますね。個人的には,何年かやれれば,それでいいんじゃないかと思うんですよ。ゲーム開発なんて,あっちの会社で何年働いたらこっちの会社でということも普通ですので,別に失敗してもいいじゃないですか。

4Gamer:
 まあ,戻れるところがあるならそうかもしれませんね。

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小林氏:
 これまでのゲーム開発は,インハウス(自社製)のツールを使用して行うものでしたので,どこかで何年かやっていても新しい職場では一からやり直す必要があったんです。それがUnityなら共通の環境ですから,すぐに仕事にかかれるというのが大きなメリットです。初めてゲーム開発者の能力やセンスを共通に計れるものでもあり,Unityができれば間違いなくここしばらくは生き残れます。

4Gamer:
 国内600社と,ゲーム会社のほとんどで使われているということであれば,まさに共通環境といえますね。確かに「Unityで1本ゲームが作れます」と言ったらどこでも引き合いはありそうです。

小林氏:
 大手のゲーム会社に行っても,今後はインディーズの感覚,つまり一人一人の感性を生かしたゲームが作れないと,面白いゲームは作れません。これは開発者が多くなればなるほど分かるのですが,面白いゲームというのは必ず数人の面白い開発者が作っています。そういうのが出てくるのであれば,業界もますます活性化すると思うんですよ。

大前氏:
 自分の作家性を発揮できる人であれば,会社に入ってもそれなりのポジションを考慮した扱いになると思います。インディーとして一人でゲーム開発をしていると,ゲーム開発そのものだけではなくて,マーケティングであるとか,ゲームをどうやってお客さんのところに届けるかといったことまで考えなければなりません。そうすると,視野が一段広がるんですよね。
 また,自分の持っている作家性や「自分はこういうことはできるけど,こういったことはできないんだ」ということがとてもよく分かります。会社のチームの中にいると,誰かが助けてくれるので分かりにくいんですよ。自分の限界が分かると,開発者として,一段確信を持ってことに当たれるようになります。

4Gamer:
 なるほど。そういうものかもしれませんね。

大前氏:
 そういったこともあって,今回の基調講演では「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」のアシスタントプロデューサーなどをしていたライアン・ペイトン氏をお招きしています。彼は現在シアトルでCamouflajという会社を作り「Republique」というゲームを開発しています。これは,Kickstarterで資金を集め,インディーズですがAAAゲームを目指しているタイトルです。日本のゲーム開発を経験して,アメリカで「Halo 4」の開発に携わったあとで,現在独立してどんなチャレンジをしているのかについて語ってくれることになっています。
 最近はUnityを使ってゲームを作って,Kickstarterで資金調達でき,一人でAppStoreなどで販売するなどの自由さを体験できる世の中になっています。会社を辞めなくても自由さを求めることはできるんです。


山本一郎氏が炎上プロジェクトについてとことん語る


4Gamer:
 ほかにはどんなセッションがありますか。

大前氏:
 Unityのもう一つの側面として,受託開発があります。日本のゲーム業界を支える人達が,これからの時代をどう考えればいいかということも示さなければならないと感じています。今後は,Unityがコンシューマゲーム機用の開発環境として提供されることになり,Wii UやPlayStation 4などに古いタイトルを移植するような案件も増えてくると予想しています。そういった案件は,えてして無茶なものが多い傾向がありますので,どうやったら焼け焦げずに済むか,山本一郎氏に「プロジェクト炎上のメカニズムと早期発見,行うべき処理の概論」と題しての講演をお願いしています。

4Gamer:
 あの切込隊長がそういうセッションをやるんですね。まさに専門家ですけど。

大前氏:
 最低限,どのようなことを気をつけていればクロージングまで持っていけるのか,さらにはプロジェクトが炎上した場合でも,最低限どうすれば火を消すことができるのか,どういう状態のときは火は消さず燃え尽きるまで待ったほうがいいのかといったことについて知見を共有していただきたい,とラブコールをしまして,快く引き受けていただきました。
 普段から「Unityを使ったからといって工期を短くなるわけではありませんよ」と言ってはいるのですが,「便利なツールだから工期を短くできるだろう」と決め付けられることが多いようで,炎上案件もあとを絶ちません。

小林氏:
 そういう“失敗学”は大事ですよね。うまくいった背景について語られることは多いのですが,成功したときでも,なにを選んで,なにを選ばなかったのかがとても重要だったりするんですよ。そういう意味では,僕らも聞いてみたいセッションですね。


ゲーム以外に使われるUnity。ノンゲームに次世代ゲームのヒントがある?


大前氏:
 そうそう,最近実際に体験して衝撃を受けた技術の一つに,Mixed Realityといって,現実世界のものと仮想世界の映像を混ぜる技術があります。例えば,キヤノンITソリューションズさんがUnityを使って「MREAL」というものを作っているんですよ。先日そのデモを見てきたのですが,これが半端なく凄くてですね。車とか工場にある機械なんかが目の前にあるように見えるわけですよ。それに触って操作することもできて,「バッテリーの位置は少しずらして」みたいなことを話し合いながら設計ができるんです。これの可能性ってとんでもないなと思いました。正直,「なんでこれがPS4についてないの?」って(笑)。

4Gamer:
 それは見たことがありませんが,かなりインパクトの強そうなものですね。

メガネを付けると現実世界の視界にCGが合成される。こんな感じらしい
画像集#015のサムネイル/Unity開発者のための総合イベント「Unite Japan」,その見どころを聞く

大前氏:
 そういう技術って昔から細々とあったのですが,実用には至らなかったんですよね。その理由ははっきりしています。彼らが作りたかったのは,カメラやMRをやるためのデバイスであって,そこで表現されるグラフィックスや,それを作るためのコンテンツパイプラインではありませんでした。その部分で安価に組み合わされるものがなかったため,使ってみるとフレーム落ちして体感がよくないとか,テクスチャすらちゃんと貼れないとか,なんの感動も呼ばないものにしかならなかったんですよ。

4Gamer:
 コンテンツパイプラインというと,基本ソフトとデバイスを提供して,納入先でコンテンツを作る感じのソリューションですか? そこでUnityを使うと。

大前氏:
 はい。複雑なコンテンツパイプラインを用意するのではなく「Unityを使ってください」とお客さんに言えばいいわけです。表現能力も高いですし,彼らは自分達の作りたいものに100%力を注ぐことができるようになるわけです。その結果,非常にハイレベルなソリューションに飛躍した感じです。

4Gamer:
 それはぜひ見てみたいですね。

大前氏:
 「恐竜のデータを歩かせてみました」という簡単なデモですら,凄い感動がありましたね。

画像集#016のサムネイル/Unity開発者のための総合イベント「Unite Japan」,その見どころを聞く

小林氏:
 最初に話がきたときはよく分からなかったのですが,見に行った二人が帰ってきたら,もうすっかりファンモードになっちゃってて(笑)。きっと実際に見ないと分からないものなんでしょうね。今回はキヤノンITソリューションズさんが講演してくださるので,僕も聞いてみたいと思ってます。

染谷氏:
 これはあくまで業務用のものなのですが,博物館とかテーマパークなどで使えるのではないかというのは強く感じましたね。実際,先ほど話に出た恐竜は,福井県の恐竜博物館で期間限定公開されていたものだそうです。

大前氏:
 「これはソードアートオンラインだ」と思うくらいのクオリティでした。Oculus(※関連記事)とかにも期待はしているんですけど,ゲームでもこういうのが使えるようになるといいですよね。

小林氏:
 コストの面で言うと,これが「使える」と分かればコストは必ず下がるものだと思っています。まず必要なのは,未来に対する夢を見せることで,Uniteがきっかけになれば素晴らしいかなと思っています。

大前氏:
 そのほか,今回はチームラボさんにも参加していただいてインタラクティブ・インスタレーションやアートの世界においてのUnityの使い方などについて語っていただきます(参考記事)。今回はノンゲームというところにも重点を置いています。

小林氏:
 ゲームを作ってきた立場から言うと,大きなゲームというのは「驚き」がないと絶対に企画が通らないんですよ。ゲームはデータを使った総合コンテンツだという意識がないとやっていけません。ノンゲーム分野でこれだけ凄い応用例があるという刺激は,次のゲームにも役立つはずです。
 先日のfuZeのイベントにしても「これ自体がゲームシステムだとしたらどうだろう?」と考えて,金を払うかといわれると,払っちゃうなという内容でした。それくらいまでいかないとダメなんですよ。我々は機械を売っているわけではなくて,体験を売っているわけですから,次の体験はなにかと考えたときに,ノンゲームからのヒントというのは凄く重要ですね。
 別にUnityが仕事を増やすためにノンゲームに注力しているわけではないんですよ。すべてのものはゲームにつながるという意識で見てもらったほうがいいと私は思っています。


Unityで2Dゲームの開発も熱い?


大前氏:
 話は変わりますが,先日,京都のBitSummitというイベントに行ってきました。洞窟物語などで知られるStudio Pixelの天谷大輔さんにもお会いしたのですが,日本のインディーズ開発者には2Dゲームが作りたいという人が多いんですよ。

4Gamer:
 ああ,それはなんとなく分かります。

大前氏:
 インディーズでやっている人達は,自分達が好きだったゲームを作りたい,市場に2Dのゲームがないので自分で作りたいと思っている人が多いんです。今回のセッションでも,Unityの東南アジア担当でベテランゲーム開発者のBrett Bibbyが「2Dコンテンツのためのワークフロー」という題目で,Unityで2Dゲームを作るためのコツを披露してくれます。
 また,実は現在,Unityでは2Dゲームのための新機能も制作しています。今年のUnite Japanでは,その機能を作っている本人が来日して紹介してくれることになっていたのですが,そちらは直前でストップがかかってしまいまして……。この講演を期待してくださっていた方にはとても申し訳ないです。ただ,Unityは2Dゲームを作るという部分にも凄く真剣に機能開発をしています。ご期待ください。

4Gamer:
 講演できなくなったのは残念ですが,新機能に期待しましょう。日本では2Dゲームも人気がありますし,携帯系を考えると2Dゲームも全然アリですよね。

大前氏:
 作家性などを考えると,2Dゲームというのもありだと思うんですよね。
 僕らの世代だと時系列で見てしまいますので,3Dのほうがいいんだろうという意識がありますけど,最初からどちらもあった現在の若い人にとっては2Dゲームも3Dゲームもあまり違いはないみたいなんです。

4Gamer:
 しかし,いまとなっては2Dのほうが作る工数かかりませんか?

大前氏:
 個人だと,絵描きさんだったら2Dのほうが楽かもしれませんが,そうでないとかなりコストがかかると思います。
 「Zombieville USA」という初期App Storeの人気作品がありました。当時,作者はまだ高校生でしたが,儲かって会社を作ってという,サクセスストーリーでも話題になっていました。このゲームは2Dのゲームなのに,アニメーションはすべてMayaで作られていたんですよ。


4Gamer:
 ああ,3Dツールで2Dパターンを作ることは割とやられていますよね。

大前氏:
 学生ですと,Unity Pro版も半額で購入できますので,学生のうちに揃えておくといいかもしれません。

染谷氏:
 Uniteでも学生割引がありますし。

小林氏:
 昨今だと,学生がいろいろな就職用の講習会に行っているようですが,ゲーム業界を目指すなら,同じような感覚でUniteとかのイベントに行ってゲームを作れるようになったほうがずっといいですよね。

大前氏:
 むしろ「就職活動の一環として参加してみたら?」くらいの感じですね。

画像集#010のサムネイル/Unity開発者のための総合イベント「Unite Japan」,その見どころを聞く
染谷氏:
 先日ニコニコ生放送で「Unityを使えることで就職がうまくいくよ」という話をしたのですが,現在,多くの企業がUnityを使える人を募集していますので,Uniteに参加してUnityを使っていろいろやっているとなるとウケがいいかもしれません。サークル活動やなにかしらのリーダーをしていたとかよりは具体的ですよね。

4Gamer:
 そうですね。タブレットを取り出して「僕が作ったゲームです」と見せれば一目瞭然ですし。

染谷氏:
 個人だと無料で使えるというのも大きいですね。企業側も,C++を使える人よりもUnityを使える人のほうが多いのなら,Unityで求人を出そうという流れになっているみたいです。

大前氏:
 先ほど小林も話したように,これまでは会社が個々の開発環境を持っていましたので,多少ゲーム開発の経験があっても新しい環境に馴染むまでには時間がかかっていました。それがどこもUnityを使うようになると,即戦力を雇えるわけです。会社のほうも教える手間が省けるというのは大きなメリットになります。
 僕らの会社にもUnityが使える人が入ってきているので,新人研修とかはまったくないんですよ。お互いの共通言語で会話ができますので,すごく快適なんです。
 また,作品としてまとめたものを見られると,その人の作家性だとか傾向だとかが分かるんですよね。そうすると,会社側としても適した部署に配置しやすいでしょう。

4Gamer:
 ここまで広がってきたUnityですが,その長所というのは端的に言うとどんなところにありますか。

大前氏:
 「北欧的」といいますか,自己主張が強くないところでしょうか。家具などを見ても,北欧のものは落ち着いていて,どんな環境にも合うでしょう。Unityも「どんなゲームでも作れるようにしようよ」ということで,いろんなゲーム制作に柔軟に対応できるシステムになっています。
 同時にちゃんとプロの使用に耐えるものであるというのも重要です。そこで使われている技術は,GDCなどで発表されてきたような最先端のものですし,プロの人が見ても「ちゃんとやっとんな」というのは分かってもらえたと思います。それでいて,必要以上にピーキーにはしないことで,誰にでも扱えるくらいのものに収まっています。その辺のバランスが,プロ,プロシューマ,ファンといった広い層に受け入れられている秘密ではないでしょうか。

4Game:
 もう一歩進んで,かつてのファミリーベーシックみたいにゲーム機上でゲームが作れるようになったりはしませんか。

大前氏:
 そうですね。私もかつて「ネットやろうぜ」で幸運にもゲーム機での開発に参加できた一人だったんですが,ゲーム機で動くというのはやはり楽しかったですね。
 先日,ソニー・コンピュータエンタテイメントさんとの包括的提携を発表しましたが(関連記事),そこではPlayStation 4,PlayStation 3,PlayStation Vita,PlayStation Mobile,さらに将来的にはSCEのクラウドサービスといったプラットフォームすべてでUnityがサポートされます。とくにPlayStation Mobileを使えば市販のPS Vitaでも開発ができるようになる可能性はありますね。

4Gamer:
 それは楽しみですね。


どんどん凄くなる! 聞き逃せないUnityの最新情報も


4Gamer:
 Unity最新版に関する講演ではどんなものがありますか。

大前氏:
 最近出たばかりのUnity4.1では,メモリプロファイラの機能が大幅に改善されていて,担当したKim Steen Riberによる「いかにメモリの問題を解決するか」についての解説セッションがあります。
 それとUnity 4から搭載されたアニメーションシステムMecanimですが,これはMotion BuilderやHumanIKを実際に開発していたRobert Lanciaultが作ったものです。

4Gamer:
 いきなり本格的なものが出てきたと思ったら,そんな由来だったわけですか。

大前氏:
GDC 2013会場でのRobert Lanciault氏
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 彼はKaydaraの頃からアニメーションシステムを研究していて,Autodeskに買収されてそのままHumanIKなどを作っていたわけですが,数年前に独立してMecanimという会社を作って新しいアニメーションシステムを開発していました。それが,Unity CTOのJoachim Anteと意気投合して一緒にやろうぜということでUnityに搭載されることになったものです。その彼自身によるMecanim徹底解説のセッションも予定しています。

4Gamer:
 Mecanimのような機能が標準で用意されているというのは嬉しいですよね。

大前氏:
 もともとMecanimは,フルボディIKとモーション遷移のグラフを作って,キャラクターのビヘイビアを作り込めるシステムでした。こういうものはAAAのスタジオでしか使えなかったのですが,それが誰にでも使えるようになりました。これは凄く画期的なことです。それが4.1で凄くよくなっていますよ。

4Gamer:
 さらに便利になったわけですね。

大前氏:
 これまでは,モーション遷移を作るときにブレンディングが1次元でした。例えば,前進のモーションと右に曲がるモーションを,角度によってどれくらいの比率で混ぜるかといった感じです。それが新しいMecanimでは2次元になりました。

4Gamer:
 2次元ですか。

大前氏:
 はい。このときの軸には何を使ってもかまいません。前後運動と左右運動で軸を取った場合だと,この辺の位置に歩いて前進するモーション,この辺に走るモーション,こっちに右へ曲がるモーション,こっちにはバックするモーションといった具合に,複数のアニメーションデータを2次元ノード内に自由に配置できるんです。指定した座標値と各ノードの影響度合いから最終的なアニメーションを作ってくれるというものになっています。

GDC 2013でのRobert Lanciault氏の講演より
画像集#018のサムネイル/Unity開発者のための総合イベント「Unite Japan」,その見どころを聞く

小林氏:
 これって,キャラクターの仕草などを入れると凄く面白そうですよね。行動と感情度合いで軸を取ると動物などの表現に向いていそうです。

大前氏:
 そうですね。感情などを軸にすると,表情のアニメーションなどにも便利に使えるものになります。

4Gamer:
 これは無茶苦茶便利そうですねえ。

大前氏:
 同じことを1次元グラフの連結でやろうとすると大変なことになっていたんですよ。それが非常にすっきりと指定できるようになりました。ほかのゲームエンジンには付いていなかった機能ですので比較する対象がないのですが,さらにブッチギリのところまで到達した感じです。

小林氏:
 4.0のMecanimですら,3Dアニメーションを組んだことがある人なら「こんなに簡単にできていいの?」って思うくらいのものだったんですよね。

大前氏:
 そのほか,DirectX 11関連のセッションももちろんやります。UnityはPassion Picturesというスタジオと協力してリアルタイムでフィルムクオリティの映像を出す「The Butterfly Effect」というデモを作ったのですが,そのとき技術協力したErkand Kornerというテクニカルアーティストがきて,実際にデモで行った技術を解説します。彼はEA DICEで働いていた人なので,ガチガチに「その手」の人です。これなんかもPS4時代のグラフィックスをUnityで作ろうという場合に参考になるセッションだと思います。

The Butterfly Effectより
画像集#020のサムネイル/Unity開発者のための総合イベント「Unite Japan」,その見どころを聞く

4Gamer:
 いろいろなところから人材がきていて,さまざまな部分が強化されているんですねえ。

大前氏:
 次の技術ということで言いますと,UnityのこれからのネットワークソリューションとMMOへの取り組みについて担当している,Erik Juhlという開発ディレクターが来日します。あいにく彼の講演も諸々の事情で直前にキャンセルになってしまって,ホストとしてはちょっと泣きそうなのですが(笑),Unityのネットワーク事情が気になる方は,会場でぜひつかまえて話をしてみてくれればと思います。
 Erikはいろんな会社で,それこそ「Ultima Online」からMMOの開発をやってきた人間で,「インディーズでもMMOを開発できるようにする」という気概を持って仕事をしているような人物なんです。

4Gamer:
 MMOも民主化ですか。しかし,インディーズで考えるとオンラインゲームはサーバーがネックになりますよね。

大前氏:
 そのへんも少し状況が変わりつつあります。海外ではPhotonなどがインディーズでも使われているのですが,日本でもGMOクラウドが正式にPhotonのサービス展開を開始しました。しかも,Photonの人気の秘密の一つでもあった無料のモデルもしっかり踏襲しています。

4Gamer:
 なんというか,凄い勢いでゲーム開発環境が変わりつつありますねえ。

大前氏:
 そんなこんなで,Uniteではいろいろと取り揃えております。お土産もいろいろと用意していますよ。

染谷氏:
 現在発売されている2種類のUnity関連の書籍を特定の書店で購入すると,Uniteのフライヤーが入っています(関連記事)。そのフライヤーを会場に持参していただくと,プレゼントの特製バッジと交換させていただきます。
 フライヤーは書籍の種類で2つあり,プレゼントも異なります。今回のUniteは花札をモチーフにしてビジュアルを作っておりまして,バッジも「桜に幕」「菊に杯」の2種類になっています。

画像集#022のサムネイル/Unity開発者のための総合イベント「Unite Japan」,その見どころを聞く
翔泳社「Unityで作るスマートフォン3Dゲーム開発講座 Unity4対応」
画像集#023のサムネイル/Unity開発者のための総合イベント「Unite Japan」,その見どころを聞く
ソフトバンク・クリエイティブ「ゲームの作り方 Unityで覚える遊びのアルゴリズム」

4Gamer:
 合わせると「花見で一杯」ですか。

染谷氏:
 はい。ぜひセットで入手してほしいですね。また,Tシャツなども用意しておりますので,ぜひご来場ください。

4Gamer:
 かなり内容の濃いイベントになりそうで期待しています。本日はありがとうございました。

UniteJapanを作り上げるユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのスタッフ達
画像集#001のサムネイル/Unity開発者のための総合イベント「Unite Japan」,その見どころを聞く

「Unite Japan」公式サイト

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