レビュー
4000円で購入可能なゲーマー向けマウス2種の価値を考える
Oscar Laser Mouse XL-750BK-JP
Oscar Laser Mouse XL-740K-JP
» 2008年の夏に発売された,ゲーマー向けの低価格マウス2製品について,fumio氏のレビューをお届けしたい。現行モデルとはいえ,入手性はあまりよろしくないA4Tech製品だが,探してでも手に入れる価値はあるのだろうか。
もちろん,高価なゲーマー向けマウスは,高いセンサー性能を持っていたり,多機能だったりと,相応のメリットを備えてはいるのだが,一般用途向けのマウスだと,ある程度しっかりした品質のものでも2〜3000円程度で手に入るという現実がある。それと比べてしまうと,ゲーマー向けマウスの多くが,手を出しづらい価格帯にあることは否定できない。
そんななか,「X7」ブランドで低価格のゲーマー向けマウスをリリースし続けているのが,A4Techである。同社初のゲーマー向けマウスとなる「X-718」を皮切りに,新製品を次々と投入し続けているが,その多くは,高くても実勢価格で4000円程度。高価格化の一途を辿るゲーマー向け周辺機器市場のトレンドに逆らっている数少ないメーカーの代表例が,A4Techであるといえるだろう。
今回は,そんなA4Techの最新世代製品となる「Oscar Laser Mouse XL-750BK-JP」(以下,XL-750BK)と「Oscar Laser Mouse XL-740K-JP」(以下,XL-740K)を,A4Techの販売代理店であるフォスターから借りることができた。両製品とも,国内販売がスタートしたのは2008年8月頃のことであり,“旬”ではないが,1万円クラスの製品がほこほこと登場している今だからこそ,見えてくるものもあるはずである。
小型軽量なXL-750BKと,やや大きめなXL-740K
基本的な違いは形状と重量のみ
実測重量はケーブル込みで約130g,ケーブルを秤からどかした参考値は約90gで,ゲーマー向けマウスとしては軽量な部類に入る。いよいよ「つまみ持ち」特化型といったところなのだが,マウス自体の重心がやや後方(=手首側)に寄ってしまっているため,つまむとき,力を軽く入れる必要がある点は注意が必要かもしれない。
ちなみにXL-750BKの外観は,従来製品であるX-718シリーズと同じ。一見,左右対称なのだが,実際には左サイドにのみ,滑り止めのラバーと2個のサイドボタンが配置されているなど,完全な左右対称形ではない。左利きのプレイヤーには残念だが,この点はある程度の妥協が必要となるだろう。
一方,XL-740Kの形状は,ざっくりまとめるなら「Razer DeathAdder」あるいは「Microsoft IntelliMouse Explorer 3.0」に近い。しかし,実際に持ってみると,マウスの側面,中ほどにあるくびれ,そして,親指を置く部分にあるラバー加工のおかげで,「かぶせ持ち」や「つかみ持ち」をしたとき,持ち上げやすいようになっている。
念のため,「つまみ」も試してみたが,くびれに親指を沿うようにすると,指をひねるような感じになってしまい,最後までベストなポジションは見つけられなかったので,XL-750BKとの違いは,ここにあるという結論に達した次第である。
実測重量はケーブル込みで約140gで,ケーブルを重量計からどかした状態の参考値は約100g。ただしこれは,本体底面に用意された重量調節機構,具体的には錘(おもり)を取り付けるスロットとその蓋を外した状態の重量であり,「重量調整機構を完全に取り払った状態でも,XL-750BKより若干重めである」ことは憶えておいてほしい。なお,重量調節機構と蓋,錘を利用すると,本体重量は最大で20g重くできる。
ボタンのクリック感には2製品で違いアリ
[3X Fire]ボタンは押しやすい
基本的なボタン配置は2製品で共通 |
XL-750BKの[3XFire]ボタンは縦に長い |
一方こちらは丸みを帯びた三角形になっている,XL-740Kの[3XFire]ボタン |
サイドボタンは,どちらもカチカチとしっかりしたクリック感を得られているが,XL-750BKのみ,「ヘコヘコ」という,たいへん安っぽい音が鳴ったことは念のため指摘しておきたい。ゲームプレイに影響するかというとまったくそんなことはないうえ,そもそも個体差の可能性も捨てきれないが,こういうところは価格なりといえるかもしれない。
スクロールホイールは,とくに素晴らしいといえる材料が見つからない一方,刻みが緩いといった不満もとくになく,2製品とも,可もなく不可もなくといった感じである。
評価したいのは,スクロールホイールと左メインボタン先端部の間に挟まれて置かれている[3XFire]ボタンである。名前から想像できるように,標準だとトリプルクリックが割り当てられているのだが,ここにも専用ユーティリティ「Oscar Mouse Editor」(※詳細は後述)から,別の機能を割り当てられる。人差し指で容易に押し分けられるので,サブボタンとしての使い勝手はなかなかいい。
サイドボタンだと,押下時にマウスのホールド力が弱まってしまいかねないが,[3XFire]ボタンのような配置なら,そういった心配は無用。これは他社にもぜひ採用を検討してほしいボタンといえる。
マクロ周りが非常に充実したOscar Mouse Editor
設定は本体内蔵フラッシュメモリに保存可能
すぐ上で「専用ユーティリティ」として紹介したOscar Mouse Editorは,ドライバソフトウェアではなく,純然たる専用ツールだ。XL-750BKとXL-740Kは,いずれもWindowsの標準ドライバで動作し,Oscar Mouse Editorで行った設定内容はすべて,マウス本体に内蔵されたフラッシュメモリに保存される仕様となっている。
さて,Oscar Mouse Editorに用意されている機能は,以下のとおり。「ゲーマー向けマウスの設定アプリケーション」と聞いて,ぱっと浮かぶような定番の機能は,一通り網羅されているといっていい。
- マクロ編集機能(マウスポインタ操作,条件分岐)
- 各ボタンへの機能の割り当て(左メインボタン,DPIボタンを除く)
- USBレポートレートの変更(125Hz,250Hz,500Hz,1000Hz)
特筆すべきは「マクロマネージャ」と名付けられたマクロ編集機能で,ここまで詳細なマクロが組めるマウス(の設定ツール)は,筆者が見てきたマウスのなかでは初めてだ。
押している間だけマクロを繰り返し実行,なんて機能は基本中の基本。マウスポインタの位置を移動させるのはおろか,最大で三つの変数を利用した条件分岐まで行えるようになっているというのには驚くほかない。
とにかく便利といえば便利で,いいことづくめに見える本機能だが,インストール直後の段階で,「Counter-Strike」のようなリアル系FPSにおけるリコイルコントロールを自動で行うマクロがプリセットされているのを見たときは,チートとマクロの境界がいかに危ういモノであるかを考えさせられたりもした。
センサーの性能には僅かな不安
安定してプレイできるのはミドルセンシ以上?
最近は,信頼性の高いレーザーセンサーも登場してきているが,そうでないものがまだまだ多数派。果たしてXL-750BKとXL-740Kが持つセンサーの性能はどの程度なのか,今回もテストを行ってみよう。表に示したテスト環境,そして,その下に示した条件でテストを行う。
●XL-750BK/XL-740Kの設定
- Oscar Mouse Editorバージョン:V4.201
- トラッキング解像度:3600/2000dpi(※XL-750BK,XL-740Kの公称最大解像度は3600dpiだが,複数の情報ソースが「ハードウェアレベルの最大値は2000dpi」としているため,今回は二つの設定値で検証する)
- ポーリングレート:1000Hz
- Windows側設定「マウスのプロパティ」内「速度」スライダー:中央
- Windows側設定:「ポインタの精度を高める」:オフ
●テスト方法
- ゲームを起動し,アイテムや壁の端など,目印となる点に照準を合わせる
- マウスパッドの左端にマウスを置く
- 右方向へ30cmほど,ロー・ミドル・ハイ,それぞれのセンシティビティを好むプレイヤーを想定し,思いっきり腕を振って動かす「高速操作」,軽く一振りする感じである程度速く動かす「中速動作」,2秒程度かけてゆっくり動かす「低速動作」の3パターンでマウスを振る
- 振り切ったら,なるべくゆっくり,2.の位置に戻るようマウスを動かす
- 照準が1.の位置に戻れば正常と判断可能。一方,左にズレたらネガティブアクセル,右にズレたら加速が発生すると判定できる
ちなみに,3600dpi設定時だと,0.25で同程度の感度になるが,今回,0.25設定でのテストは行っていない。というのも,「センサーの挙動に異常が出るか出ないか」は,ゲーム内のSensitivity設定ではなく,マウスを動かす速さと,センサー側の性能によると,筆者は認識しているためだ。異常が発生したとき,それを目視で確認できるレベルのローセンシ設定であれば問題ない,というわけである。
以上を踏まえて,テスト結果をまとめた表2,3を見てほしい。
ご覧のとおり,XL-750BK,XL-740Kの両方とも,テストに用いたマウスパッドのすべてで,高速動作時にポインタ飛びが確認された。ただ,このポインタ飛びは,移動距離に不整合が生じた結果としてのネガティブアクセルではなく,操作中にポインタが動かなくなったり,あらぬ方向へワープしてしまったりするような症状だ。「Icemat Purple 2nd Edition」では中速動作でもポインタが飛んでしまう。
全体的に,いわゆるローセンシで腕を振り回すように操作をする人だと,ゲームプレイに支障の出る可能性がある。XL-750BKとXL-740Kをゲームで安心して使えるのは,いわゆる“180度15cm”(=180度旋回するのに,マウスを15cm動かす必要のある状態)未満の感度でプレイする,ミドル〜ハイセンシプレイヤーということになる。
リアル系で「つまみ持ち」ならXL-750BK,
スポーツ系で「かぶせ持ち」ならXL-740K?
一方,Warsowのようなスポーツ系FPSをプレイする場合は,XL-740Kで「かぶせ持ち」をするのが一番やりやすいように感じた。これは,ゲームスピードが速く,マウスを比較的大きく動かして敵を追うことの多いゲーム系では,「かぶせ持ち」のほうが狙いやすい――というより単純に,筆者がもともと,「かぶせ持ち」派のスポーツ系FPSプレイヤーであるという事実のほうが大きいかもしれないが。
機能的には高価格なゲーマー向けマウスと遜色ない2製品。残念ながら,国内正規流通している割には,入手性はあまりよろしくないものの,気軽に購入できる4000円弱という価格はやはりうれしい。
センサー性能に不安が残り,その分だけ人を選ぶが,ミドル〜ハイセンシ設定なら問題なく使えるのは確かだ。自分のプレイスタイルがそこに当てはまり,かつ,どちらかの形状が気に入ったのであれば,満足できる可能性は高いだろう。
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