― レビュー ―
「3倍速い赤いボタン」はチャンスを最大限に生かす武器となるか
X7 Game Mouse X-750F
Text by Crize
2006年7月6日

 

X7 Game Mouse X-750F
メーカー:A4Tech
問い合わせ先:フォスター(販売代理店)
support@fosternet.co.jp

 A4Techのゲーマー向けマウス第1弾となった「X7 Game Mouse X-718」(以下X-718)は,レビュー記事でお伝えしたように,コストパフォーマンスに優れた製品だ。そして,今回紹介する「X7 Game Mouse X-750F」(以下X-750F)は,その上位モデルとして,2006年6月に国内発売されたマウスである。

 

 X-750Fは,同社製マウスとして初めてレーザーセンサーを搭載した製品という特徴を持つが,それ以上に注目すべきなのは,「3XFire」という特殊ボタンだろう。1回のクリックが3クリックとして認識される赤いボタンによって,X-750Fは,ほかのゲーマー向けマウスとは一線を画す存在になっているからだ。

 

 

■3XFireが3連射である理由

 

 では,なぜ3XFireは3連射なのか? それを説明する前に,少々予備知識を。
 「Half-Life: Counter-Strike」(以下Counter-Strike)をはじめとする,リアル指向のミリタリー系FPSでは,マシンガンやアサルトライフルを装備してショットボタンを押しっぱなしの連射状態にすると,反動の連続で銃口(≒銃の狙い)がぶれて,狙った場所よりも広い範囲に弾が拡散するようになっている。

 

左メインボタンとスクロールホイールの間に設けられている3XFireボタン。ボタンの使い勝手そのものについては後で述べる

 これは実際の銃器の挙動と同じで,それゆえにCounter-Strikeなどは「リアル指向」といわれるわけだが,要するにこのようなFPSにおいて,(対象との距離が極端に近い場合を除けば)連射状態では,狙った場所に連続して弾を撃ち込むことはできない。
 “連射系”武器で,銃口がぶれず,狙いをつけた場所に飛んでいくのは,武器の種類によって多少前後はするものの,おおむね初弾から3弾めまで。このことを知る上級者は,この3発をまとめ撃ちするトリプルクリックを多用する。近〜中距離にいる対象を,確実に狙撃するための手段が,3発分のまとめ撃ちなのである。もっといえば,これは実銃における「3連バースト射撃」を手動でやっているようなものだ。

 

 ここまでくると,3XFireの目的が明確になってくるだろう。そう,3XFireは,このまとめ撃ちテクニックを,FPSの初心者でも簡単に行えるようにするためのボタンなのである。

 

 ちなみに,3XFireの連射機能を音で表現すると,「タンタンタン」といった感じ。これに対して,上級者の行うまとめ撃ちは「タタタン」といった音になる。Counter-Strikeで実際に3XFireを利用したときと,筆者が“手動で”まとめ撃ちを行ったときの様子をそれぞれWMV形式のムービーにして,zipファイルにまとめてUpしておいた(5.4MB)から,ぜひ参照してほしい。とくに音を聞くと分かりやすいと思うが,3XFireのほうが,1発1発の発射間隔が微妙に空いている印象だ。
 上級者が行うまとめ撃ちの精度が100%とすれば,3XFireの精度は85〜90%といったところ。「3XFireを利用すれば,初心者でも上級者とまったく同じまとめ撃ちができるようになる」わけではない。

 ただ,ゲームを始めたばかりの初心者は,身につけなければならないことがたくさんあり,その状況にあって,負担が少しでも減ることには大いに意味がある。これからリアル指向のFPSを始めたいと思っている人や,始めているが,上級者との技術的な差を感じている人には,十分に勧められる精度を持った機能といえよう。

 

 

■X-718と同様にコンパクト&軽量

 

 最大の特徴についてチェックしたところで,全体を見ていくことにしよう。
 サイズは58.4(W)×114.3(D)×43.2(H)mm,重量は104gで,基本的な仕様はX-718と同じ。小型軽量で,ゲーマー向けマウスにありがちな「欧米人向け仕様」ではなく,多くの日本人にとって使いやすいサイズではなかろうか。

 

4Gamerの「比較用リファレンス」である「MX510 Performance Optical Mouse」と本体サイズおよびケーブルの太さを比べてみた。いずれも左がX-750Fだ。本体は二回り小ぶりな印象。直径2.2mmのケーブルはかなり細く見える

 

 次にボタンだが,まず3XFireから。3XFireのボタンは,形状こそサイドボタン風であるものの,押し心地は左右のメインボタンに近い。押し込むときの深さはあまりなく,軽くクリックするだけで反応してくれる。ボタンの位置に慣れれば,という留保は必要と感じたが,押しやすいと感じられるレベルにある。
 使用頻度の高いメインボタンは,X-718と同様,クリック時の手応え,返りともによく,質の高いボタンという印象を受けた。

 

サイドボタンは写真左側のみに突起が用意されている

 右手親指を置くことになる左側の側面には,ゴムの滑り止めが貼り付けられており,そのすぐ“上”にはサイドボタンが2個用意されている。X-718のレビューで筆者は,サイドボタンの押し心地がややチープであると評したが,X-750Fでは,X-718と同じ場所にあるこのサイドボタンに改善が見られた。手応えがしっかりして,押しやすくなっているのだ。これは大きい。
 また,細かい点だが,サイドボタンの片方にだけ突起を設けるという形で,押し間違えへの配慮がなされているのは,付記しておく必要があるだろう。

 

 サイドボタン以上に使用頻度が高くなるスクロールホイールは,X-718と同じもののようだ。チルト機能のないシンプルなホイールで,一目盛りごとにカチッカチッと手応えがあるほか,表面には細かい溝が彫り込まれていて,ホイールを回すときに指がしっかりと引っかかるような工夫が施されている。ボタンとしても,押し込んだときの返りがよく,品質は高い。

 

 

■解像度は最大2500dpiの6段階切り替え

 

 ホイールの脇にあるボタンは,やはりX-718と同様,マウスの解像度を変更するための切り替えボタンだ。
 マウスの解像度は,マウスの読み取り精度とほぼ同じ意味で,解像度の値が高いほど,細かな操作を反映してくれる。ただし,高く設定し過ぎると,ゲームよっては操作しづらくなる場合があり,ゲーム内で状況に応じて解像度を切り替えたりすると便利なことがある。そのときドライバ側の設定を行うことなく,ハードウェア的に切り替えられるのは,なかなか親切といえる。

 

マウスホイールの近くに埋め込まれたLEDが,解像度ごとに色を変える。ちなみにこの写真のように,緑色に点灯しているときは800dpi

 レーザーセンサーを採用したX-750Fでは,この解像度が最高で2500dpiに高められた。X-718では,600,800,1200,1600,2000dpiの5段階切り替えだったが,これに,ゲーマー向けマウスとして最高クラスの解像度である2500dpiが選択肢として加わり,6段階で切り替えられるようになっている。解像度を変更すると,本体に埋め込まれたLEDが色を変え,その時々の解像度設定を眼で確認できるようになっていのは,X-718とまったく同じ。

 

 一方,解像度と並んで重要なスペックの一つであるフレームレートは「センサーが1秒で読み取る回数」を示す。これが低いとプレイヤーの操作にマウスが追従できなくなる原因となるが,この点,X-750Fののフレームレートは7080fpsで,X-718の6500fpsから向上を見せている。ちなみに,2006年7月時点で販売されているゲーマー向けマウスのなかでは最高クラスのスペックだ。
 レーザーセンサーを搭載するマウスには,読み取りに不具合のあるものがこれまで少なくなかった。だが,テスト環境()で示したとおりのマウスパッド5枚でテストした限り,布/プラスチックを問わず,X-750Fは問題なく利用できる。

 

 

 なお,レーザーセンサーを採用したことに関係があるのかは分からないが,X-750Fではマウス底面のソールの配置が,X-718から変化している。X-718では,光学センサー部を挟み込むように小型のソールが貼られていたのに対し,X-750Fでは,マウスの“四隅”だけになっているのだ。もっとも,ソールの素材は同じようで,滑り具合にもとくに変化はない。マウスパッドの種類を問わず,軽快に操作できる印象はこれまでと変わっていない。

 

 

■ソフトウェアは未完成? 不自然な仕様が散見される

 

 X-718のソフトウェア面について,筆者は「残念ながら,気になる部分がいくつかあった」と述べた。それは主に,ゲームプレイに特化した機能が少ないという理由によるものだったわけだが,原稿執筆時点におけるX-750Fの最新ドライバ(Version 7.72)には,「Change Mouse DPI」という機能が追加されている。

 

Change Mouse DPIウィンドウ。Version 7.72ドライバでは,なぜか設定上限が2000dpiになっている(※画像をクリックすると全体を表示します)

 ドライバのコントロールパネルにある「動作」タブから「Change DPI」を押すことで呼び出せる同機能のウィンドウは右に示したとおり。「X-Direction」「Y-Direction」という,別々の設定項目が用意されており,いわゆるX/Y軸ごとの解像度設定が可能になるウィンドウ……なのだが,現時点ではなぜか200〜2000dpiの間でしか設定できない。X-750の仕様である2500dpiまで(=2001〜2500dpiの範囲)は指定不可なのだ。
 FPSやRTSでは,前後左右にマウスを動かす必要があるわけだが,一方でマウスパッドの形状は横長が多く,左右と同じ感覚で前後のマウス移動をさせられないことがある。このため,最近のゲーマー向けマウスのなかには,X軸(左右)とY軸(前後)の解像度を別々に設定できるようにして,Y軸の感度を高めることで,この問題に対処するものがあり,おそらくX-750Fでもそれを目指したのだろう。だが,X-750Fのスペックと設定範囲がマッチしていないのというのは,画竜点睛を欠く。また,まったく同じChange Mouse DPI設定がキーバインド変更用ウィンドウ「X7-Jump」にも用意されており,どちらを使っていいのか,どちらが優先されるのか分からないというのは,やや不親切に感じた。

 

X7-Jumpウィンドウにも用意されているChange Mouse DPI設定。上限2000dpiという点も含め,まったく同じ項目だ

 なお,Change Mouse DPIで設定した内容は,ハードウェア的な解像度変更ボタンより優先順位が下になっている。マウス側のボタンで解像度変更ボタンを押すと,Change Mouse DPI設定はクリアされるので,この点は注意が必要だ。

 

 このほか,ドライバの基本的な仕様はX-718と同じ。キーストロークを複数設定でき,右メインボタン/ホイールボタン/サイドボタン×2に割り当てられる以外にこれといった特殊な機能はない。ただ,X7-Jumpから変更できるキーストローク設定に「Press will input keystokes consecutively, press again will release the keystrokes」という選択項目が新たに追加され,問題なく利用できるようになっている点は指摘しておいたほうがいいだろう。

 

キーストロークの設定ウィンドウ。相変わらず一部が日本語化されていないが,「押しっぱなし」を登録できるようになった

 これは,いわゆる「押しっぱなし」の動作を割り当てることができる機能。「記録」のボタンをクリックして,押しっぱなし状態に指定したいキーを押し,OKを押すと登録が完了となる。登録したキーストロークは,ドライバのコントロールパネルから「ボタン」タブから,のいずれかに設定可能だ。
 FPSで,しゃがみ/伏せ/走り/歩きといった,しばらくの間押しっぱなしにするような動作を割り当てられるようになった点は,便利になったといえるかもしれない。

 

特定のボタンにキーボード操作などを割り当てられたり,ドライバがアプリケーションランチャー機能を持っていたりといった部分はX-718と同じだ。ドライバが持つ機能の基本的な部分を知りたい場合は,X-718のレビューを参照してほしい

 

 

ハードウェアは確実に進化
“X-718+2000円”という価格をどう捉えるか

 

 以上,X-718との違いを意識しつつX-750Fを見てきた。まとめるなら,「スペックという“数字”だけでなく,X-718の優れた部分を損なわないまま,ハードウェア的な品質を向上させてきた製品」ということになるだろう。
 過去に大きな仕様変更を行ったマウスが,従来製品を愛用していたユーザーの期待を裏切る結果となった例は決して少なくない。それだけに,何より使いやすさを向上させようというメーカー側の姿勢が強く感じられ,それがきちんと結果に結びついている点は,高く評価していいように思う。
 それだけに,ソフトウェア面が今一つという点は,ハードウェアと比べると細かい部分だが,残念だ。

 

日本語化されているX-750Fのパッケージ

 ちなみにX-750Fの実勢価格は,2006年7月時点で5000円前後。X-718は3000円前後なので,2000円程度高いことになる。ハードウェア的なブラッシュアップと3XFireに2000円の価値があると判断するかどうかが,X-750Fの評価を最終的に左右するポイントになると思われるが,筆者としては,他社製品と比べても,ハードウェアの完成度と搭載する機能からして,コストパフォーマンスは決して劣っていないと感じた。

 

 以上を踏まえ,例によって「自分専用のフルオーダーメイドマウス」を100点として考えると,X-750Fの点数は87点になる。ソフトウェア面さえ充実していれば,90点を与えていいデキだ。
 形状的には右手用の製品なので,あらゆるゲーマーにお勧めできるわけではないが,2006年7月上旬時点で入手できるゲーマー向けマウスのなかから一つを選ぶとき,筆者は自信を持ってX-750Fを一押しとして挙げたい。3XFireの機能に興味を持った人だけでなく,完成度の高いレーザーセンサー搭載マウスを探していた人にとっても,試してみる価値のある製品である。

 

タイトル マウス
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/x-750f/x-750f.shtml