業界動向
Access Accepted第492回:GDC 2016で開催される,インディーズゲーム大賞のノミネート作品をチェック
ゲーム業界関係者だけでなく,ゲーマーからも熱い注目を集める世界最大のゲーム開発者会議,Game Developers Conferenceが今年,30周年を迎える。プログラミングやデザイン,サウンドなどの話題に加え,マーケティングやファンディングといった多角的なセッションが開催されるGDCでも,昨今とりわけ元気なのがインデーズゲームだ。というわけで今回は,GDC 2016の見どころと,併催される「Independent Games Festival」にノミネートされた作品を紹介したい。
30周年を迎える世界最大規模のゲーム開発者会議
この記事が掲載される3月14日から5日間,カリフォルニア州サンフランシスコのMoscone Convention Centerで,ゲーム開発者向けのイベントとしては世界最大規模となるGame Developers Conference(GDC)が開催される。今年で30回めを迎えるGDC 2016には,昨年(2015年)の2万6000人を超える参加者が見込まれ,セッション数も過去最大となる500以上が予定されている。エキスポフロアには300社以上がブースを出展し,世界中からやってきたゲーム開発者達がそこで最新技術に触れたり,セッションでゲーム開発やビジネスについてのノウハウを分かち合ったりすることになる。
一つのマイルストーンとなる30周年を迎えるGDC 2016のキーワードは,VR(Virtual Reality=仮想現実)だろう。VR対応デバイスやソフトが次々にリリースされる2016年,GDC 2016では,同じ部屋で一日中,VRに関するさまざまな講義が行われる専用トラック「VRDC」が用意されるほか,「VRラウンジ」と呼ばれる特設セクションでは,Oculus VRの「Rift」,HTCの「Vive」,Sony Computer Entertainmentの「PlayStation VR」,そしてSamsungの「Gear VR」のデモが公開される予定だ。このように,VR関連情報の密度はきわめて高く,例年に増して我々の取材予定も詰まっている。会期の5日間が,ずいぶんと短いものに感じられるだろう。
PlayStation 4やXbox One,さらにWindows 10ベースのPCなどのセッションもバラエティ豊富だ。「新作ゲーム情報」については,6月にロサンゼルスで開催されるE3 2016で行われるものがほとんどだろうが,サンフランシスコでは過去作の事後検証(ポストモーテム)がファンにとって毎年気になるセッションになっている。今年は,「Diablo」のデイビッド・ブレヴィック(David Brevik)氏や「Rez」の水口哲也氏,そして「Ms. Pac-Man」のスティーブ・ゴルソン(Steve Golson)氏が登壇する予定だ。
さらに,30周年を記念した「Flash Backward: 30 Years of Game Makings」と題された特別セッションも準備されており,そこでは,GDCの発起人の1人であり,またゲームデザイン理論の名著「The Art of Computer Game Design」( 邦題:「クロフォードのゲームデザイン論」)でよく知られるクリス・クロフォード(Chris Crawford)氏など,多数の著名業界人が講演を行うという。
インディーズゲームも相変わらず元気がよく,2016年内にも数々のタイトルがリリースされることになるだろう。筆者の元にも「ゲームを見にブースに来てください」という招待メールが,かつてない量で舞い込んでいる。
そんなインディーズゲームシーンだが,北米時間の3月16日に,ゲーム開発者の投票によって選ばれる「Game Developers Choice Award」に加えて,18回めを迎えるインディーズゲームアワード「Independent Games Festival」が開催されるのはご存じのとおりだ。毎年,高レベルのインディーズ作品がノミネートされる「Independent Games Festival」だが,今年は前年より100作品多い750本におよぶエントリーがあったという。
というわけで最後に,その中から大賞にあたる「Seamus McNally Grand Prize」にノミネートされている6作品を紹介したい。少ない人員や予算でゲームを作り上げることだけでも大変なのに,選者を唸らせ,750分の6という狭き門を潜り抜けてきたのは,どんな作品なのか? これまで以上に実験的なゲームシステムを持った個性的なラインナップになっているようだ。
Game Developers Conference公式サイト
今年の「Seumas McNally Grand Prize」ノミネート作品は
個性派ぞろい
Darkest Dungeon
対応機種:PC,Mac,PlayStation 4,PS Vita
開発元:Red Hook Studios
公式サイト:http://www.darkestdungeon.com/
2016年1月に正式リリースされた「Darkest Dungeon」(関連記事)は,一度死んだら二度と復活しない“パーマデス”をフィーチャーしたローグライクなプレイが楽しめる横スクロール型のRPGだ。
親戚の遺産として手に入れた広大な敷地にある墓地から続くダンジョンが,世界を揺るがす魔軍の源泉であったことを突き止めたプレイヤーが,さまざまな能力を持ったヒーローを雇って,その深遠部へと進んでいくという,ゴシック調のダークなストーリーが秀逸。2Dのプリレンダ画像を背景にしたアートワークもインディーズゲームならではの雰囲気を醸し出している。ダンジョン内部では,ヒーロー達の恐怖心や緊張感を示す“ストレス”メーターが表示されるなど,作り込みの細かさも感じられる。
Her Story
対応機種:PC,Mac
開発者:Sam Barlow
公式サイト:http://www.herstorygame.com/
「SILENT HILL-SHATTERED MEMORIES-」の開発に携わったサム・バーロウ(Sam Barlow)氏が独立して作り上げた作品が「Her Story」(関連記事)だ。“インタラクティブ映画ゲーム”という耳慣れしないジャンルのゲームだが,今回はこのグランプリを含む4つの部門でノミネートされている。
古いPCを入手したプレイヤーが,それを起動させたところ,1994年に起こった殺人事件に関して,事情聴取を受ける1人の女性へのインタビュー映像を発見する。映像は,7回に分けて行われたインタビューが,さらに271ものクリップに細切れになったもので,女性がなんの質問に答えているのかも不明確という状態だ。プレイヤーは,事情聴取を文字に起こした資料を頼りにクリップを並び替え,1つのストーリーを作りあげていく。まるでパズルゲームのようなゲームシステムがユニークだ。
Keep Talking and Nobody Explodes
対応機種:PC,Mac,iOS
開発者:Steel Crate Games
公式サイト:http://www.keeptalkinggame.com/
「Keep Talking and Nobody Explodes」は,2人のプレイヤーが協力しつつ時限爆弾の解体処理を行っていくCo-op専用ゲームだ。しかし,オンラインには対応しておらず,1人がディスプレイを見ながらワイヤーの色などの状況を相棒に伝え,もう1人はディスプレイの見えない場所で爆発物処理マニュアルをチェックし,相手に何をすればいいのかを教えるという,なんとも奇抜なプレイ方法が採用されている。
マニュアルは公式サイトからダウンロードすることが可能だが,処理係が何をすべきなのか,しっかりと説明して理解しなければならないという難しさがある。しかも時限爆弾のピコピコ音が時間が経つにつれて速くなっていくので,双方の緊張感も次第に増していく。「Rift」に対応することがすでにアナウンスされているので,仲間達とワイワイとプレイできそうだ。
Mini Metro
対応機種:PC,Mac,iOS,Android
開発者:Dinosaur Polo Club
公式サイト:http://dinopoloclub.com/minimetro/
スクリーンショットはただの路線図にしか見えないほど簡略化されたグラフィックスが特徴の鉄道シミュレーションが,「Mini Metro」(関連記事)。プレイヤーはわずか3つの駅と3本の地下鉄路線からスタートし,駅の周辺が発展し人口が増加するのに合わせて路線を延長し,より効率的な交通システムを作り上げていくというシンプルな作品だ。うまく乗客を捌き切れず,乗客が駅から溢れてしまうとゲームオーバーになる。
ロンドンやニューヨーク,そして大阪など実際に地下鉄網のある大都市がミッションとして登場し,上記のモードのほかにも沿線の拡張をずっと楽しめる「エンドレス」や,一度設置した路線や駅は削除できない「エクストリーム」などが用意されている。カジュアルからコアなゲーマーまでが楽しめる評価の高いタイトルで,ノミネートされた作品中,唯一日本語化されたゲームでもある。
SUPERHOT
対応機種:PC,Mac,Xbox One
開発者:SUPERHOT Team
公式サイト:http://superhotgame.com/
2016年2月末にリリースされた「SUPERHOT」(関連記事)は,白,黒,そしてオレンジという配色が,スタイリッシュな印象を与える,これまたシンプルなグラフィックスのFPSだ。プレイヤーが移動したときだけ時間が動くというユニークなゲームメカニズムが特徴で,激しい攻撃の中で,敵の弾丸に当たらないよう静止して,どこに行けば良いかをじっくり検討できるというパズル的な戦略性を持つ作品になっている。
また,ヘルスバーや弾薬のドロップといった要素はなく,プレイヤーは倒した敵から銃器を入手し,弾を使い切ると銃そのものを敵に投げつけてダメージを与えることになる。銃だけでなく,壺などのオブジェクトを投げつけることもできるほか,刀のような近接戦闘武器も登場。相手の攻撃をしっかり見きわめつつ,軽快にゲームを進めていこう。
Undertale
対応機種:PC,Mac
開発者:Toby Fox
公式サイト:http://undertale.com/
ゲーム開発者でありミュージシャンでもあるトビー・フォックス(Toby Fox)氏がリリースした「Undertale」は,ファミコン時代を思わせるグラフィックスやコマンド選択式のバトルシステムなど,クラシカルな雰囲気がいっぱいのRPGだが,魅力はそのストーリーだ。「誰も殺す必要のないRPG」と銘打たれており,プレイヤーはモンスターと戦うだけでなく,和解したり仲良くなったりできる。
プレイヤーは無口で名もない子供となり,人間に駆逐されたために地下で生活することを余儀なくされたモンスター達の世界を旅するのだが,このモンスター達のキャラクターも秀逸で,ナルシストのスケルトンや,うつになった幽霊,心配性な恐竜などが登場してくる。それぞれのキャラクターとの関係でストーリーが大きく変わるので,何度もプレイしたくなる作品だ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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